映画っぽい廃屋に立つ「命」 永瀬正敏が撮った青森 (4)
国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。今回も青森で撮った一枚。廃屋のような建物に立つ女性の写真が意味するものとは……。
見たものの中に生命を置きたい、という欲が、僕は強い。廃工場だろうか、青森県むつ市の、この朽ちた建物の中に、生命を置きたかった。僕たちの源は女性であり、僕たちは子宮で育まれる。だから、女性に立っていただいた。
彼女がまとっているのは、スズキタカユキ君がデザインした服。僕が借りに行ったように思う。彼の服にはあえてほつれさせた部分とか、未完成の美学のようなものがあり、こういう場所にうまくはまる気がする。
ファインダーをのぞきながら、映画のダイナミズムを感じていた。映画は、遠景を撮った引きの絵が決まると、作品がぐっと締まる。たとえば、鈴木清順監督の作品とか。ここは、そういうものを思い出す、映画っぽい空間だった。
僕のデビュー作の監督だった相米慎二さんも、引きの絵が強かった。そういう素晴らしい監督たちに演出をつけていただいた記憶が僕の中に蓄積されていて、写真を撮る時に、ふっと顔を出すのかもしれない。