運命は必然。自分のペースのなかで 玉木宏さん
東京駅を舞台に、六つの愛の物語を描いた映画「すべては君に逢えたから」が22日から公開される。女性不信の男と夢に破れた女。仙台と東京の遠距離恋愛。余命宣告された運転士と残された家族。逢(あ)ったこともない母親を待ち続ける少女。49年前のクリスマスイヴに果たされなかった約束の結末――。六つのストーリーは、クリスマスの日をクライマックスに、大切な人に想いを伝える場面へと展開していく。
最悪な出逢いをするのになぜか惹かれ合っていく。そんな運命的な出逢いによるラブストーリーを紡いだ俳優・玉木宏さん(33)に、映画にまつわる思いや撮影秘話などを語ってもらった。
六つの愛が交錯する裏側で
――六つの物語で構成されています。脚本を読んだとき、どのような印象を持ちましたか。
はじめは自分が演じるパートのことしかわからず、台本を読んでも、すべての物語がどのようにまとまるのかがイメージができませんでした。完成した映像を見て、「こういうことだったのか」と理解しました。
――オフィスで部下に突然怒り出す場面など、気性の激しい役どころは演じる難しさもあったのではないでしょうか。
役どころというより、いろんな話の合間に登場するので、キャラクターを残すということが難しかった。感情を変化球のように時間をかけて演じることができず、ど直球で出していかなければいけませんでした。怒る理由の描写がなく、いきなり怒っているシーンから始まる場面では難しさもありました。
――別のパートと、少しずつリンクしていますね。
僕たちが一番最初の撮影で、現場ではほかのパートの方とお会いすることがありませんでした。撮影の頃は、姉役が大塚寧々さんだと知らないまま演じていたんです。
――それは驚きです。では、ほか五つのパートをご覧になっていかがでしたか。
自分が出ている作品を観てもあまり新鮮味がないのですが、自分が関わった作品なのに、とても新鮮な気持ちで観ることができました。
――物語はクリスマスの日にクライマックスを迎えます。クリスマスの理想の過ごし方はありますか。
1年の締めくくりという時期でもあるので、家族と過ごす時間を大切にできたらいいなと思います。家族を持っている方にとっては、みんなで食卓を囲むなどいいコミュニケーションツールですよね。
――家族とはどんな思い出がありますか。
僕はクリスマスに家族で過ごしたことがほとんどなかったのですが、小学4年生のときに、近くのファーストフード店のチキンが初めて発売になり、小遣いを貯めて家族4人分買いに行ったというのが唯一、思い出として残っています。
最悪な出逢いの結末は? 「最初の印象は大事」
――共演した高梨臨さんの印象は?
いい意味で派手さがなく、そこにそのまま存在するかのように、つねにナチュラルな方だと思います。とても真面目で、全力で現場に臨む姿が、共演していてとても気持ちがよかったです。
――真面目で全力なところは通ずるところがあったのではないですか。
いえ、僕は不真面目なので。(笑)見えないところで手を抜いたりとか、変に器用になっているところがあったりするのですが、彼女にはそういうところが見られないですね。珍しいタイプの女優さんだと感じました。
――二人は最悪な出会いをしたけど、運命で結ばれます。実生活でもそういう経験はありますか。
ないですね。僕は出会いが最悪だと、ずっと最悪ですね。それを覆すことはないです。入口のところでダメだと、シャットダウンしてしまうタイプなので、最初の印象はすごく大事です。黒山和樹という人間は、人との関係性を突き詰めることができる人だけど、僕はできないです。
――シャットダウンしてしまうと、出会いが多い仕事だけに、苦労も多いのでは?
もちろん、仕事では付き合わなきゃいけないこともあります。苦手な人には、あえて自分から話しかけるようにして僕なりに関係を築こうと努力はしますね。
――物語には「運命」「偶然」といったテーマがありますが、これらを信じますか。
「運命」というのは、イコール「必然」で、「偶然」というのはないものだと思っています。大きく言えば、「偶然」も人生のなかで「必然」なんだろうと思っていて、そういうめぐりあわせのなかで人と出逢っていくのだろう、と。
――なるほど。とてもシンプルな考え方ですね。
何事も「自分はそういう運命だから」と思って、そこにまっしぐらに生きるのではなくて、自分のペースで生きているなかで、「そういう出会いはきっとあるのだろう」と、どこかでなんとなく思っているという感じです。
僕の仕事は「なんでも屋」 趣味も仕事につながる
――黒山和樹は趣味が運命の出会いへとつながっていきます。玉木さん自身は趣味のカメラや音楽が、写真展やライブ活動などにつながっていますが、プライベートの過ごし方について教えてください。
僕たちの仕事は「なんでも屋」だと思っています。いつ、何時どんな仕事の場をいただけるかわからないので、プライベートの時間を使っていろんなことに触れることが大事なんだと思っています。趣味をある程度続けて伸ばしていこうと思いながら、時間を過ごしています。
僕はずっと続けてきた水泳に助けられてここまでこられたという思いがあります。映画「ウォーターボーイズ」(2001)の仕事をいただいた頃から、その思いはずっと心のどこかに持ち続けているんです。水泳をやっていなければオーディションに合格していなかったと思うので。
――役のように、「泣きたい」「笑いたい」などとテーマ設定をして映画鑑賞をしますか。
僕は映画を見て泣きたいということは全くないですね。テーマで選ぶことはしませんが、人間の本質が見えるものや、社会性、メッセージが強い作品が好きです。特に、ポン・ジュノ監督の作品はよく見ます。演技をしているんだけど、痛い演技のときは本当に痛そうに見えるし、人間のリアルな部分が見られるからです。究極の演技だな、と思える部分があります。どんな役を演じていてもリアリティを求めてやっているので、同じ業界の目線でも見るから、純粋にこういったテイストのものが好きなんだと思います。
――会社社長、音楽家、刑事、医者など、どの役が普段の玉木さんに近いのか、想像がつきにくい。そこが俳優・玉木宏の魅力の一つですが、「リアリティ」を追求しているからこそ、なのでしょうか。
「玉木宏」という人間が先に立ってしまうことが好きではないですし、役は1人のものではないと思っています。いろんな共演者とお芝居をセッションして、作り上げるもの。そのなかで、しっかりと交ざることができたら、この仕事がちゃんとできているのかなと思います。これからも役者として、そこにちゃんと徹したいですね。
たまき・ひろし
1980年、愛知県生まれ。映画「ウォーターボーイズ」(2001年)で注目され、NHK連続ドラマ「こころ」(03年)でブレイク。「のだめカンタービレ」(06年)で不動の人気を得た。来年は、1月1日放送のNHK正月時代劇「桜ほうさら」で主演。主演映画「幕末高校生」、「神様はバリにいる」が公開される。ミュージシャン、写真家としても活躍中。