苦労をかけた妹へ、家から見えるオーロラの“応援花”
〈依頼人プロフィール〉
ニルソン孝子さん 65歳 女性
スウェーデン・キルナ在住
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私たち3姉妹は東京の下町で育ちましたが、私は国際結婚をしてスウェーデンへ、末っ子は地方へ。母はずいぶん前に亡くなっていたので、結婚しても東京に残っていた2番目の妹が、彼女の家族と一緒に父と暮らしていました。
あるとき、父はパーキンソン病と診断されました。でも、私は日本へ戻ることができず、父が亡くなるまでの18年間、妹が面倒をみてくれました。ときには泣きながら電話してくることもありましたが、北欧の田舎町に住んでいる私は何もしてあげられず、本当に申し訳なく思ったものです。
父が亡くなったときは、これで妹も肩の荷が下り、少しはゆっくり過ごせるようになるかしらと思っていたのですが、彼女は「時間ができたから、ヘルパーになる」と電話してきたのです。これにはびっくりしてしまいました。そして、実際に介護ヘルパーの資格を取り、今も毎日、自転車を走らせています。「ほかのお年寄りのお世話をしていると、お父さんのことを思い出すの」。妹はそう話していました。
妹はもともと幼稚園の先生で、結婚と同時に専業主婦になりました。昔から動物が大好きで、家はまるで動物園。7匹の猫と1匹の老犬、金魚、体長20cmまで育ったミドリガメなどを飼っています。縁日で買った金魚は普通すぐに死んでしまいますが、彼女の手にかかると、胴回り10cmにまでなり、卵を産んで、さらにそれが孵化して新しい金魚が産まれてしまうのです。スウェーデンの私のところには、「動物の世話があるから」と未だに一度も来てくれません(笑)。たぶん、命あるものを慈しむ心が人一倍強く、動物にしろ、人間にしろ、お世話が上手なのでしょうね。
そんな妹を私はいつも心の中で応援しています。私の家からは時々オーロラが見えるのですが、夜空を舞うオーロラを見ていると、その美しさとエネルギーを妹に届けてあげたい、といつも思います。だから、オーロラのような花束を彼女への“応援花”として贈ってあげたいです。
花束を作った東信さんのコメント
“オーロラのような花束を”ということだったので、僕なりにオーロラを解釈してアレンジしました。グリーンのグラデーションにしたのは、動物がお好きというのを読んで、ナチュラルなグリーン系が思い浮かんだから。
使ったのはグリーンローズ、スカビオサの実、カーネーション、シキミア、ソンブレージャーという菊の一種、グリーントリュフ、そしてラナンキュラス。周りはリーフワークで縁取っています。いろいろな種類の花が帯になり、全体としてオーロラに見えるようにしました。白っぽいカーネーションを何度も間に挟んでいるのは、薄いグリーンと濃いグリーンのコントラストをつけたかったから。実やグリーントリュフなど、質感の違うものはアクセントのために加えています。
高さのあるものは使っていませんが、全体が丘のように丸くなっているので、広がりを感じられるはず。一方から見ると反対側の端が見えないので、奥へずっと続いていくように見えるのです。
こういった柄モノのオーダーを受けた場合、一歩間違えると絵やデザインにひっぱられて花自体が平凡になりがちです。なので、例えば菊やラナンキュラスなど一般的な花材でも、一目でそれとはわからないような珍しい種類を選んでいるんです。
華やかというよりは、なるべく長持ちのするアレンジメントにしました。2週間は持つので、長く楽しんでもらえるとうれしいです。
ライター・宇佐美里圭
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。花を贈りたい人とのエピソードをお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に、&wで紹介させていただきます。
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