アマチュア女子テニス界では最高峰の大会とも言われる「ソニー生命カップ 全国レディーステニス大会」の全国決勝大会が11月12~14日、有明テニスの森公園(東京都江東区)で開催される。各都道府県大会で上位に入ったダブルスの選手らでつくる代表チームが、“テニスの聖地”で熱い戦いを繰り広げる。この全国決勝大会を目指して各都道府県大会では多くのドラマが生まれるなか、今回は、今年1月に能登半島地震が発生した石川県の代表チームに話を聞いた。
アマチュア女子テニス界最高峰の大会
「ソニー生命カップ 全国レディーステニス大会」は1979年に始まった女子ダブルスの大会で、今回で46回目を迎える歴史ある大会だ。満25歳以上の女性であれば参加でき、全国決勝大会の予選となる都道府県大会ではダブルスペアで戦い、その上位3組が都道府県代表としてチームを結成。全国決勝大会は各都道府県の代表チームによる団体戦トーナメント方式で行われる。
今年も7月初旬から全国各地で都道府県大会が開かれ、全国決勝大会に出場する47の代表チームのメンバーが決定。劇的な試合やそれぞれの思いなど多くのドラマが生まれる大会だが、そのなかでも今年、特別な思いを胸に全国決勝大会にのぞむチームがある。
それが、1月の能登半島地震で多くの建物や道路が損壊、またテニスコートがゆがむなどの被害を受けた石川県の代表チームだ。
ペアを組んで初の公式戦で石川県No.1に
9月初旬に金沢市で開催された石川県大会。県内在住の22組が出場し、見事優勝を果たしたのは、清水泉さんと池田佳子さんのペア。今回の大会がペアを組んで初めての公式戦だったという清水さんと池田さんだが、清水さんが後衛で守りチャンスを作り、池田さんが前衛で決める連携の良さで勝ち進んだ。
普段は、清水さんは金沢市、池田さんは小松市を拠点に活動。今年の春先に一緒にシングルスの練習をしたことがきっかけでダブルスを組むことに。清水さんは昨年も全国決勝大会に出場したが、2回戦で敗退。「私のペアは昨年は1勝もできなかったのでリベンジしたかったのですが、そのとき組んでいた方が出られなくなったので今年は出場をやめようかとも思っていました。そんなときに池田さんと練習したらとても上手だったので誘ったら、試合に出てくれると言ってくれて。それで挑戦してみることにしました」
清水さんの誘いに対して「ダブルスの経験があまりなかったので、私で大丈夫ですか、という感じでした」という池田さん。だが実際に組んでみると、お互いの長所を生かせることがわかった。「私が前衛で頑張って、ストロークをしっかりしていただける清水さんが後衛で粘ってと役割分担が決まっていました。とてもやりやすかったです」
清水さんも「池田さんはリクエストがないぐらいボレーもスマッシュも上手くて。少し距離がある場所に住んでいるので頻繁に練習することはできませんが、特に不安もなかったです」と出会って間もないが信頼関係は抜群だ。
ふたりは、8月に開かれたダブルスの練習会で試合経験を積み、9月の石川県大会に出場。準決勝は1セット目を落としながらの逆転勝利。決勝では、8月の練習会で負けた神田由美子さん・寺井香代さんペアと対戦し、1セット目を取られたが、そこからチームワークをいかして奮起して2セット目を取り、最終セットのタイブレークを制した。
池田さんは「清水さんが声をかけてくれて、変なプレッシャーを感じずにいつも通りに近いプレーができました。優勝を目指していたので、決まった瞬間はすごくうれしかったです。清水さんに大会に誘ってくれてありがとう、と思いました」と振り返る。8月の練習会のリベンジもできて「ほっとした」と清水さん。念願の全国決勝大会への出場を決めた。
厳しい残暑のなかでの石川県大会だったが、多くの応援や協力によって乗り越えられたという。また、この大会に特別協賛をしているソニー生命保険のライフプランナーたちにより全国各地で実施された大会支援についても、清水さんと池田さんは「試合の合間のかき氷はクールダウンに良かったですし、試合に勝った後は『おめでとうございます』と言葉をかけてくださってうれしかったです」と感謝する。
目指すは初のベスト4、地元の応援を胸に
1月に発生した能登半島地震は、地元の人々の生活のみならず、テニス環境にもさまざまな影響を与えている。能登地区ではテニスコートが被災し、その地域の大会が中止になったり、規模が縮小されたりした。石川県大会の参加者の中には、地震で被災した選手もいたという。
清水さんの金沢市の自宅も基礎にひびが入る被害を受けた。ソーシャルワーカーとして勤務する津幡町(つばたまち)の病院には、地震で能登地区での療養を継続できなくなった人々が搬送され、その対応で慌ただしい日々を過ごした。また七尾市の親戚が被災、断水して避難所で生活していた人や、自宅を解体することになった人もいる。地震の発生直後は道路の損壊、通行制限などで現地に向かうことが難しかったため、時間が経ってから少しずつ支援している。
「石川県大会には能登の方も出ていましたし、被災した方も応援に来てくれていました。その方々の分もと言うとおこがましいですが、せっかく代表になれたので一つでも多く勝てるように頑張りたい」と清水さんは意気込む。
3年前に京都府内から小松市に引っ越してきた池田さんは、「引っ越してきたときは知り合いが全くいませんでしたが、テニスを再開してたくさんの友人ができました。石川県代表として全国決勝大会に出られるのはうれしいですし、感慨深いものがあります。代表として、頑張って(これまでの石川県の最高成績のベスト8を超える)ベスト4を目指します」と抱負を語る。
全国決勝大会には、清水さん・池田さんペアのほかに、準優勝の神田さん・寺井さんペア、3位の山本洋子さん・柿本理佐さんペアが、石川県代表チームとして出場する。
今年の石川県代表チームは、清水さん以外は全員初の全国決勝大会出場だ。準優勝の神田さん・寺井さんペアと3位の山本さん・柿本さんペアも大会への思いを次のように語る。
神田さんは「石川県民は能登半島地震で大変な思いや悲しい思いをしたけれど、テニスを通じて元気に頑張っている姿を全国の方々に見てもらいたい」という。
「自分の周りは地震による影響はなかったですが、被災されている方も多い中でテニスを楽しんで良いのかと思ってしまうことはありました」という寺井さんは、「試合の結果は自分たちペアだけのものではない。応援してくださる方の気持ちもボールを追いかける力になると思います」と力を込める。
4年目の挑戦にして全国決勝大会への切符をつかんだ山本さんは「出場が決まったときに皆さんからかけてもらった温かい言葉の数々を励みに、ペアで思いっきりチャレンジしていきたいです」。
柿本さんは「元日に大地震があったことで、当たり前の日常というものを考えさせられました。仲間とテニスができることがこんなに幸せなことなんだなと改めて思いました」という。「全国に向けて、この1年ペアの結束を高めてきました。全国決勝大会までまだまだ伸びしろがあるので、さらに進化していきたいと思います」と決意を新たにする。
全国決勝大会の舞台となる有明テニスの森公園は、女子の「パン パシフィック オープンテニストーナメント」や男子の「ジャパンオープン」など国際的なプロテニスの大会も開催される“テニスの聖地”。
2回目の挑戦となる清水さんは「有明の雰囲気はとても素敵で、前回は気持ちよくテニスができました。私たちは地方に住んでいるので、普通に生活していたら有明でテニスをするなんてあり得ないことですけど、全国決勝大会ではそれができます。昨年は室内コートでの試合に当たりませんでしたが、今回は室内の雰囲気でもプレーしてみたいです」と話す。
全国決勝大会までまもなく。今年も有明で、各都道府県代表チームの熱い戦いが繰り広げられる。
全国決勝大会は2024年11月12日(火)~14日(木)に有明テニスの森公園(東京都江東区)で開催。各都道府県代表3組による団体戦トーナメント方式。全国決勝大会の詳細は以下、公式ホームページをご覧ください。