アートを見て、楽しんで、
一緒につくる取り組み
今回は、“観る(見る)”と“香る”を組み合わせて、ひとつのアート作品をつくる「観香倶楽部」の活動と、その活動の中心で活躍するアーティスト、佐原和人さんをご紹介します。
2021年の発足以来、これまで4回のワークショップを開催してきた観香倶楽部では、アートを“観賞する人”と“つくる人(クリエイター)”の境界線をなくし、お互いの感覚を共有し合うことで一緒に作品を生み出していくという取り組みが行われています。香りにインスピレーションを受けた人や社会にどのような影響を与えていくのか、その可能性と、佐原さんの挑戦についてお話を伺いました。
香りが“見える”と、
驚きやよろこびが生まれる
かねてから「音」や「香り」など目に見えない感覚を視覚的なものに置き換えてみたいという気持ちがあった佐原さんは、アロマテラピーサロンで作品を発表するという機会を通じて知り合ったアロマセラピストと一緒に、「精油の香りを絵にする」ワークショップをはじめました。
まず、参加者全員で佐原さんの絵を観賞。そこからイメージした精油を選んでブレンドし、香りを作ります。次に、その香りを佐原さんが嗅ぎ、そこから得たインスピレーションを新しい絵にしていきます。
描きながら、言葉でイメージを交換し合うと、参加者からは「香りってこんなふうに“見える”んだ!」と歓声が上がることも。
驚いたり、面白がったり、いきいきとした参加者の笑顔が、佐原さんの活動のモチベーションになっています。
身体感覚を使ったアート体験が、
自分を再発見するきっかけに
「アートに接することで、その人に何か変化をもたらしたい。目で見る絵画と、目に見えない香りを組み合わせることでそれができるようになった気がする」と、佐原さんは言います。視覚と嗅覚を使って、身体感覚を研ぎ澄ませ、そこで得たイメージを他人と共有する。そうすることで、他者との違いを認識したり、その違い(個性)を尊重するという気持ちが自然と生まれます。また、香りでイメージを紡いでいく作業を通して忘れていた記憶が呼び覚まされ、自己の内面に目を向けるきっかけになっているのではと感じています。
香りとアートのワークショップを
医療の世界にも広げていきたい
佐原さんは、この活動を医療の世界にも広げていく計画を立てています。
心身に傷を負った人たちが自己肯定や癒しを得る手助けとして、香りとアートのワークショップを役立てられるのではないかと考えているのです。「社会を変えるほどの力は持ってないかもしれないけれど、僕にできることがあるのなら、精一杯やっていきたい」。現在、看護学部の学生にも美術を教えている佐原さん。日本の医療現場に香りとアートのセラピーが広がっていく日も近いかもしれませんね。