医療現場での
“触れ合い”の大切さに気付いて
7年前(2008年)、ボランティアで「リレー・フォー・ライフ」というがん患者支援に参加した経験が今の活動の出発点になっています。たくさんのがん患者やその家族と一緒に過ごした時間が、看護師の私に重要な気づきを与えてくれました。病気は、肉体的な痛みだけではなく心の痛みや精神的不安を伴うものです。それを癒すには“触れ合い”が必要ですが、それは今の医療現場に最も欠けている点だと教えられました。そこで、看護師という立場を超えて何か出来ないかと思っていたとき、アロマテラピーに出合ったのです。アロマテラピーは心と身体にアプローチできると学び、そうした接点を医療に持ち込めないかと考えるようになりました。しかし病院という枠組みの中での新しい試みは難しく、しばらく歯痒い日々を送っていました。
震災をきっかけに
ボランティア団体を設立
そんな時、東日本大震災が起こりました。被災地に駆けつけた先輩看護師をテレビで見て、ボランティアでアロマテラピーを行っていることを知りました。アロマテラピーを通して被災者の方々と直接触れ合い、たくさんの人を笑顔にしているのを見たとき、これが「手当て」なんだと実感したんです。医療行為ではなくても“触れ合い”で患者さんの笑顔をつくることは出来る、そう気づいて、ボランティア団体「キュアスマイル(手当てで笑顔になる)」を立ち上げ、医療施設を中心にリラクセーションや美容のサポートを行っています。活動で度々訪れるホスピスでラベンダーなどを用いてアロマテラピーを行うと、病気による倦怠感や死への恐怖で身動きが取れなくなっていた患者さんが、「いつもは眠れないけど今日はぐっすり眠れそう」とおっしゃいます。それを見たご家族が笑顔になり、その場にいる医療スタッフも笑顔になり、笑顔の連鎖が生まれるんです。こうした場面を見るたびに、医療現場でのアロマテラピーの必要性を強く感じます。
医療現場に広げる道づくり
統合医療の先駆けとしてアロマテラピーを取り入れている病院もありますが、まだまだ少ないです。飛び込みで訪問した国立病院も、「ボランティアも受け入れたことがないのにアロマなんて」とはじめは懐疑的でしたが、患者さんが喜んでいるのを見るとやはり病院側もうれしいんですよね。以来2年くらい通って、信頼関係を築いています。いずれ医療システムの一環として組み込まれることを目標に、いまは実績を作っているところです。そのため、ボランティアスタッフの研修にも気を遣っています。プロフェッショナルの方を呼んで技術指導をしてもらったり、私は解剖生理学などの知識と、患者さんと向き合う時の気持ちの受け止め方について教えたりしています。責任を持ってひとつひとつ対処していけば、きっと病院側の考えも変わってくると信じて活動を続けています。
みんなが笑顔になるボランティアを
活動には、プロのメイクアップアーティストの方にもボランティアで関わっていただいています。家に引きこもりがちな方も、メイクをすると肩をポンと押されたように外出する気持ちになるんだそうです。また、病気の子どもに笑顔になってもらいたくてパネルシアター(移動型紙芝居)も学びました。アロマテラピーを活動の柱に据えつつ、患者さんの笑顔を増やすためにいろいろなアプローチを考えています。福岡の東、飯塚に高齢者施設、障がい者施設、児童発達支援センターが隣り合わせで建っているところがあるのですが、そこでは障がいを持った方が高齢者施設の仕事をして、児童発達支援センターの子どもたちがそれぞれの施設を行き来してお互い交流しています。そうした中に私たちの活動も入って行き、アロマテラピーやメイクやパネルシアターで、そこに居るみんなを笑顔に出来たら。それが「キュアスマイル」の目指すボランティアの形だと思っています。