1853年の創業から今も変わらずフランスを拠点に、農家のための長靴を生産し続けているAIGLEが「SOIL TOI(ソイル トワ)」-土とあなた- という理念のもと、国内の“土”と共に生きる様々なスタイルをもった農家の方々を紹介します。
大地と共に生きる、地球人として自然と共生する、そんな大きなテーマを考えるときのヒントやきっかけがそこにはあります。
鈴鹿山脈の麓、三重県のいなべ市で川崎亮太さん、麻里さん夫妻と、2人の社員さん、3人のパートさんが農場「HATAKEYA」では、化学肥料と化学農薬を使わず20種類ほどの露地野菜を育てている。
HATAKEYAの川崎夫妻は、2人ともが主軸である。
夫の亮太さんは体育大学出身でバリバリの体育会系。畑での動きを見るとその早さに何かのスポーツを観戦しているかのような錯覚に陥る。一方、農学部でトマトの研究をされていた奥様の麻里さんは、小学生の頃、休み時間は草原に行って、バッタや蝶々のサナギや幼虫を持ち帰り、お道具箱の中に入れて成長を観察する事が楽しかったという筋金入りの自然好き。
そんなお二人が営むHATAKEYAの野菜はとにかく美しい。「有機だから形が悪くても良い、虫に食われていても良い、という考えは私たちにはなくて、大事にしているのはちゃんと野菜を理解すること。土作りとかも色々ありますが、それは一つのパートであって、キャベツとにんじんきゅうりでも全然違う生き物で、人間と豚とライオンくらい違うことを認識して、ちゃんと理解して、科学的に根拠を持って栽培していくことを大事にしています。」
科学的に学べば学ぶほど自然の複雑さ、面白さに惹かれていったと亮太さんはいう。「自然って本当に複雑で、一つの現象が起きた時にものすごくたくさんの要因がある。だから農薬とか、化学肥料を使わない2つの要因だけで、全ては決まらないと思っています。有機がいいとか慣行がダメとかよく言われるんですけど、自然界は人間の勝手なカテゴライズだけでは決まらない、って言うのは頭にちゃんと置くように心がけています。」
1日の段取りから苗の水やり、畑の見回り、収穫、包装、出荷までとにかく集中している。出荷の選別もここまでやるのかと言うぐらいとことんやる。迷ったらお互いに意見を求め、2人で真剣に話し合う。そんな姿を見ている若い社員さんも楽しそうだが、緩みがない。
そんな科学的に野菜を育てているお二人が、農家になるきっかけは、アフリカでの体験だったという。2人とも大学を卒業後、国は違うが偶然同じタイミングで、アフリカへ青年海外協力隊に行っている。そこで電気・ガス・水道がなく資源が限られている環境で、自然と共生する現地の人々に感銘を受けたそうだ。
「アフリカの田舎の方に野菜栽培の指導員として携わらせてもらったのですが、アドバイスするどころか、物資とかが豊かじゃないのに、現地にあるものでうまいこと自然に合わせてやりくりしながら生きてる姿が、めちゃくちゃかっこよくて。そういうことをやれるようになったら良いなと思ったところから、気付いたら農家になってました。(笑)」(麻里さん)
「元々首都圏で生まれ育ったからより感じるけど、都市って人が住みやすいように人工的に自然のものを無くしているので、生活する中で気付いてなかったことが多かったと思います。畑にいると自分たちも生き物のサイクルの中にいて、植物が光合成をして体を作って、それを虫や微生物や人間が食べて、ぐるぐる回っているということを実感として気づけることは本当に楽しい。ニワトリにお米とか野菜を餌としてあげて、それが卵として出てきたり、きのこも炭水化物とかを栄養に菌が育っていく。全体の自然が動いていて、所詮自分はその中の一部でしかないということを、実体験として感じられることはすごく面白いなと思います。」
「今は専業農家だけでなくいろんな農業のかたちがあって、週に何回って頻度を減らして兼業で働いたり、季節限定で栽培している方もいます。私がもし一人になったらと時々考えたりするけど、女性向きのやり方もあるだろうし。家庭菜園を含め農業に対する関わり方って本当に多様なので、あんまり気負いすぎずに自分の気持ちや物理的な状況に合ったかたちを探して、農に触れる人が増えていったらいいなと凄く思います。」
最後に、今後の展望はと質問をすると、意外な言葉が返ってきた。
「今後の展望としては、もっと農業と家族と暮らしに集中しようと思ってます。(笑) 他のことやるのやめようって。多分これを自分なりに一生懸命突き詰めていったところに、アフリカで感じて自分がずっと疑問に思っている「人間ってなんだ」ってところに納得がいく答えがあるんじゃないかなって。自分の身近な人や物事にきちんと向き合えてるってことに、心の豊かさや、満足みたいなものがあって、「田舎での農業」にはそれができる可能性があるんじゃないかなと考えています。畑だけじゃなくて、身の回りの自然から自分たちで自給できるもの。近所の人とのコミュニティ、信頼関係の構築から始まる、物々交換や、物質だけにとどまらない助け合いのようなこと。小さい規模であっても、そういった物質だけでない、お互いが持ちつ持たれつの感謝みたいなものの循環で、人間はそれで満足できるんだよってところを自分なりにしっかり考えていけたらなと思っています。」
写真・取材記事 :SHOGO
モデル業の傍ら自身でも農地を借り、時間が許す限り作物を育て、収穫し、食す。農家見習い兼モデル。
IG https://www.instagram.com/shogo_velbed/
HATAKEYA
大学卒業後にアフリカの田舎で暮らし、自然と共生する現地の人々に影響を受けて帰国。社会人や農業研修を経て、三重県いなべ市にて新規就農。鈴鹿山脈の麓で季節ごとの露地野菜を化学農薬・化学肥料不使用で育てている。
H.P https://infohatakeya.wixsite.com/hatakeya
IG https://www.instagram.com/hatakeya0313/