第4回 若い世代と、どう出会うか。 | JAXA/GUNDAM 同じ星を見つめている。 | 小形尚弘 | ほぼ日刊イトイ新聞

JAXA+PARCO+ほぼ日でお届けする
地球観測衛星の大特集ですが、
大変ながらくおまたせしました!
これまで幾多のガンダムシリーズを
プロデュースしてきた、
バンダイナムコフィルムワークスの
小形尚弘さんの登場です!
ガンダム好きがたくさん集まる
JAXAさんの中でも
ガンダム好きが嵩じて入社したという
「筋金入り」の重藤真由美さん、
いつもの明るいコーディネイト役・
安部眞史さんと、
ガンダムについて、人工衛星について、
さらには「地球」について、
アツく語り合っていただきました。
全5回、担当は「ほぼ日」奥野です。

>小形尚弘さんのプロフィール

小形尚弘(おがたなおひろ)

『機動戦士ガンダムUC』『機動戦士ガンダム サンダーボルト』『機動戦士ガンダムNT』『Gのレコンギスタ』など多くの作品でプロデュ―サーをつとめ、近年のガンダムシリーズ劇場作品『閃光のハサウェイ』『ククルス・ドアンの島』ではエグゼクティブプロデューサーをつとめる。現バンダイナムコフィルムワークス執行役員。

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第4回 若い世代と、どう出会うか。

──
自分は、世代的に言いますと、
『機動戦士ガンダム』を再放送で観ていて、
『機動戦士Zガンダム』
『機動戦士ガンダムZZ』がリアルタイムでした。
小形
あ、ぼくと同じですね。
──
ガンプラにもめちゃくちゃハマってましたが、
『機動戦士ガンダムZZ』のあと
劇場版の『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』
(以下『逆襲のシャア』)を観て、
そこから間がボコッと抜けて、
『閃光のハサウェイ』まで飛んでるんですね。
安部
え、そうなんですか。
──
なので、きっと30年以上ぶりとかで、
あたらしいガンダムを見たわけですけれども、
何にも違和感がなかったんです。
出てくる人も、絵柄もぜんぜん違いましけど、
「あ、ガンダムの世界に帰ってきた」
と、すんなり思えたというか。
小形
ええ。
──
そんな30年ぶりとかで新作を見たのに、
「あそこからつながっているんだ」
という
連続性や一貫性を感じることができるのって、
さっき小形さんもおっしゃってましたが、
それだけ
最初の物語がゆるぎないものだったんだなと。
シリーズ全体貫くコンセプトや、
大切にしていることって、何かあるんですか。
小形
そうですね、やっぱり『機動戦士ガンダム』が
ずっと問いかけてきた環境問題、人口問題、
人類の戦争の歴史などのテーマ性でしょうか。
それを追っていけば、
自然と物語がつながっていくんだと思います。

──
なるほど。
小形
とくに『閃光のハサウェイ』の場合は、
最初のガンダムから続く「宇宙世紀もの」なので、
ブランクがあっても、
すっと入っていけるんじゃないかと思います。
ひとつまえの
『機動戦士ガンダムUC』もそうですが、
宇宙世紀ものって、
ぼくらの世代にドンピシャですよね。
ぼくらは『逆襲のシャア』の時点で
中学生くらいですけど、
あんまりアニメを見なくなる時期って、
少なくとも当時って、あったじゃないですか。
──
友だちが増えて、行動範囲が広がっていって、
部活や塾が忙しくなったり、
あるいは
就職したりして離れていくパターンですよね。
自分は、まさにそれでした。
小形
そういう世代を呼び戻そうという企画意図が、
『機動戦士ガンダムUC』、
『閃光のハサウェイ』にはあったんです。
──
つまり呼び戻されたんですね、ぼくは(笑)。
安部
まんまと(笑)。
──
実際『閃光のハサウェイ』が
すごくおもしろくって、
その後
『機動戦士ガンダム』から『逆襲のシャア』まで
見直したくらいです。
今度は、『機動戦士ガンダムUC』も
見てみようと思います。
安部
めっちゃ呼び戻されてる(笑)。

小形
それくらいの世代のみなさんが大人になって、
何かのきっかけで新しいガンダムを見て、
やっぱりすごいなと思ってもらえるように、
物語を
少しリアルめの方向性に振っているんですよ。
──
あと、この歳になって
『機動戦士ガンダム』を見てたら、
あ、大人になったから
本当に理解できたんだなあってことが多くて。
小形
それは、ガンダムの特色のひとつですね。
ぼくなんかも、『機動戦士ガンダム』でも、
『逆襲のシャア』でもですけど、
いまさら、いろいろ「そうかあ!」と思うし。
そのときそのときの
自分の置かれている立ち位置で、
わかることや感じられることが変わるんです。
重藤
そうですね‥‥そうです(しみじみと)。
小形
それぞれのキャラクターの造形が
突き詰められていて、ブレがないんです。
だからこそ、年齢や立場、考え方などの
自分の側の変化で、
物語の見方が変わってくるんでしょうね。
安部
今度はじまる『機動戦士ガンダム 水星の魔女』
(以下『水星の魔女』)は、
モビルスーツのデザインが
けっこう変わったなと思ったんですけど、
あのあたりも、
何か意図があってそうされてるんですか。
小形
ええ、『水星の魔女』の場合は、
明確に企画意図が違います。
ガンダムは再来年で45周年ですし、
やっぱり
新しい世代に見てもらわなきゃいけない。
これまでガンダムを支えてくれた
ファンの方々だけでなく、
いままでガンダムに触れたことのない
若い世代にどうやったら見てもらえるか。
そこを、企画の骨子にしているんです。
重藤
なるほど。
安部
われわれの宇宙開発でも、若い人たちに
どう、おもしろがってもらえるか‥‥を、
ひとつの課題として持っているんですね。
やっぱり、いまって「GAFA」みたいな、
華々しい企業や業界が、
才能あるエンジニアを惹きつけています。
ぼくらの活動を知ってほしいし、
はたらき手としても来てほしいんですが、
いまの若者、10代20代の人たちと
その上の世代とで、
明らかに違うなってところはありますか。
小形
正直言って、ぜんぜん違うってことしか、
もうわかんないです(笑)。
で、違って当然なんだろうと思うんです。
ぼくらだって、
富野さんの世代とは違っていたわけだし。
ぼくらの世代って、
スペースシャトル全盛の時代だったんで、
宇宙に対するあこがれって、
いまよりぜんぜん強かったと思うんです。
──
ぼく、小学校のときに
気に入ってずーっと使っていた下敷きが、
スペースコロニーのイラストでした。
あれは、
時代の宇宙観を象徴していた気がします。
小形
JAXAさんが取り組んでおられる
温室効果ガス濃度の測定なんていうのは、
地球にとって必要な仕事で、
とっても重要だということは
もちろん、
いつの時代でも当然だとは思うんですが。
安部
経済的な合理性にかなっていたほうが、
システムとして循環しやすい、
ということはもちろんあると思います。
温室効果ガス濃度を調べるのって、
あんまり、お金にはならないんですね。
でも、われわれにはやる技術があるし、
やろうという使命も感じています。
小形
富野監督の視点も、
年齢を重ねるにつれて変わってきてて、
いま、監督は
お孫さんがすごくかわいくて、
その子たちの世代に、
できるだけいい状態で地球を残したい、
という思いを抱いていると思うんです。
さっきのスペースコロニーの話でも、
ぼくたちの世代では、
ひとつの夢だったかもしれないですが、
技術的に、あるいは
費用対効果も含めて難しい‥‥という
時代になってきているじゃないですか。
──
そうなんでしょうね。
小形
だから無邪気に夢物語を語るわけにも
いかないかもしれないんだけど、
やっぱり、若い世代に
ガンダムの物語に触れてもらうことで、
地球や宇宙のことについて、
少しでも、想像力をはたらかせる
お手伝いができたらいいなと思います。
重藤
『水星の魔女』の場合は、
企画の段階から若い人がいたんですか。

小形
はい、ぼくら上の世代は、
なるべく口を出さないようにしてます。
本当はもっと若返りたいんです。
制作プロデューサーになれる年齢は、
うちの場合、
どうしても30歳を超えてしまうので。
重藤
それでもかなり若いですよね。
安部
いや‥‥すごいと思います。
どこの組織でも課題だと思いますが、
若い人たちに、お金と権限は渡すけど、
口は出さないから‥‥って、
上の世代が決められるっていうことが。
小形
どうしてもダメだよっていうケースも
もちろんあります。
でも、なるべく実際の制作の現場は
監督を中心に成立するクリエイティブを
大事にしてつくってもらっています。
安部
そうやってできあがった作品にたいして
「あんなのガンダムじゃない!」
みたいに、おっしゃる人がいた場合‥‥。
小形
今回は、そういう人が出てきてほしいと、
ぼくは思ってますけど。
安部
おお、すごい‥‥。
小形
今までガンダムに触れていない、
新しい世代にも見て欲しい作品なので、
それぐらい
振り切った作品にしてほしいなと思ってます。
重藤
わああ‥‥。
──
自分が本当には分からないものに対する
ジャッジって、どう下すんですか。
小形
信じるしかないと思います、若い人たちを。
──
おお‥‥!
重藤
富野監督も、口を出さない?
小形
ええ、ガンダムのユニークなところって
富野さん自身、原作者ですが、
ある意味で「手放している」んですよね。
エヴァンゲリオンの場合は、
ずーっと庵野さんが監督じゃないですか。
富野さんは
それこそ『機動戦士ガンダムZZ』
『逆襲のシャア』のあとは、
違う監督に任せてますから。
──
なかなかできないこと‥‥ですよね。
小形
そうですね、そうだと思います。
ふつういろいろ口出しすると思うんです。
だって原作者なんだから。
富野さんの場合は、そこで一歩引いて、
プロデュース的な立場で見守ってくれる。
そのことが、ガンダムシリーズに、
ここまでの厚みを生んだんだろうなと。
──
なるほど‥‥。
小形
もちろん、こんなのダメだとかって、
めちゃくちゃキレたり怒ったりしますよ。
他の監督がつくる作品は
ライバルなんです。
だからいまだに作品をつくっているし、
庵野さんにも負けたくない、
細田(守)さんにも負けたくない、
新海さんにも負けたくないって思ってる。
──
でも、若者に、自由につくらせている。
小形
これは本人も言ってますけど、
俺は怒るけど、やめろとは言わないって。
そういう人なんです。

『機動戦士ガンダム 水星の魔女』より ©創通・サンライズ・MBS 『機動戦士ガンダム 水星の魔女』より ©創通・サンライズ・MBS

(つづきます)

2022-10-06-THU

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