U-zhaan(以下U):お忙しいところありがとうございます。10分で終わるんで。
Zakir Hussain(以下Z):10分は長いね。9分におさめてくれるかな。
U:あはは、頑張ります。それではさっそく、9月に渋谷WWW Xで開催される公演について伺いますね。日本では初となる、タブラ・ラハラのプログラムだと聞いたのですが。
Z:そうだね。今まで何度も日本には行っているけど、伝統的な形式のタブラ・ソロだけの公演は初めてだと思う。やっと私の番が来た、って喜んでるところだよ。アニンドジー(アニンド・チャタルジー/タブラ奏者)とか、他にもいろいろなタブラ奏者が日本でソロをしてるんだろうしね。
U:いや、本格的なのは誰もやってないと思いますよ。
Z:ほんと? 君もやってないの?
U:さすがに僕はやったことありますけど。
Z:それはよかった(笑)。どんどんやったほうがいい。
U:インドのトップ・プレイヤーが来日してフルサイズのタブラ・ラハラを演奏したって話は聞いたことがないですね。ちなみに今回の公演は、どのくらいの長さを考えてますか。
Z:2時間でも3時間でも、君たちがやって欲しいだけ演奏するよ。まあ、当日のお客さん次第だけどね。みんなが喜んでいる様子だったらやっぱり長くなるだろうし。
U:そうでしょうね。
Z:ただ日本のお客さんの楽しみ方は、他の国とは少し違うよね。客席に一種独特の雰囲気がある。ミュージシャンに対して敬意を払い、きちんと鑑賞しようとしてくれるというか。そして私は、そんな日本で演奏するのがとても好きだよ。インドや欧米の客席のような盛り上がり方をすることがなくても、違った方法で楽しんでもらえていることは十分に伝わる。
U:ありがとうございます。そして今回はラハラ(タブラ・ソロの伴奏として、ひとつのメロディーを演奏し続ける演者)として、サーランギー奏者のサビール・カーンが来てくれることになっていますね。
Z:もし彼の父であるスルタン・カーンが存命だったら、間違いなく彼に声を掛けていただろうね。スルタン・カーンの病気が重くなってからは、甥のディルシャド・カーンか息子のサビール・カーンのどちらかと共演するようになった。彼らも素晴らしい演奏家たちだよ。サーランギーってすごく難しい楽器なのは知ってる?
U:どういうところが難しいんですか。
Z:共鳴弦が36本もあって、まずそれをきれいにチューニングすることが大切だし、それになにしろ、爪の下にある薄皮のところで弦を押さえて演奏するんだ。
U:あれ、痛そうですよね...。
Z:彼ら2人が、そんな難しい楽器のトッププレイヤーに育ったことを私はとても嬉しく思っているよ。最近ディルシャドとはアメリカツアーをしたので、今回はサビールのほうに声をかけてみた。サビールはインドで大きな賞を受けたところだから、なんとなくタイミングもいいしね。
U:タブラ・ラハラのコンサートって、サーランギーやハルモニアムの奏者は通常、同じメロディーを繰り返すことに徹しますよね。でもあなたの場合はところどころでメロディー奏者をフィーチャーしてタブラのほうが伴奏に回る時間を作っていて、それが演奏へ効果的にダイナミクスを付けているように見えるのですが。
Z:私のラハラをしてくれていたのがスルタン・カーンだったことに端を発するね。彼の演奏の素晴らしさを、もっと観衆に伝えたかったんだ。まあ、タブラがシタールやサロードの伴奏をしているときでも必ずタブラ・ソロの時間は与えられるだろ? あれと同じことだよ。演奏がひとつの山場を迎えたとき、それをクールダウンする瞬間はどんな音楽にも必要だと思っているし。あとは、サーランギーのソロ時間を作ると、私もそのあいだ少しだけ腕に休息を与えることができる(笑)。
U:お客さんも耳を休めることができますしね。
Z:うん、それは重要なことだよ。すごい勢いで太鼓がずっと鳴り続けてたら、聴いているほうも疲れちゃうから。さっきも言ったように、これは偉大なマスターだったスルタン・カーンの演奏を堪能してもらいたくて始めたスタイルだけど、今は若きプレイヤーたちを紹介するための大事な時間になっているね。
U:今回のサビールの演奏も楽しみにしています。彼は初来日ですよね?
Z:そうだっけ?
U:あなたが2007年に佐渡島で鼓童の主催イベントに出演したときも、2008年に「Zakir Hussain & The Masters of Percussion」として来日したときもサーランギーはディルシャドだったから、たぶんサビールは初めての日本だと思います。2008年に日本にいらしたときの思い出は何かありますか?
Z:君と一緒にしゃぶしゃぶを食べに行ったよね(笑)。
U:その節はごちそうさまでした! どうでしたか、しゃぶしゃぶ。
Z:非常に美味しかったよ。
U:日本の食べ物で特に好きなものはありますか。
Z:寿司だね。
U:え、生魚も大丈夫なんですか?
Z:もちろん。寿司も刺身も好物だよ。あとはね、日本で旅館に泊まったことがあるんだけど、そこで出てきたカタツムリみたいな形の巻貝が印象的だったな。殻に串を差し込んで身を引っ張り出し、それをソースのようなものに付けて食べる。そんなものを口に入れるなんて想像したこともなかったけど、とてもおいしかった。和食の調理法は、まず玉ねぎと唐辛子を炒めた後にターメリックを入れて、みたいなインドのそれとは全く違うよね。魚の下ごしらえひとつ取っても繊細だし、醤油を入れるタイミングなんかにもこだわりがあって。日本で食事をするのを、いつもとても楽しみにしているよ。
U:じゃあ、今回の来日では何を食べてみたいですか。
Z:天ぷらもすき焼きもいいけど、やっぱりおいしい寿司かな。神戸牛にも興味があるね。
U:サビールも和食で大丈夫ですかね?
Z:彼はやっぱりスパイシーなインド料理を好むよね。サビールにはインド料理屋で何か買ってきてあげることにしてさ、こっちは寿司でも食べに行こうよ(笑)。
U:ちょっと考えておきますね(笑)。
U:ところで、今回のツアーではあまり観光をするような時間がないと思いますが、もし日本で一週間ぐらいフリーな時間があったとしたら何をしてみたいですか?
Z:そう、演奏をして帰るだけになりがちだからね。時間があるなら北海道に行ってみたいな。
U:北海道! 意外な場所が出てきましたね。
Z:うん、いつも東京や大阪など決まった都市にしか訪れていないのが残念だよ。それと、できることなら現地の日本人のようなことをしてみたい。君がインドに来ると、インドの言葉を話してインド人とまったく同じような生活をしている。そういうのに憧れるんだ。私が同じことをするのは、恐らくもう難しいから。
U:なかなかまとまった時間も取れないでしょうしね。
Z:君やタカヒロ(新井孝弘/サントゥール奏者。インド・ムンバイ在住)がインド音楽をインドで生活しながら文化ごと学び、インドで演奏し、そしてそれが評価されているというのは素晴らしいことだと思う。ひとつのことに集中してやり続けるのって、みんなにできることではないしね。実は君が初めて私のレッスンに来たときも、正直なところタブラをずっと続けていくとは思っていなかったんだ。
U:え、そうなんですか?
Z:たまたま今はタブラに興味があるみたいだけれど、まあそのうちやめてしまうんじゃないかな、と感じていた。そういう人はいっぱいいるからね。でも時を経て、10年以上も毎年欠かさずここへ通い成長を重ねる君を見られることをとても幸せに思っているよ。あのとき、ここまで真剣だとは思ってなくてごめんね(笑)。
U:はい、これからも頑張ります(笑)。それでは最後に、会場に集結する日本中のタブラ・フリークたちへ何かメッセージをお願いします。
Z:タブラが好きな人、何人くらいいるのかな。4~5人?
U:いや、もっといると思いますよ! チケットも一瞬で売り切れたみたいですし。
Z:それは嬉しいね。コンサートでは、師である父(Ustad Alla Rakha)から習ったこと、偉大なミュージシャンたちと共演することで教えられたこと、素晴らしい音楽を聴いて学んだこと、それら全てを集結させて自分のベストを尽くすつもりだよ。ぜひ楽しみにしていてほしい。そして「タブラはこういう楽器だ」とか「インド音楽とはこういうものだ」とか、そういう固定観念みたいなものは持たずに、とにかくオープンな気持ちで来てもらえたら嬉しいな。ひと組の打楽器から奏でられるリズムを、渋谷WWW Xで皆さんと一緒に楽しめたらと思っているんだ。
Photo by Ty Burhoe