何の気なしに乗っている車・・・
今通っている鉄橋・・・
出張で使う新幹線・・・
これら全ての主要構造部分は、溶接で成り立っているんですよね。溶接とは、金属同士を約1100℃~1300℃で溶融して接合し、一体化された1つの部材とすることです。そして、溶接ヒュームとは、その溶接工程で発生する煙のことを指します。煙とはいうものの、正体は凝固粒子と言う微粉塵で、溶接工程で作業者は絶えずこの溶接ヒュームに曝露されています。健康被害にあわないように作業環境改善に取り組んで行きましょう。
溶接ヒュームとはどういうもの?
溶接ヒュームとは何?
溶接ヒュームとは、金属同士をつなぎ合わせる作業であるアーク溶接をするときに発生する粒子のことです。溶接作業を行ったときに溶けた金属は白い煙のような蒸気になり、そのあと冷やされて凝固粒子になります。この冷やされた微細の粒子が、溶接ヒュームですね。
溶接ヒュームが健康に与える影響は?
溶接ヒュームの粒子サイズは、おおよそ0.1-数μm。問題なのは、鼻毛や鼻の粘膜には引っかからず、肺に吸い込まれちゃうことなんです。特に2μm以下の超微粒子、更に肺の組織で補足されやすい0.5μm以上の大きさの粒子は、体に悪影響を与えることがあるんです。
これらの微細な粒子は肺の奥深くの肺胞にまで入り込んで、そこに沈着します。これらを吸い続けていると肺内で線維増殖が起こり肺が硬くなって呼吸が困難になります。これが「じん肺」です。症状としては、溶接ヒュームを吸入して数時間後に、咳や胸の圧迫感や違和感、発熱、筋肉痛、頭痛、倦怠感、知覚異常などが現れることもあり、それが2~3日続いたりします。メカニズムとしてはアレルギー反応の一種と見られていますが、初期症状は熱中症のような症状なので気をつけないといけないですね。
長期に渡って吸引すると、発がん性、神経機能障害、呼吸器系障害を引き起こす可能性もあるんです。アスベストはもちろんですが、アーク溶接のヒュームにも気をつけないといけませんね。
なお、ヒューム煙に限らず集塵機の排気は全て屋外排気が義務づけられています。(植物系粉塵は除く)
法改正でどう変わったの?
令和3年4月1日より労働安全衛生法施行令が改正され、『溶接ヒューム』が特定化学物質(第二類物質)に指定されました。特に、溶接ヒュームの曝露による有害性については、含有される酸化マンガン(MnO)による神経機能障害に加え、肺がんのリスクが上昇することが報告され、対策が急がれています。ここでは、法改正によって実施しなくてはいけない対策や、それを守らなかった場合の罰則を解説しましょう。
特定化学物質作業主任者の選任
まず、『特定化学物質及び四アルキル鉛等作業主任者技術主任者技能講習』を修了した者を特定化学物質作業主任者として選任することが必要です。
溶接ヒューム濃度の測定
1.測定方法
作業者の呼吸域に近いところの空気を捕集しましょう。溶接面体を使用している場合、その内側に捕集機器を装着します。捕集機器を小型ポンプに繋ぎ、対象作業中の空気を吸引し、溶接ヒュームをフィルターで捕集します。
2.測定対象者数
測定対象者数は、曝露される溶接ヒュームの量がほぼ均一であると見込まれる作業ごとに、2人以上の作業者とします。
3.測定結果評価値
捕集した溶接ヒューム中のマンガン濃度を測定します。2人以上の測定値のうち、最大濃度を評価値とします。この測定の結果、マンガンが0.05mg/㎥以上であれば換気装置の措置が必要です。換気装置の措置が済んだ上で、再度同じように濃度の測定をする必要があります。もし0.05mg/㎥以下でも呼吸用保護具の措置が必要ですね。
全体換気装置による換気
金属アーク溶接等作業に関する溶接ヒュームを減少させるため、全体換気装置による換気の実施 またはこれと同等以上の措置を講じる必要があります。
ルーフファン+誘引ファンによる強制全体換気の例
そのほかの換気方法
そのほかの換気装置としては、プッシュプル型換気装置と局所排気装置があります。発生源近くより溶接ヒューム煙を補足し強制的に粉塵を導きヒューム用集塵機で濾過後、清浄空気にして排出します。
呼吸用保護具の着用
マンガン濃度測定の結果が0.05㎎/㎥以下であっても呼吸用保護具の着用が必要となり、また呼吸用保護具が正しく機能しているかを定期的に確認することも必須になりました。詳しくは厚生労働省パンフレットを御参照ください。
床掃除
屋内作業場の床を、水洗等で容易に掃除できる構造にする必要があります。水洗やHEPAフィルター付きの掃除機等、粉じんの飛散しない方法で、1日1回以上の清掃が必須です。
そのほか必要な措置
安全衛生教育(雇入れ時・作業内容変更時)(安衛則第35条)
労働者を新たに雇い入れたときや、労働者の作業内容を変更したときは、労働者が従事する業務に関する安全または衛生のため必要な事項について、教育を行う。
ぼろ等の処理(特化則第12条の2)
対象物に汚染されたぼろ(ウエス等)、紙くず等を、ふた付きの不浸透性容器に納めておく。
不浸透性の床(特化則第21条)(特化則第25条)
作業場所の床は、不浸透性のもの(コンクリート、鉄板等)とする。
関係者以外の立入禁止措置(特化則第24条)
関係者以外の立入禁止と、その旨の表示を行う。
運搬貯蔵時の容器等の使用等(特化則第25条)
対象物を運搬・貯蔵する際は堅固な容器等を使用し、貯蔵場所は一定の場所にし、関係者以外を立入禁止にする。
休憩室の設置(特化則第37条)
対象物を常時製造・取り扱う作業に労働者を従事させるときは、作業場以外の場所に休憩室を設ける。
洗浄設備の設置(特化則第38条)
以下の設備を設ける。
・洗眼、洗身またはうがいの設備
・更衣設備
・洗濯のための設備
喫煙又は飲食の禁止(特化則第38条の2)
対象物を製造・取り扱う作業場での喫煙・飲食の禁止と、その旨の表示を行う。
有効な呼吸用保護具の備え付け等(特化則第43条、第45条)
必要な呼吸用保護具を作業場に備え付ける。
実施すべき対策を取らなかった場合の罰則は?
6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金が科されることになります。(安衛法119条1号)
溶接ヒューム対策を導入するにはどうすれば良いの?
導入するには?
溶接ヒューム対策を導入するには、まず溶接作業場でのヒューム濃度測定が必要です。ヒュームの濃度測定をしてくれる業者さんを探して、相談してみましょう。
相談してから実現するまでどれくらい掛かるの?
- まずは相談
- ヒューム濃度測定のための準備を行います。
測定の業者さんの指示に従い、測定のための事前準備を行います。
概ね○○~○○日くらいです。 - 溶接作業場でヒューム濃度測定を実施します。
作業者数や作業工程、エリアなどから推定でヒューム発生量を出します。
測定作業自体は○○日で終わります。 - レイアウト設計・設計審査書類を業者にて作成します。
労働基準監督署に提出する必要がある書類を作成します。
概ね○○~○○日で作成してくれると思います。
なお、設計にあたっての基本ですが、溶接ヒュームの粒子径はおおよそ0.1-数μmと非常に軽い粉塵だから、発生源の飛散速度も低速なんです。よってフードは、
(1)囲いましょう(囲い式)
特に最近はロボット溶接機の普及に伴い、ロボット全体を囲い式で施工する例が多くなっているようです!
(2)外付け式で考えましょう。
作業が複雑で囲えない場合は、溶接箇所を側方または背面斜めよりフードを設置して吸引するのが良いと思います。この方式で多く用いられるのはフリーアームの集塵機ですね。
(3)囲えない!外付け式も出来ない!場合は、下策ですが上方外付け式(俗に言うテンプラフード)にしましょう。
なぜ下策かというと、ヒューム発生源の熱による上昇 ⇒ 作業者 ⇒ フ-ドという順番になってしまい、作業者はヒューム上昇中に鼻より吸引してしまいます。これでは結局健康障害を起こすことになる可能性があるためです。ないよりはましレベルの施策なので、あまりお薦めしません。 - レイアウト設計・設計審査書類を施工1ヶ月前に労働基準監督署に提出し、認可を受けます。
○○日くらい掛かると思います。 - 施工します。
導入台数にも依りますが概ね5~7日間、大型のヒューム集塵装置でも2週間あれば施工は完了するでしょう。
ヒューム集塵機の選定
初級編
簡易式で、フィルターにはシェーキング装置がなく、ヒューム粉塵粒度も数μmなので目づまりの進行が早いから、吸引力が急激に低下することがありますね。ですので、フィルターを集塵機本体より外し、気噴等でシェーキングををしなくてはなりません。怖いのは、このシェーキングの際に結局ヒューム粉塵が浮遊してしまい、作業者の吸引・曝露になり、2次災害及び健康障害を起こす原因になりかねないことです。利点は安価なところですが、要注意です。お勧め作業としては、スポット溶接用・学校技術室実習用・訓練校実習用です。
中級編
手動パルスシェーキング式で、集塵機内でフィルターシェーキングを手動パルスにて行い、粉塵を払い落としする方式を採っているのでシェーキング時の作業者の吸引・曝露による2次災害を防ぐことができるんです。ホッパータイプがお勧めですね。引出しタイプはHEPAフィルター付掃除機で処理します。利点は、まあまあ安価で購入でき、集塵機内の清掃がないことです。お勧めの作業としては、通常溶接工程用です。
上級編
全自動パルスシェーキング式で、溶接ヒュームの集塵中もパルスシェーキングがかかり、常に一定の吸引力を維持してくれるから手間が掛からないんです。作業停止後もタイマーでパルスシェーキングを繰り返して粉塵のフィルター付着を払い落とすから本当に手間いらずです。ホッパー下部のロータリーバルブから排出し、同時にビニール袋に落下して袋詰めするので、2次災害を未然に防いでくれる優れものです!お勧めの作業は連続溶接、重溶接ですね。