女をダメにする男 #私が出会った悪い男
19歳から24歳の5年間。いわゆる「若い女」としてちやほやされる、それはそれは非常に貴重な時間を、私はひとりのおじさんに捧げた。
なんでこんな話をするかというと、「悪い男」特集の中で、編集部員が実際に出会った悪い男のエピソードを紹介しようということになったからだ。
さちこといえば、お金。お金といえば、さちこ。みたいなところがあるけど、どうしてそんな性格になってしまったのか、この記事を読めばわかるはず。
でも、お願いだから引かないでほしい。私も自分の過去にドン引きしているから。それと同時に、この記事がお母さんの目に止まらないことも祈っている。
私が出会った悪い男 #04「女をダメにするおじさん」
おじさんに釣り上げられる
おじさんと出会ったきっかけは、大学生のときに行った「社長たちとのお食事会」。今思えば、全員怪しそうな人だった。青山の「いかにも」な個室レストランで、中華みたいなものを食べさせられた。
その中のひとりのおじさんに「今度、焼肉食べに行かない? 予約の取れないお店なんだけど」と誘われた。
予約の取れないお店。
「お金あげる」の次くらいに好きな言葉。
そうして私は、ひとりのおじさんに釣り上げられた。
田舎の実家を出て東京でひとり暮らしをしていた私は、「利用してやる」くらいの気持ちでおじさんと週1回の食事デートにいそしむ。これが地獄のはじまりだとも知らずに。
何回目かのデートで「好きなもの買ってあげる」と言われたときは、「おじさんの醍醐味きた~~~!」と心の中でガッツポーズした。
ウン十万する時計を買ってもらってホクホクしている私に対しておじさんは、「俺たち、もう付き合ってるよね?」と、謎の圧をかけてきた。
え????? そういう感じ????? いや無理なんですけど????
と思っていたら、追い討ちをかけるように「さっき迷ってたバッグも買ってあげるよ」と、悪魔の囁き。
思わず「うん、いいよ♡」と言ってしまった。
まんまとおじさんの罠にはまって、お付き合いすることに。姑息。まじで姑息。19歳の小娘をお金で釣るなんて。
かくゆう私も安直。お金の魔力に屈した。しかも今思えば、たかが時計とバッグごときに。見事なほどにちょろい。お母さんがこれを読んだら泣いちゃうよ。
でもしょうがないの。ザ・中流家庭で育った私からすると、わかりやすい高価なものをチラつかされたら、飛びついちゃうわけ。これは育ちの問題だから許して?
おじさんからエサをもらえなくなる
最初の2年くらいはよかった。都内一等地のタワマン同棲生活に、予約困難のレストラン。そして毎月もらえるお小づかい。
ジャイアンも顔負けするくらい「おじさんのお金は私のもの」状態。ひとり3万円のお店を勝手に予約することもしばしば。
最初は律儀に言っていた「ご馳走さまでした♡」もいつからか言わなくなり、挙句「今日のお店、全然おいしくなかったね」なんて言う始末。
最低な人間に成り下がった3年目くらいからは、クリスマスや誕生日ですらプレゼントをもらえなくなった。
そして、終わりは悲しいくらいあっけない。おじさんの浮気が発覚したのだ。しかも、浮気相手は全国津々浦々に点在していた。
私ではないほかの若い女の子に、きっと同じような手口でエサを撒き散らしていたんだと思う。
自業自得。
これ以上的確な言葉ある?
みなさんはもう察していらっしゃると思いますけど、おじさんは誰でもよかったわけですよ。若い女の子なら。まあ、私も薄々気づいておりましたけども。
ただ、ひとつだけ弁明させてほしいのは、まちがいなく私の中に「愛情」はあったってこと。入口は「お金」だったし、恋愛というより「人」への愛情に近かったかもしれないけど。なんなら、自分を正当化するための錯覚な気さえするけども。
それでも、浮気が発覚したときは人並みに傷ついたし、悲しかった。
私が手料理を振舞えば、「フレンチなんかよりこっちのほうが好き」と言ってくれるし、ことあるごとに感謝の気持ちを手紙にしたためてくれる。おじさんの策略だったかもしれないけど、私の胸はいちいちほっこりしていた。
都落ち
おじさんと別れ、私の家は都内一等地から下町に都落ちした。絶望でしかない。
生活能力が低すぎて電気や水道、ガスなどのライフラインを開設しないまま入居するという暴挙。電気なんて支払い方がわからなくて、1回止まった。
毎日ひもじいし寂しいしで、隣の席のあーりんに「これからひとりで生きていくのが不安すぎる」とこぼしたら、「さちこ。その不安って、普通は社会人1年目に味わうものだから」と一蹴された。正論でしかない。
おじさんと付き合ったことによる弊害
「おいしいお寿司屋さんがあるんだけど、一緒に行かない? ひとり2万円くらいだから安いでしょ♡」
お寿司を食べたい気持ちが止まらず、超絶ハイスペック男子にこう誘ったら、「頭がおかしい」と言われた。
そのときは意味がわからなくて、「それだけ稼いでるのに2万円のお寿司も奢ってくれないって何? ケチなの? ちゃんと庶民に富を分配しろ?? ていうかこんな若い女の子とデートできるんだから、もっとありがたく思え???」と心のなかで罵倒しまくった。
完全にただの勘ちがい女。
「若さ=お金」だと考えていたし、金銭感覚もズレまくっていた。そう、おじさんと別れて私に残ったのは、身の丈に合わない金銭感覚だけ。
付き合っているときは、表向きだけど大事にしてくれたし、嫌な思いをさせられたこともなかった。
だけどおじさんは、私の価値観をじわじわとねじ曲げ、まともな感覚では生きていけないように仕上げた。
おじさんと別れて1年近く経つ今。
少しは矯正したけど、いまだに6千円のランチを破格だと思ってしまうし、なんでもない日に5千円のチーズケーキをお取り寄せてしまう。成城石井に行けば、軽く5千円は散財する。おじさんの後遺症がひどい。
今回おじさんと付き合った5年間を振り返ってみたけど、改めて空っぽだったなって思う。だから、前言撤回します。
おじさんに対する気持ちは、やっぱり愛情なんかじゃない。あれはただの錯覚でした。
だから私の5年間返して!!!!!!
(文:さちこ/マイナビウーマン編集部、イラスト:矢島光)
※この記事は2019年03月26日に公開されたものです