【オンライン交流で世界への一歩】 コロナ禍で中高生向けプログラム好評(毎日新聞掲載)
オンライン交流 世界への一歩
中高生向けプログラム好評
フィリピンのスラム街とオンラインで映像をつなぎ、現地の高校生と英語で会話する。
新型コロナウイルスの感染拡大で修学旅行や海外研修を断念した中学・高校が相次いで導入するオンライン国際交流プログラムが好評だ。
学生時代にフィリピンのNGOでスラム街の子どもたちの学習支援に携わった神戸市の五十嵐駿太さん(28)が開発。企業した教育ベンチャーで展開している。コロナ禍の中で生まれた新しい国際交流の形とは。
【海外研修が中止】
8月下旬、関西学院高等部(兵庫県西宮市)の1〜3年生8人のタブレット端末に、フィリピン中部の都市、イロイロ市からウェブ会議システム「Zoom(ズーム)」を使い、スマートフォンで生中継された映像が映し出された。
スラム街の近くにある延々と続く灰色のごみの山。山に転がるペットボトルを手に、現地に住む高校2年のカルロさん(16)が「1㌔集めるといくらで売れるでしょう」と英語で尋ねかけた。関西学院の生徒が「1㌦?」「50円?」と口々に回答すると、カルロさんは自らの体験を交え、「バイヤーで違うけど20円くらい」と笑顔で答えた。
関西学院高等部ではコロナ禍で毎年希望者が海外を訪れていた語学研修が中止に。留学途中で帰国した生徒もいる。代わりに用意したのが、約2時間半のオンラインでの海外研修だった。
4月に南米・ボリビアから帰国を余儀なくされた3年生の田中真奈美さん(18)は「フィリピンの住んでいたこともあるのに、そばにあるごみの山の世界は見えていなかった。現地に行ってもっと知りたい」と視野を広げていた。
【ベンチャーが展開】
開発者の五十嵐さんは大学4年で卒業旅行代わりに3ヶ月間、イロイロ市に滞在し、スラム街で暮らす子どもたちにごみの山のそばで歌で英語を教えた。みんな夢は「医者か先生になること」と口をそろえた。
だが、他に職業を知らないだけと分かり、衝撃を受けた。人材派遣会社に就職後もタイの孤児院などの訪問を続け、「教育を通じアジアの子どもたちの夢をかなえたい」と2018年に教育ベンチャー「ウィズ・ザ・ワールド」(神戸市)を起業した。
日本と海外の学校をインターネット電話「スカイプ」で結ぶプログラムを同年から始めたが、新型コロナ感染拡大による臨時休校で4月は売り上げがゼロに。
5月に多人数が参加できるウェブ会議システム「Zoom」版を発売すると、コロナ禍で海外への修学旅行を中止にした学校を中心に東京や兵庫、広島などの中学、高校20校が導入を決めた。語学学習効果に加え、プログラムは国連が国際社会全体の目標として掲げるSDGs(持続可能な開発目標)に即した社会問題をテーマにしており、近年SDGsを取り入れた教育への関心が高まっていることも導入の背景にあるという。
五十嵐さんがNGO活動やインターネットで開拓した人脈を生かして作ったもう一つのコースでは、新型コロナに見舞われ、自宅生活を続けるアジアの複数の国の中高生とオンラインで結ぶ。
6月中旬、東京都江東区の私立かえつ有明中・高校では高校1年生32人が自宅からインドやパキスタンの高校生と互いの夢や理想とする社会を思い思いに話し、歌手が夢というインドの生徒の歌にみんなで手拍子をしてリズムを合わせた。
同高の田中理紗教諭(34)は「事前にオンラインで交流して、修学旅行などで実際に会えば効果は高まる」とコロナ収束後の活用も視野に入れる。
イロイロ市の研修プログラムでは売り上げの3割は現地NGOに寄付するなど現地への支援も事業目的の一つだ。五十嵐さんは「オンラインプログラムは世界に踏み出す一歩になる。自分自身が行動に移すことにつなげてほしい」と話す。
Web:https://mainichi.jp/articles/20200929/k00/00m/040/123000c