ついに始まった大規模言語モデルの真の”民主化” 5年後の社会はどうなるか – WirelessWire News

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ついに始まった大規模言語モデルの真の"民主化" 5年後の社会はどうなるか

2024.07.26

Updated by Ryo Shimizu on July 26, 2024, 14:43 pm JST

Metaがついにやり遂げた。
そもそも大規模言語モデルを早い段階から熱心にやっていたのはMetaのFAIR(旧Facebook AI Research/現Foundamental AI Research)だった。会話するAIも2016年頃から公開していたし、オープンソースとして広く成果を共有していた。

Metaと名前を変えた後も、Llamaシリーズを積極的に展開するなど、機械学習コミュニティへの貢献は語り尽くせないほどだが、ついに今回、Llama3.1-405B-Instructと言う、「GPT-4」と比べても遜色ない性能のモデルの無償公開に踏み切った。

このモデルは、8ビット浮動小数点数(FP8)版も公開されており、単独のH100x8システムでも動作させることができるほか、vllmと言うツールを使うことでA100(80GB)x8マシンでも動作させることができる。

詳しくない方のために説明すると、これまで、OpenAIのGPTや、MicrosoftのAzure上でLLMを活用するためには、「必ず」データをクラウドにアップロードする必要があった。

しかし日本の多くの大企業は自社のデータをクラウドにアップロードすることを必ずしもよしとしない文化があり、それが国内でのAI利活用の一つの障壁になっていたことは否めない。

従来から、ローカル環境で動作するLLMはいくつか発表されてはいたが、いずれもGPT-4に比べると大きくん見劣りする性能のものしかなかった。

そこに対して、最近になっていくつかブレークスルーと言えるような進歩があった。
一つ目のブレークスルーは、MoA、Mixture of Agentsと言う技術によってオープンなLLMの組み合わせだけで、GPT-4に匹敵する性能が出せることが示されたこと。

これは原理的にはローカル環境でGPT-4並のLLMを動かせると言うことになる。
ただし、MoAは一つの問題を解くのに何度もエージェント間で「相談」する必要があるため、推論の精度は正しくても、推論速度ではGPT-4oに分があった。
しかしこの問題さえも、Llama-3.1-405B-Instructは解決してしまう可能性がある。

MoAでは束ねられるのはエージェントと呼ばれる個別のLLMであり、それぞれのLLMが個性を持っているので、プログラミングならこのLLM、長いコンテキストの理解ならMamba系やRWKV系のLLMといった形で役割分担を持たせることで、GPT-4よりも良い結果を生み出すことができる可能性も示唆された。

Llamaは厳密には「オープンソース」ではないが、その商用制限は「月間5億ユーザー以下」の場合は商用利用でも無償ということだから、事実上無償に近い。

こうなると、企業内に眠っていた大量の情報をAIが整理し、即座にアクセス可能にできる可能性が飛躍的に高まる。
それどころか、企業内に蓄積されたノウハウから新人を指導したり、新しい戦略を考えたり、その戦略を実行したりといったことが、全て自動化できる可能性が出てきた。

現在の企業活動のほとんどはコンピュータを通して行われており、原理的には、コンピュータを介して行うこ仕事は全てAIが行うことができる。
これまでは企業の内部情報を外に出すことができなかったので 業務の完全自動化は不可能だったが、これで業務の大部分が自動化できる見通しがついたことになる。

Llama3.1-405Bを動作させるのに最低限必要なコンピュータは4000万円程度だが、年収400万円の社員10人よりも24時間休まず活躍してくれる可能性を考えると、むしろ安く思えてくる。

この規模のコンピュータを動かすと、電気代は一ヶ月あたり10万円程度で、4000万の投資に対して年120万円で24時間働き続ける(つまり一台で人間三人分働ける)AIが実現できることになる。

例えばダイレクトメールを顧客別に送ったり、メールやチャットで顧客対応をしたりといった一次対応はもはやAIで十分という可能性は高い。
見積もりの作成や減額の交渉、納期の交渉もできるし、プログラミングもできる。プログラミングにしても、一発で動くものが出てこなかったとしても、テストケースを先に書いてそのテストを満たすコードを生成するテスト駆動開発をAIに自動化させることで、人間よりも早く欲しいプログラムを書けるようになる。


https://www.builder.io/blog/micro-agent

もはや電話やZOOM会議の向こうにいるのが本当の人間かどうか、それすらも問題ではなくなってくる。
例えばVisionProのペルソナは、実在の人物を元に作られているが、映像そのものはAIが作り出した虚像である。

この裏側で話をしてるのが、人間か機械か、我々はどのように見分けるのか、そもそも見分ける必要があるのだろうか。

そう遠くない未来、おそらく5年以内に企業がこれまでに大量の人員でやっていたような仕事はほとんどAIに代行させるようになるだろう。
今、企業にとって大量の人員を抱えているデメリットが、メリットを追い抜きつつある。

人員は増えれば増えるほど管理が難しくなり、組織ぐるみの不正や不平等、ハラスメントなどの温床になる。
大量採用して採用後一年で大量に辞めていくような仕事や職場はもう持たないだろう。そのような仕事こそ真っ先にAIにやらせるべきで、それが不可能ならば仕事のあり方そのものを見直す必要が出てくる。

とはいえ、そのような職場こそそれほど大胆に動くことができないだろうから、じっくりと淘汰されていくのを待つしかない。

短期的な課題としては、「どのようにAI機材を確保するか」というものがあり、これは来年以降徐々に改善されていくと思われる。中期的な課題としては、「どの仕事をAIに置き換えることができるか?ほんとにう置き換えていいのか?」ということで、これが最も重要な課題となる。長期的には、「社員はどのくらい減らしても大丈夫か」ということが課題となっていくが、新卒採用を絞って定年を出すか、それとも既存戦力の独立起業を後押しするように会社が変革するか、あるいはその両方かを選ぶことになる。これは大企業ではすでに取り組み始めていることであり、いずれ中小企業にも波及してくるだろうことと言える。

確実に言えるのは、サラリーマンだろうがフリーランスだろうが、「アイデア」がない人に仕事はこなくなるということ。
これまでは「アイデア」は職場に一人いればよかった。ある「アイデア」だけで10年は食えた時代もあった。これからはそうではなくなる。なぜなら「アイデア」の多くは実現の努力が難しかったが、AIによって「アイデア」が「現実」になるまでの時間が飛躍的に短縮されるからだ。いわば、時間早送りマシンを持っているようなものだ。

今、手元にAIがある人は、「時間早送りマシン」を持っているのと同じことであり、ない人は「通常通りの時間でしか仕事ができない」人になる。
「時間早送りマシン」ではイメージが湧かないとすれば、例えば石器時代で、自転車を持っている人が10000人に1人だとしたら、その1人はその世界のスーパーマンになれるだろうということだ。その人は誰よりも早く移動し、誰よりも早く獲物に追いつき、誰よりも早く天変地異を察知できる。自転車を盗まれなければ。しかし自転車を盗むには、自転車に乗れる必要がある。1/10000しか自転車がない時代では、自転車に乗れることがある種の特殊スキルなのは間違いない。

しかもその機材は、必ずしも高価なものを買う必要はなく、MoAのような、既存のLLMの組み合わせの仕方を変えるだけでも十分意味があるということになると、AIを実用的に使う上での物事の考え方、捉え方が根底から変わってくる。

正直いうと、この世界を専門に見ている筆者とてこのAIの世界のスピード感についていけないと感じることがある。
まさに眼前で「時間が早送りされている様」を見ている気分だ。

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清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。1990年代よりプログラマーとしてゲーム業界、モバイル業界などで数社の立ち上げに関わる。現在も現役のプログラマーとして日夜AI開発に情熱を捧げている。

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