展示会 “Furure of Us” で、スマートシティの形が見えてきた – WirelessWire News

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展示会 “Furure of Us” で、スマートシティの形が見えてきた

展示会 “Furure of Us” で、スマートシティの形が見えてきた

Future of Us Exhibition Singapore.

2015.12.25

Updated by Masakazu Takasu on December 25, 2015, 11:32 am JST

2015年はシンガポール建国50周年の記念の日。国の立ち上げに多大な貢献をしたリー・クアンユー氏がこの世を去り、9月末に行われた総選挙が与党 人民行動党の圧勝に終わったシンガポール。これまでの50年を振り返るイベントが一段落し、未来を見据えた動きが各所で見られている。

この12月から来年の3月まで、技術で水を作り出す未来の項でも触れたハデな植物園ガーデンズ・バイ・ザ・ベイのそばに特設展示会場を作り、Future of Us Exhibitionという展示会が行われている。

未来のシンガポールはどういうところなのか

期間限定の展示会なのだけど、屋外に巨大なパビリオンがいくつも建てられている。イベントの狙いは、「Explore the Possibilities of Singapore’s Tomorrow、未来のシンガポールの可能性を見せる」ことだ。

▼屋外にドーム型のパビリオンが並ぶ
屋外にドーム型のパビリオンが並ぶ

シンガポールの政府は一貫して技術的・経済的な開発を主導し、シンガポールを発展させてきた。50周年記念の年末のこの企画は、未来のシンガポールを見せようとしている。

技術的なトレンドを考えると、いま重要なのは
・みんながスマートホンでいつもインターネットにつながっていることになった
・人間以外もインターネットでつながるようになっている
ことだ。昔自動化が適用できなかったようなところにも自動機械が働くようになったし、人同士の関係が作りづらかったところでも作れるようになってきている。前者はAmazonに象徴されるサービスになるし、後者はAirbnbやUber、Kickstarterなんかも含まれるサービスと言えるかもしれない。

行政サービスや社会サービスがそうなったとき、暮らしやビジネスが具体的にどう変わるかが、具体的なイメージで展示されている。

高齢者をボランティアが手助けするサービス

典型的だと思ったのは、高齢者や健康不安者の見守りサービスだ。

まず、国内に大量の介護ボランティアがいるものとする。Uberのドライバーみたいなものを想定する。高齢者ほかサービスを受ける人は、スマートウォッチなど様々なウェアラブル端末で、健康状態を常に記録されている。もし突然倒れたら、その人の年齢、ふだんの健康状態、倒れたときの情報などが、周辺のボランティアに送られ、急行できる人が現場に向かうことになる。

▼高齢者サポートサービスがワークする様子が、サイネージと半透明ディスプレイで表現される。
高齢者サポートサービスがワークする様子が、サイネージと半透明ディスプレイで表現される。

このとき、倒れた人のそばにスターウォーズのレイア姫のようなホログラフィが出てきて「あと何分で来ますよ」などの情報を提供するのはさすがにやりすぎな気がするが、他の仕組みはいまの技術で充分に実現可能だと思う。ボランティアの確保とスキル判定(応急で処置すべきところをまちがって死なせてしまったとか)が大変な気もするけど、何かしら資本主義的なインセンティブや、どういうオペレーションをしたのかをすべてロギングすれば、全体的には「いろいろ問題はあるけど、やったほうがいい」レベルまでは到達できそうだ。

現在でも応急処置の講習なんかはあるんだから、国がサポートして受ける人を大幅に増やす(たとえば学校の授業に組み込む)ことはできそうだし、技術で「すぐ救急車を呼ぶレベル」「一回ボランティア介護者に見せるレベル」みたいに切り分けをすることもできそうだ。献血みたいに、ボランタリーだけど社会を回すのに不可欠なシステムになっているものはある。ITで新しい時代のそういうサービスを作ることはできるだろう。

農業も国土もITで変わる。

シンガポールの国土はとても小さい。国民の90%は政府が整備したHDBという高層団地に住んでいる。自動車の数も制限されている。「すべての国民に一軒家や自動車を提供できる国土はない。でも、快適な公共住宅と交通機関を全国民に提供することはできる」と、リー・クアンユーも言葉を残している。
狭い国土のせいで、農業で生活している人もほとんどいない。

パビリオンの中には、そういう都市国家が技術の進化でどう変わるのかの可能性が詰まっている。先ほどの見守りサービスもその一つだ。

▼巨大なパビリオン内に、未来の生活や仕事のイメージがいくつも展示されている。もちろん空にはドローンが舞う。
巨大なパビリオン内に、未来の生活や仕事のイメージがいくつも展示されている。もちろん空にはドローンが舞う。

新しい建築技術と設計技術は、以前と全然違った建物の建て方を可能にしている。上に船が乗っているマリーナ・ベイ・サンズだけでなく、シンガポール建築案内にあるとおり、近年シンガポールに建つ建物は強烈なものばかりだ。その建築技術と、ドローンなどのロボティクスの延長線上に、マンションの壁に移動家庭菜園を作ることはできるかもしれない。

▼ロボットのように駆動する家庭菜園
ロボットのように駆動する家庭菜園

僕がぜんぜん詳しくない分野なので、農業的にどの程度実現性があるのかはわからない(床は薄いけど、それでも木が高く生えるのかとか)が、多くの植物園や公園を抱えているシンガポールだけに実現性はありそうだし、このようなHDBは住人の心を豊かにするだろう。実際、この模型のまわりにはヘッドマウントディスプレイで家庭菜園の中に入ったように体感できる展示が取り囲まれていた。

明るい未来をくっきりと考えられるだろうか

ここに描かれている社会は、近未来のものも遠い未来のものもあるけど、おおむね30年後ぐらいを想定されていたように感じた。1970年代に21世紀を想定していたような感じだ。僕が子供の頃、よく雑誌には「未来の東京」が載っていた。

Future of Usはシンガポール政府が主催しているイベントで、パートナーには様々な企業や教育機関が協力している。未来のイメージが実現可能なものになっているのはテクノロジーについてしっかりしたレビューが行われているからだろうし、大量に使われている動画やアニメーションのいくつかは、シンガポールの学校で課題として作成されたものだと思われる。多様化した今の時代に各所の力をフォーカスして、あるていどくっきりした未来像のプロパガンダができるのはシンガポールならではである。

最後のパビリオンは、デジタルサイネージ上に各人が「未来への期待」を書いていく、アイデア集めのアンケートで終了する。そして出口の壁には、「私たちは、未来がどうなるか考えなければならない。それは自分と私の義務である」と、リー・クアンユーが独立当時に語った言葉が飾られていた。

▼リー・クアンユーのメッセージ
リー・クアンユーのメッセージ

シンガポールは今も未来への道を一歩一歩すすめている。

告知:
2016年1月末ぐらいに、一部はこの連載でも扱ったような、アジアのメイカー事情をまとめた書籍「メイカーズのエコシステム」(仮)が出る予定です。タイトルや出版日が決まりましたら、僕のTwitter等で告知します。

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高須 正和(たかす・まさかず)

無駄に元気な、チームラボMake部の発起人。チームラボニコニコ学会βニコニコ技術部DMM.Makeなどで活動をしています。日本のDIYカルチャーを海外に伝える『ニコ技輸出プロジェクト』を行っています。日本と世界のMakerムーブメントをつなげることに関心があり、メイカーズのエコシステムという書籍に活動がまとまっています。ほか連載など:http://ch.nicovideo.jp/tks/blomaga/ar701264