熊本大学大学院生命科学研究部の倉内准教授が取り組んだ研究「抹茶がうつ様行動を軽減するメカニズムの一端を解明」についてインタビューを実施。社会集団から隔離されたうつ様症状が強いマウスに対してのみ、抹茶が抗うつ効果を発揮することが明らかになった。
今回の研究では、抹茶に含まれる成分が相互作用をおこし、脳内のドパミン神経回路の活性化につながったことが示されている。
抹茶を飲む行為が、日常生活における精神的な健康の維持や向上に大きく寄与することが期待でき、今後の研究や実践によって、より健康的な生活をもたらすことが期待されている。
倉内 祐樹さん
熊本大学大学院生命科学研究部 薬物活性学分野 准教授
本記事のリリース情報
倉内 祐樹 准教授(薬物活性学)らの研究成果が、ウェルビーイングWebメデイア「Wellulu(ウェルル)」に掲載されました!
“抹茶を飲む”ことの健康への効果
──今回の研究をしようと思ったきっかけについて教えていただけますか?
倉内准教授:私は「抹茶の生産地」として知られる愛知県西尾市出身で、子供の頃から茶摘みの文化に触れてきました。当時は抹茶に対する思い入れはあまりなかったのですが、大人になってその魅力やおいしさに気づき、故郷の特産品に強い興味を持つようになりました。
大学では薬学部に進学し、精神疾患やメンタルヘルスについて学ぶうちに、リラックス効果があると言われる抹茶の作用について研究するようになりました。今では、地元の茶業組合と協力しながら、さまざまなアプローチで抹茶の効果について研究をおこなっています。
抹茶は心身の健康によい。成分にはカテキン、テアニン、カフェイン、ビタミン、食物繊維など
──抹茶には、リラックス効果や抗ウイルス効果などの健康効果があると言われていますが、実際にどのような効果があるのでしょうか。
倉内准教授:一般的に抹茶は心身の健康に良いと言われています。カテキン、テアニン、カフェイン、ビタミン、食物繊維などが抹茶には含まれています。カテキンには抗菌作用やウイルス防御、腸内細菌の調整、血圧や血糖の上昇を抑える効果、テアニンにはリラックス作用や睡眠を促進する効果、カフェインには集中力を高める、疲労回復、頭痛の緩和などの効果があると言われています。
ただ、私の研究では、抹茶に含まれる特定の成分に焦点を当てたものではなく、抹茶そのものを飲むことの効果に焦点を当てています。
──特定の成分ではなく、抹茶そのもの…、どういうことでしょうか?
倉内准教授:例えばですが、抹茶をたてる時間(茶筅)が精神面にどんな影響を及ぼすのか、含まれる成分が近い緑茶と緑茶では期待できる効果や作用に違いはあるのかなど、抹茶を飲む行為で得られる効果全体を解明したいと考えています。
茶葉に含まれる成分全てをいただく抹茶。相互作用で健康効果がアップ
──おもしろい研究ですね。栄養成分などの要素を分解し、ミクロの視点で取り組むことが研究だと思ってました。先生はどちらかというとマクロの視点というか…。ちなみに、抹茶と緑茶で健康効果に違いはあるのでしょうか?
倉内准教授:そうですね。水に溶けやすい成分だけを茶葉から取り出して飲む緑茶と違い、抹茶は茶葉を細かくパウダー状にして飲むため、葉に含まれる全ての成分を摂取できます。そのため、茶葉に含まれている成分が相互作用して、より高い健康効果を期待できると考えられています。
抹茶にうつ様症状を改善する効果がある可能性を判明
──今回の研究方法について詳しく教えていただけますか?
倉内准教授:2種類のマウスを使用して研究しました。うつ状態が強いマウス、元気なマウスにそれぞれ抹茶を与え、うつ様行動やうつ状態がどのように変化するのかを観察しました。
──2種類のマウスを観察した結果、どのようなことがわかったのでしょうか?
倉内准教授:うつ様行動が強いマウスにおいて、抹茶の摂取により症状が軽減されることが確認できました。これは、抹茶に抗うつ効果があることを示唆しています。また、脳内ドパミン神経回路の活性化状態が低いマウスでも、抹茶を摂取することでその活性化状態が高まることが明らかとなりました。
成分単体ではなく、他の成分との相互作用による効果が影響
──この研究結果により将来期待できることはありますか?
倉内准教授:抹茶がヒトに対してもストレス対処に有益な作用をもたらす可能性があり、日常生活の精神状態やストレスの感受性の個人差を考慮し、抹茶を活用した健康増進プログラムの開発や実践などが期待されます。
──今回の研究を通じて、他に発見や気づきはありましたか?
倉内准教授:抹茶にはカフェインのような興奮させる成分が含まれていますが、マウスに投与しても、その興奮作用はほとんど出現しませんでした。これは、抹茶が単なるカフェインの効果だけでなく、他の成分とのバランスによって、うつ様症状を改善する効果があるということです。
──抹茶の効果について、今後の研究の方向性はどのようになるのでしょうか?
倉内准教授:抹茶の成分やその効果についての研究はまだ始まったばかりです。今後は、抹茶の成分がどのようにしてうつ様症状を改善するのか、また、どのようなバランスで成分が含まれていると効果が現れるのかなど、さらに研究を進めていきたいと考えています。
飲み方・タイミング・目安量、「抹茶ライフ」で心と身体を健康に!
抹茶は1日に3杯程度、朝飲むのが効果的
──抹茶を日常的に取り入れる際のおすすめの方法を教えていただけますか?
倉内准教授: 普段から抹茶を飲む際は、茶道のような特別な方法でなくても、普通のキッチンできちんとした抹茶を適量入れて飲むだけで十分効果が期待できます。
──抹茶の摂取量について具体的な目安はありますか?
倉内准教授: 1日に3杯程度が適量と考えられます。この量であれば、カフェインの摂取量も1日の推奨量を超えることはありません。もちろん、こどもの場合はカフェインを考慮して量を控えるようにしましょう。
──抹茶の摂取のタイミングについてはいつがおすすめですか?
倉内准教授:メンタルの不調やうつ様症状は、朝に特に出やすいとされているため、精神的な健康を考えると、朝に飲むのが最も効果的です。1日のモチベーションを上げる効果も期待できます。
──抹茶の摂取に関して、何か他に期待している効果はありますか?
倉内准教授: 女性のホルモンバランスを正常化する効果です。仮説の段階ではあるのですが、女性の体に特有の問題、例えばホルモンのバランスや月経不順などに対して、抹茶が有効である可能性が考えられます。あとは、血糖値を下げる効果や血圧を上げにくくする効果が期待されています。
──非常に興味深いですね。最後に、今後の研究の方向性について教えていただけますか?
倉内准教授: 今後は抹茶の成分が具体的にどのようにして不安を軽減させるのか、そのメカニズムをさらに詳しく解明していきたいと考えています。
──貴重なお話をありがとうございました。今後の研究成果を楽しみにしています。
Wellulu編集後記:
今回は倉内准教授に抹茶の効果についてお話を伺いました。
抹茶に含まれている成分の相互作用によって期待できる効果や、その背後にあるメカニズムについての深い理解を得ることができました。日本人にとって、抹茶は親しみのある飲み物。その抹茶が持つリラックス効果や不安を軽減する効果が、科学的にも証明されつつあることがわかりました。特に、抹茶がドパミンといった神経伝達物質の働きに関与していることも驚きでした。私たちの心の健康にも寄与してくれる抹茶を日常の中で気軽に楽しんでみてはいかがでしょうか?