現代社会において、疲労は多くの人々が直面する共通の課題。なぜ私たちは疲れるのか? そのメカニズムと、疲労が自律神経に与える影響について、日本予防医薬株式会社の瀧上さんにお話をお伺いした。また、自律神経と疲労の関係、そして疲労回復に効果的な成分として「イミダゾールジペプチド(以下イミダペプチド)」の研究についても取材を実施した。
瀧上 忠一さん
日本予防医薬株式会社 商品開発室 室長
本記事のリリース情報
ウェルビーイングに特化した「Wellulu(ウェルル)」にて「イミダペプチド(イミダゾールジペプチド)」に関するインタビューを受けました。
ウェルビーイングに特化した「Wellulu(ウェルル)」にて「イミダペプチド(イミダゾールジペプチド)」に関するインタビューを受けました。
自律神経にも影響する?人の「疲れ」のメカニズム
──まずは人がなぜ疲れるのか、そのメカニズムについて教えていただけますか?
瀧上さん:これは脳のはたらきが関係しています。身体を使うとその部分が痛くなったり、デスクワークをすると肩が凝ったりしますが、これは脳が「これ以上続けると体に害が及ぶ」という生体信号として「疲労感」という形で、私たちに知らせているんです。
──身体を休めたほうがいいタイミングを、疲れによって気づけるということですね。
瀧上さん:特に疲れるのは脳の中でも自律神経の中枢にあたる部分です。
例えば運動でもデスクワークでも、何らかのストレスがかかると、実は脳の自律神経に負荷がかかります。自律神経は呼吸や心拍数、体温などを秒単位でつねに調整しているため、こうしたストレスがかかるとそれに対応するため忙しくなるんですね。
この時、脳で働いている細胞ではエネルギーがたくさん作られるわけですが、その中で活性酸素というものが出てきて、自律神経の細胞がいわゆる「さび」、傷ついてしまう状態が起こるんです。
このダメージにより自律神経の機能が低下した状態が「疲労」と呼ばれる状態です。
──自律神経自体も悪影響が出てしまうんですね。その「疲労」が続くと、どのような問題が生じるのでしょうか?
瀧上さん:責任感が強い人によくある話なのですが、スポーツや仕事での達成感や、やりがいによって本来感じるはずの疲労感を脳が感じにくくなります。体には疲労が溜まっているのに、それを認識できなくなってしまう「疲労感なき疲労」といわれる状態になります。
疲労感は消えても疲労は消えていませんから、そこで頑張って仕事をすればますます疲労は溜まってしまいます。
──疲れを溜めたまま頑張りすぎると、どのような弊害があるのでしょうか?
瀧上さん:「疲労感なき疲労」が怖いのは、この状態が長く続けば気づいた時には倒れるほど疲れている可能性があるということです。
そういう状態が続くと全身のだるさや食欲不振など、様々な不調が現れてきますし、場合によってはうつ病、心疾患や脳血管疾患などの重大な病気につながってしまう恐れもあります。
──身体の疲れと心の疲れは、関係しているんですね。
瀧上さん:はい。どちらの疲れも脳のはたらきによって感知されます。身体を動かす仕事や活動では筋肉が酷使されますが、もっとも消耗が激しいのは筋肉ではなく自律神経と、その中枢がある脳です。
パフォーマンスが落ちていて、休むタイミングに気づくためにも「疲れ」があります。疲れを感じたら、しっかり休養と栄養を取って、次に備えるという生活が理想ですね。
人の身体にも存在する「イミダペプチド」とは?
──日本予防医薬が研究している「イミダペプチド」とはなんでしょうか?
瀧上さん:イミダペプチドは自然界に存在する成分で、食品ではお肉などに多く含まれており、とくに鶏の胸肉やマグロの赤身に多く含まれています。鶏の胸の部分は羽を動かす際に使われる場所です。このように動物のよく動かす筋肉の部分に多く含まれているため、動きの多い器官に集中して存在しているのだと考えられます。
人間の身体にも存在していて、特に脳に多くのイミダペプチドが存在していますが、人は脳を頻繁に使うためと考えられています。
──イミダペプチドには、どのようなはたらきがあるのですか?
瀧上さん:イミダペプチドは抗酸化物質で、身体の酸化を防ぐはたらきがあります。筋肉や脳を酷使すると活性酸素がたくさん発生し、これが細胞の1つ1つにダメージを与えてしまいます。とくにミトコンドリアという細胞内の小器官がエネルギーを発生させるのによく動いているのですが、ここでダメージが蓄積してしまうんです。イミダペプチドの抗酸化作用が、こういった細胞へのダメージを抑えて、ケアしてくれる役割を果たします。
──イミダペプチドの量は人によって違うのでしょうか?
瀧上さん:そうですね。脳のイミダペプチドの量を日常的に測定するのは難しいですが、筋肉のイミダペプチドが測定された報告があります。その結果によると、運動して筋肉を鍛えている人ほどイミダペプチドの量が多いとされ、運動を続けることで、筋肉内のイミダペプチドのレベルが上がることが報告されています。
──運動していると、イミダペプチドの量が多くなるのはなぜでしょうか?
瀧上さん:筋肉は、筋トレなどで一度傷ついたあとに回復する「超回復」の現象によって強く育っていきます。このしっかり使う筋肉が回復していく過程で、イミダペプチドのレベルも上がるということだと思います。適度に筋肉を鍛えることで、イミダペプチドの量を増やす効果が期待できます。
イミダペプチド成分の研究でわかったこと
6〜7割の人が疲れている? 現代の疲労問題
──イミダペプチドの研究をはじめたきっかけについて教えてください。
瀧上さん:イミダペプチドの研究をはじめたきっかけは、日本で疲労の問題が増えていることを受けて、私たちのグループが人の臨床試験をおこなっていたことにあります。約20年前になりますが、疲労を感じる人が増えているという厚生労働省の報告がありました。
その報告を受け、立ち上がったのが「抗疲労食薬開発プロジェクト」という大阪市、大阪市立大学や大手製薬メーカーなどが参画した産官学連携プロジェクトです。このプロジェクトでは、人々の疲労を測定して、その測定結果にもとづいて食品やサプリメントの開発をおこなってはどうか?というアプローチでさまざまな研究を進めていきました。
その結果、とくに抗酸化作用のある食品がいいのではないかということになり、いろんな食品を調べたところ、一番いい結果が出たのがイミダペプチドでした。そこからイミダペプチドの研究に注力しています。
──約20年も前から疲労は問題になっていたのですね。現代でも、疲労は大きな問題になっていると思いますが、当初に比べていかがですか?
瀧上さん:最近おこなわれた日本疲労学会で、日本リカバリー協会が発表したデータによると、2017年と比べても近年では疲れている人が増えているという報告がありました。とくに、慢性的に疲れている人の割合が増えており、全体的に社会が疲弊していることが分かります。コロナの影響もあると思いますが、疲れている人の割合が全体の約7~8割を超えているという結果が出ています。
──全体の約7~8割というと、ほとんどの人が疲労を感じているということになりますね。日本はとくに疲れやすい環境なのでしょうか?
瀧上さん:そうですね。日本人は疲れてもはたらく習慣があります。本来は疲れたら休養を取るべきなのですが、次の日も仕事があるため休めないという状況の人が多い印象です。また、ワーキングマザーなど、家事、子育て、仕事を並立しなければならない人も多くなり、さらに疲労が重なる状況があります。40〜50代ではとくに疲れている人が多く、60〜70代になると仕事をリタイアする方が多いので疲れを感じている割合が減るというデータもあります。ただし、高齢になると筋肉量が減り、普段の生活で動きにくくなるため、そういった点から疲れやすくなるという事象も見られます。
──年代別の疲労感の違いも興味深いですね。
瀧上さん:年代別で分けると、仕事の影響が大きいことが分かりますね。元気な人と疲れている人の比較はまだ十分なデータがありませんが、心に余裕がある人やお金ストレスのない人は疲れにくい可能性があります。疲労についての研究は引き続き重要な課題です。
イミダペプチドの疲労回復効果
──疲労の研究をする中で、抗酸化作用のある最も効果的な成分としてイミダペプチドにたどりついたとのことでしたが、具体的な研究内容についても教えていただけますか?
瀧上さん:イミダペプチドの効果を検証するために、さまざまな試験をおこないました。たとえば、自転車試験では、イミダペプチド400mgを4週間継続摂取した被験者に4時間自転車をこいでもらい、そのあと4時間休憩してから再度自転車をこいでもらいました。自転車をこぎはじめて30分経った時点、4時間経った時点、そのあと4時間休憩したあとの時点の3回で、全力で10秒間自転車をこいでもらい、どのくらいこげるかを測って比較をしました。その結果、イミダペプチドを摂取したグループは、30分たった時点と、4時間休憩後の時点でパフォーマンスがほとんど変わらないことが分かったんです。
──4時間の休憩中に、その前に4時間自転車をこいだ疲労が回復したということですね。
瀧上さん:そうですね。とくに自転車試験では、プラセボと比較してイミダペプチドを摂取したグループのパフォーマンスの回復が顕著に見られました。
また、ビジュアルアナログスケール(VAS)という疲労感を測る方法を使用したほかの試験でも、イミダペプチドの効果が出ています。この試験では、約200名の被験者に対し、毎日200mgまたは400mgのイミダペプチドを8週間摂取してもらい、プラセボ群と比較しました。被験者には特別なことはせず、通常の生活を続けてもらっています。その結果、イミダペプチドを摂取したグループでは疲労感が著しく減少しており、とくに400mgを摂取したグループでは顕著な効果が見られました。
──グラフをみても、疲労感が軽減されていることがわかりますね。
瀧上さん:そうですね。このようにイミダペプチドが疲労回復に効果的であることが複数の試験で確認されたことから、このイミダペプチドに着目して研究を進めることになりました。現在でも、さらに多くのデータを収集し、効果を確かめるための研究を続けています。
イミダペプチドの抗酸化作用について
──イミダペプチドによって、疲労回復していたデータをお見せいただきましたが、これはイミダペプチドの抗酸化作用によるものでしょうか?
瀧上さん:はい、そのとおりです。筋肉や脳を使うと活性酸素が発生し、細胞がダメージを受けてパフォーマンスが低下します。イミダペプチドはこの活性酸素のダメージを軽減し、回復を促進する抗酸化作用があります。とくによくはたらく部分、つまり筋肉や脳でこの抗酸化作用が重要な役割を果たしています。
──抗酸化物質はほかにもたくさんありますよね。ほかの抗酸化物質と比べて、イミダペプチドの特徴はなんでしょうか?
瀧上さん:イミダペプチドの特徴は、脳や筋肉にもともと存在する成分であるという点です。たとえば、ポリフェノールなどのほかの抗酸化物質は、体内にもともと存在しないため、体内に入ってきても一過性の効果しかありません。一方で、イミダペプチドはもとから体内に存在する成分ですので、日常的に摂取すれば一定量が身体に蓄積されます。そして、疲労が蓄積している部分に届いて再合成されるため、効率的にダメージを防いで、回復を促すことができるんです。
──イミダペプチドは、人の体内でも作られているということですね?
瀧上さん:はい、そうです。イミダペプチドは体内でも作られていて、そのための原料を外部から補給することで、体内のイミダペプチドのレベルを維持することができます。
──それでは、疲れたときに摂取するというよりも、継続して摂取しておいて体内のイミダペプチドのレベルを維持しておくことが重要でしょうか?
瀧上さん:そうですね。イミダペプチドは継続して摂取することで効果が持続します。先ほどご紹介した8週間の試験でも、継続摂取することで疲労感が減少し続けることが確認されています。摂取をやめると、徐々に効果が薄れていく可能性がありますので、継続的な摂取がおすすめです。
──現代の人々のイミダペプチドのレベルについてはどうでしょうか?
瀧上さん:これはデータがなく正確には分からないのですが、現代の人々は過労やストレスが多いというデータがありますので、イミダペプチドの消耗が激しい可能性がありますね。体内のイミダペプチドの供給が追いついていないことが十分に考えられます。そういった点からも、外部からイミダペプチドを補給することがおすすめです。
イミダペプチドを摂取して疲労回復!
──イミダペプチドのおすすめの摂取方法を教えてください。
瀧上さん:先ほどもお伝えしましたが、イミダペプチドは継続的な摂取によって効果を発揮します。具体的なタイミングとしては、たとえばその日のパフォーマンスを上げたい場合は朝の活動前に、睡眠の質を向上させたい場合は、寝る2時間くらい前に摂取するのが効果的です。とくに睡眠の質を意識される方は、お腹に食べ物が残っていると睡眠の質が下がってしまうため、夕食後すぐではなく、少し時間を空けて寝ることがポイントです。
──イミダペプチドの推奨摂取量についても教えていただけますか?
瀧上さん:イミダペプチドの1日の推奨摂取量は200〜400mgです。試験結果では、400mgが最もいい結果を示していましたので、可能であれば400mgを目標に摂取することをおすすめします。ただし、200mgでも継続的に摂取することで効果が期待できるため、無理のない範囲で毎日続けることを意識してみてください。
また、イミダペプチドとビタミンCを一緒に摂ることで、抗酸化作用を高めることができます。たとえば、サプリメントとしてビタミンCと一緒に摂る方法や、食事で鶏の胸肉を食べる際にフルーツを一緒に摂ることで、ビタミンCを効率よく取り入れることができます。
──今回は、疲労回復を助けてくれるイミダペプチドについてご紹介いただきましたが、日ごろから疲労を溜めないようにするためのアドバイスはありますか?
瀧上さん:疲労を溜めないためには、いくつかのポイントがあります。まず、昔から言われているように、疲れたら休むことが重要です。疲労のサインは個人差がありますが、身体的な疲労では、筋肉の痛みやこり、重さを感じたり、精神的な疲労では、集中力の低下やイライラ、不安感が増したりすることがあります。これらのサインを感じたら、早めに休養を取ることが重要です。
規則正しい生活を心掛け、昼間はしっかり活動し、夜はしっかりと栄養と休養をとることが大切です。とくに生活の中でイミダペプチドを意識的に摂取することで、身体が疲れにくくなる環境を作ることができます。
また、現代の生活習慣として、スマホの使用を控えることも重要です。とくに寝る前にスマホを触ると、睡眠の質が低下し、疲労回復が妨げられます。夜はスマホをほどほどにして、しっかりと休養を取ることを心掛けましょう。
Wellulu編集後記
今回の取材で、疲労のメカニズムとその影響、さらには「イミダペプチド」の重要性について深く理解することができました。現代の多忙な生活の中で、疲労を感じながらも無理をして働き続けることが、身体や心にどれほどの負担をかけているかを改めて実感しました。自律神経を守り、慢性的な疲労を避けるためにも、適切な休養と栄養補給が不可欠です。
瀧上さんのお話から、特にイミダペプチドの抗酸化作用が、疲労回復に大きな役割を果たすことが分かりました。継続的に摂取することで、私たちの体内の疲労物質を効果的に除去し、パフォーマンスを維持する助けとなるでしょう。今後も、日々の生活の中で意識的にイミダペプチドを取り入れ、健康で活力ある毎日を過ごしていきたいと思います。
2003年 姫路工業大学(兵庫県立大学)理学研究科生命科学専攻博士前期課程修了。イミダゾールジペプチドの多様な機能性に魅せられ、2017年よりイミダゾールジペプチドを中心とした機能性表示食品等の開発、イミダゾールジペプチドと抗酸化成分の相乗効果に関する研究に携わっている。