「ありがとう」を心を込めて伝えられたら、誰だって嬉しいもの。人の役に立てたという喜び。自分だって誰かに「ありがとう」を届けたくなるから不思議なものだ。
しかし、例えば飲食店をはじめとした店舗を訪れた際、皆さんは店舗の従業員に感謝を伝えているだろうか。「おいしかったよ、またきますね」という気持ちを抱いていないわけではないものの、案外伝えずに店を後にしてしまいがち。伝えると、お互い幸せな気持ちになれるのに、もったいない。
そんなお客様の「ありがとう」の気持ちを拾い上げ、店舗の従業員に感謝を伝えられるアプリが『クロスポ』だ。開発の背景や導入で得られるウェルビーイングな体験、そして日本人にとっての「ありがとうを伝える」とは?
『クロスポ』を開発する株式会社BANQのプロダクトディレクターを務める西川 凌平さんと、外部からマーケティングを支援している株式会社ISSUN 代表取締役の宮松 利博さんに話を聞いた。
お客様の「ありがとう」を見える化。『クロスポ』は未来の常連客をつくるアプリ
- まずはじめに、『クロスポ』のサービス内容を教えてください。
西川:『クロスポ』は店舗向けのDXアプリです。主な機能は、アプリ上でスタンプカードや特典を発行できる機能、店舗の従業員に「ありがとう」の気持ちを贈れる機能、常連客様の来店頻度別にステータスが付与され、特典が得られるステータス機能の3つ。
特にお客様から店舗の従業員に「ありがとう」の気持ちを贈る機能には、ブロックチェーン技術を活用し開発した「thx!(サンクス)」という独自トークンが使用されています。
やりとりされた「ありがとう」のデータはブロックチェーン上に記録され、データをスコアリングすることで店舗の従業員とお客様に新たな信用価値を届けています。『クロスポ』は、まずは無料から店舗様に導入していただくことができます。
- 導入によって、どのような効果が得られるのですか?
西川:クロスポは1店舗から数百店舗まで、導入法人様の規模感問わずご利用いただけます。導入法人様の規模感に関わらず生じる「新規のお客様を2回目以降のご来店にいかに繋げるか」という課題を解決する効果が期待できます。
『クロスポ』によってお客様の「ありがとう」を見える化し、店舗の従業員様に届けることにより、店舗と常連客様のウェルビーイングな関係性がリピート率につながっているという嬉しいお声を数多くいただいております。
ヒントはスポーツのファンビジネス。感謝の言葉が絆を強くする
- 『クロスポ』を通じて、店舗の従業員とお客様はどんなウェルビーイングな気持ちに包まれるのですか?
宮松:『クロスポ』の仕組みは、いわばプロスポーツチームとファンの関係に近いんです。スポーツのファンビジネスって、ファンは選手についていて選手を応援するためにお金を使いますよね。そして選手はファンの熱い応援を受け取るから、日々のトレーニングを頑張れる。
だけど、飲食店などの店舗の従業員はなかなかその応援を得られないんですよ。皆さんも「あーここの店、ほんとに美味しかったな」と思っても、そこまでしっかりと店舗の従業員さんに「ありがとう」を伝えずに店を出ることのほうが多いのではないでしょうか。
もしくは、店を出て少し時間が経ってから「ありがとう」の気持ちが生まれたり。でも、そのタイミングで思っても、わざわざ電話やメールを送ることもない。本来届けることで、お互い幸せな気持ちになれたはずの「ありがとう」が気づかぬうちに失われていたんです。
『クロスポ』なら、スマホでワンタップするだけで店舗の従業員に「ありがとう」を伝えることができます。まるでスポーツ選手とファンのような関係が生まれ、従業員も仕事のモチベーションが上がりますし、お客様もお店への愛着が増してまた足を運びたくなるんです。
西川:もう一つ『クロスポ』で生まれるウェルビーイングな体験は、店舗の従業員とお客様の会話のきっかけとなり、親しい常連客の距離感へ導いてくれること。日本人の性格や文化では、従業員にチップを渡したり、初来店で従業員と距離を縮めるのって勇気がいりますよね。
そこを『クロスポ』というアプリを介することで、抵抗感なくコミュニケーションのきっかけをつくることができる。常連客として気さくに通えるサードプレイスができるとお客様もウェルビーイングだし、店舗の従業員もお客様に親しくしていただきウェルビーイングになれるのです。
- 確かに、店舗とお客様という関係を一歩越えて、いつでも気さくに通えるお店の存在ができることは、個人の目線でもとてもウェルビーイングな関係性だと思います!
日本人に根付く「察してよ文化」。ちゃんと表現しないと伝わらない?
- 日本人には「ありがとう」の表現が足りていないと感じますか? みんながよりウェルビーイングに暮らしていくには、もっと「ありがとう」を伝えていったほうがいいのかなと思いまして。
宮松:日本人には欧米とは違う、“恥の文化”がベースに存在しますよね。「障子文化」とでも言いましょうか。礼儀礼節を重んじて、恥じらいを感じながら人と接する。でも、昔は障子一枚でしか隔たれていなかったから、初めての人にも気持ちを伝える機会がまだ多かったのではないかなと思うんです。
それが、核家族化が進み、個人のプライバシーは守られるようになりましたが、その分、人に気持ちを伝える機会が奪われてしまったようにも感じます。それぞれが孤立していっているというか、心をオープンにしづらくなった感じ。
もちろん、日本人の中にも初対面からオープンマインドの人もいれば寡黙なタイプの人もいます。でも全体的には、「ありがとう」を人に伝えること一つとっても、“あからさまには表現しませんが察してくださいね”という「察してよ文化」が日本人の中には定着している印象は受けますね。
- 相手への感謝の気持ちがないわけでは決してなくて、あるんだけど明確に表現しないので“察してくださいね”と。
宮松:感謝の話とはまた違って家庭の話で恐縮なんですけど、先日も家に帰ったら妻が電球の交換をしていたわけですよ。それで、私が「僕がやろうか」って言うと「ううん、自分でできるから」と返してきたんですね。だから「じゃあ大丈夫か」とそのままにしていたら、妻が不機嫌な顔で「わざわざあなたが帰ってきたときに電球交換してるってことは、手伝ってほしいってことだと“察しなさいよ!”」と。
「だったら、なんで初めから言わないのよ」と夫としては思うのですが、これが日本人の「察してよ文化」なんですよ。これがスマートにできる夫がいい夫なんだと、『妻のトリセツ』というベストセラーにも書いていました(笑)。
想いの弓が強く引かれているときこそ、感謝の言葉は胸に届く
- そんなお二人は日頃どんな時に「ありがとう」を伝えていますか? 特に意識して使っている「ありがとう」のシチュエーションがあれば教えてください。
西川:宮松さんの話と少しカブりますが、意識しているのは家庭内においての「ありがとう」ですかね。良い夫婦関係を続けていくには、自分の気持ちをしっかり相手に伝えることが大事だと思っていて、その中でも感謝の気持ちはもっとも大事。
これもよく言われることですが、夫婦生活が続くと本来感謝すべきことがいつしか当たり前の日常に変わりますよね。料理を作ってくれることや洗濯・掃除など。でも、最初の頃の気持ちを忘れないで「ありがとう」と口にして伝える。そういう何気ない言葉の一つひとつが積み重なって、ウェルビーイングな夫婦関係にも繋がっていると思います。
宮松:私はデジタルマーケティングの会社を経営しているのですが、この業界はお客様の要望に合わせて、常にスピーディーに対応し続ける姿勢が求められます。そうした環境は時には苦しく、根気強く向き合う姿勢が問われることもあります。
だからこそ、スタッフには一日が終わる時にその日一緒に仕事をした同僚やお客様に、まずは自分が「ありがとう」の気持ちを言葉にするように言っています。私自身も日頃から部下に「ありがとう」を伝えることで、乗り越えるべき壁が高い時でも、ほんの少し心に余裕と穏やかさを感じられるようになると考えています。
- 「ありがとう」を通じてウェルビーイングな輪を広げていくには、相手に伝わる「ありがとう」であることが重要だと思います。相手に伝わる「ありがとう」と伝わらない「ありがとう」の違いはなんだと思いますか?
西川:やっぱり、その「ありがとう」に魂がこもっているかどうかかなと思います。事務的で機械的な「ありがとう」では、その人には悪いですが受け取る側には伝わらないなと。
でも例えば、道で偶然声をかけられて外国人の旅行者に道案内をしたとしますよね。その時は、「ありがとう」の言葉だけというよりも、感謝の気持ちが身振り手振りや表情に全部出てくる。だから、「ありがとう」の言葉単体じゃなくて、“プラスアルファの反応”が合わさった時に受け手の心も嬉しくなるのかなと思いました。
宮松:なかなか難しい質問だなと今考えていて……、感謝の気持ちが伝わるには、受け取る相手の状況が一番重要な気がします。これまでに苦労を重ね、報われなかった時期が長ければ長いほど、弓がぐいーっと引かれている状態にふと「ありがとう」という言葉をかけられると心に来るといいますか。
うちのスタッフに子育てをしながら働いているママさんがいらっしゃったんですね。で、10年ほど前ですが、お子さんが学校を卒業されたと。それまでもあまり深くは言えませんが、当時はお子さんの都合で会社を当日になって休まないといけなくなったり残業で対応されたり。周囲は気にしないでねとは声をかけていたんですが、ご本人は卒業まではと日々張り詰めた気持ちだったらしいんです。
そんな話を聞いている時に食事会の席だったと思いますが、別のスタッフが「お母さん、今まで頑張ったね、ありがとう」とボソリと口にしたんです。そうしたら、バーっとそのママさんの目から涙が溢れてきた。だから緊張と緩和というか、日常的に感謝を人に伝えることももちろん大切ですが、本当に人の心に深く刺さるのは受け手の苦労や想いが溜まっている時かなと、そんなことを思い出しました。
- 素敵なお話をありがとうございます。では最後に、『クロスポ』を通じて実現していきたい世界・ビジョンをお話しいただけますか?
西川:弊社にとっては『クロスポ』はあくまで一つのユースケースに過ぎません。「thx!(サンクス)」はデジタルトークンですので、将来的にはあらゆるサービスに組み込んでいくことが可能です。
ブロックチェーンでデータを蓄積し続けられる技術を活用し、人から感謝されたデータ、その反対に人に感謝を伝えているデータを一種の信用価値として運用し、いたるところで「thx!(サンクス)」を通じた感謝の輪が広がる世界を目指したい。
それが、新しい時代のウェルビーイングな一つの価値尺度となる世界を実現していきたいです。
本記事のリリース情報
西川 凌平さん
株式会社BANQ 執行役員・社長室長 兼 プロダクトディレクター
宮松 利博さん
株式会社ISSUN 代表取締役