ネットトラブルから子どもたちを守りたい。親子で育む、デジタルウェルビーイングとは?〈エースチャイルド〉 - Wellulu

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ネットトラブルから子どもたちを守りたい。親子で育む、デジタルウェルビーイングとは?〈エースチャイルド〉

子どものスマホやインターネット利用は、年々若年化が進んでいる。内閣府は「令和4年度 青少年のインターネット利用環境実態調査」(※)を行い、0歳~満9歳までの低年齢層において、「74.4%」がインターネットを利用していると発表した。子どもが当たり前にネットを使う時代になったといえるだろう。
※出典:「令和4年度 青少年のインターネット利用環境実態調査 調査結果(概要)」

「ITのチカラで、子どもの未来を明るく。」をミッションとして掲げるエースチャイルド株式会社は、ネットいじめや顔の見えない相手からの犯罪などから、子どもたちを守るプロダクトを開発・運営しているITベンチャーだ。そんなエースチャイルドが目指す社会創造と、子どもたちのウェルビーイングの実現に必要なものとは。

代表取締役CEOの西谷さんに、Wellulu編集部プロデューサーの左達也が話を伺った。

 

西谷 雅史さん

エースチャイルド株式会社 代表取締役CEO

大手システムインテグレータにて、システム開発のトラブルシュータ、技術戦略作成、新規事業開発などに従事。システムエンジニア経験を活かし、IT の専門性を活かした視点で社会問題解決に貢献したいと考え、2013 年にエースチャイルド株式会社を発足。「IT のチカラで、子どもの未来を明るく。」をミッションに、様々な事業に取り組んでいる。

左 達也さん

Wellulu 編集部プロデューサー

福岡市生まれ。九州大学経済学部卒業後、博報堂に入社。デジタル・データ専門ユニットで、全社のデジタル・データシフトを推進後、生活総研では生活者発想を広く社会に役立てる教育プログラム開発に従事。ミライの事業室では、スタートアップと協業・連携を推進するHakuhodo Alliance OneやWell-beingテーマでのビジネスを推進。Wellulu立ち上げに伴い編集部プロデューサーに就任。毎朝の筋トレとランニングで体脂肪率8〜10%の維持が自身のウェルビーイングの素。

自身の子どものウェルビーイングが原点。700のアイデアから生まれた新規事業

左:まずは、エースチャイルド株式会社の事業内容を教えてください。

西谷:私たちは「ITのチカラで子どもの未来を明るく。」をミッションに掲げ、「教育」と「IT」を軸にした事業に取り組んでいます。今は、子どもたちをネットトラブルから守り、安全・安心なネット利用環境を作るサービス「Filii(フィリー)」、全国の自治体・官公庁のSNS相談を支えるプラットフォームである「つながる相談」、学校と家庭をつなぐデジタル連絡網「つながる連絡」などを提供・運営しています。

左:講演活動なども行われていますよね。

西谷:そうですね。情報モラルやネットリテラシーについて、子ども向け・保護者向けの講演活動も年間100回ほど行っており、各自治体や企業・学校にもご好評をいただいています。

左:最初から「子どもの教育」という分野に興味があって、事業を立ち上げられたのですか?

西谷:以前は、大手システムインテグレータでシステムエンジニアとして働いていたのですが、実は子ども教育については、当初は全く興味がなかったんです。興味を持ったきっかけは、自分の子どもが生まれたことでした。そこで一気に子どもへの関心が膨らんだんです。

左:お子さまの誕生がきっかけになったんですね。会社設立はどういった経緯だったのでしょうか。

西谷:転職を考えた際に、起業という選択肢を初めて真面目に考えました。起業について学ぶ中で、「千三つ」という言葉に出合ったんです。実際に1000個の企画を考えようと思って取り組み、ほぼ毎日、会社の仕事を終えた後にベンチャーキャピタルを訪れて、プレゼンテーションを行うという生活を約1年間続けました。そして採用されたのが「ネットいじめ」をIT技術で解決するというアイデアでした。最終的に700ほどの企画を考えましたね。

左:700の企画案ですか! 「ネットいじめ」から子どもを守るというのは、何から着想されたアイデアだったんですか?

西谷:私の子どもはまだ1歳でしたが、スマホを所持する年齢がどんどんと下がっている頃でした。そんな中で、当時「LINE」の登録者数が急激に伸び、広がっていったことで「ネットいじめ」「LINEいじめ」という言葉が社会問題として取り上げられ始めたんです。「クローズドな空間の中で起こるいじめなので、外から状況を把握することが難しい」と学識者が語っている記事を見て、ITに携わっている立場として「自分なら一石を投じられるかもしれない」と考えたのが着想のきっかけでした。

左:そのアイデアをベンチャーキャピタルでプレゼンしたときの反応はいかがでしたか?

西谷:株式会社サムライインキュベートの代表・榊原さんから、「それは今からすぐに始めよう! 会社はいつ辞められる?」と言っていただいて、そこからは本当にスピーディに進んでいきました。

左:西谷さんの起業の精神はいつから持たれていたものなんでしょうか? 会社に勤務しながら、ベンチャーキャピタルでプレゼンを繰り返すというのは、なかなかできることではないですよね。

西谷:振り返ってみると、父親がラーメン店を起業しているんですよね。元々、製麺工場で働いていたのですが、その技術を生かして40歳で脱サラしました。栃木県の佐野市で28年間ラーメン店を続けていて、現在は佐野ラーメン会の会長を務めています。そういう環境があったからか、起業を目指していたと言うより、自然と選択肢に入っていたという感覚です。

左:ご自身のキャリア・経験・技術を新しいことにピボットして起業しているという点で、西谷さんのキャリアとも通じているように感じますね。

西谷:確かに、そうかもしれませんね(笑)。

自治体との連携が、子どもたちを守るサービスを普及させるカギになる

左:エースチャイルドを起業して、どのようにサービスを展開していったのですか?

西谷:まず、子どもたちをネットトラブルから守るサービスとして「Filii(フィリー)」をリリースしました。しかし1年ほど続けたものの、なかなか浸透していかない、受け入れていただけない時期を経験しました。「ネットいじめ」という問題と、「Filii」という対策がなかなか紐づいていかない。問題意識と解決策をつなぐ「間」がなかったんですね。そこで始めたのが講演活動です。

左:問題があって、その予防とか対策にはこういうものがある。だからこういうツールが必要だという、説明の部分が足りていなかった、ということでしょうか。

西谷:そうなんです。国の活動にも参加したり、冊子作りのお仕事を引き受けたりしながら、「Filii」をプロモーションしていきました。そのうちに「子どものSNS・スマホ利用にルールを作ろう」という流れがあり、「Filii」にもルール作りをするコンテンツを取り入れていきました。今では保護者と子どもが一緒にスマホの利用データを見て、ルール作りとルール運用をしながら見守っていくアプリになっています。

「Filii」の操作PC画面/スマホアプリ利用時間(割合)

左:例えば、どういったルール作りをしていくのですか?

西谷:「スマホは夜9時まで」とか、「ゲームは1日1時間まで」とか、本当に昔から各家庭でいわれていたようなことを、ITの技術でデータを集計して、家庭でのルール作りに役立てていくというツールなんです。ルールは普段から目に入らないと忘れてしまうので、プリンターで出力して部屋の壁に貼りだせるようにもしています。

左:昔の家庭では普通に行われていたことを、サポートしてくれるということですね。

「Filii」のPC画面操作/親へ通知されるアラート詳細

西谷:「ネットいじめ」などと言葉が先行してしまっていますが、ベースにあるのは日常の中の人間関係のトラブルであり、ツールとしてSNSなどを使っているということなんです。

左:「Filii」の普及活動を続けてきて、2016年には自治体との連携事業が行われていますね。

西谷:最初にお声をかけていただいたのは、千葉県の柏市でした。少年補導センターの担当者からご連絡をいただき、説明に向かいました。スマホの普及によって、少年たちの非行の形態が変わり、ネット型非行へと移行しているという話を聞いて、「Filii」を使った実証実験を行うことに決めたんです。

左:実証実験の成果はどうでしたか?

西谷:アンケートの中では、「ルールの維持に役立つ」という声と、子どもにもデータが見えるので「ゲームばかりやっていると怒られるから、勉強のアプリやニュースを見る時間を増やそう」など、使い方を意識するという声が上がってきました。

左:なるほど。では、2つ目のサービスである「つながる相談」はどういった経緯から始まったのでしょうか?

西谷:2018年に、長野県で子どもたちからの相談をLINEで受け付けるという企画が行われました。長野県の電話受け付けでは年間約250件だった相談が、LINEを使った相談では2週間で1600件ほどにまでふくれあがったんです。LINEで相談を受け付けることで、子どもたちにとっても相談しやすい環境になるということがわかりました。

左:2週間で1600件はすごいですね。相談のために新しいアプリを作るというのでは、子どもたちにとっても導入のハードルが上がってしまうということですね。

西谷:そこで「SNS相談」に特化した一元管理システムとして開発したのが「つながる相談」です。LINEで相談を受け付ける仕組みもエースチャイルドで開発したのですが、世の中にあるLINEでの相談システムには、私たちが開発・提供したものがかなりの数使われていると思っています。

左:3つ目の「つながる連絡」は学校と保護者との連絡業務に特化したシステムですが、これにはどんな需要があったのでしょうか?

西谷:自治体の中では、保護者と学校の先生が直接LINEでつながることを条例で禁じているところが多くあります。とはいえ、部活の連絡なども全て電話では行えません。そこで一元管理して、学校と保護者とが連絡を取り合えるツールとして開発したんです。

「使わせない」ではなく「見守っていく」。デジタル社会の世界基準を見据えて

左:子どものネットトラブルという面で、日本はどのような状況に置かれているのでしょうか?

西谷:そもそも、日本のようにインフラが整っていて、子どもが当たり前にスマホを扱っているという国は世界でもまれだと思います。小・中学生では、すべての児童生徒に、1人1台のタブレット端末が配布されています。世界的に見ても、独特な環境だと感じています。この環境だからこそ、「モラル」が重要です。しかし情報モラルやリテラシーの概念は十分に浸透しておらず、ネットでのトラブルが多発しているという状況に置かれています。

左:世界では、日本よりも子どもたちの情報教育はどのようになっているのでしょうか?

西谷:「モラル」重視は日本の独特な環境によるものだと考えています。世界的には「デジタル・シティズンシップ」と「デジタルウェルビーイング」という言葉が、教育現場での考え方のスタンダードになっています。「デジタル・シティズンシップ」とは、デジタル技術を用いて、社会と積極的につながるためのスキルやマインドセットのこと。「デジタルウェルビーイング」とは、デジタル技術を健全に活用して、心身ともに健康な状態を保つことです。情報を上手く扱って、取り入れていくことも大切だというのが世界的な情報教育なんです。

左:「インターネットは危険だから、子どもは使わない方がいい」という発想ではないということですね。

西谷:そうですね。デジタル技術から切り離すのではなく、使わせながら保護者が見守っていくことこそが、子どもたちのウェルビーイングにもつながっていくのではないでしょうか。

左:これは本当に重要なことだと思います。日本政府もこの考えをこれから取り入れていくのでしょうか?

西谷:総務省が、まずは「デジタル・シティズンシップ」の考え方を取り入れようとしています。全体の流れとしては、これからは「情報モラル」と「デジタルウェルビーイング」を重視して進んでいくのではないでしょうか。世の中にも変化が見えてきました。例えば、私の地元では、5~6年前には「子どもにスマホを持たせない」という方針が学校を通して周知されていました。すぐに撤廃されて、今では「子どもにスマホを、どのように使わせるか」という議論が進んでいます。

左:世の中が進んでいく中で、保護者の立場としても、子どもがスマホを使う上でのルール作りに頭を悩ませる方も多いと思います。

西谷:「Filii」を運営する上で重視しているのは、「何も制限しない」ということです。子どものスマホ利用を規制するためのアプリではないので、家庭で親子が話し合って、ルールを考えるきっかけにしてくださいとお伝えしています。よくある問い合わせに「子どもにわからないように、子どものスマホに入れることはできませんか」という質問があるのですが、監視を目的としたサービスではないということを理解いただけるようにお話をすることもあるんです。

左:ルールの時間をオーバーしたら、使えなくなるというようなものではないということですね。

西谷:お互いが納得した上で導入しないと、子ども側は監視されないために逃げ道を探すことになります。きっと、ネットで「フィルタリング 外し方」などを調べるでしょうね。あくまでも、「Filii」はデータを集めて、トラブルが起こる可能性を伝えて、親子で話し合う機会を促すツールなんです。

子どもの関心に気づき、共感することがウェルビーイングの第一歩

左:西谷さんが思う、「子どものウェルビーイング」にとって最も大切だと考えていることはなんですか?

西谷:やはり家庭内でちゃんとコミュニケーションを取ることではないでしょうか。「Filli」のデータの話もそうですが、親が頭ごなしに「こうしなさい!」と指示することではなく、お互いが向き合って、話し合い、納得して、共感して、褒めてあげることです。

左:共感することは、子どもの自己肯定感を高め、ウェルビーイングにもつながっていきますね。

西谷:親子でのコミュニケーションが不足していると生まれてくるのは、「親に話してもわからないから、言ってもしょうがない」という思考です。ネットトラブルになりそうでも、子どもは「話してもしょうがない」と思って、トラブルの表面化が遅れて取り返しのつかない事態も起こりかねません。ネットの時代になっても、大切なのは人間同士のコミュニケーションだというのは変っていないのではないでしょうか。

左:最後に、西谷さんが一番ウェルビーイングを感じる瞬間はどんなときか教えてください。

西谷:私は子どもと遊んでいるときですね。子どもが関心を持っていること、好きなことを一緒に体験したり、話を聞いたりしているときにウェルビーイングを感じています。長男は神社に興味があって御朱印を集めているので、一緒に神社にお参りに行くのも楽しんでいます。

長男のスマホには「Filii」が入っていて、データの中から関心があることが見て取れるんです。この間は、環境省のSNSアカウントをフォローした通知が残っていて、「環境省のアカウント、なんでフォローしているの?」とたずねたところ、「環境は大事でしょ」と返されて驚きました(笑)。

左:子どもの「関心の履歴」がわかるというのは面白いですね。環境問題に興味があるとか、そういったことに気づいてあげられる機会は、実は少ないのかもしれません。親子の会話が増えるきっかけにもなりますね。本日はありがとうございました。

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