産学官連携による共創が生み出すソーシャルイノベーション~「WE AT CHALLENGE 2024」への招待~ - Wellulu

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産学官連携による共創が生み出すソーシャルイノベーション~「WE AT CHALLENGE 2024」への招待~

東京大学・京都大学・東京医科歯科大学の3大学、そして博報堂を含む民間企業4社の計7団体から成る、社会課題解決型スタートアップを支援する新しいイノベーションエコシステム「WE AT」。そんな「WE AT」主催で、2024年11月27日に“アジア最大級のウェルビーイングの祭典”を目指すピッチコンテスト『WE AT CHALLENGE』が開催される。

今回は『WE AT CHALLENGE 2024』の開催に携わっている東京大学教授の渡部俊也氏、株式会社博報堂の吉澤到氏の対談をお届けする。

 

渡部 俊也さん

東京大学未来ビジョン研究センター 教授

1959年東京都生まれ、1984年に東京工業大学無機材料工学専攻修士課程を修了。1994年に同大学無機材料工学専攻博士課程修了(工学博士)。1998年東京大学先端科学技術研究センター客員教授、2001年からは同センター教授。現在は、東京大学副学長、未来ビジョン研究センター、工学系研究科技術経営戦略学専攻教授(兼)、一般社団法人日本知財学会理事(会長)などを務める。知的財産政策とマネジメントに関する実証分析やケーススタディーなどを通じて、知的財産政策、イノベーション政策や技術経営の分野で研究論文等多数。政府の知的財産戦略本部構想委員会座長、経済安全保障分野におけるセキュリティ・クリアランス制度等に関する有識者会議座長などを兼務。

吉澤 到さん

株式会社博報堂
ミライデザイン事業ユニット ソーシャルイノベーション局 局長
エグゼクティブクリエイティブディレクター

1996年博報堂入社。コピーライター、クリエイティブディレクターとして20年以上に渡り国内外の大手企業のマーケティング戦略、ブランディング、ビジョン策定などに従事した後、2019年4月、博報堂初の新規事業開発組織「ミライの事業室」室長に就任。産官学などのパートナーと協働し、ビジネスを通じた社会システムの変革を目指す。一般社団法人WE AT共同代表理事。Earth hacks株式会社取締役。東京大学文学部卒業、ロンドンビジネススクール修士(MSc)。著書に「イノベーションデザイン~博報堂流、未来の事業のつくり方」(日経BP社)などがある。

「WE AT」とは?〜挑戦と協力の場づくり〜

吉澤:博報堂では2024年に「生活者、企業、社会。それぞれの内なる想いを解き放ち、時代をひらく力にする。Aspirations Unleashed」というグローバルパーパスを設定いたしました。起業家含め、「こういうことを実現したい」「こういう社会を創りたい」という想いを産学官が連携しながら支援する仕組みのひとつとして、弊社も立ち上げに関わったのが「WE AT」です。

本日は「WE AT」メンバーのお一人である東京大学の渡部先生を招いて、「WE AT」立ち上げの背景や、11月に開催されるピッチイベント『WE AT CHALLENGE 2024』についてお話を伺おうと思っています。渡部先生、本日はどうぞよろしくお願いします。

渡部:よろしくお願いいたします。

吉澤:早速ですが、「WE AT」を立ち上げるに至った課題意識を伺ってもよろしいでしょうか。

渡部:普段私は東京大学の未来ビジョン研究センターで、スタートアップ企業のエコシステムに関する研究を行っています。そこで注目したのが、日本のスタートアップがいかに国際的に、グローバルに活躍できるのかという点です。現状そういう企業はとても少ないので、どう進めれば良いのかという課題意識がありました。

日本とアメリカのスタートアップを比較してわかったのですが、海外で活躍できるかどうかは①チームのダイバーシティの大きさ、②シリアルアントレプレナー(連続企業家)の関与があるかどうか、実際に海外での経験があるかどうか、によって決まります。

渡部:では、これらの要素を満たす人材をどうエンカレッジすれば良いのか。これまで大学では研究内容を社会に活かしなさいという教えをもとに、大学発ベンチャーという政策を行ってきました。しかし本当にそれで良いのか。特に最近の学生は、社会課題に対する意識が強い方が多いです。そのなかで何をどう訴えれば良いのか。そんなことを考えたときに、「パーパス(目的)」が重要だと気づいたのです。

それと同時に、デジタル技術の活用も欠かせません。最近ではAIとデータを活用した「スマートシティ」も話題になっていますが、果たして本当にみなさんスマートシティに住みたいと思っているのでしょうか。つまり、「何をするか」よりも「何のためにするのか」が先行していないと事業性がないわけです。そしてそのパーパスとして、人類の幸福、ウェルビーイングという概念が最も適切だというのは、多くの人が賛同するところだと思います。

ただ、ウェルビーイングの定義は国や地域、個人によって違います。だから我々はOECD(経済協力開発機構)が提唱している多様性のあるウェルビーイングをコンセプトとして、「WE AT」を立ち上げることにしました。

吉澤:ありがとうございます。大学では、研究している技術をどう社会実装していくのかというテーマが語られることが多いですよね。ある意味、技術起点で物事が進んでいくことが多い印象があります。そこに実はパーパスが重要だという先生のお話を聞いてハッとさせられました。生活者起点での価値づくりに関わってきた私たちからすると、大学の研究は一番遠い領域のように感じますが、実はその領域にもパーパス視点が必要になっている。今回の取り組みはそうした意味でもチャレンジングですね。

渡部:一般的には、大学ではキュリオシティードリブン(好奇心や興味のあるものを研究して、それをどう社会に活かしていくかを後から考える)で研究が進められます。一方で、それはミッション(何を解決したいか)と繋がっていなくてはいけません。繋がることで社会的に大きなインパクトを与えることもできますし、共感する人も増える。それを「WE AT」で実現できればと思います。

吉澤:人々のウェルビーイングの実現をパーパスとしながら、社会課題解決に取り組むということですよね。ただ社会課題解決と聞くと、一般的にはNPO団体や政府の取り組みのようなイメージがあり、ビジネスとは繋がらないのでは? と考える方も多いと思うんです。この両立について、先生はどのようにお考えですか?

渡部:もちろん、株式会社とNPO団体は形態としては全然違います。とはいえ、特に海外ではNPO団体でも社会課題を解決しようと、持続的なビジネスモデルを作っている団体はたくさんあります。ポイントとしては、課題を解決するというスキームや持続性があるかどうか。日本の常識にとらわれて「社会起業家だからビジネスではない」と一括りにするのではなく、むしろひとつになっている世界を創らなければいけないと思います。

吉澤:たしかに、おっしゃる通りですね。「WE AT」にも博報堂をはじめ、住友生命やキヤノンマーケティングジャパンなど大企業が参加していますが、最近はこういった大企業の意識も変わってきているなと感じます。今までこういう取り組みは、どちらかと言うとCSR領域だと言われ、事業領域とは別のものだと捉えられていたのですが、近年は社会課題解決と事業の領域が直結してきています。

未来を切りひらく『WE AT CHALLENGE 2024』

吉澤:ここからは、11月27日に東京有楽町のTokyo Innovation Base(TIB)で最終選考が行われる『WE AT CHALLENGE 2024』について伺えればと思います。

まず『WE AT CHALLENGE 2024』とは、一般社団法人WE ATが東京大学・京都大学・東京医科歯科大学と共催する“アジア最大級のウェルビーイングピッチイベント”です。

特徴としては、①社会課題、ウェルビーイングというテーマにフォーカスしていること、②グローバル向けに行う(最後のピッチはなんと英語!)こと、③優勝チームにNonーEquityで1,000万円の賞金が出ること、が挙げられます。

トラックは、①「Liveability」(脱炭素やクリーンエネルギーなどの領域)、②「Healthy Life」(ヘルスケアやウェルビーイングなどの領域)、③「Living & City」(スマートシティやデジタルテクノロジーなどの領域)の3つが用意されています。

この『WE AT CHALLENGE 2024』に対して、渡部先生はどのような期待を抱いているのでしょうか。

渡部:まずこういったイベントは、一般的にはスタートアップ向けで、VCの投資対象としての審査が入ります。しかし本当の意味でウェルビーイングな社会を実現する、あるいは「WE AT」が考えるエコシステムを創るためには、スタートアップだけでは不十分なのですよね。大企業や一般市民、学生などかなり幅広い層の人が興味を持つことが必要です。なので、今回は単純に投資対象としてのVCの審査は入りませんし、NonーEquityで1,000万円の賞金が出ます。

それから、先程も申し上げたようにミッションドリブンであること。そういう意味では、企業のプロジェクト単位でも参加できるようになっています。特に日本の場合、アメリカや中国と同じように、アセットとして大企業が持っているものは非常に大きいです。そういった大企業のアセットを、このウェルビーイングのために使っていくことに、ぜひ期待したいですね。

それから、私は普段大学に勤めていますから、学生さんにも期待しています。特に最近は社会起業家的な志向性を持つ学生が多いので、そのモチベーションを高めるための機会になると嬉しいです。

吉澤:ちなみに、何チームくらいの応募を目指したいですか?

渡部:500〜600チームくらい集まれば良いなと思っています。すでにインド、ケニア、コンゴ、カメルーンなどのアフリカ系の企業からの応募がきていますが、日本の企業や学生さんにもぜひチャレンジしていただきたいです。

吉澤:ウェルビーイングの実現というパーパスは掲げているものの、間口はかなり広いですよね。領域的にも、参加者層的にも。

渡部:そうですね。優勝賞金を手に入れられるかどうかももちろん重要ですが、それ以上に参加してくださった方々の中で、国場以外のウェルビーイングを目指す様々なセクターと協力して何か次に進められるような機会になったら嬉しいですね。

吉澤:まさにそうですね。主催である「WE AT」としても、ミッションドリブンのスタートアップがどんどん増え、「WE AT」コミュニティのようなものができて、企業同士で繋がることで、さらに大きな産業が生まれることを願っています。ちなみに『WE AT CHALLENGE 2024』のファイナリストに選ばれた企業には「WE AT」の認定スタートアップとして、大企業やアカデミア含め、色々な支援をしていく予定です。

吉澤:スタートアップはもちろん、大企業や学生にも参加してほしいとのことでしたが、具体的にどんな方に参加していただきたいですか?

渡部:ひとつは、たとえば大学発のベンチャーなど、すでに技術を持っていてそれを活かしていきたいと考えている方に出ていただきたいです。参加することによって、ウェルビーイングというキーワードで目的のある事業に変えていくプロセスを体験していただけたらなと。

そして、やはり社会課題の解決をしたいと考えている方々ですね。こういった方々が持続的なビジネスを自分たちで構成していく上で、どんな支援ができるのかは、我々が考えるべきことでもあります。

『WE AT CHALLENGE 2024』では、この両面に対して効果的なツールを持つための方法論を構築する必要があると思います。そのため、どんな方たちに参加していただきたいかを考えると同時に、我々がこの両者をミッションで引き寄せていくということの方法論を持たないといけないということでもありますね。

吉澤:社会課題解決におけるミッションの部分と、実際にスタートアップとして持続的に成長していくというビジネスの両立が難しい部分でもあり、仕組みが必要になってくる部分でもありますよね。

実は先日、「Wellulu」を通して株式会社ヘラルボニーという企業に取材させていただきました。ヘラルボニーでは、障害を持った方々が作るアート作品をグッズにして販売するという事業を展開しています。最近は色々な企業とのコラボ商品も生み出していて、これが日本や海外で非常に注目されているんです。

障害を持った方々の作品をビジネスに使うとなると、批判も多いはずです。そんななか、ヘラルボニーは、そういった方々が持つ特殊な才能に注目し、本当に素晴らしい作品を多く世に出しています。私も実際に見させていただきましたが、本当に素敵な作品ばかりです。

さらにこのヘラルボニーの活動は、作品を通して障害を持っている方々へのパーセプションを変えていくという側面も持っています。ミッションとビジネスの両立という意味では、まさに先行して体現されているスタートアップのひとつではないでしょうか。

ちなみに今回は、そんな株式会社ヘラルボニーの代表取締役である松田文登さんから『WE AT CHALLENGE 2024』の参加を検討している方に向けてメッセージを預かっていますので、ここで紹介させていただきます。

『WE AT Challenge 2024』へのチャレンジ起業家にとっては、刺激的な時間になると思います。私自身これまで何度かピッチを経験してきましたが、2024年5月に行った久々のピッチには魂が震えました。

登壇するその瞬間まで、完璧になるまで、必死に練習をやり切り「作家や福祉施設、ヘラルボニーメンバーの代弁者として絶対に優勝するんだ」という想いで臨みました。優勝を掴んだ時は、正直ホッとしました。社員や関係者の多くの方から連絡をいただき、ピッチは「社内や関係者の繋がりを強くするものだ」と改めて感じました。

また、ピッチイベントには多くの来場者が予定されています。その多くがスタートアップ企業との提携や、出資を検討している投資家や大手事業会社の方々です。参加することでネットワーキングにおいても、絶好のチャンスとなることは言うまでもありません。

魂を震わせ、自身を熱く燃やすチャレンジで、事業とスキルを大きく飛躍させる体験を!」

松田 文登さん

株式会社ヘラルボニー 代表取締役 / Co-CEO

ゼネコン会社で被災地の再建に従事、その後、双子の松田崇弥と共にへラルボニーを設立。ヘラルボニーの営業を統括。双子の兄。

『WE AT CHALLENGE 2024』公式サイトはこちら
https://we-at.tokyo/challenge/

コミュニティの存在がウェルビーイングを促す

吉澤:では最後に、「Wellulu」のテーマでもあるウェルビーイングについてお話を伺えればと思います。渡部先生個人にとって、ウェルビーイングとはどんなものですか?

渡部:個人的には、ダイバーシティという感覚を具現化できる場面や、それを作ることにウェルビーイング、幸せを感じます。たとえば私が住んでいる町では、地域の方が集まって地引網を行い、捕れた魚を山分けするというイベントがあります。地元の方といっても、地元企業の社長や社員がいたり、政治家がいたり、一般市民がいたり……。

吉澤:そういった活動は、繋がりをつくるためにも非常に重要ですね。

渡部:はい。もっと専門的な用語で言うと、エコシステムのキープレイヤーがいれば良いわけです。エコシステムには「競争」という厳しい概念が含まれるのですが、ミッションが同じことをやる中でも、それが横に広がればコミュニティになります。競合同士かもしれないけれど、それはコミュニティになるんです。

そういったコミュニティを創るためには、仕事に近いところだけでは限界があります。遊びと仕事、バランス良くプライベートな要素を含むことが欠かせません。だからこそ、ビジネスだけの繋がりではなく、プライベートな繋がりを持つことも大切です。「WE AT」の周りでも、このようなコミュニティをたくさん創れたらいいなと思っています。

吉澤:面白そうですね。

渡部:吉澤さんは? 山に行くのが好きなんですよね。

吉澤:バレていますね(笑)。そうなんです、私は最近趣味の山登りをしている時が一番ウェルビーイングを感じます。人の手が介在しない大自然の中にいると、すべてが完璧で美しいと感じます。エコシステムとして全てが調和している。私はもともとクリエイティブ畑出身なので、物事や仕組みを調和した形でデザインしていくことが好きなのですね。「WE AT」でもミッションドリブンのスタートアップがどんどん生まれていくような仕組みのデザイン、エコシステムのデザインに挑戦してみたいですね。

吉澤:最後に、未来について伺わせてください。渡部先生は、5年後、10年後、どのような社会になっていてほしいですか?

渡部:社会課題解決に対して、どれだけ経済や人が動くのかは注目したいですね。

お金の話でいうと何千億円という規模でこの領域に投資されないといけないと思います。たとえば、東京大学の周りのスタートアップは現在約540社ありますが、投資金額を全部合わせると4,000〜5,000億円くらいになっています。ウェルビーイングのような大きなテーマを掲げるのであれば、必ずそれくらいの投資が必要だと思っています。

吉澤:おっしゃる通りですね。今までは「その投資したお金がいくらになるんだ」といった経済的リターンを見据えての投資が主流でしたが、今後はそれに加えて、社会的なインパクトを見据えた投資が増えると良いですよね。

本日は、本当に貴重なお話を伺うことができました。渡部先生、どうもありがとうございました!

『WE AT CHALLENGE 2024』公式サイトはこちら

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