怨み節
ぼくは『ヘルタースケルター』を観ていません。映画の出来がどうこうという以前に、そもそも岡崎京子の漫画が好きじゃないので。
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そんな『ヘルタースケルター』ですが、概して男性の評価は低いものの、女性にはわりとウケているようです。安易なジェンダー論に与するつもりはありませんが、毎日新聞ではこんな記事が上がっておりました。
http://mainichi.jp/enta/news/20120808dde012200024000c.html
特集ワイド:ヘルタースケルター 「女の女による女のための映画」 自らの欲望の犠牲、痛いまでにリアル
全国で公開中の映画「ヘルタースケルター」が、沢尻エリカさんが挑んだ大胆な性描写などで話題になっている。女の欲望をとことんさらけ出した、“女の女による女のための映画”とも評される。決して後味のいい作品ではないのに、女たちが語らずにはいられないのは、なぜなのか。【細川貴代、出水奈美】
公開初日の7月14日、大阪市中心部の映画館で、作品を見た人に片っ端から感想を聞いてみた。
「めっちゃエリカの裸がキレイでした!」「まさか、こんな大勢の人とAV見るとは思わなかった。エロとグロテスクを詰め込んだ感じ」。20〜30代の女性があっけらかんと口にする。
「カップルでは絶対に来たくないと思った。女の業にフォーカスしてるし、男の人には絶対分かんないと思うから」と語るのは、女友達と来た女性会社員(26)。彼女が注目したのは、仕事を得るために主人公、りりこ(沢尻)が映画プロデューサーと関係を持つ場面。そんな最中も、りりこはしれっとした表情で腕時計に目をやる。「『ああ、こういうことある』って思った。でも男子が見たら幻滅するだろうな」と、からりと笑う。
そういえば、試写会に出席した男性は、異口同音に「うーん、女の映画だね」と言葉少なだった。映画館の客層も見た目は7割が女性。やっと捕まえたカップルの男性も「疲れた」「難しい」「早く出たかった」と表情はさえない。映画館で隣に座っていた40代とおぼしき男性は、何度か深いため息をついていた。
映画の原作は、1990年代半ばに雑誌で連載された岡崎京子さんの同名漫画。全身美容整形をしてトップスターの座をつかんだりりこがファンに消費され、手術の後遺症とともに崩壊していく物語。監督の蜷川実花さんは、奔放なりりこの性愛も、ショッキングなドラマ展開も、原作に忠実に映像化している。題名は、しっちゃかめっちゃかを意味する英語だ。
沢尻さんのスキャンダラスな話題も先行して、映画は動員数約104万人、興行収入約13億4300万円(8月1日現在)のヒットとなっている。配給元によると、多くの映画館がレディースデーを設けている水曜日の動員数が多い、という特徴があるとか。午前中は主婦層、夕方から夜にかけては仕事帰りの女性や大学生でにぎわうという。
んで、この映画を上野千鶴子センセイが絶賛していて、「岡崎京子作品は女の子の、女の子による、女の子のための文化。この手の女子文化が理解できるかどうか、この映画がリトマス試験紙になるでしょう」とまで言っています。ということはぼくに理解できないのは当然のことです。
上野センセイによれば、この映画の登場は時代の変化を表しているそうです。
「この映画には暴力的なシーンもあるけど、決して女が犠牲者化されていない。でも、ものすごく女にとっては痛い映画ね。女は誰の犠牲になったのかといえば、男ではなく自分自身の欲望の犠牲になっているから」。そう、ヒリヒリと痛い。
約40年前に誕生した日活ロマンポルノも、上野さんはリアルタイムで見たという。学生時代、終電を逃して夜明かしをする場として。しかし、「面白くなかった。だって不愉快なんだもん。何点かは名作として残るだろうけど、ジャンルとしては男の子目線。暴力の向かう対象は女。当時は女が消費する映画なんて、東映女性路線ぐらいしかなかった。女性監督もいなかったしね」。
そして、こう笑った。「女にとってエロの敷居は下がったよね。『ヘルタースケルター』が出てきたのは、社会が変わった結果。女性の欲望が、痛さも含めて臆面なく浮上してきた。結構なことじゃない」
男が女を消費する映画がロマンポルノだとすれば、「ヘルタースケルター」は女が女を消費する映画。女のむき出しの感情や執着心は女の目でも痛々しいのに、見て、語らずにはいられない。
「女の子は割と早い時期から、自分が消費財だと意識を持って大人になる。どんな女にも欲望と無縁な人はいない」と上野さんは語る。
「ヘルタースケルター」には、ロマンポルノのような男の幻想はみじんも出てこない。非現実世界を描きながら、リアルな「女」に踏み込んだ映画。見る者の欲望もじりじりと問い詰められる。だから、女は客観視できないし、心中穏やかではいられない。共感を求めて、女たちは語り合うのだ。
まぁいかにも上野センセイが言いそうな結論ではありますが、
当時は女が消費する映画なんて、東映女性路線ぐらいしかなかった。
ここは「?」となりましたね。1948年生まれである上野センセイの学生時代というと、1967年〜1972年ごろでしょうか。この時期の東映に「女性路線」なんてありましたっけ? 一般に東映の「女性路線」といった場合、80年代の『鬼龍院花子の生涯』にはじまる五社英雄シリーズを指すように思われますが、アレだって女が消費する映画とは言い難いですよね。
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まさか池玲子や杉本美樹のスケバンものを観ていたとも思えないしなぁ。
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大映に目を移せば、ちょうどその時期に増村保造が『でんきくらげ』などを監督していますが、これも主人公が男たちに消費される内容で、フェミニストのお目にかなう作品とは言えないしなぁ。
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今井正監督の『不信のとき』は内容的には女性映画といえるかもしれませんが、これも大映だなぁ。
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松竹では、森崎東の『喜劇・女生きてます』などの「新宿芸能社」シリーズがありますが、これも違うでしょう。
となると、やっぱりこれしかないですかね。
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梶芽衣子主演の『女囚さそり』シリーズは、男社会に虐げられてきた女の怨念が炸裂する映画なので、これならフェミニスト的にも文句ないでしょう。時代的にも合いますね。
上野センセイも『さそり』を観ていたのかもしれないと思うと、どこか愉快な気持ちになるのが不思議なところです。