オイディプスの神話
「タイガーマスク運動」によってにわかに伊達直人が注目を集めていますが、実は、『タイガーマスク』は梶原一騎のキャリアにおいて特異な地位を占めている作品です。
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とくに71年の「ぼくらマガジン」休刊が与えた影響は大きく、永井豪の『魔王ダンテ』もこのため未完に終わったのですが、「ぼくら」時代から看板作品だった『タイガーマスク』はさすがに打ち切りにはならずに「少年マガジン」に移籍します。しかし「ぼくらマガジン」よりも対象年齢層が上だった「少年マガジン」には、「ぼくら」のカラーが強く残っていた『タイガーマスク』はなじまず、しかも「少年マガジン」では『巨人の星』が終わった直後で『あしたのジョー』はまだ連載中、新作『空手バカ一代』が企画中というタイミングだったこともあって、『タイガーマスク』は打ち切りに近い不本意な最終回を迎えることになりました。
よく知られているように、原作のタイガーマスク最終回は、NWA世界チャンピオンのドリー・ファンクjr.(当時のドリーはプロレス界最高のテクニックを誇っており、また後年の善玉ギミックとも違い、反則もこなすオールラウンダーであった)に挑戦するために試合場へ向う途中、暴走ダンプにひかれそうになった少年を助けて事故死します(悪役レスラー養成機関「とらの穴」は、上田馬之助の活躍によってすでに壊滅していた)。このエンディングに不満を感じる読者は多いことでしょう。
これに対し、アニメ版は対象年齢が原作より高めに設定されていたこともあり、より荒々しくハードな物語が展開され、最終回は原作を大きく離れることになります。チーフライターの辻真先らが脚色した結果、伊達直人は「虎の穴」総帥であるタイガー・ザ・グレートとの戦いで正体を暴かれ、タイガーマスクという仮面を失います。そして伊達直人は、「虎の穴からもらった物をすべて貴様に叩き返してやる。そして俺は伊達直人に戻るのだ」と、グレートに対して封印していた反則技で凄絶に攻め込み、ついには、照明器具を落下させるという史上最大の反則技でグレートを死に追いやるのです。
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梶原一騎作品には、父性との戦いというモチーフがとてもよく見られます。『巨人の星』における一徹・飛雄馬父子の愛と確執、『斬殺者』における無門鬼千代と宮本武蔵、そして『空手バカ一代』や『カラテ地獄変』『人間兇器』で繰り返し描かれた、大山倍達とその弟子たち。
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[rakuten:surugaya-a-too:10508642:detail]
(↑『四角いジャングル』で検索したらこれが出てきた。どうしてこうなった)
そんな、父性の超克というエディプス・コンプレックステーマを、自作ではついに描ききれなかった梶原一騎。それを実現したのが、梶原の原作を辻真先が脚色して描いたアニメ版『タイガーマスク』だけだったというのは、梶原一騎の作家性を考える上で興味深いところですね。
ちなみに、同じように「父性の超克」にこだわった劇画原作者が雁屋哲で、『美味しんぼ』における山岡と海原雄山の確執はすぐに思い浮かびますが、『男組』でも主人公の流全次郎は二度にわたって父殺しを乗り越え(一度は実父殺しの汚名を着ることで、二度目は南条五郎から猛虎硬爬山を伝授される場面で)、敵方の神竜豪次も、育ての父を倒したうえ、実父である影の総理に戦いを挑んでいます。
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全国に波及したタイガーマスク運動では、さまざまな漫画のキャラクターを名乗った寄付があるようですが、「山岡士郎」とか「海原雄山」名義だったら意味がわかんなくて可笑しいだろうなぁ。