深町秋生『ダブル』
深町秋生先生の『ダブル』、ようやく読むことができました。
- 作者: 深町秋生
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2010/09
- メディア: 単行本
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主人公の刈田誠次は、新型ドラッグ「CJ(クールジュピター)」を売りさばく組織の殺し屋でしたが、掟を破った弟をかばったため制裁を受け、弟と恋人を殺されて自分も瀕死の重傷を負います。死に掛けていたところを警察に捕まり、整形手術で別人に生まれ変わらされた刈田。リーダーの神宮に復讐すべく組織に潜入しますが、神宮は姿を消していた……
というストーリーです。神宮ファミリーvs敵対暴力団vs警察という三つ巴の抗争が繰り広げられ、しかもそれぞれがお互いにスパイを送りあっているので、プロットそのものはシンプルですが展開には一ひねりも二ひねりもしてあり、ページを繰らせる力が非常に強い小説でした。
先に挙げた映画たちへのオマージュも感じられましたが、主人公を含めたスパイたちが、裏で敵と手を結んでいることを悟られるのではないかと読者に緊張感を持たせながら立ち回るあたりは、雁屋哲の『野望の王国』に通じる味わいも感じられました。まぁあんなにふざけた人ばっかり出てくるわけではないけど。それと、主人公の生い立ちには梶原一騎の『カラテ地獄変』に通じるものも感じましたが、これは読む側に問題があるんだと思います。
ラスボスの神宮と主人公の刈田の間に、ある種の惹かれあうような関係を匂わせてあるあたりの味わいも抜群ですし、顔を変えた刈田とかつて親友だった屋敷とのやり取りも素晴らしい。どうしたって『インファナル・アフェア』でのトニー・レオンとキョンのやり取りを思い起こさずにはいられない場面ですが、あれとは一味ちがった、男たちの魅力が見事に表現されています。
※以下ネタバレにつき、既読の方のみご覧ください。
深町秋生先生は、過去作『果てしなき渇き』『ヒステリック・サバイバー』そして『東京デッドクルージング』で、あえて都心部ではなく周辺の郊外を舞台にして、荒廃した世界を描いてきました。
今作でもその感覚は共通していて、主人公は、冒頭では東京で恩人を処刑してから千葉県や埼玉県に逃れますし、輸入したCJを受け取るために新潟港や仙台港へ行ったり、奪われたCJを取り返すために東北道から北関東自動車道を追跡したり、と、東日本の郊外を移動しながら熾烈な闘いを繰り広げます。
そして最後は、埼玉県の秩父にある道の駅で銃撃戦を繰り広げるのですが、この辺りは東京の作家には書けない感覚だと思いましたね。