木の命の原点に立てる仕事
フォレストワーカー制度で研修中の髙山唯(たかやまゆい)さん。切り出した木をバランスよく積み上げられるよう、指示を受けながら集材機を操っています。
髙山さんが林業に携わって今年で2年。きっかけは、大学時代に学んだ比較宗教学でした。
体力的なしんどさは、すぐに慣れる
髙山さんは現在、「木を伐らない林業」というテーマを掲げ、育林事業に力を入れている株式会社中川に勤務しています。普段の仕事は、木を植える「造林」。大型の機械やチェーンソーを使う場面はほとんどありません。
とはいえ、山に入って作業をする力仕事。
「1年目は、想像してたよりしんどかったです。家に帰るとずっと寝ていたということもありました。2年目になり、今でも疲れますが、このしんどさは知ってるという感じで慣れてきましたね。」
と笑顔がこぼれました。
卒業論文のテーマは「樹木信仰」
髙山さんは子どもの頃、家の近所にあった松の木に心惹かれていたそうです。道路の真ん中にあり、人間の暮らしの動線から考えるととても不自然なのに、切られずそこに佇む松の木。
「なぜ切ってしまわないんだろうと不思議に思いつつ、堂々としてる!かっこいい!って思ってました。その木と自分は仲良しというような感覚もあったんです。」
大学では比較宗教学を学びました。卒業論文を書くにあたり、その当時の自分の気持ちに向き合ってみようと「樹木信仰」をテーマに取り組みます。
「森の中にいると癒されたり、心が安らいだり、そういう経験は多くの人にあると思うんです。今、山はアクティビティで行くところ、自然はたまにおじゃまするところで、暮らすのは街の中という感じですが、昔は、食べるものも着るものも、薬も水も、全部自然の恵みからもらっていました。自然と自分は一体という考え方だったんです。それが人間の深いところに残っていて、森の中に入ったら落ち着くという感覚になるのだと思います。
古来の日本人がどういう距離感で木と一緒にいたのか、木とどう過ごしてきたのかということに関心がありました。」
植物としての命、人間と出会うための命
樹木信仰について調べている中で出会ったのが「木の教え」という本。その本には、木には2つの命があるということが書かれていました。
「1つ目が植物としての命。そして、2つ目が木材として利用されるために人間と出会う命。当時は、木を切るのが林業だと思っていたので、木が持っている2つの命の変換点に立ち会えるってすごく面白そうな仕事だなと思いました。」
「ここなら馴染めそう」株式会社中川に就職
山の仕事に就くと決めてからは、高知県、奈良県、京都府、兵庫県など、インターンの受け入れをしている各地の林業会社に足を運び現場を体験します。最終的に、髙山さんは和歌山県の株式会社中川を選択しました。
「林業をやりたいと思った時 、木を植えて木を切るというのは、どの林業会社もやってると思ってたんです。調べてみると木を植えてないというところもすごく多くて。じゃあ木を植えるのはどこがやってるのかと探して、やっと見つけた感じです。」
さらなる決め手となったのは、働いてる人がとても楽しそうだったこと、林業会社には珍しく若い人が多いこと、移住してきた人が多いこと。
「ここなら馴染めそうかなって思いました。実際、毎日楽しく仕事に取り組めています。」
研修では新しい分野の技術を身につける
日々現場で仕事をしつつ、研修として新しい技術や知識を教わることができるフォレストワーカー制度。造林を専門としている髙山さんは、木を切ったり機械を扱ったりする技術を学んでいます。
「仕事では携わることのない分野のことを学べるのでありがたいです。いろんな人に会えて話ができるのも楽しいですね。普段会話をするのは、一緒に作業をする班の人、たまに会社の人という感じなので。笑」
研修で得られることを、しなやかに、そして着実に吸収しようとする髙山さんの姿がありました。
木を植えるという仕事の尊さ
「私は今、木を植えることを仕事としているので、木が持つ2つの命の変換点ではなく原点に関わることができてるんだなと感じています。私が死んでも生き続ける木を植えていると思うと感慨深いです。」
古くから精神的に私たちを支えてくれた森。
髙山さんが林業を目指したきっかけや仕事のやりがいだけではなく、私たちが生きていく上で忘れてはいけない大切なことを教えてもらえた気がします。
自然と共に生きるということを改めて考えてみたくなりました。