クレーターのひとつから微かな気配がしている。
仰向けの裸体を突きとめたものの、その下腹部で手が動いているのに気づいて目を逸らした。
「ば、、か、、、」
上ずった声は従兄の勝だ。
「何してるの」
口をついて出た言葉に焦る。
彼は平然と続けた。
「見ての、、、通り」
「隠れたいなら裏側にまわれば?」
「ばか、、それじゃ、、、地球からみえ、、ない」
「隠れたいんだろう?」
「全然見えないんじゃ、、、意味、、な、、い」
たしか夢の前日、窓際で萎れているのを
「まったく花とは性器そのものだな」
と彼が嗤ったのだった。
そういえば僕は月下美人の開花をまだ見ることが叶わずにいる。
<了>
「快楽」は月下美人の花言葉です。
北陸アンソロジー『ホクリクマンダラ』掲載の「海柘榴」からのスピンアウトを「月」「花・月下美人」「快楽」で書きました。