『灯』
山はひと月もすれば枯れ色になろうかという頃である。
境内から下る参道の、何もかもが闇に吸われてほとんど一つになった中に残火のようにほの赤い珠が鮮やかに浮かんでいた。
近づいて手に取ればひとつも熱くはない。むしろ少し火照った手にはにひんやりと感ぜられ、私は思わず唇を寄せてしまった。
「うああ」
声は水に漂う夢と同じで音にならず、手足もまた引力を失くしたように宙を搔く。薄赤く濁った視界を探ると指は緩くカーヴした硝子に触れた。
どうやら球体に閉じ込められているようだ。
硝子を覆う透かしの金が、背後から放たれる光を撥ねて眩しい。
その隙間から眼下に見える白と赤、あれは。
境内ですれ違った巫女の、腰まで届く髪が記憶に蘇った。