- "TWG"ってトワイニングのこと?
- "1837"ってTWGは伝統があるんですね!
- カサブランカにも世界進出していてすごい?!
- マリアージュ・フレールと雰囲気似てない?
- BachaってTWGと関係あるの?
シンガポールに旅行に来た人に「日本に持って帰るおみやげ、何買えばいい?」と聞かれると、「TWGでいいんじゃない?お茶だけど、お洒落っぽいし、おいしいし」と面倒くさい時には投げやり(風)に言ってしまうのがTWG。
最近の日本でのシンガポールの持ち上げられ方は相当なものがあるなぁ、と南の島在住の私は見てます。「マリーナ・ベイ・サンズのカジノすご!税金安っ!企業&富裕層誘致と金融でガッポガッポ儲けてはるわ!」というのがヨイショのステレオタイプ。そのすごいシンガポールイメージにTWGも日本ではのっかってる雰囲気があり、「シンガポールでの伝統と格式のTWG」というヨイショ扱いを雑誌や紹介記事でよく見かけます。
TWGは、私には美味しいので好きなのですが、老舗ではありませんし、ブランドづくりの見せ方にもネタがあります。提灯記事では、書くのをためらうかもしれない話を今回は4つ。
1. "TWG" ってトワイニングのこと?
TWG とは、 "The Wellness Group" という企業名の頭文字。読み方は「てぃだぶりゅじぃ」。紅茶ブランドのトワイニング "Twinings" と頭文字が似ているのは、きっときっと気のせいですョ。
TWG Tea, which stands for The Wellness Group, is a luxury concept
TWG: THE TWG TEA STORY
2. 1837
※写真は筆者撮影
TWGロゴにおごそかに書かれている "1837" というのは、TWGの創業年ではもちろんありません。だって、"Since 1837"ではないでしょ?
1837年は、シンガポールに商工会議所が作られ、紅茶貿易が公に始まった年。TWGが創業したのは、そこから171年後の2008年です。
The tea trade was made official in Singapore with the creation of the Chamber of Commerce in 1837
・TWG: About TWG Tea
この"1837"の記述については、香港の1932年創業の紅茶企業Tsit WingがTWG Teaを企業呼称で訴えた2013年の訴訟で、「TWG Teaの1837は、その年に創業したと人々を誤認させるもの」と裁判官が判断しています。
・Straits Times: Storm brews over TWG tea logo in HK court
他の国でのロゴは"1837 TWG TEA"ですが、香港では"Tea WG 1837"になっています。
※写真は2016年に筆者撮影。香港のパシフィックプレイス店。
3. 世界進出の野望
世界の都市名がTWGの紙袋にはズラッと書かれています。中には東京も。
※画像出所: Diane de Poitiersに挑む
TWGの日本進出は自由が丘に2010年5月にオープンした店舗が最初。
日本進出以前から、TWGの紙袋には"TOKYO"のロゴが入っていたのです。
紙袋の記載都市と、実際にTWGが進出しているかを調べてみました。
TWG紙袋の都市名 | TWG店舗の所在有無 |
シンガポール | ◯ |
クアラルンプール | ◯ |
ロンドン | ◯ |
ニューヨーク | ◯ |
台北 | × |
ジャカルタ | ◯ |
東京 | ◯ |
カサブランカ | × |
パリ | × |
上海 | × |
ドバイ | ◯ |
バンコク | ◯ |
ソウル | × |
香港 | ◯ |
マニラ | ◯ |
※TWG紙袋は2013年4月、TWG店舗所在は2013年5月に確認
TWG: OUR LOCATIONS
なので、TWG紙袋に都市名が書いてあるのに店舗がないのは、
台北、カサブランカ、パリ、上海、ソウル
と5都市もあります。別に「その都市に店舗があるよ」とは「言ってない」ので、まったく大丈夫です♪
4. マリアージュ・フレール
TWGのパッケージや食器を見て、「マリアージュ・フレール?」とフランスの紅茶を思い出す人も多いはず。
※写真は筆者撮影。
※2017年3月、筆者撮影。
で、TWGはマリアージュフレールのそっくりさんどころか、香港生まれで紅茶と関係ないファミリービジネスをしていたインド系TWG創業オーナー(Manoj Murjani)が「2004年にパリのマリアージュ・フレールで惚れこんだ」とマリアージュ・フレールに影響を受けて紅茶ビジネスを始めたことを、堂々とForbesで語っています(笑)。しかも、その時に挨拶したマリアージュ・フレールの店舗責任者(Taha Bouqdib)を引き抜いて、2人は共同創業者としてTWGを立ち上げ。
シンガポール航空のビジネスクラス・ファーストクラスで提供され、シンガポールの高級ホテルに置かれます。TWGは創業初年度から、650トンのお茶を売り、3千万ドルの売上を立てて、黒字を達成。TWGの快進撃が始まったのでした。
・Forbes: TWG's Ritzy Tea
現在(2014年1月)では、TWG Teaの主要株主はマッサージチェアで有名な健康器具メーカーOsimで、70%の株主比率を占めています。
5. BachaってTWGと関係あるの?
ここ数年でシンガポールで突然見かけるようになったBacha Coffee。デザインが異様に既視感があります。
「古めの西暦4桁、その周りを囲むデザイン」
TWGと似てますよね。そう、BachaはTWGと同じオーナーが始めたものです。
TWGに2人いた共同創業者のうち、1人(Manoj Murjani)は、Osimと経営方針で仲違いをして辞任。もう1人がOsimと組んで、二匹目のドジョウでコーヒー市場を開拓にきたのがBachaです。「本物のラグジュアリーはスケールしないけど、上位20%と下位20%の間に挟まれた60%の市場を狙った安価なラグジュアリーはスケールするよ」と、TWGやBachaが顧客にラグジュアリーだと思わせる戦略なのを考えると、買い手の夢をぶち壊す率直な発言をしています。
・Channel News Asia: Ron Sim and Taha Bouqdib to invest S$136 million in new venture
また、Manoj Murjaniは投資先のペラナカン料理のViolet Oon創業家と揉めて、裁判になっています。
Bacha Coffee 1910
"1910" と例によって書いてますが、公式サイトで記載がある初めての店舗は2019年。2019年の開店体験談が発掘できます。SNS、すごいですよね。
"1910" は、ここでも "since 1910" ではありません。"1910" について、Bachaは、TWGほど分かりやすく説明していません。
結論は、モロッコでの法人設立年は、公式サイトに開示なし。シンガポールでのBachaコーヒー社の法人設立は、登記によると2012年です。当初の法人名は、オリエント・パシフィック・グループ・シンガポール社で、そこからBachaコーヒーに名称変更しています。不思議ですね。
公式サイトで、「Bachaコーヒーは、1910年にマラケシュで創設」と書かれ、「Bachaコーヒーの物語は、モロッコのマラケシュの市街に始まる」「1910年に宮殿Dar el Bachaが建てられた」とあります。これをつなげると、宮殿内にBachaの喫茶店かコーヒー豆店があったことになりますが、宮殿に飲食や小売店舗があるのは信じがたいです。肝心な「1910年に宮殿内でBachaコーヒーが営業していた」という記述もありません。
公式サイトでは、現在の店舗の立地である旧宮殿の説明がされ、「宮殿にはルーズベルト大統領など著名人が来た」と書いていますが、宮殿への訪問者とBachaコーヒーの関係は記載ありません。その後、第二次大戦後に宮殿は閉鎖されます。時は一気に進んで2017年に博物館として旧宮殿が再建され、2019年に博物館中庭でBachaコーヒーが再営業(reborn)しています。
下記が謎です。
- 1910年の法人と、現在の法人の間に、継続性はあるのか
- 1910年、宮殿でのBachaのコーヒー店営業の記述がない
- 2019年の前に、コーヒー店を営業をしていた記述がない
Bachaコーヒーは、"1910"と何の関係があるんでしょうね。1910年に建てられた宮殿を再建した場所に店舗が入ってるから、"1910"なのでしょうか。
ブランドデザインだけでなく、TWG伝統のマーケティングも再度登場しています。パッケージに、「店舗を置いていない都市名を羅列すること」です。2023年4月現在、公式サイトで確認できる店舗はシンガポール・フランス・モロッコですが、パッケージでは、ミラノ・ロンドン・東京・香港・上海・ドバイ・ドーハ・リヤド・クウェイト・台北・ニューヨーク・ソウルの地名が確認できますね。さすが伝統と格式です♪
というわけで、シンガポールブランドのTWGとBachaをどうぞ!