地域おこし協力隊として 2015 年、家族とともに高知県四万十町に移住してきた野村一将さん(40)。高知市出身で、移住前には熊本県の観光牧場へ勤務。「移動動物園を開きたい」という思いのもと、地元高知県で土地を探していたところで四万十町の「地域おこし協力隊」の募集を見つけ、着任。協力隊の活動と並行して準備を進め、移動動物園を実現させた野村さんが、今後叶えたい夢とは?
四万十町影野地区に拠点を置き、移動動物園「四万十ふれあい動物村ブレーメン」を運営する野村一将さん(40)。高知市出身の野村さんは、2015 年に協力隊として四万十町へ着任し、任期満了後も同町での暮らしを継続しながら移動動物園を経営している。
四万十町に移住してきたきっかけは、「移動動物園を開きたかった」から。その夢を叶えるため、開業する土地を探していた時に、「地域おこし協力隊」(以下、協力隊)という制度を知る。
「移動動物園を開きたくて、地元の高知県内でどこか良い場所がないかとネットで探していた時に、四万十町に協力隊の制度があることを知りました。それまで詳しくは知らなかったのですが、独立するための準備をしながら活動ができるというのが魅力で、四万十町を選びました」
地元の農業高校を卒業し、その後は福岡県にある専門学校で海洋関係について学び、四万十町に来る前には熊本県の観光牧場で約 10 年勤務していたという野村さん。動物に触れながら仕事をし、牧場の企画で移動動物園もしていたことなどが重なり、「いつかは移動動物園を自分の生業にしたい」という思いが徐々に膨らんでいったそう。
家族とともに四万十町に移住してきた野村さんの協力隊としての活動内容は、四万十町大正地域北部の山間部の地域活性だった。
「昔から行われているお祭りや、地域のお母さんたちが地域内外の方にバイキング形式で食事を提供するイベントもあり、それらのお手伝いなどをさせてもらっていました。太刀を持って踊る『花取り』の季節には、毎晩地域の人に踊りを教えてもらいました」
同じ高知県内出身ではあるものの、四万十町は「小さい頃に来たことはあるかもしれないけど」という程度の場所だったという。そんな町の山合いの地域に入り、協力隊としての活動を進めていくことにハードルはなかったのだろうか。
「正直、個人的には、もう少し便利なところが本当は良いのですが。コンビニとか、チェーン店が近くにあったらなと今も思うところはありますが、僕も妻も四万十町をとても気に入っています。協力隊の時にお世話になった北部の地域のことは、いまだに『あそこ良かったよね』って、妻と話をします」
地域の人々がとても良くしてくれ、「小さな集落の良さがよく出たような場所だった」と野村さんは当時を笑顔で振り返る。
協力隊として活動していた頃から、休みの日や日々の始業前、終業後の時間を使って準備を続けてきた「移動動物園」。現在は四万十町影野という場所で運営しているが、協力隊の活動期間には、隣町の土地を借り動物の飼育などの準備を行なっていたため、朝・夕と片道 50km の距離を 2 往復しながら協力隊としての活動をするという日々を過ごしていた。 2 年間、山間部での活動を続け、最後の 1 年間は沿岸部の集落へ活動の拠点を移し、無事に計 3 年の任期を終えた野村さんは、準備していた移動動物園の運営を本格的にスタートする。
協力隊として活動をしていたことが現在にも活きていることがある。
「以前観光牧場に勤めていた頃は、関わる大半の人は動物関係の人。でも、協力隊として活動したおかげで、地域のさまざまな方と関わり、人脈ができました。職種もさまざま。いまだに協力隊の頃にお世話になった方に声をかけてもらって一緒に飲みに行ったりもしますし、この動物園にも来てくれたりするんです。今のこの場所を紹介してくれたのも、協力隊の時に繋がった方とのご縁でした」
協力隊の頃にお世話になっていた農家の方が動物のエサとなるニンジンやカボチャ、葉物などの野菜くずを提供してくれたりと、今も助けてもらっているという。
「協力隊として移住していなかったら、動物園の開業や運営もここまでスムーズにはいかなかったかもしれませんね」
ヤギやヒツジ、ポニー、カピバラ、ウサギなど、現在 14 種、約 70 頭の動物を飼育する野村さん。移動動物園は、町内の保育園、小学校、近隣市町村で開催されるイベントなどへ出向く移動型をメインとし、出張が無い時には不定期で開放日を設けているという。
「あまり目標とか先のことは考えてないタイプ」と自身のことを話す野村さんだが、仕事が楽しいと思う瞬間や「こうなったらいいな」と思うことは、どれも「子ども」につながっている。
「子どもが動物を触って、喜んでいる姿を見ていたら、僕も嬉しい。今までは動物がちょっと苦手だったけど、移動動物園で触れ合ってから触れるようになったとか、家で犬を飼い始めたという話もあったり。そんなことがすごく嬉しいですね。子どもたちが大きくなって、お父さんお母さんになった時に、『小さい頃にここに来たんだよ』って、またその子どもたちに話してくれたり、一緒に来てくれたら。そんな思い出に残ってもらえる場所になれたらいいなと思っています」
小さな頃に実家の近くにやって来たサーカスを見に行ったという野村さん。具体的には覚えていないけれど、その体験はとても心に残っているという。そんな風に、いつか思い出してもらえる記憶の一つになりたい。それが野村さんの思い描く移動動物園だ。
「保育園にトラックで入った瞬間、子どもたちが出迎えてくれるんです。外出をしたり動物園に行ったりって特別なことだと思うんですけど、保育園や学校は子どもたちにとって日常じゃないですか。その日常のなかに、動物がやって来る。『非日常に変わる』っていうのが、思い出に残る一つの要因なのかな」
いつも子どもたちが走り回る園庭にヤギやイヌがいたり、ポニーが一緒に走ったり。 協力隊の活動を通じてできた、たくさんの「繋がり」がある四万十町の地で、子どもたちの思い出を増やしていけたら。
野村さんの柔らかな笑顔が光る。
令和 6 年度 4 月着任「四万十町地域おこし協力隊」募集中!
四万十町では、これまでに 77 名の地域おこし協力隊員を採用し、それぞれの担当地域で活動していただいています。
今回は新たに、3 つのミッションで合計 4 名の隊員を募集。その内 2 つは令和 6 年度の新たな取り組みで、民間企業が雇用主となり地域の課題解決や活性化に取り組んでいただくミッションです。
詳細は下記 URL から。四万十町の豊かな自然の中、地域住民とコミュニケーションを図りながら、積極的に地域づくりに取り組んでいただく意欲ある方のご応募をお待ちしています!
https://turns.jp/88428
元協力隊・野村さんの実体験
私の場合は勤務日数が月 16 日だったので、月の半分は開業の準備に時間を使うことができました。起業のための補助金があったり、大工さんや農家さん、移住前は関わらなかったような年上の方々などとの繋がりが広がるというところも協力隊の活動をしていたおかげだと思います。最初は慣れないことや不便なこともあって大変かもしれませんが、田舎暮らしが好きな人、やりたいことがある人にはおすすめです。
TURNS×四万十町連載始まりました!
四万十町についてこれからどんどん発信しながら、全12回の連載でお届けしていきます!
Text : 岡本里咲 Photo : 鈴木優太