【農家の扉 vol.1】ドロップファーム・三浦綾佳さんゼロから1を、100にできる農業はクリエイティブな仕事 | TURNS(ターンズ)|移住・地方創生・地域活性化

【農家の扉 vol.1】
ドロップファーム・三浦綾佳さん
ゼロから1を、100にできる
農業はクリエイティブな仕事

Presented by 農業の魅力発信コンソーシアム

一人ひとりの農家には、地域に根ざした個性ある取り組みがあり、その中には地域活性化や食の安全、環境保全への熱い思いが込められています。本企画「農家の扉」では、一歩を踏み出した先輩農家たちの物語を通じて、未来への種を蒔く「農家」という職業の魅力と可能性に迫ります。彼らが築き上げてきた経験や視点は、これから農業に挑戦したいと考える皆さんの道しるべとなるはずです。

 

◉お話を伺いました

三浦綾佳さん|株式会社ドロップ/ドロップファーム 代表取締役

生産品目:美容トマト(アイコ、イエローアイコ、フルティカ、小鈴の4種)、トマトジュース

農業女子プロジェクト、茨城県総合計画審議会委員、茨城県ダイバーシティー推進アドバイザー少子化対策委員、農業の働き方改革検討委員会などを歴任。平成28年度「農業の未来をつくる女性活躍経営体100選(WAP100)」選出。「農業を始めてから完璧主義を手放せました。自分の努力だけではどうにもならないことがあると分かり、生きるのが楽になったかもしれません。当たり前だと思っていた日常に感謝できるようになりました」と三浦さん。

仕事も子育ても両立できる働き方をつくりたくて

三浦綾佳さんは出産を機に東京から茨城県水戸市にIターンし、広告代理店業から未経験の農業へ転向して9年目。ゼロから立ち上げた会社を的確な栽培とブランディングで年商1億円を超えるまでに成長させています。三浦さんに、就農の道のりや農業を通じて得た仲間のこと、作物を育てる喜びについて伺いました。

甘くて宝石のように輝く新鮮なフルーツトマト。誰もが一度は取り寄せてでも食べてみたくなりそうな「美容トマト」と名付けられた三浦さんのトマトは、茨城県水戸市にある農場「ドロップファーム」で、日々大切に生産されています。2015年に2,500㎡のハウス1棟から始まった農場は、8年目の今、1ha 4棟にまで拡大。カフェを併設した直売所やトマトジュースの加工工場、24時間トマトが買える自動販売機も整備し、夫・浩さんと2人で始めた会社は32名のスタッフを雇用するまでに成長しています。


▲三浦さんが2022年に建てた加工工場では、他農家からのOEM(他社の製品を製造すること)も受け付けている。トマト50kg〜小ロットで加工可能だ。「小さな農家が加工できる場所は日本では限られています。そういう農家も受け入れたい」と三浦さん。

三浦さんが農業に興味を持ったのは、出産のタイミング。販売業や接客業を経て、都内で広告代理店の仕事をしている時に浩さんと結婚し妊娠したものの、広告代理店の激務をこなしながら子育てすることに無理を感じました。しかし、キャリアをあきらめたくなかった三浦さん。仕事も子育ても両立できる働き方がつくれないかと模索する中で、目を留めたのが農業でした。

「飲食店や小さなショップを開くことも検討していたんです。その中で農業も、私と夫の強みであるクリエイティブやマーケティングの経験を生かし、ゼロから1をつくるビジネスができそうだと思いました。可能性を感じたのが、当時はまだ出始めだったフルーツトマトです」


▲「あの青臭いトマトが“甘い”ってどういうこと? 甘いトマトなら売る自信がある!と私の販売魂に火がつきました(笑)」(三浦さん)

三浦さんが最初からイメージしていたのは売り場でした。恵比寿*や銀座の三越百貨店で、ハイエンドのお客様に向けてフルーツトマトを販売したい。その売り場とお客様にふさわしいパッケージやキャッチコピーは…? マーケティング用語では「マーケットイン」と言われる、顧客のニーズから商品を考え開発するやり方です。広告や販売が得意なお二人の中では、農業を始めるより先に、お客様やパッケージのイメージが膨らんでいったそうです。

*現在は営業終了。

初心者でも甘いトマトがつくれる農法との出会い

一方で、肝心のフルーツトマトの栽培方法を身につけつけるため、三浦さんたちは販売戦略や事業計画を描いた企画書を手に、都内で開催されていた「新農業人フェア」に足を運びます。ところが企画書の内容よりも、栽培経験が全くないことに注目されてしまい、農業学校への入学を勧められました。「甘いトマトをつくるには10年かかるとも言われています。場違いというか、農業の厳しい壁を見せられ撃沈して帰ってきました。しかし、メディアで見て、これだ、と思っていた農法を深く調べていくうちに、やはりこの農法で農業をやりたいと確信しました」

それが、アイメック®️農法でした。医療用として用いられている「アイメック®️フィルム」を農業に転用した栽培方法で、培地にフィルムを使うことにより土壌制御が容易なため、未経験者でも短期間で農法を取得でき、高品質のトマトを安定して生産できます。その上、アイメック®️農法で栽培したトマトは糖度や栄養素が一般的なトマトよりも極めて高く、香りも良いので、高値での販売が可能です。希望が見えた瞬間でした。

走り出してからの怒涛の日々と、農業ならではの大変さ

三浦さんはすぐにアイメック®️農法の研修先を探し、始発で東京から神奈川県の研修先まで子どもを抱えながら通って、午後には都内に戻り広告代理店の仕事をするという生活に突入。創業資金を得るため、認定新規就農者の助成金を借り入れる手続きも行いました。その約1年間は「記憶がないぐらい突っ走った」と振り返ります。

資金を調達し1棟目のハウスが完成すると、その中にアイメック®️農法の培地をつくり、浩さんと近所のパートさん1名とで1万本のトマトの苗を定植。日々大きくなるトマトの世話に明け暮れる毎日が続きました。1年目からすでに「ドロップファームの美容トマト®️」の商標登録も済ませ、パッケージも納品されているというのに栽培で手一杯で、販売先に営業していく時間も取れません。挙げ句の果てには三浦さんも浩さんも過労でダウンしてしまいます。


▲カフェを併設したドロップファームの直売所。フルーツトマトを使ったソフトクリームやかき氷も販売。

やむをえず仲卸業者を紹介してもらい、1kg1,100円で全量買取してもらえることになったものの、収支が見えてくると、その価格では到底採算が合わないことが分かりました。やはり当初に企画した通り、しっかりとブランド化して自社で売っていく必要がありました。そこで1年目の後半に、三浦さんは早くも正社員を1名雇用。月に1日か2日、その社員に農場を完全に任せられる体制をつくり、三浦さんと浩さんは販売先の開拓に力を注ぎました。その結果、2年目が始まる時には、全量を自社の直接取引・仲卸ゼロを達成したのです。

「まだ売上もない時に社員を雇うのは会社にとっては投資です。資金がない所から始めると、できるだけコストを抑えようとしがちですが、目指す方向へ行けるように、タイミングを図って投資をすべき所に投資するのが重要だと感じています」

加えて三浦さんが苦労したのは、自然相手だからこそ読み切れない農業のリスク。想定していた降雨量を上回る雨が降ったため、追加の雨水処理工事が必要になったり、当初使用していた井戸水の水質が変わり、水道を引かざるを得なくなったことなどです。「追加で借り入れをしてなんとかフォローしましたが、こういう見えないリスクをどれだけ読み切れるかも重要。今は情報も豊富になったので、当時よりは読みやすくなっていると思います」

仲間と8年目を迎えて。三浦さんの原動力とこれから

創業して8年、最近はどうしたら病気を防げるのか、どうやったらもっとおいしくきれいなトマトになるのか、三浦さんの中でトマト栽培の一定の経験値ができ、生産も安定してきました。そして今、「これからも一緒に走り続けられる仲間が定着してきた」とうれしそうに語ります。

ドロップファームで働くスタッフの一人がヨガのインストラクターの資格を取得し、お客様向けにイベントを開いたこと。出産でパティシエの夢をあきらめたスタッフがカフェのメニュー開発に挑戦したこと。採用の時に最も重視しているのは「人間性」だという三浦さんは、スタッフ一人ひとりが個性を輝かせ、公私問わずその人らしく活躍していくのを見るのが大きな喜びだそうです。

「農場にあふれている生命力が、人も育ててくれるように思います。もともと子育てと仕事を両立できる働き方をつくりたくて起業しているので、今後はさらにスタッフそれぞれの強みを活かしていく人材育成に力を入れたい。スタッフをとことん大事にして、5年後、10年後にドロップファームで走ってきて良かったなと思ってもらえる、継続的で魅力的な農場にしていきたいです」

三浦さんの会社の理念は「関わる人を感動させられる企業」。トマトのおいしさはもちろん、「人」でも感動させられる農業を目指して、三浦さんの挑戦は続きます。


▲販売店がオープンしている時間に来られないお客様のために、2022年3月、ドロップファームの商品が24時間買える自動販売機を設置。

三浦さんから、農業を始めたい人へのメッセージ

「農業はとてもクリエイティブな仕事だと思います。自分の強みを活かしてゼロから1を生み出し、それを100にもできる。野菜をつくるだけが農業ではないことをどれだけ楽しめるかも、継続的に営農するにあたって大事なこと。さまざまな壁があっても、“自分がなぜ農業をするのか”という軸をぶらさず取り組めば、周囲にも認められ、結果や仲間もついてくるのではないかと思います」

 

三浦綾佳さんに聞く、農業のココが知りたい!Q&A

Q1. スタート時の資金はどのように準備しましたか?

私が採用したアイメック®️農法は最初に一定規模の設備投資が必要なので、事業計画をつくり、認定新規就農者の助成金制度を活用して借り入れをしました。創業後は、設備投資に対する補助金「強い農業作り交付金」を活用させていただき、ハウスの増設と光糖度センターを整備しました。

 

Q2. 育てる作物や就農する地域をどのように選びましたか?

農業も「経営」なので、経営として成り立つ作物として、ブランディングしやすく収益性が見込めるフルーツトマトを選択しました。都内で販売したいと考えていたので、就農する地域は東京へのアクセスが2時間圏内の場所をいろいろ見て回りました。当時は水害が多く、農場拡大も視野に入れていたため、高台にまとまった農地があった茨城県水戸市に農場を構えることに。そこはちょうど農業からの引退を検討していた親戚の農地でした。

 

Q3. 仕事とプライベートの両立のコツを教えてください。

農業はやろうと思えばいくらでもやることがあるので、何かで区切りを付けることがコツだと思います。私は出産と同時に社長になり、子どもと会社を同時に育てているような状態だったので、「仕事は18時まで」と時間で区切ることを徹底していました。スタッフの方に関しては、創業時から残業ゼロを実現しています。

 

Q4.販路開拓や売り方で工夫していることは?

まずは販売したいと思ったお店に合わせて商品パッケージを開発することから始めました。ここで販売したい!というお店を見つけることが一歩目だと思います。売り先に合わせた販売の仕方や情報を用意すること。新たな販売先では自分が店頭に立ってみて、実際に販売しやすい商品かどうかを確かめています。

取材・文:森田マイコ



農林水産省の補助事業を活用して発足した組織で、農業と生活者の接点となる⺠間企業9社が参画。これまで農業に縁のなかった人たちに、“職業としての農業”の魅力を発見してもらう機会をつくるため、全国で活躍するロールモデル農業者を選出し、彼らとともにイベントを企画・開催するほか、就農に役立つ情報を発信しています。

https://yuime.jp/nmhconsortium/

 

                   

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