微遍路も村づくりも終わりがない。だから楽しい!/かつらお微遍路 後編 | TURNS(ターンズ)|移住・地方創生・地域活性化

微遍路も村づくりも終わりがない。だから楽しい!/かつらお微遍路 後編

どうも、生活芸人の田中です。
福島県の浜通りに位置し、双葉郡に属する葛尾村(かつらおむら)。
震災と原発事故で一時は全村避難により居住人口ゼロになったが、現在は約400人が住んでいます。
この村を「微遍路※」という形で村内を2日間かけて全て徒歩で巡り、村民や新たにこの村に関わる人たちとの出会いを通して、この村の魅力について前編と2つに分けてお届けしております。

※「微遍路」については前編をご覧ください。

 

村全体が“家族”になれる、この村のメリット

1日目の夜、夕飯後に「葛力創造舎」の代表の下枝浩徳さんにお話をお聞きすることができた。
「今この村に必要なのは、自分たちが住みたいと思える村をつくるため村民全員で共有できるビジョンです。市や町ではスケールが大きすぎて全員で共有することは難しいかもしれない。

だけど約400人の葛尾村であれば、全員の顔が見え、全員の考えがわかる村づくりが可能です。これはこの村だからこそのメリットだと思います。それぞれの集落にはどんな人たちが住んでいて、空き家がどれだけあって、どういう文化、どういう人材が必要なのかをちゃんと見える化させることができます。

その中でいかに外部の面白い人たちとマッチングさせながら小さいながらも持続可能な“村”のコミュニティーと経済の仕組みを作っていくていくことが我々「葛力創造舎」が目指していることです。」

「今我々が普段話す“村”という単位は行政村であり、居住人口の登録をもとに管理された単位です。登録された住民は400人かもしれないけれど、実際この葛尾村は居住人口以上に、別の村に住みながらここに通ってくる人もいれば、2拠点居住の方もいます。関係人口というものがすでに自然と生まれる環境です。僕らはそんな自然と関係が行き交う“自然村”を作るべきだと思っています。

そのため行政村としての“葛尾村”と区別し、「かづろうさんげ」という名称を作りました。この言葉は「葛尾さん家」が訛った言い方で、村全体をひとつの家族のように、そしてこの宿「ZICCA」も外からやってくるみなさんにとっての第二の実家になってもらえたらと思っています」

住民をこれから増やしていこうとする中でどういう人たちに来てもらうべきかをちゃんと本来この村に続くコミュニティーや風土を紡ぎ出し、ビジョンをつくっていくことで、下枝さんの話す温かい“家族”のような村がつくっていけるんだと思う。

 

村で出会う笑顔の花からの微接待

「ZICCA」から村の西の先へ向かう。
昨夜仲良くなった葛力創造舎のスタッフやインターン生として滞在中の大学生も微遍路に参加してくれた。道端にはたくさんのお花。村民のみなさんが植えたものも多いみたいだ。

歩いているとポツリポツリと村民のみなさんと出会う。声をかけると「あらーお遍路さん、ご苦労さんだねー」と笑顔で返事をしてくれた。ジュースを渡してくれたり、自慢のお水を飲ませていただいたり。お接待ならぬ“微接待”を受けた。

この村のみなさんは外からやってくる人たちに対しても警戒することなく温かく受け入れる人が多い印象を持った。

それはもともとこの村は歴史を見ても隣の藩や隣町との流動的な人の行き来や交流によって村が成り立っていたからだろう。目に見る人の数は少ないかもしれないけど、“また会いたい”と思える村民の方にはこの数日だけでも多く出会えた。京都からインターンにやってきた大学生も「これまで全国の色々な地域に行ってますが、葛尾村は自分にとってすごく大事な場所です。インターンが終わっても葛尾村に携わっていきたいと思っています。」と話をしていたのも納得する。

 

人同士だけではない、葛尾村ならではの動物たちとの暮らし

少し小高い丘の上にたくさんのヤギを発見。
ここは「かつらおヤギ広場がらがらどん」という今年5月にオープンした牧場だ。

この牧場を運営する「かつらおファーム」の専務である会津勉さんとお話することができた。

会津さんはもともと都市計画のお仕事をされていて、震災を機に復興庁に入り葛尾村へ。除染作業がひと段落し、次はこの村の活性化を目指し村役場の職員として、この牧場の代表でもある鎌田毅さんと何かこの村の復興に繋がることができないかと考え、もともと栃木県で会津さんが飼育していた30頭のヤギを葛尾村へ連れてきた。そして4年の準備期間を経て、ついにヤギ牧場をオープンした。

葛尾村に来て8年になる会津さん。「葛尾村の魅力は自分たちでこれから作っていける村であること。時間はかかるけれど、この地域の山や自然を好きになって、是非この村に来てもらいたい」と話をしてくれた。

ヤギの餌やりや散歩、乳搾りなどが体験でき、さらにヤギのミルクを使った石鹸やジェラート、パンなどグッズも充実。福島県ではヤギ牧場がここが唯一だそうで、葛尾村の新たな観光スポットを目指している。
このあと、なんとヤギの爪切りを手伝わせていただくことに。なかなかない体験…。ヤギにできる限り嫌がられないように、素早く余分な爪を切っていく。嫌がるヤギの鳴き声にしどろもどろ…。

葛尾村と動物の関係について、もう1つ気になるのが「馬」の存在。

葛力創造舎の下枝さんがこんなことを話していた。「この村“らしさ”の1つで“馬との共生”があります。この村はかつて馬が大きな産業であり、文化でもありました。なので村には馬を祀った神社や名馬碑が多いです。」確かに、神社の裏で「馬頭尊」の文字が書かれた石碑を発見したり、「早馬山」という名前の神社までも道中発見した。

三春駒と言われる三春町の伝統工芸品は、葛尾村の馬がモデルになっているそうだ。また隣の相馬市の「相馬野馬追」というお祭りでは、馬を神社に奉納する神事の際、その馬を扱うのは葛尾村の方々が多いのだそう。乗る事はできても扱う事ができない人が多い中、葛尾村の人たちは馬と暮らし、育ってきたため、扱いが上手だからのようだ。

葛尾村は古くから人同士だけではなく動物や自然界と共生があり今の暮らしがある。葛尾村らしい村づくりには動物たちは大事なパートナーなのだ。

 

村づくりって微遍路と似ている。

午後はあぶくまロマンチック街道を北上する。
目標は地図上で気になったスポット「大尽屋敷跡」。午前に続き一緒に歩いてくださる葛尾むらづくり公社の米谷量平さん。

米谷さんはもともと福島県で新聞記者をしていたが、2019年にこの村に移住。もともと記者のとき担当していた葛尾村で村づくりを通して恩返しがしたいとむらづくり公社で働きはじめたそうだ。

ロマンチック街道の道中、周りに何もないただひたすら続く長い道を歩いた。車だったら一瞬かもしれないが、微遍路ではそんな道も一歩一歩進む。
村づくりも地道で道のりは長い。だからまだ見ぬものにワクワクするものだ。途中、米谷さんが「今度またこの村を微遍路したいな」って言ってくださった。
きっと米谷さんの中でも微遍路と彼が村づくりの大事にしていることが重なったんだと思う。“馬が合う”人とこうして出会えて嬉しい。

 

松本さんが異常に多い葛尾村の理由

長い道のりを経て「大尽屋敷跡」に到着。この大きな屋敷跡は江戸時代から明治まで約200年間にわたり製鉄業・養蚕生糸商・酒造業・産馬などで巨大な富を築き上げた豪商の松本一族が建てたもの。2ヘクタールという敷地面積だという。京桜や江戸時代に流行した「近江八景」を模した庭園、また能などを鑑賞したといわれる能見池があり、かつては近隣の藩主を招待し能や狂言が観賞していた歴史も伝わる。

米谷さんたち村づくり公社は2019年に160年ぶりに能舞台を復活させこの場所で上演イベントを実施された。ちなみに葛尾村に松本の姓が多い理由はこの一族が関係していて、聞くところによるとその一族以外もこの一族に憧れて松本の姓を名乗った人も多かったそうだ。

さらにこの屋敷の奥を進んで山を登っていく。

見えてきたのは巨大な岩石とその前には鳥居が。5、6メートルはある巨大な岩壁にはいくつもの仏像が彫られる磨崖仏と呼ばれるものがあり、300年前にこの村の安泰と繁栄を祈り作られたそうだ。
巨大な岩壁に圧倒されながら、300年前も同じようにこの村のためにと人々は動いていたんだと想像する。

都会で暮らすことと地域で暮らすことは何が違うのか。それはきっと「生きている」ではなく「生かされている」という気持ちだと思う。この村に生かされているからこそ次の時代に向けてバトンをどう繋げるか。その「役割」こそ負荷価値であり、村で暮らす醍醐味なのだろう。

 

微遍路も村づくりも終わりがないから楽しい。

「かつらお微遍路」もそろそろ終盤。

村の中心部に到着するとあたりはすでに真っ暗。
そろそろ閉店の石井食堂の店主さんが「おかえりー!」と声をかけてくれた。そして晩御飯は食堂に併設している売店で買う大盛りの刺身盛り。
宿に戻り、コロナ対策のため、むらづくり公社のみなさんとオンライン飲み会。今回の微遍路での思い出をお話させていただいた。

微遍路は「全ては巡りきれない」ところも1つの醍醐味だと思っている。
例えば今回この村を車で回ったら全て巡った“つもり”になったと思う。

村づくりも“まだ先に何かある”と不完全な状態でトライアンドエラーを続けることが大事だ。そのアクションこそ磁場を生み、新たな人たちとの接点になる。ゼロから再生を目指す葛尾村のような地域こそ磁場になりうる可能性の宝庫であり、我々がこれから求める“豊かさ”がその先にあるはずだ。

また必ず会いにきますと葛尾村のみなさんとの再会を約束し、この村を後にした。

 

 

<プロフィール>

ライター 田中佑典
(生活芸人/文化交流プロデューサー)
アジアにおける台湾の重要性に着目し、 2011年から日本と台湾をつなぐカルチャーマガジン『LIP 離譜』の発行、台日間での企画やプロデュース、執筆、コーディネーターとして台日系カルチャーを発信。また地方創生の方面にて新しい旅の形『微住®』を提唱。語学教室『カルチャーゴガク』主宰。2018年度ロハスデザイン大賞受賞。

カメラマン 小山加奈
鈴木心写真館フォトグラファー、材料から育てる「いなわしろ箒」箒職人、福島木桶プロジェクト木桶職人、「写真、箒、木桶」を仕事とし猪苗代町を拠点に活動。

 

 

                   

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