本棚のこやしになっている、いわゆる“積読”が500冊を越えた。
これはどう考えてもやばい状況。
なかには20年以上もページを開かれることなく、焼け(ヤケ)て、紙魚(シミ)て、風化するまま静かに時を刻んでいる本もある。
積読が増える原因は、
・いつかは読むつもりで、購入
・もう手に入らないかもしれないで、購入
・特定のジャンル、著者の本だから集めたいで、購入
・図書館にないからで、購入
そして、一番の原因が、
読むことが追っつかない!!これだけ積読本があるのに、私は足繁く図書館に通い、本を借りまくっているのだ。
借りた本を読むことに追われて、手元にある積読を崩せないのがその理由である。
私が利用している市の図書館はけっこうな蔵書量を誇るが、検索しても在庫がない本も多い。
そんな時は、司書が近隣自治体の図書館の在庫を確認し、取り寄せてくれる。
ありがたいサービスには違いないが、わずか3万人しかいない隣市の図書館に在庫があるのに、なぜ人口10数万人の私が在住する市の図書館に置いていないのか。
これははなはだいただけない。
最近取り寄せてもらった『あの図書館の彼女たち』(ジャネット・スケスリン・チャールズ 2022年4月刊)、『帰れない山』(パオロ・コニュッティ 2018年10月刊)は、海外文学好きならよく知られた人気の作品。
映画化もされた『帰れない山』にいたっては、新潮クレストブックスのなかでも一番人気の30万部のベストセラー作品なのだ。
本屋にも並ぶ新刊や話題の本がなぜ置いていないのか司書に問うと、明確な答えは返ってこない。
図書館はどんな基準で本を購入するのだろうか。
もちろん限られた予算あってのことだろうが、選書の購入基準が司書の判断によるものだけなら、市民はもっと口出ししてもいいかもしれない。
「この本を置いてください」といえば、希望を聞いてくれるようだが、どこまで対応してくれるかは分からない。
私としては、少なくとも人口数万の隣市にある本なら置いてもらいたいし、あって当たり前だと思いたい。
…ということで、つい昨日も、隣市にあるという最近話題になっている『土偶を読むを読む』(望月昭秀他 2023年4月刊)を予約し、ずっと読みたかったホロコースト関連の作品で『マスコット~ナチス突撃兵になったユダヤ人少年の物語』(マーク・カーゼム 2011年刊)を近隣の図書館から取り寄せてもらった。
『土偶を読むを読む』は、数年前に考古学界を揺るがすほどのベストセラーになった『土偶を読む』(竹倉史人著)の反論本であるが、『土偶を読む』は半年ほど待って私が利用する図書館で借りて読んだ。
これはある意味“リンク本”なので、そのつながりで読みたいと思う利用者は多いのではないだろうか。
私が「『土偶を読むを読む』はここ(図書館)にはないから」と何度も言っているのに、司書の方がムキになって「ありますよ、コレ」といって、PCの検索画面を見せてくれたのが『土偶を読む』。
これには、空いた口がふさがらなかった。
書評でも多く取り上げられて話題になっている本くらいは、本の専門家ならアンテナを張ってインプットして欲しい。
すべてのジャンルに精通しろとまではいわないが、少しくらい勉強してもいいのでは。
といっても、私が司書と思っている人たちの多くは、資格も必要としないパートやアルバイトの人たちなんだろうなぁ。
不満を並べても仕方がないが、金をケチる図書館利用の身としては、近隣の図書館も含めて、ひとつの大きな図書館があると考えればいいかもしれない。
希望する本を手にするまでは時間もかかるが、気長に待つとしよう。
もっとも、それが嫌なら買えばいいが。
それもあって、私の本棚には本が溢れかえり、積読も高くそびえるということになっているのだろうね(笑)。
さて、最後にひとつ。
積読本をどうしたら無くせるのか。
これは、しごく簡単な答え。
本を買わない、図書館に行かない、ひたすら読むもう一つ付け加えるなら、
エイ、ヤーと本を処分する。…これに尽きると思います(笑)。
※近隣の図書館から取り寄せてもらった本
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本日、今年最高の気温34.6度を記録した私が住む土地ですが、あろうことか熱中症になってしまいました。
太陽が照りつけるピーカンの下、いつものように朝8時からのウォーキングに出かけました。
折り返し地点を過ぎて自宅に向かう途中で予期せぬ腹痛。
お腹を押さえながら、滑り込みセーフで公園のトイレに駆け込みました。
…と、ここまでは良かったんですが、そこから自宅までの約1.5㎞で、異変が。
あれよあれよという間に冷や汗が滝のように吹き出てきて、悪寒が走りました。
おそらく顔面も蒼白だったのでは。
それでも自宅まで何とか頑張ろうと思い、フラフラになりながら歩きました。
自宅が見えてきたところで、今度は目の前が真っ暗に。
最後はどうやって辿り着いたか分からぬまま、最後の力を振り絞って玄関のカギを開け、倒れ込むように帰宅することができました。
自宅に戻ってからコップの水を立て続けに二杯飲み、びしょ濡れのシャツや下着を脱いで乾いたものに取り換えて、エアコンの温度を下げてソファーに横になりました。
一時間後によくやく体調が戻りました。
今思うと、ほんとうに危ないところでした。
振り返ってみると、朝食にコップ一杯の牛乳しか水分を摂っておらず、そのまま炎天下の6㎞のウォーキングをしたことが失敗だったようです。
運動中に下痢をして、大汗をかいて、水分が急激に失われたことによる脱水症状から熱中症になったかも。
出発前には水分をしっかり摂ることも大事ですが、それ以上に炎天下の運動について要注意だと反省しました。
昨年も炎天下の歩き旅で、熱中症の症状が出ながらも歩くという危ない橋を渡り、結果的に血尿を引き起こしてしまいましたが、倒れてからでは遅すぎますね。
無理は禁物という、当たり前のことを学びました。
…ということで、話題を替えますね。
お遍路の途中で立ち寄った食レポにしたいと思います。
香川県に入ってから楽しみなのが、何と言っても讃岐うどん。
丸亀城近くにある『セルフうどん 讃州製麺』さんは朝6時45分から営業している人気店です。
朝食を取ってからまだそれほど経っていない10時前でしたが、ついふらふらと暖簾を潜ってしまいました。
恐るべきことに、広い店内はほぼ満席。
まだ朝だというのに。
これは思いっきり、不思議な光景でした。
香川県民の「朝からうどん」は、本当でしたね。
列に並んで、ぶっかけうどん(小310円)にゲソ天(150円)トッピングをチョイス。
セルフと言いながらも、自分で茹でるのとは違い、丸亀製麺方式の流れ作業です。
うどんはコシが強くモチモチ。
柚子とおろしが効いた出し汁も爽やか。
おおっ、これを待っていた!
これぞ、讃岐うどん!!
思わず、小さく呟いてしまいました。
四国に来て初めて美味いうどんを食べたと思いました。
朝から店内が満席になる理由も、この美味さなら納得でした。
※『セルフうどん 讃州製麺』香川県丸亀市土器町東9-240 ジョイフィット丸亀 1F 年数回臨時休業有り
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今日から7月。
あっという間に半年が過ぎましたね。
こうして、どんどん齢を重ねていくんでしょうか。
6月は24冊の本を読みました。
おそらく、ここ数年での最高記録だと思います。
読んだページ数は6232ページ、一日平均208ページとなりました。
私は遅読で、しかも一字一句をすべて読み込むスタイルなんで、性分的に飛ばし読みや冒頭のみ読んで終わり、ということができません。
どんなにつまらなくても辛抱強く最後まで読んでしまうという、どちらかというと困ったタイプです。
だから後で後悔するんですね。
こんなの読まなきゃよかったって(笑)。
本の読み方の指南書は数多ありますが、多読を推奨する本には、決まって「本はすべて読む必要はない」なんて書いてあります。
冒頭と気に入った箇所のみを拾い読みすれば内容が掴めるということです。
ビジネス書や学術書、あるいはガイドブック、how to本、図鑑や写真集、画集ならこれで良いかもしれませんが、小説やノンフィクションといったエンタメ系は、こんな読み方はしたくありません。
コミックもそうかな。
なんだか、著者が精魂込めて記したものに対して失礼な気がするんですよね。
やはり根が真面目なんでしょうかね。この考え方は。
私が参加している読書アプリの【読書メーター】には、いろんな読書家がいますが、毎月180冊とか200冊を目標に読んでいる人が何人もいます。
一日に5冊、10冊とアプリに本の感想をアップしてくるのです。
それこそマンガや雑誌まで、活字なら何でもありです。
推測するに、読み方は『飛ばし読み』か、『チラッと見』だと思いますが、別にこれをけなすつもりもありません。
読書のスタイルは人それぞれですから。
しかし、私が5日かけて読了した同じ本の感想をアップされると、つい興味津々で読んでしまいますが、思った通り、まったく中身が薄く、的外れなことに気づきます。
本当に読んでいるんかいな…と疑わずにはいられません。
本に対して失礼じゃないかと…。
そして、実に勿体ない。
じゃあ、そんな感想を読まなきゃいいんですが、これも活字中毒の性です。
同じ本を読んだ人の感想が気になって仕方ないんですね。
…ということで、つまらないことをダラダラと書きましたが、先月の読書のまとめです。
収穫はジョン・ウイリアムズ著『ストーナー』。
平凡な大学教員の一生を淡々と綴った内容ですが、これが見事に心の琴線に触れてくる。
それは何故だろうかと…ずっと考えながら読んでましたが、本を閉じたときにその答えがちよっとだけ見えた気がしました。
興味がおありの方は、ぜひ手に取ってみてください。
※本文とは関係ありません
6月の読書メーター読んだ本の数:24
読んだページ数:6232
ナイス数:1050
蝙蝠か燕かの
感想「賢光院清心貫道居士」昨年急逝した著者の戒名である。
師と仰ぐ藤沢清造の「清」と、慕い続けた「清らかな心」、そして分身である北町貫多の「貫」。
能登の西光寺で師の隣に眠る著者は、きっと今頃は私小説を肴にあの世で酒を酌み交わしているだろう。
本書に収録された表題作は死の直前の『文学界』2021年11月号に掲載されたもの。
死を予感していたのだろうか。54才になった貫多(著者)は、師の全集刊行が思うようにいかない焦りのなかで、自分に残された時間のすべてをぶつけることを何度も書き綴っている。
しかし、志半ばで人生のすべてをかけた仕事が完遂できなかった悔しさを思うと心が痛む。
私と北町貫多とのつき合いは、彼が中学を出て鶯谷の三畳間に転がり込んでから始まった。
人生これからというのに、54才ではあまりに早いじゃないか。
もっともっと長く一緒に歩きたかったが、今となってはそれも叶わぬ夢。
短い年月だったが、活字を通して楽しませてくれた彼に次の言葉を手向けたい。
「作者死しても名著は遺る」合掌。
読了日:06月30日 著者:
西村 賢太本売る日々の
感想柔らかく包み込むように、そして流れるようなテンポが心地よい。
情景が目に浮かぶ無駄をそぎ落とした巧い文章にも感心するが、山本周五郎作品を彷彿とさせる市井に生きる人々の人情噺となれば、つまらないわけがない。
著者の狙いの術中にはまって、それだけで頁をめくるスピードも上がるというわけだ。
和書を扱う江戸時代の本屋という設定も珍しい切り口だが、『初めての開板』にいたっては、次々に出てくる医学書の見識の深さに舌を巻いた。
知らない世界を覗くことは読書の無常の楽しみ。この作品を書くための著者の努力が目に浮かんだ。
読了日:06月29日 著者:
青山 文平ストーナーの
感想今のところの今年のベスト。頑固で不器用、真面目で世渡り下手…まるで高倉健のような主人公ストーナーの、その人なりにぐんぐん惹かれた。
学究の徒そのものの平凡な男の一生を淡々と語っていくだけなのに、なぜそこまで魅力を感じるのか。
おそらく我が身が辿ってきたサラリーマン人生をそこに重ね合わせ、自分に足りなかったものをストーナーの生き方に見出そうとしたからだろう。
悪妻を憎まず、深い愛情で家族を支え続ける中での不倫は、自らの殻を突き破った冒険だった。
小さなロマンスともいえるドラマチックな展開が彩を添えたように思う。
読了日:06月29日 著者:
ジョン・ウィリアムズソーネチカ (新潮クレスト・ブックス)の
感想決してうまくいくはずもない、主人公ソーネチカとその夫ロベルト、そして同居人の女性ヤーシャとの三角関係が、何事もなかったかのように、まるでうららかな春の季節のごとく平穏に過ぎていく。
その昔の一夫多妻、妻公認の妾制でもないのに、これに不自然さを感じさせないのは何故か。
芸術家としての夫をどこまでも支える妻として目をつぶったのか、それとも夫と一心同体の見地からか。
人に寛容すぎることは無垢とは違うが、きれいな心のままで生きることは難しい。
生きていく悦びのみが支配するソーネチカの一生こそ「静謐」の言葉が似合っている。
読了日:06月28日 著者:
リュドミラ ウリツカヤわれら闇より天を見るの
感想2021年英国推理作家協会賞最優秀長篇賞ゴールド・ダガー受賞、2023年本屋大賞翻訳小説部門1位。
30年前の不幸な出来事に端を発して、次々に事件が起こるサスペンスであるが、それだけで終わらない骨太で壮大な家族小説に仕上がっている。
全編にわたって緊張と不安定な心理状態が続くストーリーに、根底にある姉弟愛、肉親の絆、幼馴染の友情といった普遍的なテーマが、一服の清涼剤のごとく見事に調和し生かされている。
海外ミステリーに添付される登場人物表とは別に、家系図がなんで付いてるのだろうかと最初は気に留めなかったが、頁が進むにつれこれを何度も見にいった。
これもプロットの一つだと気づいた。
久しぶりに重量感がある作品世界に酔いしれることができた作品だった。
読了日:06月27日 著者:
クリス ウィタカーお遍路ガールズ (ハルキ文庫)の
感想タイトルとカバーイラストを見て、その軽さに引いてしまったが、荒削りの部分を除いても思った以上に面白く、良い意味で裏切ってくれた。
実際にお遍路を体験して書かれただけに、遍路道の情景や札所の描写は実にリアルである。
この春に40日間の歩き遍路を結願した身としては、苦しく楽しかった長い道のりを反芻しながら読むことができた。
「お大師様に出会えますように」と、道中多くの人たちからかけられた言葉が、本書のキーワードになっている『かりそめの御霊』とどこかダブってしまい、新たな発見をした思いだ。
映画化を望みたい。
読了日:06月25日 著者:
又井健太ある秘密 (新潮クレスト・ブックス)の
感想淡々とした抑揚のない文体がまるで我慢比べのように続く前半だが、一転して後半はジェットコースターのごとく驚愕の事実が次々に明らかになっていく。
自然体の情景の美しさに合わせて、それぞれの役割をもった登場人物が生き生きと動き出す。
美しくも不思議な文章の虜になっていくのを感じた。
ホロコーストの悪夢は戦後何十年経っても、生き残った人々に対して深い傷跡を残している。
収容所での過酷な実態やユダヤ人虐待といった直接的な描写がなくても、その恐ろしさと罪の深さを伝えきった作品の構成力と、次世代に問うメッセージ力に感服した。
読了日:06月23日 著者:
フィリップ グランベール今日、ホームレスになった 平成大不況編の
感想平成大不況篇と銘打った本書が出版された2010年の全国のホームレスの数は13000人。2021年の調査では4000人となっている。
数の上では大幅に減少しているが、これはあくまで特定の拠点に定住している数であって、毎日のようにねぐらを替えて流動する人の数まで捉えていない。
駅や公園から追い出され、ビルの隙間でさえ寝ることができなくなった人々はどこにいるのだろうか。
この本でヒントとなりえたのが、深夜営業の店であったり、ネットカフェである。
統計にも表れない不可視化したホームレスへの介入と支援が、令和の課題である。
読了日:06月22日 著者:
増田 明利461個の弁当は、親父と息子の男の約束。の
感想淡々と流れていく弁当づくりの毎日に、父と息子のほのぼのとした関係と強い絆が見え隠れする。
それが弁当の写真を通して見えてくるから面白い。
定番の玉子焼きと肉巻き以外の毎日違うおかずやごはんの配置、弁当箱や調理器具にもこだわった日々の変化が、料理が巧くなりたいという気持ち以上に息子への愛情のメッセージとして迫ってくる。
物言わぬ写真が持つ力を改めて感じた。
対極をなす(?)ttkk著『今日も嫌がらせ弁当』と読み比べてしまうが、母と娘より、父と息子のほうがさっぱりして、妙な思惑を感じることなく読後感も爽やかだった。
読了日:06月22日 著者:
渡辺 俊美蒼き山嶺の
感想舞台は残雪期の北アルプス白馬岳。過去に登ったことがある主稜や日本海に抜ける栂海新道の位置関係を思い出しながら読んだ。
山岳小説にとって、山の情景や技術をリアルに連想させる描写力が必要なのは言うまでもない。
笹本稜平亡き後、著者がこの分野に挑み続けてくれれば嬉しい。
本作のポイントにもなっている、怪我人を背負って山を登下降する苦労は並ではない。
私も冬の槍ヶ岳で、自分より体重がある火傷を負った仲間を背負って下りた経験があり、もう45年も昔のことを思い出した。
カバー写真が旧知の山岳写真家だったことも嬉しかった。
読了日:06月21日 著者:
馳星周あの女(オンナ) (文庫ダ・ヴィンチ)の
感想工藤美代子著『なぜノンフィクションはお化けが見えるのか』に収録された対談を読んで手に取った。
著者にまとわりついて離れない因縁の女を、シリーズ化して面白おかしく書いているようにも見えるが、冷静に見ると、これはとんでもなく怖い話だ。
生身の人間でこれほど邪悪でおぞましい力をもった人がいることに驚くが、女の素性や生い立ちが分からないだけになおさら怖い。
この女にも親や家族がいるのだろう。死霊の怪談話よりもはるか上をいく生霊の話は、鈍感な自分にも背筋が凍る一級品。
生きている限り絶対に遭遇したくない世界だ。
読了日:06月19日 著者:
岩井志麻子無人島に生きる十六人 (新潮文庫)の
感想なんとも痛快な漂流記。
全編に漂うほのぼのとした雰囲気が、悲壮感をまったく寄せつけていない。
そこには、救助されるまで何年でも皆で楽しく待つという強い意志が首尾一貫溢れているからだろう。
中川船長のリーダーシップがメンバー全員に浸透し、一丸となって困難に立ち向かい、次々にクリアしていく様子は、英国人シャクルトン船長が率いたエンデュアランス号漂流の物語を彷彿とさせる。
しかし、これは二番煎じではない。
龍睡丸の遭難は1899年(明治32)年。エンデュアランス号の遭難(1914年)よりもずっと以前の出来事であった。
読了日:06月19日 著者:
須川 邦彦被差別のグルメ (新潮新書)の
感想アブラカス、サイボシ、アイヌ料理や沖縄のイラブー、ソテツ味噌といった路地や少数民族の間で受け継がれてきたソウルフードは、一般家庭では食卓に上ることもなく、一線を画しているのは間違いない。
そんな中で焼肉やホルモン焼が料理の一大カテゴリーとして隆盛を極めている背景には、在日や路地の人々による歴史的な努力があったことが伺える。
料理は味だけでなく、精神性が歴史と場所から生じるという著者の見識は的を得ている。
郷土食にしかり、おふくろの味も同様かもしれない。
ホルモン=放るもんではないことが分かったことも収穫である。
読了日:06月15日 著者:
上原 善広寝ころび読書の旅に出た (ちくま文庫)の
感想積読本が500冊を超えたので、しばらくはそれを崩すことにした。
この作品は7年間も本棚の肥やしになっていた。
『恐るべき空白』や『大西洋漂流76日間』など、著者の岩波新書の活字シリーズ4冊で紹介されている本と被るところはたくさんあるが、それだけ思い入れが強いのだろう。
冒険記や漂流記といった、極限状態に置かれたリスクが高い旅に関する特定のジャンルについては、なんといってもその見識は半端ではない。
もちろん、ビビッとくる本についてはマーキングして注文体制に。
いかん、いかん、また積読が増えてしまう(笑)。
読了日:06月15日 著者:
椎名 誠テキヤはどこからやってくるのか? 露店商いの近現代を辿る (光文社新書)の
感想寅さんの口上、神社の縁日、飴売り、なわばりや姐さんといった隠語、広島県で見つけた神農湯のホーロー看板、屋台のラーメン、闇市…。
これまでなにげなく接してきたバラバラだった言葉のピースが一枚の絵となり、あたかもパズルが完成したようなすっきりとした気分だ。
学んだこともたくさんあった。
露天商と露店商の使い分け、親分子分の関係がテキヤ社会では現役で機能していること、男性のみしかテキヤになれない掟、極道と神農道の違い等々。
陽の当るところからちょっと引っ込んでいるポジションだからこそ、人々には気になる存在なんだと思う。
読了日:06月14日 著者:
厚 香苗アウシュヴィッツ生還者からあなたへ: 14歳,私は生きる道を選んだ (岩波ブックレット NO. 1054)の
感想わずか63頁の小冊子だが、その内容は衝撃的だ。
ホロコーストの語り部として活動してきた90歳を迎えたアウシュヴィッツの生還者が、最後のメッセージとして今を生きる若者に託す話である。
そこにはあらゆる差別を憎み、「無関心は暴力そのもの以上に暴力的だ」と訴える。
罪を憎んで人を憎まず。ドイツが降伏し、死の行進から解放されたとき、冷酷なドイツ兵に鉄槌を下すチャンスがあっても、それを許す。
彼女が人間としての尊厳と未来を選んだからだ。
差別と復讐心が蔓延する世の中にこそ、戦争に発展する火種があることを改めて認識した。
読了日:06月13日 著者:
リリアナ・セグレエヴァ・ブラウンの日記―ヒトラーとの8年の記録 (学研M文庫)の
感想ヒトラーの私生活と女性関係は謎に包まれているが、最期を共にしたエヴァ・ブラウンだからこその視点で綴られた、貴重な証言であるといえる。
しかしこれを読んでも、ヒトラーの偏執的な潔癖さと病的なガードの固さが誇張されるだけで、独裁者としての狂気や人間性には迫れていない。
単なるひねくれたワガママなオヤジにしか映らない。
ともあれ、直筆ではなくタイプ打ち、家族や側近ではなく数回しか面識のない友人に託され、戦争が終わった頃合いを見てからの出版。
肝心な1945年の欠落。エヴァの出産の謎…。
日記の真偽は闇の中である。
読了日:06月13日 著者:
アラン・F. バートレットなぜノンフィクション作家はお化けが視えるのか (中公文庫)の
感想著者のノンフィクションを興味深く読んできたが、こうしたジャンルの作品もあったことにまずは驚いた。
まったく霊感の無い私にはどれも突拍子もない話に思えたが、霊と接触した不可思議なストーリーをこれだけ並べられると、もう信じるしかない。
本人が気にしていなくとも、引き寄せてしまうという特異な体質(?)は、常人との違いか。
著者のノンフィクション作品に潜む深い洞察力や切れ味は、その体質と関連がありそうな気もする。
後半の岩井志麻子との熟女対談も面白かった。
読了日:06月11日 著者:
工藤 美代子四国八十八ヵ所歩きへんろ 平成娘巡礼記 (文春新書)の
感想40日間の歩き遍路から帰ってまだ10日しか経っていないが、その時の感動を反芻したくて、お遍路の本を読み漁っている。
本書は大正時代に奇しくも同じ24歳で歩き遍路にチャレンジした高群逸枝さんの『娘巡礼記』の平成版ともいうべき位置づけを意識しているようにも見えるが、そこは現代の女性。マンガ喫茶に立ち寄ったり、スナックやジャンクフードも大好き。
しかし特異なのは、越後瞽女の伝統を引き継ぐ三味線奏者としての強い信念。
かつて存在した四国遍路と瞽女の関りと通じ合いたいがために、札所ばかりでなく道中の先々で演奏しながら旅を続けることで、その細い糸を確かなものにしていく。
最初は気負いがあった演奏も自然体で滑らかなものになり、最後の結願の寺で、自分を縛っていた「こだわり」が解けたことを自覚する。
お遍路の感動は歩く過程にあり、今まで知らなかった自分に出会えたことだという。
同じ1200㎞を歩いた自分に、それが共感できたことが少しばかし嬉しく思った。
本書を読んでから、YouTubeで著者の遍路組曲を聴いてみたが、素晴らしい音色と歌声に圧倒された。
読了日:06月10日 著者:
月岡 祐紀子「ジプシー収容所」の記憶: ロマ民族とホロコーストの
感想ホロコーストの犠牲となったロマについて書かれた本は数少なく、ナチスが行った戦争犯罪を知る上では貴重な一冊。
内容は収容所から生還した女性の証言と、彼女との二度にわたる聞き取り調査。
後半は国内外を問わずホロコーストの事実(ガス室の有無等)を否定・歪曲する勢力に対して論点を詰めた検証を行っている。
インドを起源とする国をもたない流浪の民ロマは、ジプシーのくくりとして一言でまとめるものではなく、そこには本書の証言者のような音楽や舞踊を生業としてきた定着民であるスィンティもいる。
日本人のロマに対する認識の乏しさと差別的な偏見がなぜ生まれたのかを知るには、まずもってロマ族についての正しい知識を持つことから始まる必要性を感じた。
世界でもロマを受け入れていない稀な国である日本では、グローバルにその置かれた現状を知ることは難しいが、難民問題も然り、根底にある知識不足からくる差別や偏見を失くす努力をしなければ、先進国の中でリーダーシップはとれないと思う。
ホロコーストの犠牲者はユダヤ人ばかりでなく、ロマには50万人をくだらない犠牲者がおり、戦後補償でさえうやむやにされている。
これは戦時下の日本の慰安婦や強制労働問題にも通じるものがあるのではないだろうか。
そうした事実を知りえただけでも、本書を手に取れて良かったと思う。
読了日:06月09日 著者:
慈雨の
感想タイトルの『慈雨』の意味を辞書で引くと、「万物を潤し育てる雨」とある。
著者は物語の中で、結願の札所となる八十八番大窪寺に降る雨を「優しく降り注ぐ、慈しみの雨」と書いた。
私もつい一週間前に、先がすり減った金剛杖を突き、ようやく辿り着いた同じ場所で同じ雨を経験した。
あれは、結願の雨は、慈雨だったのかもしれない。
四国遍路を歩くという、あえて苦しく辛い道を選んだことには、おそらく誰もが何らかの理由をもっている。
最初はそれがぼんやりしたものだとしても、札所を回っていく過程で、より一層はっきりしたものになってくる。
これはお遍路が持つ不思議な力だろうか。
旅立ちから結願へと時間軸が進む中で、緊迫する事件模様、夫婦愛、家族愛はもとより、主人公・神場の揺れる人間心理が見事に捉えられていく。
その構成力と巧さに舌を巻いた。
読了日:06月08日 著者:
柚月 裕子渓の旅、いまむかし 山懐に漂い半世紀の
感想私が社会人山岳会で登山に明け暮れていた2000年代初め、沢登りを通じて交流があった著者の新刊。
奥利根、南会津、川内、下田山塊といった登山では不遇だが、沢登りでは魅力のある山域の遡行記録を軸に、著者が立ち上げた浦和浪漫山岳会時代の思い出や仲間たちとの交流を語っている。
すでに古希を超えたが、現役で山行をこなすバイタリティと沢への思い、それを包含する歴史や民俗、風土への飽くなき探求心はいささかも衰えていない。
今更であるが、山旅の情景を紡ぐように表現する味のある文章は、山岳ライターとして稀有な存在だと思う。
読了日:06月07日 著者:
高桑 信一ママチャリお遍路1200km―サラリーマン転覆隊の
感想私事だが、先週、40日間かけて歩いたお遍路を無事に結願した。
旅が終わったらその余韻を味わうために、数多あるお遍路本を読もうと思い、最初に手に取ったのがこの作品。
ママチャリでお遍路に挑戦するという発想もユニークだが、気の合った仲間たちが同じ目的で挑むというチームワークが、何とも爽快である。
道中のドタバタ劇も面白いが、要点を抑えた札所での印象が同じ道を辿った自分として、記憶を思い起こさせてくれて嬉しくなった。
もちろん、88番大窪寺での結願シーンは感動的。
涙でぐしゃぐしゃにした女性遍路が境内を歩いていくシーンをさりげなく挟む、構成力も光っている。
カヌーを主体にしたサラリーマン転覆隊シリーズとしては異色の作品と言えるが、著書が最後に書いている「チャレンジすれば、必ず結願する。僕はそのことをお遍路で教わった」は、胸にぐさりと突き刺さった。
私のお遍路もまったく同じだったからだろう。
読了日:06月06日 著者:
本田 亮銀河鉄道の父の
感想まずもって、父・政次郎の賢治に対する深い愛情に感心した。
賢治ばかりでなく、他の子供たちに対しても分け隔てなく愛情を注ぐ。
長男の賢治を好きな道に進ませるために、家業を継がなくても良いという政次郎の苦肉の判断は、明治期の家長制度の因習を壊すという、革新的な努力の上に成り立っている。
何よりも柔軟性と先見性の持ち主だからこそと思える。
宮沢賢治は政次郎の愛情の分身であり、作品でもあった。私たちの心を揺さぶる賢治の作品もしかり。
そこには賢治を通して政次郎の愛情がたっぷりと注ぎ込まれていることを忘れてはならないだろう。
※後日、役所広司主演の同名映画を観た。原作に忠実で見ごたえがあった。
読了日:06月05日 著者:
門井 慶喜読書メーターメインサイト『
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