朝日新聞が今年四月からPTA特集を組んでいましたが、今回は日P(PTAの全国組織)の会長のインタビューが掲載されていました。ここまで現行のPTA批判を行ってきた朝日新聞のインタビューによく答えるなと思っていたら……その内容はツッコミどころが多くありました。ただ、ツッコミどころをよくよく読めば、なぜおかしなPTAがあるのか、その理由も透けて見えてきました。この記事では、自分がインタビューから何を読み取り、どうスッキリしたかを書いてみます。
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これまでの朝日新聞のPTA特集はこちら。
PTAについての事前知識が無い方はこちらをどうぞ。楽しいですよ。
PTA定番本としてはこちらをどうぞ。
PTAに参加しない=利己的
部分的に抜粋しながら紹介していきます。最初はこちら。
――「やらされている」と感じる要因には、共働きの増加など家庭環境や時代の変化があるのでは。
「共働きだから忙しい」「他にやるべきことがある」という理屈はよく分かりません。私だって仕事をしながら週4日ほどPTAに関わり、妻も働いています。おそらく一番忙しいと思いますが、「地域のため」「子どものため」と思うからやっている。自分の経済活動や自分の子どもだけのためのことばかりしたがるのは残念です。
これは質問の二つ目の回答ですが、ほぼ最初から、PTAに対する日P会長のスタンスがはっきり出ています。PTAに参加するのは忙しくても地域や子供のために当然というスタンスです。
こういうスタンスなら、PTAに参加しない人は、"自分の経済活動や自分の子どもだけのためのことばかり"をしているという発想になって当然ですよね。非常に分かりやすい。
PTAの仕事に関わらないのには理由が必要
続けてこちら。
――共働きだったり忙しかったりしても、言い訳にはならないということですか。
そうです。例えば、私の子どもが通う小学校は、不審者が入ってこないように、保護者全員が持ち回りで、1日2時間、3交代の門番をしています。一人親家庭は仕事を優先していいことになっていますが、そうではないのに「仕事があるからやりたくない」「なんでやらないといけないのか」という保護者がいました。みんなでずっと続けているからこそ、不審者が一人も入っていないということを分かっていないのです。会社の制服や作業服のままでもいいから、全員に参加するように頼んでいます。
たまたま一人親家庭だけを例に取っているだけかもしれませんが、字面通り読めば、夫婦がともにいればPTAの仕事に参加して当然という意識があります。これ、"「仕事があるからやりたくない」「なんでやらないといけないのか」という保護者がいました。"ということは、個別に理由を聞いているということですよね。
以前も紹介したとおり、PTAの役員・委員を断るために、医師の診断書を出させるという話や、そこまでいかずともPTAの役員・委員になれない理由を一人ずつ説明するという話は時々聞く話です。なんでこんなことになるのかと思っていましたが、トップの発想からすれば全く違和感がありません。
なお、蛇足ですが、PTAが学校に不審者が入らないよう門番をしているのは少しやり過ぎと思うかもしれません。この点については、会長が所属しているのが兵庫県のPTA協議会であり、1997年の神戸連続児童殺傷事件 - Wikipedia、2001年の附属池田小事件 - Wikipedia(池田市は兵庫県に隣接)という事件の影響が少なからずあったのではないかと推測します。
PTAにより安定した日本の労働力確保が可能
ここらである程度方向性が見えてきたと思いきや、思わぬ発言が出ます。
――「PTAは必要か、不要か」というアンケートでは、不要という意見が多くなりました。率直にどう思いますか。
絶対に必要。
――なんのためにですか
子どもたちのため。親が自分の子どもだけに関わっていては、いい子には育ちません。帰属意識や規範意識、地域を思う気持ちなど、PTAは人間形成にもってこいの場。そうした意識は、安定した日本の労働力を確保することにもつながります。それを「いらない」なんて、よく言えるなあ。きっと地域とのかかわりが薄いか、何らかのトラブルがあった人たちなのでしょうね。
理屈をそのまま辿ると、
・PTAは必要←なぜなら子供たちのためになるから←具体的気には、子供はPTA(に参加する親を通して?)で帰属意識、規範意識、地域を思う気持ちなど人格形成ができる
⇛結果、安定した日本の労働力を確保できる
ということになります。日本の労働力確保のためにPTAが必要というのは凄いですね。自分の子供が『安定した日本の労働力』になって欲しいと思う親がどれくらいいるでしょうか。(もちろん、地域で生きて欲しいという気持ちはある人はあるでしょうけどね。)
そして、最後のコメントも秀逸。"何らかのトラブルがあった人たち"というのは、トラブルに遭遇した被害者と一義的に読めます。ただ、前後から皮肉がこめられていて、PTAを不要とする人はトラブルメーカーだということも含ませているように思います。
役員強制が存在するのは事実
役員強制については、
――役員の決め方への不満も根強いです。
確かに、強制的にやらせるようなよくないやり方も見受けられます。変えることはエネルギーを使うから、同じやり方が続いているのでしょう。それは少しかわいそう。
存在していることを認識しているそうです。よくないと分かっているけれど、変えるのは大変。強制された人は"少し"だけかわいそうと思っている。
よくないのだから変えようとする人は実際にいます。それで一所懸命エネルギーを使って、それに対してネガティブな対応をするのはどこの誰なんでしょうね。
PTA活動が必要だという意見は聞くべき
そういうPTAのよくないところを変えようとすることについてのアドバイスとしては、
――役員決めの方法を見直したり、活動をスリム化したりと、各地の会員がPTAの改善に動き出しています。アドバイスはありませんか。
よく話し合うことが大切。「仲良しクラブ」のように一部の人たちだけで変えようとしても難しい。「この活動は必要だ」という人の意見を聞かずに、「私たちは必要ないと思う」と言っても仕方ありません。それぞれのPTAにそれぞれの事情があるので、日Pとして「こうしなさい」とは言えないけれど、がんばってほしい。
PTA活動が必要だという人の意見を聞くことと答えています。これはこれでその通りで、意見の調整は必要だし、話は聞いた方がいいですよね。
ただ、ここまでの回答で、会長がPTAが不要だという人の意見を聞こうというスタンスは見出だせません。ここは、自分の意見は無理にでも通すけど、人の意見は聞かないと言っているようなものです。
また、PTAを変えようとする活動について、"「仲良しクラブ」"という言葉を使っているのも、真っ当なものと受け取る気がないという意識が見て取れます。本当に"がんばってほしい"と思っているのか。
PTA入退会自由は趣旨に沿わないから説明不要
PTA入退会の自由についても触れられています。
――会員の間に「PTAは入退会自由」という認識が広がってきています。周知する考えはありますか。
確かに任意加入が原則で、会員と非会員を差別するものではありません。ですが、あえて周知する必要はないと思っています。すべての保護者と教師が、良い教育環境をつくるために集まっている会で、みんなが一緒にやらなければよくならない。「入会」「退会」という考えはそぐわないのです。体を出せない人は、お金を払うことで「参加している」ということになると思います。
PTAは全員でやらなければならないものだから入退会という概念がそぐわないということだそうです。アメリカから輸入されたPTAには、自主的な精神で行う活動という精神がありましたが、これが骨抜きにされて、戦後すぐの強制参加の色合いが今でもちゃんと残っていることが見て取れますね。
ちなみに、最後のお金を払えばPTAに参加していることになるというのは恐らく失言で、
――お金を出すだけで許されるのなら、こんなに不満は出ないのではないでしょうか。
お金の前に、まずは地域との関係をしっかり構築することが大前提です。
結局、お金を出すだけではダメだそうです。
人が集まればいじめは起きるもの
PTAでの人間関係トラブルにもコメントがあります。
――役員を断って陰口を言われたり無視されたり、「大人のいじめ」のようなことも起きています。
「ちょっとぐらいのこと」としか思わないんですよね。人が集まるところでは、いじめのようなことは起こるものです。そんな時に相談相手や解決方法を探ることも、周囲との関わり方を身につけることになるのではないでしょうか。それも経験。それなのに何かあると「辞める」とか、「あの人が嫌いだから行かない」とか、自分の子どもがやったら注意するようなことを、大人がやってはいけない。
――陰口や無視も気にするな、と。
断る理由があったら、別に気にする必要はないじゃないですか。
ここは強烈ですね。
人が集まればいじめは起きるものだから、例えば子供がいじめに遭った時に「学校を辞めたい」と言ったら、"それも経験"で、"相談方法や解決方法を探"ればいいとアドバイスしているわけです。普通は、何か事情があるのではないかと聞くものですよね。
2007年には滝川高校いじめ自殺事件 - Wikipediaがありましたし、2011年には滋賀県で大津市中2いじめ自殺事件 - Wikipediaがありました。いじめに関する議論は随分進んだと思っていましたが、日Pの会長はまだまだこういう認識なようです。
二つ目の質問への回答はきっと売り言葉に買い言葉だと思いますが、役員を断る理由があるなら(陰口を)気にしなければいいというのは、断るぐらいなら陰口をされても当然という発想があるということですね。普通は、陰口を言う方が悪い。
日Pの必要性は"?"
最後に日Pの必要性についても触れられています。
――会員の悩みや不満に対して何かできることはないですか。
何か手をさしのべてあげたいけれど、数が多すぎて一つひとつは対応できません。不満を減らそうとするのではなく、「一緒にやっていこう」という前向きな意識になるよう努力したい。その第一歩は、日P全国大会などで情報を発信し、意義を理解してもらうことです。
――「日Pは必要ない」という人もいます。
それは日Pを知らないからでしょう。しっかり保護者の意見を集約して、日本の子どもの教育環境の底上げをしていきたい。
ここまでの回答でPTA参加に前向きな意識を持てる人はかなり減ったんじゃないでしょうか。
締め
恐らく、朝日新聞のインタビューに対してほとんど事前に準備せず向かったがために、色々まずい発言をしたのではないかと思いますが、これによって、日本のPTA界隈のトップの方がどういう意識でいるのかが透けて見えてきました。
個人的に会長にアドバイスをするならば、
日Pが不要だと思う人がいるなら、そういう人たちとよく話し合うことが大切ですよね。「仲良しクラブ」のように一部の人たちだけで今のPTAを維持しようとしても難しい。「この活動は不要だ」という人の意見を聞かずに、「私たちは必要だと思う」と言っても仕方がないと思います。
以上、本題です。以下、余談です。お好きな人だけどうぞ。
余談
歴代の日P会長がどういう人かを調べてみました。
山形県のフリーペーパーのインタビューに気軽に答える前会長さん。
日本PTA全国協議会会長 - 山形のフリーペーパー やまがたコミュニティ新聞 ONLINE
――ボクはPTA活動には無縁で、でも山形の教育熱の高さにビックリして…。山形から全国のトップに立って、いわゆる都市部と称される連中ってレベル低いでしょ。
「彼らの口から出る言葉は、確かに軽い感じがしますね」
これに乗っちゃまずい!ちなみに、地元の老舗の酒店の社長(当時)です。
その前の会長さんは海運関係の社長(当時)です。
その前の前の会長さんは6期務めたやり手の方だったそう。
日本PTA全国協議会会長の不法発言は、看過できない|まるおの雑記帳 - 加藤薫(日本語・日本文化論)のブログ -
この会長さんは現役の不動産会社社長で、Twitterもやられています。フォロー関係を見ると恐らくご本人ですね。
怒りを出さないことが日本人の美徳だとしたら俺は失格だな!
— 赤田英博 (@h_akata) 2011, 5月 23
このように歴代の会長はほぼ男性経営者のようですし、日Pの今の役員には17名中1名しか女性がいませんし、
そういう意味では日Pは古い日本企業のイメージで捉えるといいかもしれません。
ちなみに広報誌がこちらです。文部科学大臣が頻繁に登場します。今は2008年までしか遡れないので、せめて20年ぐらいの広報誌はアップロードして頂けると嬉しいです。
法人情報としてはBSと簡単な事業報告と計画が掲載されています。定款を読む限り、PLも本部に行けば一般に閲覧可能ということですから、Webにアップロードしてもいいと思うんですけどね。
以上、余談でした。