9月は芝の生理代謝の変化期
真夏に最高の美しさを魅せた高麗芝などの暖地型芝は、ピークアウトすると生理代謝のスピードを自律的に低下させます。体を構成する一つ一つの細胞の寿命を延ばすことで、エネルギーの浪費を抑え、来年のための蓄えを中心とした生理代謝に切り替わります。光合成の生産物( エネルギー源)の使い道を「今」の成長よりも「来春のための」蓄え偏重にするわけです。
このモードになると、深く濃い緑に成熟した葉の比率が増え、端境期に今年一番の濃い緑が一時期見られる場合が多いです。初秋のピークとでも云いますか。それはそれは見事な深緑です。
「芝」の状態は、それぞれのお庭で「真夏をどう過ごさせたか?」でけっこー差が出ていると思い ます。極端な2つの事例で、秋口の芝生の手入れの設計手順の参考となる考え方を記します。(※実際は、その庭のその芝毎に違いますよ)
このブログでお話すること
【ケース1】弱った芝生
予防殺菌・資材補給→施肥 の順
【ケース2】強い芝生
資材補給→施肥→殺菌 の順
この考え方について記します。
芝は生き物 未来の理想からの逆算で「今」の手入れを決める
結局のところ、すべての芝生は異なる条件の中で生きているので「その土地の・その芝の」管理経緯と実際の表情を見て、個別の状態で判断するしかありません。両極端のケースにおける組み立ての考え方を知ることで、ご自身の判断のご参考にお役立ていただければ幸いです。
大切なのは、方針に基づき「一貫している」こと
ネット検索でいろんな人の情報を「MIX」しちゃっている人は、この一貫性が損なわれ、芝生管理の手順を誤りトラブルに陥る・・・そういうケースを多々みてきました。芝生はどんな育て方でもイイけど、「未来をどうしたいか」(目的と目標)に対して、攻略が整合していることが重要です。
芝生の管理は、常に「未来からの逆算」。芝の根・茎・葉の成長サイクルは年単位のスピードですからフォワードルッキング・バックキャスティングは、重要です。さて、本題に入ります。
【ケース1】ピークの美しさ最優先で、満身創痍の芝生の場合
「芝生」は人間がつくる究極の不自然。管理の重心バランスをどこに置くか?で、将来と今をトレードできます。ケース1は「今年の夏」を最重要視して管理した人の多くに当てはまるケースです。
真夏に窒素肥料をたくさん投入してガンガン刈りカスを出したお庭では、光合成で得たエネルギーを全力で地上部の成長に使い切って、根が衰退していたり、成長スピードに細胞の形成が間に合わず、体内移動が遅い要素が欠乏したまま突貫で組みあがっている可能性があります。
こういう「疲れた芝生」は、ピークアウトで代謝が遅くなると、弱い細胞・組織が長く外部刺激に晒されるので、外敵に侵されるリスクも高まると考えるのが定石。
サビ病のような、本来、致命的にならない病害にも激発を起こしたりします。
病原体の増殖適温になったらまずは殺菌
芝自体が病害で衰退してしまっては、光合成効率も低下しますし肥料の吸収も上手にできません。殺菌剤を上手にコントロールして弱い芝がダメージを受けるのを最小限に抑えることが必要になります。
病害が何も発生していないなら、まずは、風邪をひかないようにマスクや防護服をつけてあげる、つまり早めの予防用殺菌剤からはじめてあげるのも一手です。
オーソサイド
![f:id:Tokyo40mile:20240901201141j:image f:id:Tokyo40mile:20240901201141j:image](https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/T/Tokyo40mile/20240901/20240901201141.jpg)
![f:id:Tokyo40mile:20240901201432j:image f:id:Tokyo40mile:20240901201432j:image](https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/T/Tokyo40mile/20240901/20240901201432.jpg)
カシマン液剤
比較的新しく、耐性菌発生リスクがとても低い部類の薬剤です。液剤なので扱い易くオススメの「予防用」殺菌剤の代表格です。プロの世界でも、本当によくこの薬剤のことを聞きます。芝生管理に一本持っておくと「嫌な予感」がするときに重宝しますよ。(あくまで「予感」の段階での使用です。予防殺菌剤ですからね。)
予防用殺菌剤はどう使う?
これら、家庭で手に入れることができる「予防タイプ」の殺菌剤は、芝の表面から病原体が侵入するのを邪魔する薬です。耐性菌の発生リスクは比較的低く、病害発生が予想される時期(早期)に、年間使用上限の範囲内で反復して使用することで防御します。
表面に付着した薬剤が機能するので、芝の成長や刈込みによって次第に剥げてくると効果が失われます。病害発生を予想する時期の少し前から、2週間に1回程度の間隔で数回使用するのが効果的です。
また、すでに芝の体内に侵入・発症している場合は、効きませんので使い方に注意しましょう。使うタイミングは「病原体が生きた芝を襲う”前”」であることが重要。
【ケース2】夏場の過度な成長を抑え、充実して秋口を迎えた芝生の場合
我慢しましたね😊さぁー素敵な秋・充実の秋の始まりです。自己管理下にある自由な「家庭園芸芝生」だからこそ成せる業。
真夏は肥培管理方針を必要最少限にして、無駄な成長をえた芝生は、ピークの美しさこそ劣るかもしれないけど、根に余力があり、体幹を構成するひとつ一つの細胞や組織もし っかりと充実して仕上がっている可能性が高いです。
つまり、真夏の芝生管理は、極論を言えば「今を重視して未来を捨てる」か「未来を重視してピーク値をそこそこに抑える」かの2択。芝の生育の「方針の違い」であり、どちらを選んでも、その人にとって正解なんです。
さて、真夏のピークを抑えた芝生は来春に向けて理想の秋スタートが可能
自然体のスピードで成長した芝は、夏越しによる根の衰退も少なく、施肥や 要素供給に対しても効率よく吸収し、一層、体幹を強くします。
夏越しで根の衰退が少ないのは、光合成で得たエネルギー源を、生産工場である葉から最も遠い根に届かせる余力をつくったからです。また、成長速度が自然体なので、根から吸収したカルシウムなど、芝の体内移動が遅い要素も、しっかりと各細胞に届き強い細胞壁を備えたり・・・いいことづくめです。このことは、夏の入口でこの記事にまとめましたね!ちゃんと実践した人はこれからイイコトありますよ。
健康な芝の秋口は、殺菌剤よりも、まず、芝の身体を強くする
薬剤というのは、あくまで「最終手段」。本来は「芝自体のチカラを引き出す」ことこそ、芝生管理の神髄。夏の間、芝の身体を衰退させなかった場合、正攻法の手順で秋の芝生づくりが進められます。
まずは、ケイ酸資材などで、芝の表皮細胞付近を強くしてあげるのが効果的。加えて微量要素を整えることで、葉の光合成効率を向上させるように支援してあげます。
イデターフ
ゴルフ場用の資材なので一般家庭向きではありませんけど、秋口の芝が必要とする要素
をバランスよく含んでいるのでおススメです。上手に吸収すると光合成効率も上がるので貯蔵の観点でもとても良い効果が期待できます。
我が家では、梅雨入り前と、秋口に各1回、散布補給しています。
肥料
代謝が落ちているので、真夏に比べると急激な吸収はしませんから安心です。芝の生理代謝ペースに合わせ、肥効が穏やかに長 く持続する芝生用IB化成肥料等がおススメです。
バロネス芝生の肥料
バーディーエース
有機肥料を使うなら早めに
遅効性の肥料や鶏ふんなどの有機肥料を使うなら、肥効の発生時期を考慮してなるべく早めの散布が良いと思います。秋は肥効のコントロールが難しく、休眠後も肥効が余分に残ると冬雑草の発生を助長するので、僕はあまりおススメしません。9月初旬までなら、ぎりぎり晩秋の吸収に間に合うか?・・・という時間軸です。
イデコンポガーデンEV
イデコンポガーデンEVつかっている人は、まさに秋口の「今」が散布敵期です。(※関東の気温をベースに言っています) 出遅れないようにしましょう。まずは鶏糞の肥効が緩やかに立ち上がった後、晩秋に向け有機物分解による穏やかなごちそうを芝生に与えてくれます。
秋が深まっていくにつれ「来年のための病原体コントロール」
ここからは、真夏の育て方云々とは関係ない話です。お庭の特性により、状態がはまる人だけ参考にお役立てください。
環境に応じて土着のリゾクトニア菌数の低減
過去にラージパッチや春はげ症を出してしまった芝生では、残念ながら病原体は土着し、 菌の数がある量まで増えると芝を襲うシグナル物質が出るメカニズムが存在している可能性が高いです。
つまり毎年、同じような環境となる時期に 殺菌剤で菌数を低減コントロールする必要がアルということです。
このような芝生では、転ばぬ先の杖。芝を襲う前に菌の数を減らしておくことをオススメします。
ラージパッチは、菌数を増やして生きた芝を襲ったらその時点で発症。春はげ症は、秋に芝の体内に感染して、来春になって顕著に症状が出ます。枯れた芝の中でも生きていける菌なので、さび病とは違い、容赦なく芝を枯らしてしまいます。
トップグラス
樹木管理では定番の薬剤の「芝生版」です。適応病害の種類が多く、たいていの病害対策に使えるので重宝しますが、耐性菌の助長リスクが高いので連用は禁物。
発生する病害が特定できてる場合は、適用病害が狭い専用薬剤
少々、高額ですが、ゴルフ場用のプロ薬剤を使うのも一手です。(我が家はこの方法で防除しています) 特に高麗芝などの日本芝に向いている薬剤です。
オブテインフロアブル
残効性が長いので、秋の早期(9月ごろ)に使うのに適しています。
クルセイダーフロアブル
春はげ症対策のための2段殺菌として、10月ごろ、使用しています。
個人購入の場合は、流通在庫による「使用期限」に注意!
これらのプロ用殺菌剤は、製薬会社側では「箱売り」でしか卸していません。流通の取り扱い事業者が、バラして1本売りしているモノなので「使用期限」はよくチェックして買いましょう。僕は一度、初めての通販業者から購入して、使用期限まで2か月しかない古いものが届き、返品交換したことがあります。
その時の動画がコレ。
特に、「バイエルクロップサイエンス」のロゴが入っているモノは、古いものなので買わないようにしましょう。2022年10月から、エンバイロサイエンスジャパン株式会社(Envu)に移行しています。つまりバイエルのロゴが入っているものは、少なくとも2年は経過しているということです。お気を付けて!
春の雑草対策で「秋のうち」にやっておくべきこと スズメノカタビラ対策
来春のためのスズメノカタビラ対策は「秋」です 「発芽」は、タネから根が出ること。「出芽」は、葉が出ること。間違って使われること が多い用語として、グリーンアドバイザー研修で教わります。
さて、スズメノカタビラの発芽(種から根を出す)の多くは、実は秋の間に起こるそうで す。種から根を地面に下したまま、冬を越し、生育温度になると一気に茎葉が育つ 。・・・これを目視するから、スズメノカタビラは「春に生える」と思い込んでしまう。 芝生用薬剤の代表的製薬会社Envuの三好さんによれば、スズメノカタビラの発芽は「秋」 なんだそうです。とても小さく、芝の下で起こるので気づかないことが多い。 この段階で、しっかりと防除しておくと、春のスズメノカタビラ防除がとても楽になります。
トリビュートOD
![トリビュートOD 1L 送料無料 トリビュートOD 1L 送料無料](https://thumbnail.image.rakuten.co.jp/@0_mall/mmshop/cabinet/j00001/07301446/imgrc0083704917.jpg?_ex=128x128)
- 価格: 14000 円
- 楽天で詳細を見る
少水量で着実に効くので扱いやすくオススメです。散布直後はあまり変化が感じられませんが、やがて枯れたスズメノカタビラの株が散見されるようになります。
除草剤は、芝生用の選択性であっても、芝の感受性が高い時期(代謝が盛んな時期)は影響を受けることが多いです。芝の成長が殆ど止まってきてから使うと、リスクが低減できます。我が家の庭がある千葉県北部では、11月ごろ散布します。
これで春のスズメノカタビラが、とても少なくなります。オススメ。
ただし、このトリビュートODにも、何年も繰り返し使い続けると耐性のある個体が出現することがあるそうです。やはり、薬剤はローテーション。複数薬剤を効果的に使いましょう。
雑学を知れば、あなたの芝生づくりはもっと安心で楽しくなる!
芝の生理代謝は一年中つながっています。大切なのは「芝の身体の中で何が起こっているか」をイメージして、「今やるべきこと」を 考えること。今の手入れは、数か月後の未来の芝のため。
YouTube 芝生の雑学 東京40まいる では、家庭園芸芝生に役立つ様々な雑学を発掘して チャンネル登録者さんに共有しつづけています。あなたの芝生づくりの「スパイス」とし てこの情報をお役立てください。
次の動画か、ブログでお会いしましょう。
では、また!
2級芝草管理技術者 ゴールドグリーンアドバイザー
芝生の雑学 東京40まいる