マネジメントを経験してようやくわかってきた、半年で部下を1人前にするコツ
試行錯誤しながら手に入れた部下や後輩を半年で1人前にするコツをまとめました。
嫌な先輩から、まあまあの上司になるまで
まずは私の経歴を少し。昨年独立するまで外資で働いていました。新卒で入ったのは少数精鋭にしたって、いくらなんでも少なすぎない? と人事の肩を揺さぶりたくなる部署でした。
入社2年目には「もう1年いるんだからシニアだね!後輩指導よろしく」と宣告され、必死で3人指導してのち転職。その後はプロジェクトごとに部下を持っていました。独立した現在は外注マーケターとしてトレーニング業務も担当することもあります。合計で指導した部下・後輩は約10名前後。
最初は最悪の上司だったと思います。詳しくは「いつの間に自分が「細かいことにウルサイ嫌な先輩」になっていた 」に書きましたが、もうタイトルだけでお察しください案件。自分でもこれはいけないと思い四苦八苦した今、半年くらいで「いいね、それで行こうか」と言うだけでメンバーが活躍できるくらいにはなりました。
彼ら・彼女らがもともと私などいなくとも大活躍してくれるデキる人材であったことは間違いありませんが、以下は実際に私が意識的にやって実際にワークしたので、備忘録までに記します。
完璧な仕事ではなく、前回比で評価する
部下をうまく育てる上司と、つぶす上司。人それぞれとは言いますがお定まりのパターンがあります。部下をつぶす上司は「自分が設定した100%の期待値に対して、どれくらい仕事ができているか」で査定するのです。
100%の完成物を出すよう部下に要求しても、部下はたいていそれを達成できません。上司より仕事に不慣れなのはもちろんのこと「100%の成果物」像が上司の頭の中にしかないので、より完成度を上げるためにどうすればいいか分からないからです。
さらに、このタイプの上司へどうすればよくなるかを質問しても、
- お取引先へ出せるレベルの資料を作れって言ってるだろ
- 昔の資料もあるから、その通りにやれ
など抽象的な答えが返ってきます。上司自身も自分の求める100%の成果物がどういう要件で成り立っているか言語化したことがないため、部下の上げてきたものをダメ出しすることしかできないのです。
対して、部下をうまく育てる上司は「前回の仕事」と比較して部下を評価します。
同じ業務なら2回目以降は改善されることが多いもの。そこで何が成長しているか、どこが上司の期待値に沿っていたかを説明すると部下は進むべき方向性が見えてきます。
さらに優れた上司はこう考えています。
- 顧客に出せるレベルへ仕上げるのは上司の責任。部下の責任ではない
- 部下が前回より期待値を下回るなら指導方法に問題があったはずだ
この考えればたとえ成果が思うように出なくても、上司自身がストレスを感じにくくなります。上司のストレス度合いは指導している部下へ筒抜けとなりますので、自分がリラックスすることも大切です。
強みを極限まで伸ばし、結果的に弱みを克服する
部下にはそれぞれ強みと弱みがあります。そして部下を潰してしまう上司は「どうにかしてこの弱みを直してもらわないと」と考えてしまいます。たとえばこんな指導をしていないでしょうか。
- 仕事が早くてもミスがあったら意味ないんだぞ
- 慎重に進める点は評価しているんだよ、でも納期を逃したら元も子もないよ
このように弱みを克服させる指導は一見理にかなっていますが、苦手分野へ取り組むと得意分野より成長スピードが遅くなるため、一人前の人材へ成長するまでに時間がかかってしまいます。
部下を育てるのが上手な人は、強みを極限まで伸ばします。たとえば仕事が早い人へ「これだけアウトプットが早いのは初めてだ。お前、将来指導者になれるぞ」と褒めまくります。
褒められて嬉しくなった部下はさらに速度を上げ、60分かかる業務を半分の30分でこなせるようになったとしましょう。
そこで「お前、あと30分もあるなんてすごいじゃん。そのうち10分をケアレスミスの確認へ割いたら質も量も完璧だからもう私のチェックなしでそのまま出せるよ」と付け加えるのが優れた上司です。部下はあと少し頑張るだけで「仕事が早いうえにミスもない」とさらに加点されます。
このように、後輩や部下の指導においては強みをあえて極限まで伸ばすことで、弱みがカバーされることがままあります。急がば回れ方式で、まずは部下の良い点を指導したいと思っています。
指導が厳しくなるときは仕事を依頼する時点で謝る
とはいえ、忙しいときは成長や強みよりデッドラインを優先せざるをえません。
そういう時は、
「今回の仕事は納期が目の前で成果物をすぐ出す必要がある。だからいつもより厳しいコメントをつけると思う。君の成長を蔑ろにして申し訳ない。今回に限って、いろいろ言われても気にしないメンタルで挑んでいただけないか」とお願いします。
そしてお願いの上で部下へ指導したことは、次回以降きれいさっぱり忘れられても仕方ないと腹をくくって業務を進めましょう。部下の成長速度を無視した指導は身に入らなくて当たり前です。
なお、この「今回だけのお願い!」を連発すると急激に部下の信用を失います。急なお願いをしてもいいのは最大で20回に1回くらいの割合です。
部下に「なりたい自分」を描いてもらう
新しく上司・先輩として赴任してきたら、まずは後輩へなりたい自分像を描いてもらいましょう。「10年後、どんな自分になりたい?」という質問でかまいません。そのときに上司へ気を遣った目標設定をしてしまわないよう、自分があえて地に足の着いたビジョンを描いて手本とします。
たとえば私がよく描いているビジョンは下記のとおり。
- 小さな会社の参謀役みたいな役割を担いたい
- どんなに遅くとも8時には仕事を終わらせたい
- よつばと!のお父さんみたいな親になりたい
ビジョンと言うと「社長を目指す」といった大それたものを考えがちですが、もっと小さな目標で構いません。また、目標は仕事と関係なくてもOKです。そして部下に目標を設定してもらったら、達成へ向けて今の仕事で何ができるかを考えてもらいます。
たとえば営業職に就いているのなら、上記のビジョンを達成するためにこんなことができます。
- 取引先の経営を真剣に改善する提案を通じ社外でも信頼できる参謀役を目指す
- 参謀役に欠かせないコスト感覚を身に着ける
- 効率化できる仕事を10個リストアップして早く帰る
- 早く帰った時間で婚活をして、まずは2年後に結婚を目指す
部下自身に目標を考えてもらい、どうすべきか業務に落とし込むことで仕事で成長する意義を見出しやすくなります。そして週1回~月1回ほど面談して「あの時の目標に向けて、今日までにどんな変化があった?」と確認します。(ただし詰問しないこと!)
そして部下を目標へ近づけるために、仕事の面で何を支援できるか考えてみましょう。自分がすでに行っている効率的な業務の進め方を紹介したり、財務諸表を学ぶのに使ったテキストを貸してあげるのが好例です。
なお、ここで部下を育てるのが下手な上司ほど「婚活パーティへ誘う」など新たなるハラスメントを行いがち……というか、過去の私がやらかした大きなミスの1つです。上司が行っていいのは仕事上のサポートだけであることを心しておきたいものです。
最後に、目標設定をしても部下はやる気を失うことがあります。そんなときは大抵、下記3点が理由となっています。
- 本心から目標を言えておらずやる気が出なかった
- 本当に仕事を通じて目標に近づけるか自信がない
- 目標へは近づきたいがどうやって動けばいいかわからない
こんなときは目標を設定しただけで動ける人間のほうが少ないことを伝え、自分の失敗談も交えて正しい方向へ軌道修正します。その際に目標を変更しても構いません。大切なのは部下に「仕事をやらねばいけない」ではなく「目標のためにやりたい」と考えてもらうことです。
部下が相談しやすい環境を用意する
ここまで設定すれば、部下はある程度自分で仕事を始められるようになっています。とはいえ成果物を出すまでには上司の確認が必要です。そこで部下から上司へ話しかけるハードルをむちゃくちゃ下げることが重要となってきます。
ハードルを下げるには、こういう方法があります。
ここまでするか?と思う方もいらっしゃるかと思いますが、ここまでしても部下のピンチを把握できないことすらあります。やりすぎることはない、とハードルを下げて、下げて、下げまくりましょう。
おわりに:最初から育てるのがうまい上司なんかいない
まだヒラだったころ、私は部下を育てるのがうまい上司と苦手とする上司がいて、生まれから違うものと勘違いしていました。しかし時がたち「部下を育てるのがうまい上司」は部下から指導方法を教えてもらいつつ試行錯誤を重ねた方だとわかりました。つまり今日からでも私たちは指導スタイルを変えて、成長していけるのです。
特にジュニアマネージャーの頃は「私が育てなければ!」とがんばりすぎてマイクロマネジメントをしてしまい、部下をつぶしがちです。しかし部下は上司なんていなくても勝手に成長できる独立した人間。部下に自分をどう利用してもらえれば部下のためになるか、人生のサポーターくらいに考えたほうがよいということに気づけました。
さて、今の私が完璧な上司かといえば、そんなことは全然ありません。ここまで書いたこともできず、自分で「やっちまった」と思うこともしばしばあります。でも前よりはマシかなと思っています。
最後に、かつて私が指導した方たちへ。リストを見てお前全然できてないじゃん、と思う点があればご指導ください。反省および改善させていただきます。そして偶然もあったけれど、私の部下や後輩になってくれて本当にありがとう。これからも至らぬマネジメントですが、私をうまく利用して成長の糧にしていただけると嬉しいです。