名探偵のままでいて|小西 マサテル|宝島社

2023年第21回『このミステリーがすごい!』大賞・大賞受賞作『名探偵のままでいて』小西マサテル2023年第21回『このミステリーがすごい!』大賞・大賞受賞作『名探偵のままでいて』小西 マサテル

名探偵のままでいて

小西マサテル Masateru Konishi

著者は人気ラジオ番組の構成作家!
認知症の名探偵が“不思議な事件”に挑む“日常の謎”系本格ミステリー

名探偵のままでいて

2023年1月7日(土)
全国書店にて発売

定価 1,540円(税込) 
ISBN:978-4-299-03763-3

名探偵のままでいて

応募前の原稿を一気読み!“最初の読者”にして“戦友”が絶賛!応募前の原稿を一気読み!“最初の読者”にして“戦友”が絶賛!

岡村隆史(ナインティナイン)

祖父との会話は宝物。
そんな素敵なミステリー。
この本がめちゃくちゃ売れても、
今の小西さんのままでいて。

藤原龍一郎(元・ニッボン放送ディレクター/歌人)

「認知症の名探偵というミステリーを考えています。」
こう聞いた時は、放送作家らしい奇を衒った思いつきだなと単純に感心した。
その時はまだ、レビー小体型認知症のことも、彼の父親がその病であることも知らなかった。完成した小説を読ましてもらい、その設定が単なる思い付ではなく、彼が書かずにはいられない大きなテーマであることを知った。
彼の熟知する放送業界を舞台にすれば、いくらでも俗受けする設定ができただろうが、そういう安易な方法に流れず、古今東西のミステリーへのオマージュを散りばめた本格ミステリーを完成させた。ここには小説家としてデビューすることへの強い矜持がある。
そして何よりの強味は文章の読みやすさ。放送作家として鍛えた技術は文章力に発揮されている。リーダビリティの高さは、登場人物たちの魅力を際立たせている。

佐久間宣行(テレビプロデューサー)

面白くて楽しくてミステリ愛に溢れたとてもいい小説です。とりわけキャラクターが素晴らしくて、僕は一気に登場人物たちが大好きになってしまった。
全編に漂う優しさと温かさも素敵で、この世界にずっと浸っていたいと感じました。

ニューヨーク(芸人)

この小説の重点は謎じゃなくて物語。そこが面白かった。(屋敷裕政)

まるでドラマのように絵が浮かんできました。(嶋佐和也)

広川ひかる(タレント)

この度は大賞受賞おめでとうございます。
大賞受賞の新聞記事を見つけた際には驚きと嬉しさで思わず大きな声を出してしまい側で寝ていた愛犬が飛び上がりました。
古い友人の吉報は家族を失い深い悲しみの中にいる私に間違いなく光と元気を与えてくれました。
小西さんと私達夫婦の「物語」は30年以上前から始まります。
小西さんは放送作家として、ダチョウ倶楽部は「お笑いウルトラクイズ」で頭角を現してきた頃でした。私はまだ若手のタレントで、当時恋人だった亡夫上島竜兵(竜ちゃん)やリーダー肥後さん、漫画家のゆでたまごさん達と共に出かけたプロレス観戦後や、何でもない日に沢山の仲間と一緒に行った高円寺の賑やかな居酒屋「呑兵衛」。そのお決まりのテーブル席で、プロレスとお笑いの話をつまみに何本の「いいちこ」を空けてきたでしょうか。
みんな近隣に住んでいたので、前もって約束しなくても夜中からでも「呑もう」って事もしょっちゅう。みんな若いし元気で自由だった日々を眩しく思い出します。

竜ちゃんはミステリ小説が好きだったので面白い本があると私にもよく勧めてくれました。
それなのにこんな面白い本を読むことが出来ないなんて、そしてそれが友人の小西さんの本なのに……。

この本について、楓、碑文谷についてあの頃のように焼酎をゆっくり飲みながら小西さんと語り合いたかったでしょう。
紅葉が残る頃、竜ちゃんの墓前に受賞の報告に来て下さった小西さんも同じ気持ちだったと思います。

久しぶりにわくわくした気持ちで最後まで一気に読み終え早く次作が読みたい!と、「小西マサテル先生」の大ファンになりました。
「最高に面白かったよ」と竜ちゃんの仏前に「名探偵のままでいて」をお供えさせて頂きました。

『このミステリーがすごい!』大賞とは ブックガイド『このミステリーがすごい!』から生まれたミステリー&エンターテインメントの公募新人賞です。『このミステリーがすごい!』大賞とは ブックガイド『このミステリーがすごい!』から生まれたミステリー&エンターテインメントの公募新人賞です。

更新情報

岡村隆史さん、広川ひかるさんに加え、藤原龍一郎さん、佐久間宣行さん、ニューヨークさんのコメントを掲載いたしました。
2023年第21回『このミステリーがすごい!』大賞・大賞受賞作『名探偵のままでいて』特設サイト公開しました!

著者 小西マサテルさんのTwitterをチェック!

あらすじ

かつて小学校の校長だった切れ者の祖父は、七十一歳となった現在、幻視や記憶障害といった症状の現れるレビー小体型認知症を患い、介護を受けながら暮らしていた。しかし、孫娘の楓が身の回りで生じた謎について話して聞かせると、祖父の知性は生き生きと働きを取り戻すのだった! そんな中、やがて楓の人生に関わる重大な事件が……。

三つ巴の熾烈な戦いを勝ち抜いたのは……

レビー小体型認知症を患う老人が安楽椅子探偵をつとめる“日常の謎”系の本格ミステリー連作。ラストがきれいに決まっている。

最終選考委員:大森望/翻訳家・書評家

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マニア心をそそられる趣向と古典作品へのオマージュ

マニア心をそそられる趣向が凝らされており、古典作品へのオマージュも好印象。ディーヴァーのリンカーン・ライムのヴァリエーションのようだ。

最終選考委員:香山二三郎/コラムニスト

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魅力的な物語を書き続けていける方だと確信した

キャラクターが非常に魅力的。彼らの会話がとっても楽しい!全体を通しての空気感、安定感が秀逸でした。魅力的な物語を書き続けていける方だと確信しました。

最終選考委員:瀧井朝世/ライター

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著者ごあいさつ

小西マサテル

小西マサテル

Masateru Konishi

プロフィール

香川県高松市出身。東京都在住。明治大学在学中より放送作家として活躍。
2022年現在、ラジオ番組『ナインティナインのオールナイトニッポン』『徳光和夫 とくモリ!歌謡サタデー』『笑福亭鶴光のオールナイトニッポン.TV@J:COM』『明石家さんま オールニッポン お願い!リクエスト』や単独ライブ『南原清隆のつれづれ発表会』などのメイン構成を担当。
趣味・特技は落語。

コメント

ミステリーを書くというのは少年期からの夢だったのですが、本作を執筆する直接的なきっかけは、長らくレビー小体型認知症を患っていた父の存在でした。
5年以上に及び妻と共に介護を続けるうち、世間にこの認知症への誤解があまねく広がっていることに気がつきました。この病気への理解を深めたい、せめて興味を持ってもらいたい──そう強く思ったうえでのアプローチのかたちが、私にとってはミステリーでした。
自分の場合は亡父への想いをこの作品に仮託していて、どうしてもこの作品でデビューしたいという強いこだわりがありました。それだけに今回の大賞受賞は、望外の喜びではありますが、本懐を遂げたという気持ちもあります。本作の主人公、楓と同じく、自分も一人っ子です。でも幼い頃から、そばには常にミステリーという“兄弟”がいました。今後もさまざまな兄弟たちを自分の手で生み出すことができれば、などと思っています。

『このミステリーがすごい!』大賞 編集部より

本作は、認知症の祖父(通称・碑文谷)が、孫娘・楓の運び込む“日常に潜む小さな謎”を名探偵のように鮮やかに解決――するだけのミステリーではありません。

刑事事件も起こりますし、楓の出生の秘密にまつわるシリアスなミステリーでもあります。まるで、ひと粒で二度美味しいお菓子のようにいろいろな味わいを楽しめるのが本作の魅力。

古典ミステリーへの愛情にもあふれ、謎の真相だけでなく、たくさんの名作も認知症の名探偵が教えてくれます。病魔に蝕まれていく祖父を支える楓の悲しみと深い愛情、そのすべてを理解している祖父との穏やかで優しいミステリー談義に、ぜひ耳を傾けてみていただけたらと思います。

心が震えた!の声、続々!

面白かった。とにかく面白くてあっという間に読んでしまった。
認知症の安楽椅子探偵、そんな発想にまずびっくりした。
認知症にも様々な症状があること、レビー小体型認知症は幻視が起こることを知った。
それを理解した上で推理する老人の精神力に脱帽。
楓の祖父を通して、なんだか亡くなった私の祖父や父のことを思い出してしまった。

宮脇書店ゆめモール下関店/吉井めぐみ

いまだかつてレビー小体型認知症の人が探偵となる小説があっただろうか。
いやはやびっくり、しかもとびっきり面白いときたもんだ。
古典ミステリがわらわらと出てくるし、謎解き自体は本格ミステリだし、なるほど納得の面白さ。
謎を持ち込む孫娘は祖父の知性を認め、その正常である部分を尊重し病には優しく目をつぶる、その関係にも秘密があって…とにかく最終章まで目の離せない一冊。

精文館書店中島新町店/久田かおり

登場人物たちの会話や醸し出す雰囲気が心を癒し、引き込まれる。
謎の真相も全く想像できないところにあり、唸らされた。
こんなにミステリーで家族への思い、優しさを感じ、心に純粋な温かさを宿らせるとは。
辛く悲しいことが違った色を見せる驚くべき光を放った今までにないミステリー。
レビー小体型認知症という祖父の病気を祖父の視点に立って、ミステリーにこめて描く優しさに心が震えた。
こういう優しい想いがこもったミステリーが読みたかった。

ジュンク堂書店滋賀草津店/山中真理

何層ものベールに包まれたミステリーに、祖父と孫の織りなす優しさが漂う。
名探偵のままでいてほしい、愛を込めて!

うさぎや矢板店/山田恵理子

名探偵は最高齢!70代で認知症とは思えない、バチバチにキレる推理に感服です!
事件を頭の中で想像し、どんどん物語を紡いでいく。
そこから導かれる驚きの真相にワクワクが止まりません。
認知症は病気ではなく、見えていない、気づいていない世界が見える能力なのかもしれないと深く感じました。
そして、登場人物のみなさんが個性豊かで魅力満載です!大好きが止まりません!
まさに、至上最高の70s 和製シャーロック・ホームズ!
スーパー紳士な謎解きに、最後まで一気読み必至!

シリーズ化大熱望です!!

紀伊國屋書店福岡本店/宗岡敦子

密室、人間消失、リドル・ストーリー……
著者の本格ミステリ愛がこれでもかと詰まった連作短編集。ラストの展開には感動すら覚える。
古典本格を知り尽くした新たなミステリの書き手が誕生した!

啓文社西条店/三島政幸

連作短編や日常の謎など自分にとって大好きな要素ばかりのこの作品。
期待して読み始めましたが、期待をはるかに超える面白さでした。
安楽椅子探偵とも呼べる楓のおじいちゃんは、楓の困っていることを瞬時に解決してしまい、とてもかっこよく日本人にもかかわらずなぜかすらっとした英国紳士を思い浮かべました。
作品の中でも登場人物同士のミステリ談議が出てきたり人間消失や密室などミステリの基本要素がたくさん出てきて読み終えてしまうのが寂しいくらいでした。

書泉ブックタワー/飯田和之

最初は穏やかな気持ちで読み進めていましたが、読後の衝撃はかなりなものでした。
最後まで油断しないで読んでください、謎の衝撃と同時にきっと彼らに夢中になるはずです。

八重洲ブックセンター京急百貨店上大岡店/狩野大樹

傑作です!! ラスト思わず唸りました。色んなジャンルのミステリーが描かれてとても面白い! 
しかも謎を解くのが認知症の祖父とは驚きです。
そしてミステリーだけでなく、祖父と孫娘の心の交流、彼女を取り巻く人間のドラマにもときめきます。
「レビー小体型認知症」を初めて知りました。謎解きをして物語を紡ぐ祖父がとても素敵なだけに病状が出ている時がとても切なくなります。
願わくば最後の難事件についても祖父の物語を聞きたいものです。

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認知症とはひとつの病名でなく種類がある事を知りました。代表的な認知症だけで4種類もあり「レビー小体型認知症」は2番目に多いのですね。
今回知る機会を得てよかったです。またそのような大変な経験をもとに素敵な作品を書かれた作者様にとても感謝します。

BOOKSえみたすピアゴ植田店/清野里美

煙草を吸いながら事件を推理するお祖父ちゃん。
格好つけているけれど、どこか抜けている。
ちょっぴり滑稽な可愛らしい想像を掻き立ててくれました。
ウイットに富んだ名探偵物としても楽しめますが、読み進めていくと、推理小説ではない側面の割合が増えてきて、胸がジーンとしてくるんですよね。
老若男女、ジャンルの好き嫌い問わず楽しめる、家族愛に溢れた優しい作品です。

文教堂本部/青柳将人

すごくさくさくと読みやすく、かつ、謎解きはすごく見事で、老若男女、誰もが楽しめる作品だと思いました。
よーく読めば、「あ!あの部分が!!」と気づかされるのですが、その部分が、読み過ごしてしまいそうなところに上手く隠されていて、毎回、「やられたー!!」と感じてしまいました(見事に作者さんの思う壺にはまってしまっているなと感じさせられました)。
最終章で、それまでの章にちりばめられていた様々な出来事が、それぞれ伏線になっていたことに気づかされ、それが見事に回収されていくさまは、すごく気持ちよかったです。

宮脇書店和歌山店/岩瀬竜太

「認知症」という病を患いながらも、誇り高きその安楽椅子探偵を読者は必ず好きになるだろう。
日常の謎にあるドラマ、魅力的な登場人物、そしてミステリ好きがときめく事件現場の図面まで、隙なく作られた物語に大いに感嘆した。
全編映像が目の前に立ち上がるような素晴らしい筆致でラストまで美しく紡がれていて、とても気持ちの良いミステリであった。

ジュンク堂書店吉祥寺店/田村知世

なんと人間味に溢れた物語なのだろう。
ミステリ作家や名作への深い愛情をベースに、身近な者たちへの信頼から新たな絆が生まれゆく。
煙の向こうに光が射しこみ、幻の先に見えるは揺るがぬ真実。
軽妙なスリルに驚きが止まらず、知的刺激もたっぷりと。
切れ味の鋭い展開だけでなく、読後の良さも極上の逸品。
これほど読みどころしか見当たらない作品も珍しい……。
紛れもない新たなスタンダードの誕生だ!(拍手)

ブックジャーナリスト/内田剛

選評がいささか厳し過ぎでは、と感じてしまうほど好印象。
古きよき名探偵の香りに、彩りよい謎解き。
ジャンルとしての「本格ミステリー」への目配りも利いており、ミステリーの面白さをよりいっそう広く伝え得る1冊として、大いに売り伸ばしに努めたく思いました。

ときわ書房本店/宇田川拓也

知識と推理力のみで謎を解決していく安楽椅子探偵の正体は…認知症のおじいちゃん!?
孫の楓が持ち込んでくる日常の小さな謎から、殺人事件までなんでもござれと解決していきながら、その謎にちなんだミステリ作品のブックガイドのようでもあるのでミステリ初心者にも楽しめると思いました。

山下書店世田谷店/漆原香織

レビー小体型認知症って何!?と恥ずかしながら初めて知った次第です。
設定がまず目を引きました。認知症の老人が名探偵ってそりゃなんだ!と読んでみれば難しさと読みやすさを兼ね備えた作品でした。
放送作家として活躍されているそうですが、小説家としての活躍も今後期待したいです!!

紀伊國屋書店梅田本店/辻本彩

孫娘の楓と、レビー小体型認知症を患う祖父。
楓の古典ミステリーへの愛は祖父譲り。
身近で起こった謎を、祖父の深い知性を信じて相談する楓。
認知症の狭間から、理路整然と謎を解決するお祖父ちゃん探偵がカッコいいです!
謎解きだけに留まらず、楓の出生も絡み、思いがけない展開に衝撃を受けました。
読み終わった後、祖父と楓の深い絆に涙が止まりませんでした。
古典ミステリー好きにもたまらなく、家族愛に溢れ、優しくてあたたかく、何度も読み返したい味わい深い物語です!

丸善名古屋本店/竹腰香里

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南原清隆さんと出会い、ミステリー&落語漬けだった高校時代

高校では落語研究会に入りました。というのも、部長が南原清隆さんだったんです。世の中にはこんな面白い人がいるんだ、こんな面白い表現方法があるんだと衝撃を受けました。
落語の発端の意外性とオチって、ミステリーと親和性が高いんです。高校時代はミステリーと落語漬けの毎日でしたね。

上京後は芸人活動⁉ 構成作家になったきっかけとは……

僕の中で南原さんの存在は大きくて、南原さんが上京したのに合わせて自分も東京の大学へ。南原さんがウッチャンナンチャンとしてデビューを果たすと、やはり背中を追いかけて漫才コンビを組んで、『お笑いスター誕生!!』などに出るようになりました。そのうち芸人としての仕事が忙しくなってきたので、大学は留年。
相方は先に卒業して就職しましたから、しばらく抜け殻みたいになっていました。田舎の父はさぞかし怒っていたでしょうね。
そんなとき、コント赤信号の渡辺正行さんが「俺がやってるラジオ一緒にやる?」と声をかけてくれたんです。そこから放送作家として仕事をやっていくようになりました。
もともと漫才のネタも書いていて、文章を書くことに抵抗がなかったこともこの仕事を続ける要因になったと思います。大学のほうは単位ギリギリ、逃げるように卒業しました(笑)。

岡村隆史さんからもらった「僕の中では大賞です」という言葉

ミステリーを書こうと思った一番の理由は、昔、番組を一緒にやっていたラジオディレクター(当時)の志駕晃さんが、『このミステリーがすごい!』大賞の隠し玉として発売され、映画化までされた『スマホを落としただけなのに』を書かれたことです。知り合いのディレクターさんが素晴らしいミステリーを書いたという衝撃に、どんと背中を押されました。
実は、『このミス』大賞に応募したことはほとんど誰にも話していなかったんですが、岡村(隆史)さんだけには知らせていました。応募する前の原稿段階で、彼のほうから「読ませてください」と。
しかも、「めっちゃ面白いです」「僕の中では大賞ですよ」とまで言ってくれたんです。けど、ダメ出しもしてくれて、それが正鵠を射ていたので、そこは全て直して応募しました。
やはりエンタメに関しては天才なのか……なにか天性の勘みたいなものが働くんでしょうね。
なので、受賞してとても喜んでくれていると思います。「行きつけの天ぷら屋で奢りますんで、飲みましょう!」と言ってくれましたから。
ただ、それからすでに1か月以上経ってますけど、いまだにお声がかからない(笑)。

執筆のきっかけは、長らくレビー小体型認知症を患っていた父の存在……

僕が中学2年のときに病弱だった母が亡くなったので、それから上京前まではずっと父と二人暮らしです。一人っ子といっても、実は兄と姉が幼いときに亡くなっていたこともあって、父は厳しくはあったけれど、「お腹を冷やすと大変だから」と、冬場は黒いタイツをはかせるような心配性な一面もありました。でも、そんなことは当時はわからなくて。
こちらのほうが逆に父を心配しはじめるようになったのは、何十年も経ったあとのことでした。あるとき電話で「あれ? おまえ、さっきまでワシの横で一緒に飲んでたやないか」なんて言い出した。
「いやいや、俺はずっと東京だよ」と答えながら、これはおかしいぞ、と。レビー小体型認知症と診断されてから知ったことなのですが、この病気の典型的な症状が、まさに幻覚(幻視)だったんです。
ところが父は、症状に慣れるうち、認知症であることを自覚するようになったんですよ。日記にも「私はレビー小体型認知症である」とはっきり書いていました。
東京の施設に入ってからは親子の会話も増えました。で、ときどき僕よりすごくキレのあることを言ったりするんですよね。こんな理知的なところがまだちゃんとあるんだ、と。
そんななか、世間でこの認知症への誤解が広がっているのを知り、少しでも世間の理解が深まるといいな、発信できればいいな、と思うようになったんです。