真田広之「SHOGUN 将軍」、裏側の闘い語る ─ 「この作品をニューノーマルに」「今時、これくらいやらないと恥ずかしいのだと」【単独取材】 | THE RIVER
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真田広之「SHOGUN 将軍」、裏側の闘い語る ─ 「この作品をニューノーマルに」「今時、これくらいやらないと恥ずかしいのだと」【単独取材】

「SHOGUN 将軍」真田広之 単独インタビュー取材
©︎THE RIVER
ヘアメイク:高村義彦(SOLO.FULLAHEAD.INC)

真田広之が初めて主演とプロデューサーを務める、ディズニー傘下の「FX」が制作するハリウッドドラマ「SHOGUN 将軍」が、ついにディズニープラス「スター」で配信開始となった。1975年に米刊行され、1980年にはドラマ化もされたジェームズ・クラベルの小説「SHOGUN」を再映像化する野心作だ。

ハリウッド作品における日本は、これまで誇張や偏見、誤解に満ちた描写がなされることが常だった。しかし本作では、初めて真田がプロデューサーとして監修に入り、細部まで忠実な再現が徹底された。結果として本作は、ハリウッドが初めて日本描写に本気で取り組んだ作品として、歴史的な偉業を成し遂げている。

その裏で、真田にはどのような思いが、どのような苦労があったのか。知られざるエピソードを、真田はTHE RIVERの単独取材で明かした。

SHOGUN 将軍
(c) 2024 Disney and its related entities Courtesy of FX Networks

当初は俳優としての出演オファーだった。真田が出演した2007年のイギリス・アメリカ合作映画『サンシャイン 2057』を製作したアンドリュー・マクドナルドからの連絡だ。「SHOGUN」の企画を進めているのだが、主人公の虎永役を演じてほしい、と打診を受けた。

マクドナルドは企画を米FXに持ち込んだ。真田はマクドナルドやFXの人々とランチミーティングを行い、この作品の構想を聞いた。「自分が関わるのなら、ちゃんと日本人の役に日本人を使ってくれるのか。戦国時代を再現するなら、日本からクルーを呼べるのか。そうであれば考えたい。おかしなものを作るのなら、自分は日本人として参加できない」。ハッキリそう伝えた。

後日、FX側から、真田の要望に応えたいと連絡があった。それでは、お引き受けしましょう。こうして俳優としての真田の参加が定まった。しかし、それから監督探しや脚本構想などで紆余曲折し、数年が経過した。もともと2019年の撮影開始予定だったが、品質追求のため一旦取り下げ、一からのやり直しを経ている。

そこで新たにプロデューサーとして加わったのが、この度真田と共に来日し、THE RIVERのロングインタビューで誠実な想いを語ったジャスティン・マークスとレイチェル・コンドウである。二人は日本文化を深く尊敬しており、本物志向の作品を作ることを志していた。真田さん、プロデューサーも兼ねてくれませんか。ジャスティンから打診があった。「望むところです」。こうして「SHOGUN 将軍」は、プロデューサー・真田広之と共に新体制で再スタートした。

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ジャスティンとレイチェルは、真田の意見を積極的に取り入れ、わからないことがあれば質問してくれた。真田が直しを入れると、素直に応じてくれる環境だった。「それはプロデューサーという肩書きがあったから、できたことです」と真田は言う。「今までは、やはり遠慮がちに、“ここ、こうなりませんかね……?”とタイミングを見計らって。それでも変えられない時が多々あった。そういうもどかしさ、悔しさが、今回のプロデューサーとしてのモチベーションやエネルギー源になった。せっかくプロデューサーとして関われるのだから、妥協はしないぞという思いがありました」。

真田が『ラスト サムライ』でハリウッドに飛び込んでから20年が経つ。「いろいろなことを学ばせていただいたし、何が必要なのかというのを学ばせていただいた」。これまでに真田が培った人脈とノウハウの全てを注ぎ込むように、自ら人材配置を行った。「京都、東京、各地からスペシャリストを呼ぶことができました。これまでの悔しい経験が、今回に活かされました」。

現場で真田が指摘した「誤った日本描写」はどのようなものだったかと聞くと、「数え上げるとキリがない」と笑う。例えば、障子が裏表にはめ込まれている、玄関に靴を脱ぐ段がない、などだ。着物の着付けからレクチャーした。「襟が右前になると、それは葬式の死人に着せるものになる。それだけで意味がついちゃうんだよ、ということを一から教えました」。

SHOGUN 将軍
© 2024 Disney and its related entities

撮影後の編集作業でも監修を務めた。日本的な意味合いを考え、切ってはいけないところ、スキップしてはいけないところを、ひとつひとつ指示した。

VFXについても同様だ。こんなに高い建物がここにあってはいけない、屋根の色が違う、五重塔はここにはない、安土城がカラフルすぎて中国系に見えてしまう……。「随所で目を光らせました。日本から連れてきたクルーたちもいるので、各パートで頑張って、直してもらいました」。

その監修においては、異なる文化のクルーと共に仕事をする苦労もあった。ハリウッドのスタッフにも、プライドやアイデアがあるからだと、真田は説明する。「通訳を通した日本のクルーが巻き込まれてしまうことや、意見が潰されてしまうこともありました」。

そうした報告を現場から受けた真田は、各部署のチーフに自ら「これは、こうだからやってはいけないんだよ」と掛け合った。「これはウエスタンサイズから見た誤解なんだよ。何の映画を見て真似したかは知らないけれど、あれを真似してはいけないよ、というところまで踏み込んで伝えるんです」。

海外チーフからは、「でも、そういう映画があるじゃないですか」と返される。「それは間違いなんだ。今作は、それを直すのがテーマだから、分かってくれるかい?」真田は説得する。「それで渋々、矛を収める……ということが、よくありました(笑)」。

SHOGUN 将軍
© 2024 Disney and its related entities

喧喧諤諤のやりとりは、時に解決に至らないこともあった。最終的にはジャスティン・マークスが登場し、「日本側の意見を聞いてくれ」と代わりに説得した。どんなことでも、一切妥協せずに戦うことが重要だったと、真田は振り返る。

世界の観客に向けて正しい日本文化を発信することと同様に、日本の観客、特に若い世代に向けて、セリフ回しを現代風に置き換えることにもこだわった。時代の言葉に忠実でありながら、現代の観客にわかりやすく、しかしながら現代的になりすぎないというバランスを、台本作りの時点から意識した。

特に現代的な口調で飄々としているのが、浅野忠信が演じる樫木藪重だ。伊豆の大名で、虎永に支えているが、忠誠心はない。立場に応じて裏切りを繰り返す、最も油断ならない男である。「他の武将たちと違う“裏切り”の象徴として、どこか型破りなものを望みました。そこにフリーダムを与えて、藪重のキャラが際立つようにしています。特別な存在として、野放しにしたんです」。

SHOGUN 将軍
© 2024 Disney and its related entities

ほとんどを日本人のキャラクターが占める「SHOGUN 将軍」は、七割ほどが日本語で展開される。海外の視聴者は字幕鑑賞が主となるが、「海外では、字幕鑑賞を好む人が増えてきている」と真田。「SHOGUN 将軍」にとっては追い風だ。

一方で真田は、「以前は日本人の方が字幕で洋画を見て、アメリカ人は字幕を見ない、という状況でしたが、今はそれが逆転した」とも観察している。「日本人の観客の方が字幕を避けていて、アメリカ人や海外の観客の方が、字幕版を選び、原語を聞きたがっている。日本は大丈夫かな、原語で見る習慣がなくなっている世代がいるなということを、ちょっと悲しく思っている世代です(笑)」。

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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