10月。結構予定外の予定(異常日本語)が入ったりして、もともと行きたかったライヴに行けなかったりと残念なこともあったが、一方ですごくツボな新譜に出会えたりもして総合的には楽しかった。あと、最近あまりレコードを買っていなかったのだが今月はいろいろ含めて3枚ぐらい買った。改めて思うにレコードは本当に沼である。セーブしながら買わねば。
●Records
For Cryin’ Out Loud! – FINNEAS
FINNEAS(Finneas O’Connell)といえば、妹のBillie Eilishのステージでベースを弾いている印象が強かった(単にライヴサポートをしているだけでなくプロデュースとか、いろいろ深く関わっているのだけど)。ソロ作をきちんと聴くのは、これまで本作がはじめて。
#1「Starfucker」からもう好きだった。ピアノ×美メロにはどうも弱い。あと、2Aでブレイクが入るのにも弱い。なお、Starfuckerという物騒な単語もこの曲で始めて知った。セレブリティと深い関係になりたがるファン、言うたらリアコ勢のことを指す言葉らしい(実際に「そういう」関係になれているかどうかは問わないっぽい)が、それを踏まえると「You think you're so underground / But you're so much less profound」というリリックのパンチの効き方がすごい。甘いメロに対して激辛である。そこから#3「Cleats」までの流れで一気にこのアルバムの虜になった。
タイトル曲である#8「For Cryin’ Out Loud!」とラスト曲・#10「Lotus Eater」もそれぞれリピート曲。「For Cryin’ Out Loud!」はミッドテンポのバラード曲で、ホーンの使い方になぜかわからないが懐かしさのようなものを感じた。#10「Lotus Eater」もまた意味深な表題だ。途中のリリックが禅問答のようになっているのと関係はあるのか、どうか。
Feats of Engineering – fantasy of a broken heart
ディスク・ユニオンの紹介文には「ザ・フレーミング・リップスと鋼の錬金術師に影響を受けたデュオ」と書いてある。鋼の錬金術師って、あの鋼の錬金術師か? と思って軽く調べてみたが、どうやらあの鋼の錬金術師らしい。アニメ・漫画のワールドに影響されているようだ。
アメリカのポップ・デュオで、音楽的にはプログレ〜サイケの要素を取り入れつつ、それらを近年のドリーム・ポップの音像に昇華した感じとでも言ったらいいだろうか。ともかく、個人的にはすごく好きなジャンルである。基本的にはバンドサウンドを中心にしつつ、ときにオルガンや打ち込みのストリングスがそこに花を沿える。
イントロの#「Fresh」から#2「AFV」になだれ込む。ギャンギャン鳴るギターとうねるようなベース。そこに乗るオクターヴユニゾンのヴォーカル。良い。キャッチーなポップソングかと思っていると最後の1分間でガラッとリスナーを惑わせてくる。続く#3「Loss」の切実さも好き。#6「Ur Heart Stops」はエフェクトのかかったリードギターがドリーミーな雰囲気を醸しつつ、途中で挟まれる畳みかけるようなリズムパートや呟くような歌い方がおもしろい。
日本でも間違いなく好きな人は多いだろうし、フジとか来てほしいなあ。
Fabinana Palladino – Fabinana Palladino
UKで活躍するSSW、Fabiana Palladinoのファーストアルバム。ファミリーネームから察するとおり、父はあの名ベーシストPino Palladinoである。本作にも参加しているそう。
バンドサウンドとエレクトロニックなサウンドが交錯する印象で、音楽的にはR&Bを起点に広いところからエッセンスを取り入れているように思う。踊れる歌もの、という軸はしっかりあるようだ。
UKシーンの敏腕プロデューサーであるJai Paulとの共作曲#5「I Care」がアルバムの中間地点になっているのだが、ここに至るまでの前半がややシリアスモード、ここからの後半が(曲の雰囲気だけ聴くと)ポジティヴなモードになっている感があって興味深い。例えば#3「I Can’t Dream Anymore」なんかはミッドテンポで曲調も、切々と歌い上げる系。「When I go to sleep, I’m tired/But I can’t dream anymore」と歌詞も結構キている感じだ。しかし、キーボードのオブリが全編を通して煌めく#6「Stay With Me Through the Night」〜ギターのブリッジミュートから走り出す#7「Shoulda」の流れはなにか夜明けのようなイメージすら湧く。まあ、と言いつつ#8「Deeper」で大人な雰囲気になるけれど。
ファーストアルバムがセルフタイトルってなかなか勇気が入りそうだけれど、それもしっくりくる完成度の高さだった。
SANGO ALBUM – リ・ファンデ
リ・ファンデ(李晃大)さんのアルバムを聴くのは、寡聞にして本作がはじめて。砂の壁のマオさんが#1「原色」、#12「それより影」にコーラスで参加されているということで、その投稿を見て知ったようなところがある。
一言でこのジャンル、と言い切るのが難しいが、一聴してその引力にグッと惹き込まれる音像。ダンス/エレクトロニックの雰囲気を醸すビートに、ある種のラフさを残したヴォーカルとギターが飛び乗っていく。打ち込みのひんやりした動力とアコースティックなトラックの手触りが絶妙なバランスのうえで手を取り合って作り出す空気感が癖になる。
もちろん一曲一曲の楽曲もそれぞれに魅力を湛えている。前述の#1「原色」はサビのたたみかけが心地よくて何度も聴いてしまうし、#5「マンボーの恋人」はアコギが刻むコードとパーカッションのポコポコいう四分刻みがきもち良い。「ヌヌヌヌ〜」というラストのコーラスもコミカル。そしてミツメファンとしては、#8「靴の間に(feat. 川辺素)」がアツかった。ミツメは活休してしまったが、こうして川辺さんの声が聴けるのはシンプルに嬉しい。
リ・ファンデさん、次はライヴに行ってみたい。
The New Sound – Geordie Greep
事実上解散となってしまったblack midi(日本で2回観ておいてよかった)。そのフロントマンであったGeordie Greepのファーストアルバムがでた。
まずジャケットのインパクトがすごいですね。具体的なモチーフはわからないけれど、日本的なモチーフがグロテスクながらもどこかコミカルに散りばめられている。前はHellfireのツアーとフジで2年連続で来日してるし、本作のリリースに合わせても来るし、一時期ヤマハのギターも使ってたし、日本にはなにか特別な思い入れでもあるのだろうか(大友良英を聴いてるみたいなのはいつかインタビューで読んだ記憶があるけれど)。
先行トラックだった#3「Holy, Holy」はサザンとか言われていたなあ。大ハマりしてリピートしましたが。確かに日本的な歌謡ポップっぽさはメロにあるかも。えげつないタイミングで入れてくるキメとか、いかつめのギターソロなんかはblack midiでも展開されていたポストロック要素がふんだんに感じられたけれど。
全体的にはむしろボサノバとかサンバ、タンゴとか、ラテンアメリカの風を感じるタイミングが多かった(#4「The New Sound」や#5「Walk Up」らへんのタタッ、タタッ、というリズムは明らかにその辺を意識していそう)。#7「Bongo Season」という曲があるが、パーカッションも全体にわたって効果的に使われている。ブラジルの音楽が好きな人間としてはテンションが上がった。
あと、個人的には#8「Motorbike」の疾走感と不穏さの同居のしかたがすごく好き。
Sad Girl – TSHA
英国のミュージシャン、TSHA。ちょっと前まで読み方もきちんと把握していなかった(ティーシャ、と読む)うえ、昨年のフジにきていたことも失念していた。土曜深夜のRED MARQUEEでの出演だったということで、恐らく私は寝ていたに違いない。惜しいことをした。
本人はベースを中心にシンセ、DJを使いこなすマルチ・インストゥルメンタリストで、実際ライヴ写真を見てみたらベースを携えていた。ダンス系のトラックをつくる人はベースかドラム、どちらかの経験者が多い印象だ(ギターは結構珍しいんじゃないだろうか)。クレジットを歌ものは大体フィーチャリングでヴォーカリストを呼んでいるのかと思ったが、今回初めて本人もヴォーカルを録っているそう。多くのミュージシャンを迎えていながらアルバム全体の色には一貫したものがある。
Rose Grayを迎えた#2「Girls」、歌詞も含めて好き。「Love like you've never been hurt this time/And girls/Live like you never die」。Master Peaceとの#4「Can’t Dance」はタイトルに反して全然踊れる。Caroline Byrne(まさか? と思ったがDavid Byrneとの血縁関係はなさそう)との#6「Sweet Devotion」、淡々としたビートに不穏なコードが忍び込んでくる。こういうタイプの曲、じつはかなーりツボである。
Songs About You Specifically – MICHELLE
ニューヨークの6人組。「ソウル・コレクティヴ」とか「インディーポップユニット」といった漠然とした書き方をしている媒体・メディアが多く、「バンド」とは書かれていないのが少し興味深い。
#1「Mentos and Coke」を聴いてみて早々に、結構不思議な曲だなあと思うなど。ソウル、と言われればそんな気もするし、Big Thiefのようなフォーキーなポストロックの路線に通じる部分もある。と思っていたら、曲中で急にテンポが変わり、ベースが急に饒舌なラインを奏で出す。そのままシームレスに#2「Blissing」へ。ここからだんだんとソウル、ファンクのカラーが強くなっていくようだ。#3「Akira」。アキラとは誰だろう。内容はセックスと人間関係にまつわるしっとりとしたもので、大友克洋先生の「AKIRA」とは一見関係なさそうだけれど。
#9「Oontz」も再生回数が多いようだが、これなんかは王道のチル目R&Bという感じで、ちょっとしたノスタルジアすら感じる(この曲を聴きながら勝手にMarvin Gayeの「Sexual Healing」を思い出したのだが、こちらのほうがさすがにしっとりしていた)。
すごい衝撃を受けるというのではないけれど、聴きやすくていいアルバムだと思った。
Songbook – Gilbert O’sullivan
アイルランド生まれ、イングランド育ちのSSW・Gilbert O’sullivan。超大御所だし、代表曲と言われる何曲かは知っている。で、本作は再録ベストとでもいうべき内容になっている。
アコースティックなサウンドで、奇を衒わず、親しみ深いメロディを持ってきてくれるので安心する。#2「Clair」、#6「Alone Again(Naturally)」あたりは流石に改めて聴くに名曲だが、再録によって単に「深みが出た」という次元にとどまらず、70歳代後半にして新たな爽やかさのようなものすら感じられるのが凄い(録音技術が現在のそれになっているからモダンにきこえる、というのは大いにあるだろうけれど)。文字どおり鍵盤を叩くようなリズミカルなピアノも健在で楽しい。
最近はインディーポップやエレクトロニカを聴くことが割合としては多かったので、こういうアコギとピアノをフィーチャーした音をじっくり聴いていなかったのだが、そういえば最初に好きになったポップスのサウンドはこういうのだったな、とふと思い出した。一つ一つの楽器の音がよく聴こえるから、全員上手くないとカッコよくならないジャンルだし。そのシビアさとゆるさの間隔が好きである。
Chemistry Foreverever – DJ Swagger
ドイツ・ビーレフェルトのDJ/プロデューサーのエレクトロニカアルバム。8曲26分というコンパクトさだが、聴き応えがある。ビーレフェルトという街の名前を寡聞にして知らずだったが、デュッセルドルフを州都に据えるノルトライン・ヴェストファーレン州の経済都市で、調べてみるとクラブが結構あるらしい。独自のクラブカルチャーが育っていたりするのだろうか。
アルバムは個人的に好みな曲調のトラックが多く、シンプルに聴いていて楽しかった。#1「Best Friends」はヴォーカルバラッドのような入りからジャズ風の鍵盤のループに移行し、ドリーミーな雰囲気を保ったまま歌モノに回帰する展開がシームレスで心地良い。個人的に一番好きだったのはアコギとエレキベースをフィーチャーした#3「Space Cowboy」。アルバム中でも特にキャッチーなナンバーだと思うが、途中で完全にエレクトロ要素が抜けてスイング・ジャズになる瞬間があってそれも面白い。#7「Days Before」のようなピアノ、これには何か名前がついているのだろうか。ソフトな音の立ち上がりで、ゆらゆら揺れる感じのサスティーン。
全体的にメロウで、明るいか暗いかでいえば暗いアルバムなのだろうけれど、かなり好きだった。
●Live
10/12 Cross Cultural Night(OTB from Korea Japan Tour)@下北沢mona records
夜のモナレコは久しぶり(最近は昼によくきていた気がする)。韓国のバンドOTBのジャパンツアーで、対バンがよく知っているバンドだったし来てみた。
Seukolは直近も観たけれど、ハコやセトリが違うことで色々な表情が見えてくるバンドなので何度観てもよい。曲名を忘れてしまったのだが(「夜の端で」かと思っていたが改めて聴いたら違った)、アレンジがメロウな雰囲気に変わっていていい感じになっている曲があった。
Sick Sickmanはじつは知っている人が参加しているバンドで、兼ねてから観たいと思っていた。R&Bベースのシティポップという感じですごくクール。モナレコももちろん良かったけれど、よりクラブっぽいハコも合いそう。
Abenieは初見だった。すごくポップでメロが良いというのと、シンプルに各メンバーのプレイスキルがめちゃめちゃ高い。ギターうっめ〜と思った後にベードラのコンビネーションがガッチリ決まり、キーボ&ヴォーカルのコードとメロの絡みも絶妙で、目が離せない。
OTBもすごいバンドだった。彼らもすごくテクいというか、歌・ビートボックス・ギターというそれぞれの領域で確固たる技量を備えている。のだけど、ライヴはライヴでエンタメとして高い水準で完成されている。日本語曲のカヴァーも交えつつ、しかしやはりオリジナル曲の良さが滲みる。各人のスキルが最もよいかたちで化学反応するんだろう。ビートボックスとギターのソロコーナーも圧巻だった。ビートボックスの方は韓国のコンテストで優勝経験があるらしい。
10/13 AHN YEEUN FIRST CON 花 in Japan @SUPERNOVA KAWASAKI
じつはまったくノーマークだったのだが、大学時代の先輩からお誘いをいただいて行った。日ごろ韓国のアーティストや作家の作品を載せてヤーヤー言っているのを見てくださっていたのだと思う。ありがたいお話である。
キーボード弾き語りor自作トラックの打ち込みをバックに歌うスタイルの方だったが、まず声のハリと通り方がすごい。ふと、小学校の音楽鑑賞の時間に聴いた「アリラン」を思い出した。喉をギャッと締めて、しかし身体の芯から厚みを持たせて声を響かせるあの感じ。日本のアーティストで言うと初期の椎名林檎や倉橋ヨエコの雰囲気に近い(し、実際にカヴァーで林檎さんやヨエコさんの曲を歌っておられた)。一聴して癖になる歌声である。
オリジナル曲は個人的な体験のほか、神話や御伽話にインスパイアされているようなものもあり、テーマも音楽性も幅広かった。良いアーティストに出会えた。
10/16 WWW & w.a.u presents n.e.m vol.2@渋谷WWW
以前より漠然と気になっていたコレクティブ・w.a.u。生活の設計のサポートで一緒に演ることがあるgaiくんが所属しているレーベルというのもあり、さらにわりと近いコミュニティにいた人がちょいちょい関係しているっぽいのをなんとなく把握していた。WWWでイベントをやるというのでわりとライトなノリで行ってみた。
ら、すごい人だった。ダブダブがみっちり。そして、おそらく平均して2〜3歳ぐらい自分よりも若い人が圧倒的に多い。20歳代そこそこでここまで人を集められるw.a.uという組織の力にまず驚く。
主な目当てはバンドだったので、基本的にはメインフロアに居てさらさ、TRIPPY HOUSING、reinaの三組を観た。この日は「w.a.u BAND Set」という固定バンドが三組をそれぞれ支える、というあまり観たことがないスタイルで面白かった。
さらささんは、以前観た際は別なバンドセットだった。そのときは本人もギターを持って歌うなどフィジカルなバンド感が強かったが、今回のw.a.uセットはよりソリッドな雰囲気。こちらにはこちらの良さがあった。w.a.uの立ち上げに関わった後、現在はレーベル自体からは離れているものの、こういう機会に一緒に演奏すること自体は今後も含めてあるとのことだった。
TRIPPY HOUSINGは初見だが、これまた面白い音楽だった。TRIPPYというだけあってサイケな空気感を出しつつ、アフリカルーツの音楽のエッセンスもしっかり感じる。楽器の使い方も王道と斬新の絶妙なバランスを行っているような感じがする。
reinaさんは、じつは昔どこかで観たことがあった、はず。そのときはreinaさんと知らずに観ていたので実質初だったが、端的に歌唱力エグいな……という感想が出る。R&Bに合う声質ってなかなか出せる人が多くないと思うのだが、reinaさんは英詞の発音やリズムも含めてピタッとハマっている。
そして長丁場のセットで、各アーティストのジャンルに合わせたトラックを変幻自在に展開していたw.a.u BAND、すごい。ただ「上手い」だけではなくて、日頃からたくさんの音楽に触れていないとできない所業だろう。
◆買ったレコード
@BIG LIVE RECORDS
Here in the Pitch - Jessica Pratt
Underdressed at the Symphony - Faye Webster
@COCONUTS DISC 江古田
Garota de Ipanema - Nara Leão