ユーカリの揺籠に包まれて、彼らはひたすらに夢をみていた。
2023年の後半は新しい家探しに追われ、引っ越しに追われ、新居での新生活の基盤作りに追われる日々が続いていた。明くる2024年は3月に日本に一時帰国をして日本食を楽しんだ。そんな生活を送っていたものだから私の中の何か、つまりはゴーストが囁くのである。
「そろそろテント生活をしよう。内陸に行こう。」
かくして1ヶ月前に4週間近く有給を取っていた私は何を恥じるでもなく堂々と翌4月の終わりにまるっと1週間の休みを半ば強引に取得して、全10日の休みを手にしたのである。
さてどこに行こうか。時期的には冬が始まる前で爬虫類も鳥類も動きが活発であろうから、やはり内陸を目指したい。しかしこの時期はNSW州ではスクールホリデーである。できるだけヒトのいない場所に行きたいのでここはQLD州まで行ってしまおうか。ともすればゴールドコーストにいる母親に挨拶もして、そのついでにサンシャインコーストにいる友人にも会っておくか。
そんなアホなほど適当な計画を全部打ち込んでみると、周囲3500kmほどのバミューダトライアングルが地図上に完成した。よし、これだ。
そんなこんなで唐突な旅が始まったのが2024年4月19日である。何しろ唐突に休みを押し通したので今回はT君も誰も拉致できない一人旅になってしまった。それもそれで自由で良いであろう。
初日はまだ真っ暗な朝4時からスタート。まずはシドニーから一気にQLD州のゴールドコーストまで車で突き走ります。沿岸部の1号線を使ったルートで、これといって個人的に楽しめる場所は道中にはないのでひたすら距離を稼ごう。
市街部は朝になると渋滞を起こすが、日が出る頃にはシドニー周辺から離れることに成功。これで一気に効率がよくなる。
朝マックと給油、それに加えて合計3回の小休止を挟みながらひたすらに1号線を突っ走ります。4:15スタートで、850kmを走り終える頃には時間が13:30過ぎ。市内も含めておおよそ時速100kmを維持できました。よしよし。
なぜわざわざ早朝4時からスタートしたか。それは余裕を持ってゴールドコーストに到着し午後にフィールドへ繰り出すための時間を確保するためである。というわけで初日の今日はCoombabah Lake Conservation Parkへと突撃。
狙うはオーストラリアの人気者代表、野生のコアラ。ここには150頭ほどが高密度で生息するので歩いて散策しているだけで見つかるアツい場所らしい。
と、エリアに入って歩き始めて5分のところで樹上高くに早速第一コアラを発見。本当にあっさり出現するなぁ。
そこから10分ほど歩くと更に1匹。こちらは表情豊かに爆睡中。コアラは全体的な個体数は減っているが残っているところには高密度で残っているイメージなので、まさしくここは典型といった感じである。主に人間の開発によって生息域が分断縮小されていっているので、残された生息地で密度だけが濃縮されているのであろう。遺伝子プール的にもよろしくない状況だ。
番奥にいた3匹目。こいつは地上からそこまで離れていない細い低木に引っかかるような形で爆睡していた。見た目は完全に酔っ払って行き倒れたオッサンである。腹の中で解毒に集中しているという面では確かに酩酊状態のオッサンとさほど生態は変わらないのかもしれない。
ブッチャーバードはその様子をせせら笑い、
乳離れしたくない子カンガルーは母親の乳首を求め続けていた。ここは平和で良いところである。
およそ内陸キャンプ旅とは似つかわしくない夜景に囲まれつつ、初日は母の家のリビングにコットと寝袋を広げて煌々と照らす電球の下でブログを書きつつ熱いシャワーを浴びた。