日本爬虫類界のシルクワーム伝説を調べてみた - とある獣医の豪州生活Ⅱ

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日本爬虫類界のシルクワーム伝説を調べてみた

はいどうも、いつものテンションのワタシデス。

昨晩は1週間ほど調べまくってまとめた餌となる昆虫類の栄養価比較記事を投稿致しまして、いやぁ、ツイッターでつながっている爬虫類コミュニティの方々に結構広がったらしく多数のアクセスに感謝でございます。

happyguppyaki.hatenablog.com

 

で。

 

基本的にはポジティブな反響でして自分も嬉しい限りですが、やはり「え、それっておかしくね!?」に近い反応ってのもございまして、いやまぁ論理武装でもないとガッツリ反論してくる方はいないと思うのですが、他人の疑問は自分の疑問、気になるところをピックアップしてみると、

 

 

シルクワームって高タンパク質って聞いてたけど、クッソ否定されてんじゃん。

 

こいつが特に目立ちました。

昨日の記事は考察タグをつけて、情報発信記事として機能させますので、これに関しては後々記事を編集して捕捉を付け加えますが、ついでに今日の記事でまとめさせてください。

 

 

 

ということで、Q&Aのコーナー!(気まぐれ)

 

 

Q:シルクワームって高タンパク質って聞いてたけど…

自分が書いた「シルクワームまじ論外、全然栄養無い」というこの結果に日本の爬虫類会が震撼する、なんてコメント頂いてしまって、いやいや、そんな一部シルクワーム信者さん達に殴られるような偽情報を流してしまったのか!?と、若干心配になったので調べてみました。

以下、まずは論文無しで調べた日本における「シルクワーム伝説

  • 高水分で脱水気味の個体等に良い(自分の結論でも同意)
  • 高タンパク質のすんげぇ餌(伝説の多くがこれ。後述)
  • キチン質が少ないぷにぷに体質で消化が良い(ソース無し)
  • 糸を生成し始めると栄養価が下がる(ソース無いけど感覚的には分かる)

で、真っ先に疑ったのは「糸の生成による栄養価低下」ですが、自分がソースにしたFinke (2002)で使用されたのは重さおよそ1gに達したシルクワーム。これは幼虫時代の最大成長重量の20-25%程度で、若い個体ですので「大部分が糸に栄養持っていかれてる」という線は少ないでしょう。というか体長20%で既にそこまで糸に栄養持っていかれるとしたらそれ自体もう餌虫として駄目ですし。

 

キチン質云々に関してや消化率に関してはソース不明でした。多分感覚でモノ言ってるんじゃないかなぁ。ぷにぷにしてるし。

 

というわけで、一番多く目にしたシルクワーム伝説である「高タンパク質」に焦点を絞って色々検索をかけていると、とあるブログが更に別の有名ブログからの引用だとして以下のようなことを書いてました。

高栄養で、ミネラルが豊富な桑の葉を食べるシルクワームは、栄養価は全体的に優れていますが、特にすごいのはタンパク質。コオロギのタンパク質が20%なのに対し、シルクワームは60%以上のタンパク質を含んでいる。嗜好性が高く、体が柔らかく、水分が多いため、普段のエサとして与える以外にも、食の細い個体や、産卵後の体力の回復、成長期のベビーなどにとって、とても優れたエサとなります。動きが鈍く、ほとんど歩かないため扱いも容易。(○○ブログより抜粋)

 

ほほう…。

そりゃタンパク質60%の動物がいたら伝説級でしょうなぁ。

まず記述が矛盾しすぎです。仮に本当に生体重量の60%がタンパク質だとしたら、どう多く見積もっても水分量は40%どまり。割とカラッカラの肉塊です。マッチョな成人男性でも水分70%近いんだぜ?スーパーで売ってるステーキ肉よりもカラッカラです。何かがおかしい。

 

残念ながら抜粋元と記載されているブログのどの記事に書いてあったモノなのかは判明しませんでしたが、まぁ、元凶調査なんてしても仕方ないでしょう、何かしらこういう数値がシルクワーム伝説を作り出したと思われます。

 

で、「シルクワーム タンパク質60%」で調べてみると、とあるサイトでこのおおよその数値の参照文献の掲載が!そうだよそう!参照文献マジ大事…っ!!

後は実際の論文を見て、事件解決の方向に持っていきます。

Frye, F.L. & Calvert, C.C. (1989) Preliminary Information on the Nutritional Content of Mulberry Silk Moth (Bombyx mori) Larvae. Journal of Zoo and Wildlife Medicine 20(1): 73-75.

 

1989年の論文で、著者の言う限りでは世界初のシルクワームの栄養素解析の結果ですね。実験結果では、水分76%、乾物重量のタンパク質64%と書かれています。

多分ここから間違った情報が広がり、そして別段誰も疑ったり正そうとしなかったものと思われます。

この「タンパク質64%」は乾燥重量であって、実際の水分豊富なシルクワームは64%もタンパク質は含んでおりません。上記した引用によるとコオロギのタンパク質は20%となっていますが、これは生体重量比の20%、つまり水70%タンパク質20%その他10%であるにも関わらず、比較したシルクワーム60%は乾燥重量のタンパク質比率です。比較のやり方が完全に間違っている。

コオロギのタンパク質20%と比べるべきシルクワームのタンパク質値は昨日の自分の記事に書いた数値である9.3%です。高タンパク質じゃないです。

 

ということで、やっぱりシルクワームは基本水分だよ

シルクワーム伝説は多分ガセだと思うの、個人としては。