Case study 事例紹介
ドラマで文化を浸透させ商品をブランディング
制作側への信任で自由度アップ!他社商品の使用も
「量産型リコ」(テレビ東京)
この事例の担当者
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漆間宏一
テレビ東京 配信ビジネス局
ドラマプロデュース部などを経て、配信ビジネスセンターにて深夜ドラマの制作・ビジネス管理を行う。プロデュース作品「量産型リコ」「捨ててよ、安達さん。」「猫」「八月は夜のバッティングセンターで。」「お耳に合いましたら。」「真相は耳の中」など。
パートナー企業・自治体ご担当者さま
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田口博丈
株式会社BANDAI SPIRITS
ホビーディビジョングローバルビジネス部
デピュティゼネラルマネージャーBANDAI SPIRITSのプラモデル部門のプロモーションを統括。プラモガールズプロジェクトを立ち上げ、総合プロデューサーとして、様々な仕掛けを手掛ける。ガンプラのプロモーション統括およびバンダイナムコグループ ガンダムプロジェクトのメンバーとして、ガンダム全体のプロモーションにも携わる。
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畑中翔太
dea /BABEL LABEL 企画プロデューサー・脚本家
2008年博報堂入社後、博報堂ケトルに参加。2021年dea inc.を設立。
手段とアプローチを選ばないプランニングで「人と社会を動かす」広告キャンペーンを数多く手掛ける。現在では、ドラマや番組などのコンテンツ領域における企画・プロデュース・脚本も務め、「量産型リコ」「お耳に合いましたら。」「絶メシロード」などを手がける。
目次
- プラモデルを文化にするブランディングが目的だった。
- 男性のニッチな趣味というプラモデルのイメージを払拭したかった。
- 「サ道」のようにドラマでプラモデルのイメージを変えようと思った。
- 他社商品も使ってプラモデル業界全体を盛り上げる内容にした。
- バズワードを意図的に作って視聴者と一緒にドラマを盛り上げた。
- 協力企業側も積極的にドラマ制作へ関わって「一緒になって作りあげた」。
- 協力企業が調査したところ、プラモデルの好感度が上がったとの結果が得られた。
- 「ご開帳」や「ギブバース」など、ドラマで使われた言葉が拡散した。
- 「量産型リコ」に映ったプラモデルが欲しいとの声も寄せられた。
経緯
「プラモデルを文化にしたい」からドラマの制作協力が始動
漆間:
ブランディングドラマを企業とやり始めていた頃、次のテーマを考えていた時期に、BANDAI SPIRITSの田口さんからお声がけいただきました。田口さんはテレビ東京の深夜ドラマについてご存知で、「お耳に合いましたら。」や「八月は夜のバッティングセンターで。」という、畑中さんと私たちの事例を紹介したところ興味を持ってもらったのが「量産型リコ -プラモ女子の人生組み立て記-」(以下、量産型リコ)制作のスタートです。
田口:
“この商品が売りたい”ではなく「プラモデルを文化にしたい」と最初に話をしました。男性のニッチな趣味のイメージがプラモデルには色濃く根付いていると思っています。より広い層に親しんでもらうために、プラモデル自体のブランディングやイメージの変化を起こすべきだと私は考えているんです。
さまざまな施策をしていく中で、テレビ東京さんの「サ道」が解決手法としてヒントになりました。オジさんの趣味であると思われがちだったサウナがドラマで取り上げられ、『サウナ、いいじゃん!』と若者が思うようになって、サウナ文化が広がっていったのに私は感動しました。テレビ東京さんと組めば、似たような現象がプラモデルでも起こせると期待したのが最初です。幅広い層の人が持つ、プラモデルのイメージを変えたいと思っていました。
畑中:
依頼内容は非常にシンプルでした。“これを売ってください”みたいなドラマは厳しいと思っていた中、「プラモデル文化を広げるようなドラマにしたい」とのビジョンが田口さんの依頼にはありました。ドラマとして広げやすく、自由にできました。“大きな網はあるが、網の中なら自由に泳いでいい”みたいにいわれると、企画・制作する側は楽しいんです。『この人を入れてみようかな?』『1回1回ちょっと話題を作ってみよう!』とチャレンジできます。設定の仕方が田口さんは巧みでした。
取り組み
「テレ東っぽい」に期待!他社商品も扱ってバズを狙う
田口:
イメージや言葉として「テレ東っぽい」が存在していますよね。イメージや言葉が世間に浸透して確立されていると感じており、おもしろいテレビ局だと私は思っていました。プラモデルを使った作品はほかにもあるものの、商品を売る販促のイメージが強いのではないでしょうか。今回のようにブランディングが目的のときに、ほかとは違う形でテレビ東京さんなら表現してもらえると思ったんです。「サ道」などの実例があったので、「テレ東っぽい」がイメージしやすくて助かりました。
あと「量産型リコ」には、他社商品も登場しました。企画・ストーリーにはまりやすいプラモデルを使用するとの考えからです。もちろんチャレンジではありました。「このようなドラマをやります」と話した後は、『もう自由にやってしまえ!』ぐらいの気持ちで、商品ではなくプラモデルやユーザーを軸に動いたなと思います。プラモデルを作る楽しさが伝わる内容におかげでなりました。
漆間:
企業のブランディングドラマの面もあるので、“新商品→ドラマに出る→売れる”の販促的な流れを作るために、特定の商品を指定されると最初思っていました。しかしプラモデルを自由に選べて、ファン以外にも広まりやすい観点を優先できたのはよかったです。田口さんがプラモデル文化を本当に意識されていると感じました。
畑中:
「他社のプラモデルも入ってくるんだ!」とSNSの反応もよく、ファンの心を掴めたと感じています。「懐が広いドラマだぞ!」と打って出られました。狙いではありつつ、普通に考えると簡単には実現できない部分だったと思っています。またプロモーション目的でSNSでのバズを狙ったワードを私たちのドラマでは入れてきました。今回該当するのが「ご開帳」や「ギブバース」です。まねする文化が放送後に定着しているのを見るとうれしく感じます。
反響・効果
数年後に向けたブランディングだけでなく、好感度アップにつながった
田口:
我々の調査で、ドラマ効果でプラモデルの好感度が上がったとの結果が得られました。もちろんブランディングは、すぐに結果は出ません。そのような中でも、成功だったと数年後にいえる反響が今回あったと思います。さまざまな施策を継続し、プラモデルのイメージ変化を感じた数年後に、振り返えると「量産型リコ」がきっかけとして想起されたら成功といえるのではないでしょうか。今でいうアニメのように、さまざまな会話にプラモデルが登場する文化や空気感が作られ根付いてくれればいいと思っています。
また反響として、ドラマに登場した商品が欲しいとの声が多く挙がりました。アンケートやSNSの反応から、ドラマをきっかけに買ってくださった人がいたこともわかっています。「見たよ!」と取引先からいわれたり社内でもドラマのファンが増えたりしていて、影響は少なからずあったと思っています。
漆間:
「“夏といえば、プラモデルのドラマ”といわれたい」と田口さんが口にされたのを覚えています。ブランディングとして継続的にやっていく姿勢を強く感じました。続編「量産型リコ –もう1人のプラモ女子の人生組み立て記-」の制作もスタートしていて、「60〜70点の微妙なヒットよりは、ホームランか三振でいい。三振でもいいところがあったといえる方がいい」といわれています。私たちが置きにいってドラマが中途半端になると、継続的にやる意味がないと考えています。
ビジョンを共有し一緒に作るからこそ、リアリティが生める。
田口:
制作協力する企業側の話として、「スポンサーだと思って参加しない」のは重要だと感じました。単にCM出稿するときと考え方が違うんです。一緒になって作り上げていく気持ちが必要で、想いやビジョンを共有しながら一緒のチームとして番組制作に臨みました。押さえたいポイントを伝えつつ、お任せできるところはお任せしようと信頼できたとでもいいましょうか。少しでもリアリティを生めた面は、我々の強みが活かせた部分かなと思います。模型店のセットは、我々が一緒になって作り上げなければ、違和感が画面から伝わっていたのではないでしょうか。
漆間:
「このようにしたらおもしろくなるのではないでしょうか?」と、俯瞰した意見をくださってありがたかったです。とくにプラモデルパートは、説明の通りにしないと間違っている場合がありますから。また絶妙な言い方で、“絶対にこのようにして”ではなく、「このようなパターンもありますよ」と選べる・考えられる余白を作ってもらいました。その許容が非常にありがたかったです。
畑中:
ブレさせてはいけないビジョンの認識を合わせつつ、“餅は餅屋”としてお互い信頼し合いながら、それぞれの領域で自由にクリエイティビティを発揮するのが大事です。それが今回はピタッとハマったと思っています。やり方が違うと、「量産型リコ」ほどのいい作品は生まれていないといっていいぐらいです。
テレ東と だからできること
テレ東だからできた自由度や柔軟性の高い番組制作
漆間:
テレビ東京の深夜ドラマは自由度や柔軟性が高いと思います。マネタイズに配慮しつつ、企画のおもしろさやバズる仕掛けなどが設計できたら企画が通る文化です。おもしろい題材と、制作協力してくださる企業がいれば、畑中さんのようなクリエイターと一緒に企画性・発展性を磨き上げて番組にしてしまう点はテレビ東京の強みだと思います。
さらに「『量産型リコ』、見ました!当社ともできませんか?」との問い合わせも増えています。ほかに先駆けて制作協力によるドラマ作りをテレビ東京はやってきました。そのため実例を多く見せられ、「テレ東っぽい」を理解してもらいやすいのも強みです。
ドラマによるブランディングに興味を持ってもらえるのが成功の第一歩だと私は思っています。依頼をもらえれば、「いいドラマを作ります!」と自ら楽しめるチームです。多くの自治体や企業から依頼がもらえるのを楽しみにしています。
畑中:
「マーケティング」をいい意味でしていないのが、テレビ東京にはポジティブに作用しているのかもしれません。“この時間帯はこれ”と条件が狭められないため、積極的に・自由に考えられます。自由にできるのは制作側へのプレッシャーになりますが、『絶対話題にしたい!』と思う私には一番いい環境です。
また外部の人間として「量産型リコ」を俯瞰すると、テレビ局と制作協力先の力を両方使えたイメージがあります。マスへのパブリシティにテレビ東京の力を使うのはもちろん、イベントやファンコミュニティなどの活用にくわえ、コンテンツ側の交渉もBANDAI SPIRITSさんが基軸になって進めてくださいました。私たちチームだけでは不可能なことも実現できたと感じています。局だけでドラマを作っているときとは違う、もう1個の武器が使える感覚でした。