JR西日本が挑む“移動を超えた”ビジネスモデルの構築 | BIPROGY TERASU

JR西日本が挑む“移動を超えた”ビジネスモデルの構築

BIPROGYとの共創で拓く社会DXへの展望

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コロナ禍による移動需要の減少を契機として大きな転換期を迎えている西日本旅客鉄道株式会社(以下、JR西日本)。同社の「中期経営計画2025アップデート」では「デジタル戦略による多様なサービスの展開」や「新たな事業の創出」など5つの重点戦略が掲げられ、現在、移動に頼らない新たな事業の柱の創出に挑戦している。中でも大きな取り組みの1つが新たな決済サービス「Wesmo!(ウェスモ)」のサービス導入だ。BIPROGYは、このプロジェクトを共創パートナーとしてサポート。変革を推進し、新たな未来へと向かう両社の取り組みについて、JR西日本の奥田英雄氏とBIPROGYの永島直史が語り合った。

ヘッドライン

鉄道ビジネスの大きな転換点。共創パートナーとして同じ目標を目指す

――JR西日本の新たな価値創出に向けて、お二人はその中核に携わっています。まずは、現在の主な取り組みをお聞かせください。

奥田2020年11月にデジタルソリューション本部が設立され、立ち上げ時から副本部長として関わり、翌年に本部長になりました。ポストコロナの時代において、デジタル技術やデータ活用は必須です。課題解決に向け、その先導やサポートをするのがデジタルソリューション本部の役割です。

西日本旅客鉄道株式会社 取締役 兼 常務執行役員 デジタルソリューション本部長 奥田英雄氏
西日本旅客鉄道株式会社
取締役 兼 常務執行役員 デジタルソリューション本部長
奥田英雄氏

永島BIPROGYは「Vision2030」をメッセージアウトし、持続可能な社会の実現に向けて多様なパートナーとの共創を実践しています。キーワードは、コア事業と成長事業の両輪で社会的価値と経済的価値を創出することでの「デジタルコモンズ(※)の推進」。私は経営方針で示した「コア事業」と「成長事業」を担う両部門の責任者として、志や共感を礎にしたさまざまな取り組みを推進しています。

  • デジタルコモンズ:BIPROGYでは、社会にすでに存在する私有財や余剰財を、デジタルの力で追加コストの少ない共有財として広く利活用可能にすることで社会的価値と経済的価値の両立を可能とするコミュニティと定義している
BIPROGY株式会社 常務執行役員 CMO 永島直史
BIPROGY株式会社
常務執行役員 CMO 永島直史

――JR西日本は、2024年4月に中期経営計画のアップデート版を発表されました。現在のビジネス概況について教えていただけますか。

奥田コロナ禍による経営への打撃は大きいものでした。その影響をどのように解決するかは、依然として鉄道業界の課題となっています。例えば、2020年4月の第1波では山陽新幹線の利用率が対前年比11%まで落ち、駅から人が消えました。当時は「すぐに落ち着く」と思っていたのですが、その後も第2波、第3波と繰り返され、実は今でも90%までしか回復していません。

いかに移動需要を創出できるか、そして移動に頼らない新しい事業を創出できるか――。この2つが私たちにとって大きなテーマです。当グループでは、ホテルやショッピングセンターなども運営していますが、ほとんどが駅周辺にあります。そのため、駅から人がいなくなるとビジネスが成り立たないのです。事業の多角化のためには、いわば“鉄道一本足打法”を打破し、移動に頼らない新しい柱を作る必要があります。コロナ禍により表出した課題を成長の機会と前向きに捉え、変革に取り組んでいます。そして、やはりデジタル化は必要な要素です。デジタル技術を軸に据えて、鉄道事業の構造改革や高付加価値化を進めていきます。その取り組みの推進過程でBIPROGYさんとの共創が始まりました。

永島JR西日本さんは従来の鉄道事業から一歩踏み出し、新たな社会的価値を創出しようとされています。現在は、このあと詳しくお話する「Wesmo!(※)」の決済サービスのほか、2025年の大阪・関西万博の大阪ヘルスケアパビリオンでのミライのヘルスケア体験の実現に向けて、健康状態の計測サービスなども一緒に手掛けています。我々がIT企業として新たな社会的価値を創出し、世の中に提供していきたいと考えていたタイミングと合致したこともあり、大変共感しました。

  • Wesmo!(ウェスモ):JR西日本にて、第二種資金移動業の登録完了を前提に2025年春のサービス開始を目指し、導入準備中の新たな決済・ウォレットサービス。JR西日本が提供するJ-WESTカード、ICOCAに続く、新たな決済サービスとなる

JR西日本さんとの共創は、20年ほど前から始まっています。2002年の人事ワークフローシステムから、会員管理システム、お客様センターのシステムの開発などが主な内容です。その後、共創として、MaaSアプリの「setowa(せとわ)」をリニューアルし、北陸、瀬戸内、山陰エリアの経路検索や観光グルメの割引チケットの購入等ができるように進化させたアプリ「tabiwa(たびわ)by WESTER」、関西の鉄道7社が提供している、関西地域のスポット情報や経路検索ができるアプリ「KANSAI MaaS」などをご一緒に手掛けてまいりました。

奥田特にsetowaは印象深い共創になりました。切符の購入をみどりの窓口に並ばず、アプリ1つで完結できるようにしたいと考えて開発に取り組んだのですが、当社だけでは難しい部分が多々ありました。そこでリニューアルのタイミングで、BIPROGYさんに協力をお願いしました。あの時は本当に助けられました。

また、当社は2016年にCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を立ち上げており、GiXo(ギックス)さんへの出資を検討していました。その際、当社より先にBIPROGYさんが出資されており、驚きとともに「挑戦する会社だな」と共感や親近感を覚えました(参考:対談:「データインフォームド」で未来社会を変える)。永島さんとは公私ともにさまざまな場でご一緒し、多岐にわたりお話させていただいています。出会った当初から、「向いている方向が同じ」との感覚がありました。

共感を軸にしたチームで新たな金融サービスに挑戦

――現在開発中の「Wesmo!」は、JR西日本が挑む新たなビジネスモデルにおいて、大きな柱となる取り組みの1つです。どのようなサービスなのでしょうか。

奥田Wesmo!は当社が新たに提供する決済サービスです。まさに、移動需要を自ら生み出すことと、移動に頼らない新しい事業を創出することの両方を満たすと考えています。もともと私たちが持っていた、駅を中心としたホテルやショッピングセンター等のお客さまとのリアルな接点、近年開始したエリアや時間を限定せず、24時間365日全世界の人とつながることができるアプリに加えて、より日常での強固な接点を構築するため、本サービスが生まれました。

具体的には、個人のお客さまには個人間送金やコード決済、法人のお客さまには低コストで手軽に導入できるキャッシュレス決済や売上金の翌日受け取りによる資金繰りのサポート、仕入先への支払い等にも使える企業間送金などの機能を備えています。サービスコンセプトは「Moving is Value」。人、まち、社会がもっとつながり、あらゆる動きを活性化し、さまざまな場面で価値が生まれる世界を創ることを目指しています。

金融サービスに参入するには、ユーザーの安心と信頼が必須です。この点、我々には長年お客さまと築いてきた信頼関係があると自負しています。さらに、ポイントがたまる、お得につかえるメリットを生かせば、多くのお客さまにご利用いただける可能性は十分にあると考えます。QR決済であれば初期投資がほとんど必要ないので中小企業の皆さまにも導入しやすいですし、クレジットカードを所持できない18歳未満の若者たちともつながることが可能です。

BIPROGYさんにはこのアプリの心臓部となる機能を設計いただいています。

写真:永島(左奥)、奥田氏(右手前)

永島2年ほど前に、大阪で直接奥田さんにお会いしてWesmo!のお話を伺いました。鉄道を地域の基盤と捉える考え方は、まさに我々が目指すデジタルコモンズの考え方と共通しています。沿線が地域の共有財となり、地域を活性化していくことにつながるのではないかと、一気に期待が膨らんだのを覚えています。Wesmo!は、移動に新たな価値を加える、大変斬新なサービスです。ビジネスパートナーとして一緒に実現させていきたいと考えました。

これまで、当社のビジネスはお客さまの業務効率化等による顧客課題解決が中心でした。しかし、これからは「ビジネスパートナー」として、お客さまと一緒に、社会課題を解決し新たな価値を生み出すことにもより積極的に取り組んでいきます。本件では確かなビジョンを共有し、共感をベースに同じ目的意識をもって取り組むことができています。

奥田世の中にまだないサービスをつくるので、我々にとっては大きな挑戦になります。思いに共感してもらい、かつ我々が間違っている部分があれば、きちんと指摘していただけるパートナーを求めていました。BIPROGYさんのご紹介でデザイナーさんやスタートアップのIT企業にも入ってもらって、共感を軸にしたチームができたので、ここまで走ってこられたと思っています。

加えて、我々がBIPROGYさんと共感できた背景には「コモン」の考えも大きく影響していたと思います。Wesmo!によってつくる経済圏は、囲い込みの考え方ではありません。地元の自治体や企業も共感を基軸に参画し、メリットを受けられる世界をつくりたい。近い将来、従業員への給与支払い、自治体からの補助金給付への活用などへの展開も見据えています。コモン=共有財としてこのサービスを生かしていきたいとの思いに共感があると、BIPROGYさんと会話を重ねるたびに感じています。

永島去年の夏に、当社のプロジェクトメンバーとJR西日本さんとで合宿をしましたよね。やはり日々の業務の中では話せる内容も限られます。それまではBIPROGYがどんな技術やアセットを持っているのか、ゆっくりお話する機会がありませんでした。今後Wesmo!を実現し成長させていく上で何かヒントを得る機会になればと考えて実施しました。

写真:永島(左)、奥田氏(右)

奥田鉄道会社とIT企業の合宿なんて、普通だと考えられないでしょう(笑)。両社から10人ほどが参加して、お互いの取り組みを共有し、さまざまなディスカッションを行いました。また、仕事だけでなく一緒に食事をしたり野球を見たり、何時間も一緒に過ごす中で、企業の枠を超えた一体感が生まれたのを感じました。

人の心を動かすサービスで街を活性化し日本を元気にする

――今後のビジョンや目指す社会について、お聞かせください。

永島繰り返しになりますが、我々は今、デジタルコモンズという新しいコミュニティの創出と提供に取り組んでいます。社会にあるさまざまなアセットをデジタルの力でつなぎ合わせて、多くの方々に使っていただけるサービスを提供していきたい。それが社会課題解決や社会的価値の創出につながり、結果的に経済的な価値をも創出する。

こうした取り組みを推進していきたいです。これは当社だけでは成し得ません。JR西日本さんとは引き続き地域の沿線をコモンズと捉え、多岐にわたる取り組みを推進します。我々が持つデジタルの強みを活かしながら、様々な強みを持つ方たちと今後さらに共創の輪を広げていきたいと考えています。

奥田お話しした通り、我々のビジネスは一大転換期を迎えています。コロナ禍を経て、改めてグループのパーパスに当たる「私たちの志」を策定し、「人、まち、社会のつながりを進化させ、心を動かす。未来を動かす。」と宣言しました。つながりを進化させていくこと、そしてこれまでの駅周辺のハードを中心にした街づくりから、人の心を動かすソフトを中心とした街づくりへとシフトし、新しい挑戦をしていきたいと考えています。

その最も大きなサービスがWesmo!です。安心・安全を大前提に、最新のテクノロジーを駆使しながら、ポイントなども活用して使えば使うほどうれしい、使いたくなるものにしていきたい。同じ目標を共有するプロフェッショナルのチームが一丸となってサービスを開発し、それによって街が活性化し日本が元気になっていく――。そんな世界を目指していきたいと思います。

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