リスキリングで賃金が上がるのか? 経験者の昇給は1割にとどまる
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最近、政府が助成制度を拡充するなど話題になっている「リスキリング」。メディアで目にすることの多い単語ですが、実際、現在リスキリングを意識している人はどのくらいいるのでしょうか。また、リスキリングにどのような期待を抱いているのでしょうか。
マイナビ転職では、20~59歳の会社員の皆さんに独自の調査を実施しました。リスキリングへのイメージや、経験者の変化、興味を持ったきっかけ、企業に求める支援制度など、気になる実態を調べました。
※調査対象は、20~59歳の会社員。WEB調査で2023年1月6日(金)~1月8日(月)までに行ったアンケート調査結果を基にしています。
INDEX
- リスキリングの経験率は44.8%
- リスキリングへの主なイメージは、「仕事や働き方の選択肢が広がる」
- 全体の約8割が、リスキリングが必要と回答
- リスキリングを実践したいが7割。ただし、プライベートの時間を使う/費用自腹だと約半数に
- 興味を持ったきっかけは半数以上が「自分のためになると思ったから」
- 希望する学習ツールは、20代は動画、30代はWebテキスト、40代はWebセミナー
- 「リスキリングの実施で、勤務先での評価が上がると思う」は半数にとどまる
- リスキリングに期待することは「仕事の幅が広がる」「仕事に役立つ」「昇給」
- リスキリングを現在行っていない理由として、「時間がない/忙しい」「何から始めればいいか分からない」が上位に。
- リスキリングに前向きになる報酬額は月額1万円(中央値)
- リスキリングを実施した結果として、「資格の取得ができた」が最も多い回答結果に
- 企業に求める支援制度は「費用負担」「賃金に還元」「就業時間内の学習可」
リスキリングの経験率は44.8%
初めに、リスキリングをしたことがあるかを聞いてみたところ、44.8%が経験したことがあると回答。リスキリングを過去にしていた人も、現在している人も、「勤務時間」より「プライベートの時間」を使っている人が多い結果となりました。経験者は業務時間外に自主的な行動として行っているケースが多いのが現状です。
リスキリングへの主なイメージは、「仕事や働き方の選択肢が広がる」
次に、リスキリングのイメージについて聞いたところ、「仕事や働き方の選択肢が広がる」「転職しやすくなる/やりたい仕事に挑戦できる」「達成感を得られる/自信がつく」といった回答が上位に挙がりました。
年代別では、20~40代は「将来的に給料が増える」、50代では「達成感/自信」がほかの年代より高いのが特徴的です。50代では定年が近いことが影響していると考えられます。
企業規模別では、大企業(従業員1,000人以上)はすべてのポジティブイメージにおいて、中小企業(従業員999人以下)のスコアを上回る結果に。一方、中小企業は「お金がかかる」「自分には難しい」などのネガティブイメージが大企業より高く、リスキリングに対して高いハードルを感じていることがうかがえます。
リスキリング経験別では、経験者のほうがポジティブなイメージを持っており、「効率化や生産性向上」「人の役にたてる」では未経験者に対してダブルスコアをつけています。経験者は「達成感/自信」も42.2%と高く、リスキリングで身に付いたものが、日々の業務のなかで生きていると実感するシーンがあるのかもしれません。
全体の約8割が、リスキリングが必要と回答
続いて、リスキリングの必要性について聞いたところ、79.6%の人が「そう思う・計」と回答。年代別では、20代の「とてもそう思う」がほかの年代より高い結果に。社会人歴の短い若年層ほどスキルアップの必要性を感じている様子がうかがえます。また40~50代は前述のとおり、リスキリング離脱者が一定数いることもあり、経験したうえで必要がない(そう思わない・計)と感じている人もいる可能性が考えられます。
リスキリングを実践したいが7割。ただし、プライベートの時間を使う/費用自腹だと約半数に
次に、リスキリングの実践意向について聞いてみたところ、75.8%が「実践したい」と回答しています。しかし、実施するうえで「プライベートの時間を使う」「出費が伴う」などの条件を加えると、実践意向は下図のように減少。歩留まり率を見ると、条件のない実践意向者のうち、約2割強がプライベートの時間までは使いたくないと感じています。更に、出費を伴う場合、実践意向者の約4割が離脱する結果に。
リスキリング経験別では、経験者の歩留まり率が7~8割台を維持しています。対して未経験者は、それぞれの実践意向率自体のスコアが低く、歩留まりに関しては出費が伴うと半分が離脱する状況です。リスキリングにかかる費用は政府や企業が負担するかつ、業務時間内に実施できるかどうかが、未経験者を取り込む際の鍵になりそうです。
興味を持ったきっかけは半数以上が「自分のためになると思ったから」
続いて、リスキリングに興味を持ったきっかけを聞いたところ、「自分のためになると思ったから」が最も高く、次いで「仕事で知識不足・スキル不足を感じた」、「賃金アップにつながると知ったから」が続きます。
年代別では、女性20~30代の「賃金アップにつながると知ったから」がほかの年代より高い結果に。特に女性20代では4割弱に上り、賃金アップの願いが切実であるとうかがえます。職種別では、IT系専門職と営業職の約2人に1人が「仕事で知識不足・スキル不足を感じた」のがきっかけになっています。
次に、新たに身に付けたいスキルを聞いたところ、「資格系」が最も高く、次いで「語学系」、「IT系」が続きます。調査のなかでは具体的にどのような資格が人気かは聴取していませんが、一般傾向として、ビジネスパーソンの中で人気の資格は、「宅地建物取引士」「ファイナンシャルプランナー」「行政書士」などのようです。
希望する学習ツールは、20代は動画、30代はWebテキスト、40代はWebセミナー
続いて、リスキリングを行う方法を確認したところ、「WebテキストやWebテスト」が最も高く、次いで「動画コンテンツ」、「書籍など紙媒体」が続いています。
年代別では、20代は「動画コンテンツ」がほかの年代と比べて非常に高く、「Webセミナー」が低い結果となりました。反対に40代では「Webセミナー」が最も高く、全体と比べても5pt以上高い割合となっています。
20代は動画メディアが身近であることに加え、自分のタイミングで実施できるという点に魅力を感じているのかもしれません。反対に40代は人がリアルタイムで教えてくれる方法を希望していることが推察できます。
「リスキリングの実施で、勤務先での評価が上がると思う」は半数にとどまる
リスキリングのモチベーションに大きく関わると思われるのが勤務先での評価。そこで、リスキリングが勤務先での評価につながりそうか確認したところ、「そう思う・計」は50.6%にとどまりました。職種別では、IT系専門職が高めの傾向。IT系専門職ではスキルや業務内容で賃金に差が出やすいなど、もともと評価が見えやすい環境が整っていることが一因としてありそうです。
ただし、リスキリング経験別に見ても、経験者でさえ「そう思う・計」は6割程度にとどまりました。リスキリングをすれば評価につながる、と言い切れるわけではなさそうです。更に未経験者は6割が「そう思わない・計」と回答。評価を期待できていない人が多数派を占める結果となりました。
リスキリングに期待することは「仕事の幅が広がる」「仕事に役立つ」「昇給」
次に、リスキリングに期待することを聞いたところ、「仕事・働き方の幅を広げること」の回答が最も高く、次いで「学んだ知識をいまの仕事・業務に役立てること」、「昇給」が続いています。
年代別では、20~30代では「良い条件で転職すること」「転職して、希望の職種に就くこと」などが40代以上より高い結果に。仕事や働き方の選択肢を広げ、より自分らしい生き方を獲得する手段の一つとして、リスキリングを捉えているのかもしれません。
リスキリングを現在行っていない理由として、「時間がない/忙しい」「何から始めればいいか分からない」が上位に。
続いて、リスキリングを現在行っていない理由を確認したところ、「時間がない/忙しい」や「何から始めればいいか分からない」、「勉強にお金をかける余裕がない」といった理由に回答が集まっています。
年代別では、30~40代は「時間がない/忙しいから」が目立ちます。リスキリングはプライベートの時間を削って行うケースが多い現状では、結婚や子育てなど時間の使い道がよりシビアになっていく年代ではなかなか難しいのでしょう。
一方、20代は「何から始めればいいか分からない」「キャリアプランが明確ではない」がほかの年代より高い結果となりました。20代では社会人歴がまだ短く、自分に合ったキャリアや今後のスキルを伸ばす方向性を模索中であることが推察されます。どのようなスキルを身に付ければどのようなキャリアの可能性が広がるのか、示すことも重要と言えそうです。
リスキリングに前向きになる報酬額は月額1万円(中央値)
続いて、リスキリングの実施を検討する報酬額を聞いてみたところ、最多回答、全体の中央値共に月額1万円、次いで「5,000円」、「5万円」が続く結果となりました。わずかな金額でもよいから昇給してほしいといった、賃金に対する切実な要望を感じ取ることができますが、5,000円から1万円はいわゆる「資格手当」として一般的なライン。
企業や国がリスキリング人材を育てる意図としては、DX化や生産性の向上、業容の革新など、変わりゆく社会で企業が生き残るために必要な人材を育てるためであります。リスキリング人材に期待される役割を思うと、5,000円から1万円という報酬額は少々低めと言えるかもしれません。リスキリングの役割について、推進者と労働者の間で認識の差があると見ることもできるでしょう。
リスキリングを実施した結果として、「資格の取得ができた」が最も多い回答結果に
次に、リスキリングを実施した結果を聞いてみたところ、「資格の取得ができた」が最も多く、次いで「時間確保やコストの確保が大変だった」、「身に付けたスキルを生かせていない」が上位に挙がりました。会社からの評価として確実な「昇給」「昇進・昇格」は共に低い数字に。
これまでの結果では、経験者はリスキリングをやって良かったと感じている回答が多かったですが、実利的な還元という観点で見ると、目に見える効果があまりない様子が見受けられます。
企業に求める支援制度は「費用負担」「賃金に還元」「就業時間内の学習可」
次に、リスキリングを行うにあたり勤務先にあったらうれしい制度を聞いてみたところ、「学習費用を会社が負担してくれる制度」が5割超で最も高く、次いで「賃金に還元される制度」「就業時間内にリスキリング(学習)を実施していい制度」が続きます。
前述のとおり、リスキリングの必要性を実感していても、金銭的・時間的コストがネックになっている人は多い様子。そこを企業がサポートできれば、リスキリングへのハードルは下がるのかもしれません。
ビジネスパーソンがリスキリングするかどうかは今後、変わりゆく社会で労働者としての市場価値を維持するために重要ですが、今回の調査では、ユーザーがリスキリングのメリットを実感できていない現状が明らかになりました。特に、昇給に関しては期待に対して、実際に経験者が体感しているのは11%と大きなギャップがあります。
今後リスキリングの定着には、企業がリスキリング行動をどのように評価するのか、積極的に情報開示していくことが不可欠と言えるでしょう。
また、20代はリスキリングをやっていない理由として「キャリアの方向性が決まっていない」「どんなスキルを身に付ければいいか分からない」の回答も一定数見られる結果に。どのようなスキルを身に付けることでどのような領域にキャリアを広げていけるのか、リスキリング経験者の事例や、仕事や領域ごとにどのようなスキルを求められるのかを公開しておくなど、キャリアやリスキリングのガイドをしてあげることが必要と言えそうです。
マイナビ転職 編集部
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【調査概要】マイナビ転職『リスキリングについての調査』
調査期間:2023年1月6日(金)~1月8日(日)
調査方法:20~59歳の正社員を対象にWEB調査を実施
有効回答数:800名(内訳:20~59歳の各年代200名ずつ)
※調査結果は、端数四捨五入の関係で合計数値と合わない場合があります
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【本件に関するお問い合わせ先】
株式会社マイナビ
転職情報事業本部 サイト戦略広報部 ブランド推進課
Email:mt-brand@mynavi.jp
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