林真理子 『野心のすすめ』を3年ぶりに読む
新しい仕事が始まるまで少しだけ休みがあるので、近頃は資格の勉強のほかに、本を読むようにしている。
最近家の本棚を漁っていると、懐かしい本が出てきた。林真理子著『野心のすすめ』である。
この本を母にもらったのは、確か大学3年生になる直前であったと思う。その頃、大学の成績は最悪で、留年スレスレ、バイトしては旅行にお金を使い果たし、20代のうちはフリーターでもやりながらふらふらしたいとのたまうとんでもないクズであった。
そんな私を見かねて、母がこの本をプレゼントしてくれたのだ。仕事をするってどういうことか、これを読んで自分の将来のことちゃんと考えなさい、と。
林真理子の著作は『ルンルンを買っておうちへ帰ろう』しか読んだことがなく、テレビにたまに出る派手好きな作家、という程度のイメージしかなかった。
『野心のすすめ』を読んだ後でも、そのイメージはあまり変わらなかったのだが、しかし、林真理子自身の苦労話、売れない時代の生活から這い上がって成功する様が書かれているのはおもしろかった。
当時大学3年生の自分の中で一番印象に残ったのは、飛行機のエピソードである。
この作品の中で、林真理子は、かつて若い頃に共にバックパッカーとして貧乏旅行をしていた2人の女性が、数十年経って中年になり、再び旅行に行こうとなったときの例を書いている。
ひとりは仕事が成功してかなり稼いでいる。旅行はもっぱらファーストクラスを利用しているので、今回の旅行もファーストクラスの飛行機で行きたい。
一方もうひとりの方はというと、あまりお金の余裕がなく、長距離の旅行だってエコノミークラス以外の選択肢を考えない。
さて、この2人が一緒にニューヨークへ行こうと思ったとき問題が起こる。
お金持ちの彼女が友人に合わせてエコノミークラスに変えるとする。しかしファーストクラスに慣れてしまった彼女には苦痛だろう。
かといって、2人がそれぞれファーストクラスとエコノミークラスとに分かれて搭乗し、じゃあまた現地で会いましょう、なんてのも気まずい。
昔は一緒に旅行できた2人にこのような差が生まれたのは紛れもなく「やってきた仕事」と「稼いできたお金」によるものである。
このエピソードを読んで、当時のちゃらんぽらんな自分は少し真剣に就活を考えるようになった。
今の自分はよくても、中年になったときの自分が惨めな思いをしないように、ある程度の職についてなきゃいけないんだと。
公務員試験を受けたのもその気持ちによるところがかなり大きい気がする。
最近読み返してみると、当時は気にも留めなかったところに引っかかってしまった。
"いま「低め安定」の人があまりに多いんじゃないでしょうか"
「低め安定」。これって公務員だなあと思う。
なんのスキルもないし、役所から出たら生きていけないような人がたくさんいる。少ない給料だけどやめない限り身分は安定している。
いやもちろん稀にものすごく優秀な人もいるのだが、残念なことに体良く仕事を押し付けられるばかりで、正当に評価されることはあまりない…
林真理子自身も「低め安定」の立場に甘んじて適当に生きていた時間もあったようだが、自己顕示欲と、こんなところで終わる人間じゃない!という自分を信じる力で道を切り開いていった。
だけど、低めだとしても安定感はあった生活を、何かの挑戦のため捨てるということは、一度は「低め不安定」を経験しなければならない。そこから頑張って這い上がれば「高め不安定」になれるし、もっと努力すれば「高め安定」を手に入れられるのかもしれない。
『野心のすすめ』は改めて仕事に真剣に向き合おうとか、これから就活しようとかいう人は絶対に読むべきだ。
働くことの難しさを感じるとともに、働くって面白そうだなと思わせてくれる、力強い作品だから。
価格:799円 |