今年1月に研究開発部から分離して発足しましたスマートキッチン事業部の山本です。
スマートキッチン事業部では、クックパッドが提供するレシピ情報を様々な家電機器と連携させて、料理体験をより楽しく快適にする、スマートキッチンサービス OiCy の開発をすすめています。
クックパッド社内に工房(Fab)を作りました
スマートキッチンサービスOiCyは、レシピ情報と家電機器の連携で生み出されるサービスで、サービス開発に加えてサービスと連携する家電機器が必要になります。そのため、家電メーカーとの連携をすすめていますが、同時に自前での家電機器開発も行っています。そして、自前の家電開発を効率的に行なえるようにする目的で、社内で加工製作ができる工房(Fab) を、恵比寿のクックパッドオフィス内に立ち上げました。工房には、3Dプリンタやレーザーカッターなどの加工設備が設置されており、業務内外を問わず社員の利用が可能になっています。(要安全講習)
工房生まれの自前(改造)家電たちの紹介
この工房で生まれた、クックパッド自前(改造)家電の一部が、先日開催されたスマートキッチンサミットジャパン2019(SKSJ2019)で公開されました。
・PC Watch ロボット化する家電から寿司シンギュラリティまで、人を食でエンパワーする「スマートキッチンサミット2019」 森山 和道
・CNET JAPAN 未来の台所を創造する「SKSJ 2019」から見えてくるもの 近藤克己
OiCy Water
※現状ではクックパッドのレシピ全てに硬度に関する記述があるわけではありません。
↓水の硬度が料理に与える影響についてはこちらを参照
・SKSJ2019 ⾃分の「おいしい」を⾃分でつくれる感動を クックパッド 金子晃久
OiCyWaterの構成
制御用のマイコンシステムにはM5Stackを使いました。理由は、技適が取れていてかつとても安価、ネット上に参考にできる情報が豊富にあって、ライブラリも充実しているからです。周辺デバイスへの信号は、モーターの速度制御をするPWM信号のみM5StackのGPIOから直接出していますが、それ以外はI2C接続したGPIOエクスパンダを経由してやり取りをしています。GPIOエクスパンダ側で、信号の変化を割り込み制御をする予定でしたが、WiFiのライブラリと同時使用するとファームにリセットがかかるという現象があり、イベント直前で時間がなかったためこの問題解析は保留して、割り込みなしのポーリングで、ジョグやモーターの回転を拾う処理になっています。
モーターの回転は、チューブポンプの回転部分とポンプ外装の間に隙間があるので、100円ショップのネオジウム磁石をそこに接着、ポンプ外側に設置した磁気センサから非接触で回転検出をしています。この方法では回転方向は分からないのですが、チューブポンプは負荷が非常に大きくギア比の大きなモーターが付いており、外部から強制的に回すことはほぼ不可能です。そのためポンプ回転部分はモータードライバに入れている信号の向きにしか回らないため、特に回転方向を検出する必要はありません。磁石の貼り付け位置を、チューブポンプのローラー部分にすることで、水の排出綺麗に途切れるところで正確にモーターを止められる”位置制御にも利用しています。
OiCyサービス対応電子レンジ
SIGMAの構成
電気量販店で、改造しやすそうな電子レンジを探すところから、開発は始まります。改造用の電子レンジを選択する上でのポイントは、液晶表示やタッチパネルなどを用いてるものは、現在の状態を正確に把握するための難易度が高いため避けます。LEDのみ、物理スイッチのみでUIが構成されていて、かつスイッチに複数の機能が割り当てられていないものが好適です。
OiCy Waterと同様に、制御用のマイコンシステムにはM5Stackを使いました。この電子レンジは、UIが、LEDと2つのジョグスイッチだけで構成されていたので、これらの入出力と扉の開閉センサをロジック回路処理(時分割表示のLED信号の復調回路)を噛ませてGPIOエクスパンダに接続し、M5Stackからは全体が一つのI2Cデバイスとして見えるようにしました。
外装は、操作パネル部分のジョグやLEDをすべて外し、レーザーカッターで加工した3mm厚の乳白色のパネルで覆い、表面上からはM5Stackの表示パネルとボタンのみしか見えない構造になっています。スマホからのレシピ情報転送以外に、M5Stackのボタン操作によるレンジ設定変更が可能です。加熱のスタートやキャンセルはドアの開閉で行い、ボタン操作は不要です。
OiCyサービス対応IHプレート
OMEGAの構成
改造用のIHプレートを選ぶポイントも電子レンジとほぼ同じです。リバースエンジニアリングの結果、この機器は本体部分とUI部分をクロック同期式の変則的な双方向シリアル通信で構成されていることが分かったので、UI基板を取り外し、代わりにロジック回路処理(入出力信号の分離)を噛ませてGPIOエクスパンダに接続して、M5Stackからは全体が一つのI2Cデバイスとして見えるようにしました。
外装は、UIパネル幅に対してM5Stackの方が奥行方向に長いため、張り出した顎の部分を3Dプリンタで成形して、表面処理をした上で塗装したものを取り付けてあります。パネル部分は、電子レンジと同様にレーザーカッターで加工した3mm厚の乳白色のパネルで覆って統一感を持たせてあります。
社内に工房がある強み
製品やサービス、機能など、我々がこれから作ろうとしているものが、本当に顧客にとって価値があるのか?モノができてから実際にユーザーに提供してみたら、期待した価値がなく失敗・・・のでは時間と資本を大きくロスしてしまいます。そこで、我々は、Googleのスプリントに則って、3〜5日で課題から仮説を導きだし、ソリューションを立て、プロトタイプを作り、ターゲットユーザに当てて仮説検証を行う、という方法をよく用いています。
↓高速コンセプト開発メソッドについてはこちらを参照
・SKSJ2019 一週間で回す高速コンセプト開発メソッド教えます クックパッド 佐藤彩香
スマートキッチン事業部でも、短いものでは3日程度で、ハードウェアのプロトタイプを作って、実際にユーザーに使ってもらって、顧客価値を検証しています。今回紹介した3つの家電デバイスは、各2週間程度の開発期間がかかっていますが、顧客価値検証用に現場で実際に使用し、継続的に改良が行われています。こういった機器の開発改良は、外部のリソースに頼っていてると短時間での開発は難しく、価値検証に時間がかかってしまいます。使いたいときにいつでも加工・製作に使える『場』と『機材』が社内にあることは、超高速ハードウェアプロトタイピングでは極めて重要です。そして、この『場』と『機材』を活かしきれる、メカ設計〜加工〜回路設計〜回路製作〜ファームウェア設計実装〜実機デバッグといった一連のプロトタイプ開発を一人で一貫してできる、フルスタックエンジニア人材を絶賛募集中です。
まとめ
『その程度のプロト、俺がやれば1週間でできる!』『3日でできる!』というプロトタイプエンジニアスキルをお持ちの猛者のかたは、是非我々のプロジェクトにJoinしてください。
・クックパッド キャリア採用 職種:プロトタイプエンジニア(スマートキッチン)
同時に、こんなイカれたデバイスを操作するiOSアプリを書きたいという、キワモノ好きのiOSエンジニアとデバイスとアプリをユーザーとつなぐ素敵なUI/UXデザインを担当するデザイナーも絶賛募集中です。
・クックパッド キャリア採用 職種:iOS エンジニア
・クックパッド キャリア採用 職種:UI/UXデザイナー(スマートキッチン)