こんにちは!SmartHRのプロダクトマネージャーのgackeyです。
この記事は「SmartHRのプロダクトマネージャー全員でブログ書く2024」への参加記事です。25人が持ち回りで毎週記事を投稿します。ぜひご覧ください! 実は私が持ち回りラストです。トリにふさわしいかどうかドキドキしています。
SmartHRでは、2023年の9月に初めて、スマートフォン向けのネイティブアプリ(以下アプリ)をリリースしました。 現在順調に(どころか予想以上の勢いで)利用ユーザー数も伸び、ホッと胸をなでおろしつつ、次へ向けて仕込みを進めています。
「もっと早く欲しかった!」「ずっと待ってた!」というお声もたくさんいただき、PMとしては喜びもひとしおな一方、このアプリのリリースには、構想から足かけ1年半を要しました。 この記事では、SmartHRが行ってきたネイティブアプリの検証における試行錯誤についてご紹介します。
ずっと作りたかった!でも…
SmartHRでは、以前から「アプリないんですか?」とご要望の声をいただいていました。サービス誕生から今年で9年目、非常に多くの企業にご利用いただき、現在では数万名規模の企業にも導入いただいている状況です。アプリを出せば、すぐにでも使ってもらえそうな母集団が形成されているようにも感じられます。
それでもずっと踏み出しきれずにいたのには3つの理由があります。
- 主要な画面はスマホに最適化して開発されてきたこと
- 以前、PCがない店舗向けにiPadアプリを提供し、クローズした経験があること
- スキルセットとして社内の開発体制が構築しにくいこと
1つめは、「スマホブラウザで既に十分に利用可能な、かつ多くの従業員にとって毎日つかうわけではないツールがネイティブアプリで利用されるのだろうか?」という懸念です。そこに、2点目の理由が輪をかけていました。それでもまだ、ありあまるほどのリソースがあれば可能性は十分あったでしょう。けれど、Rubyをベースにウェブサービスを開発している社内にはネイティブアプリ開発経験者がそもそも少なく、採用するにも不確実性が高すぎる状態です。
そんな中、前職でネイティブアプリの開発を経験していた前任PMが「やらせてください!」と立ち上がりました。
小さく検証、とは言うけれど
SmartHRがネイティブアプリを望まれていた理由はさまざまにありましたが、中でも最も大きな理由は、「従業員にメールが届かない・読まれないこと」でした。 雇用契約の更新や年末調整を確実に・期限内に完了することを筆頭に、SmartHRを介して人事労務担当者から従業員へさまざまな依頼が届けられます。しかし、メールアドレスが未登録のためにそもそも依頼通知が受け取れなかったり、普段メールを見る習慣がないために気付かれないことは、大きな悩みの種でした。
課題に対するソリューションを小さく検証するため、アプリストアに掲載せずにクローズドで提供する方法を検討し、TestFlightを活用してβ版テストを行うこととしました。TestFlightは、iOSなどで開発したアプリを限定公開してテストできる仕組みです。 機能もまずは最小限。担当者からの依頼事項をプッシュ通知で受け取り、書類への合意や申請の提出ができるというものです。
通知への悩みや、アプリへの期待を寄せてくださっていた企業の中から数社に協力いただき、いざ検証。 その結果は、非常に悩ましいものでした。 まず、本来の課題だった「通知に気付かれない、依頼への対応が進まない」に対しては、明確にポジティブな結果が得られました。開封率や対応完了率、また完了までの期間も改善され、手応えは上々です。 しかし、インストール数が驚くほど低空飛行のままだったのです。
課題は「条件分岐」にあるはずだ
「通知に気付いてもらえない」と困り、検証に協力までしてくれる企業でなかなかインストールが進まないのに、本当に広く浸透するのだろうか……と懸念は残りましたが、さらに大きな決断をしました。 TestFlightからAppStoreでの本公開へ向かうだけでなく、機能を追加し、また同時にAndroidアプリ開発にも踏み切ったのです。 目的は一つ。「従業員への案内のシンプルさ」を目指すことでした。 (なお、私はこの目的仮説をまとめるタイミングで前任者から引き継いで、現在に至ります。)
TestFlightで配信されるβ版アプリを、人事労務担当者から従業員に案内してもらうには、3つの条件分岐が残っていました。
- 従業員のスマホがiOSかAndroidか
- TestFlight経由、という普段のアプリ取得よりやや複雑な操作に対応してもらえるか否か
- プッシュ通知経由の操作か、それ以外か(担当者から従業員に依頼があった申請などはできるけれど、従業員本人が自分から何らか新しい申請をしたりはできない)
これは、従業員の利用端末やユースケースによって「この場合はアプリで、そうでない場合はウェブで〜」と分岐が生まれ、従業員への案内がとても複雑になってしまうことを意味します。 インストール数が伸び悩んだのは、従業員に推奨してもらうだけの魅力が不足していたのではなく、推奨しやすい環境が整えられていないのではないか。それなら、「従業員がSmartHRを使うにはアプリだけ入れればOK」な状態をつくる必要があるだろう、と考えたのです。
一気に踏み込むことの意味
一気に、現在まで時を進めます。 リリースから約7ヶ月、当初の予測をはるかに上回るユーザーが、既にアプリを使ってくれています。 PMとして何よりホッとしたのは、仮説がきちんとヒットしたこと。リリース初期にインストール数を牽引してくれたのは、そのタイミングでSmartHRを導入したばかりの企業様でした。「従業員には、まずアプリをインストールするところから始めてもらいました。これさえあれば大丈夫!と」。のように、実際に顧客の現場で、立てた仮説がそのまま従業員へのアナウンスメッセージにされていると聞けたのは、とてもグッとくる瞬間でした。
上記の「条件分岐に問題があるのでは」という3つの仮説は、それぞれに独立して検証することが可能なものです。堅実に進めるならそれぞれに確かめる手もあるでしょう。けれど、そうしていたらさらに1年以上かかっていました。思い切って踏み込むことの大切さを実感します。
「接点」でマルチプロダクト開発を後押しするために
このネイティブアプリのリリース検証を通じて、私がユーザーに教わったのは SmartHRが企業のプラットフォームになる可能性の実感 でした。ユーザーヒアリングを通じて、複数社から「アルバイトから経営層まで、全員アカウントを持っているのはSmartHRだけだから」「全員で導入する初めてのツールなんです」ということとともに、「だからアプリが出てくれて良かった」という声をいただきました。 このとき気付いたのは、「プラットフォームを目指すぞ」ということに半信半疑だった自分です。いただく期待の大きさに応えるために、ネイティブアプリができることを考えなければ!と考えが切り替わった瞬間でした。
人事労務の業務は雇用形態に関わらず、すべての従業員に関わるものでありながら、多くの人にとっては本業とは関わりのない、できるだけ早く円滑に終わらせたい「作業」的な側面の強いものです。だからこそ、ネイティブアプリが果たす、人事労務担当者と従業員のコミュニケーションの確実性を担保し、お互いの負荷を下げてゆくという「接点」の役割は重要です。 どんどんと新たな機能を加えるだけでなく、それらが有機的に組み合わさりながら総合的に・多くの人に活用していただけるプロダクトになっていくためにも、より多くの従業員に、より浸透しやすくなる入口としてのツールに育てていけたらと考えています。
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