こんにちは!ブロックチェーンチームエンジニアの pikkaman です。 去る2019年10月8日〜12日にEthererumの開発者向け国際カンファレンスであるDevcon 5が大阪南港 ATCホールで開催されました。 日々ブロックチェーンアプリの開発に取り組んでいる我々モバイルファクトリーのエンジニアとしては外せないイベントです。 今回はだいぶ遅くなってしまいましたがDevcon参加レポートをお送りします!
Devconとは?
DevconはEthereum Foundationが運営している開発者向け国際カンファレンスです。EthereumはBitcoinなどと同様に法定通貨と交換できる仮想通貨として知られていますが、Ethereum仮想マシン(EVM)上で実行されるスマートコントラクトを活用することで、様々な分散型アプリケーション(DApps)開発が可能になっています。 DevconではEthereum自体の開発についてだけではなく、DAppsやその開発ツール、さらには周辺の法律など多岐にわたった話題を扱っています。
そんなEthereum界の最重要イベントとも言えるDevconですが、なんと今年は日本の大阪で開催されました!
前日譚
私たちが取り組んでいるUniqys ProjectはDAppsを身近にすることをミッションとしています。そこでブロックチェーン事業を行う子会社のビットファクトリーは、Phase 0のスポンサーとしてDevcon 5を支援させていただくことになりました。 Devconの公式サイトを見るとビットファクトリーのロゴを見ることができます。
さて、カンファレンスに参加するからには登壇したいと思うのがエンジニアの性ですよね。せっかくの日本で開催されるDevconですからUniqys Projectを認知してもらう絶好のチャンスです。 早速Uniqys KitとQuragé Linkについてのプレゼンテーションを申し込みました。個人としてもブロックチェーンチームとしても初めての仮想通貨関係の国際カンファレンスへの登壇チャンスということで、なかなか苦労してabstractを書き上げましたが……結果は落選!残念です。結果を知らせるメールによれば1100もの応募があったようで、その中から選ばれるのは難しかったみたいです。運営から返ってきたコメントは納得のいくもので、1100もの応募がありながらひとつひとつの内容を見てコメントを返している運営の熱意はすごいですね。世界中のEthereum開発者を支援しようとする姿勢を感じました。
会場に到着!
そんなわけで当日です。品川を始発の新幹線で出発し、沿線の駅の思い出を集めつつ大阪へ向かいます。新幹線から地下鉄、ニュートラムと乗り換えて会場の大阪南港ATCホールに進むのですが、会場に近づくにつれて英語を話す乗客が増え国際色が増してきます。 ちょうど技術同人誌即売会に向かって行くと気づいたら周りがエンジニアだけになるのと同じですね!
そして会場外観がこちら
会場の連絡通路に大きくDevcon v
と書かれているのを見るとテンションが上がってきます。写真の左側が受け付けなのですが、朝一の新幹線で行ったにもかかわらず既に人で一杯でした。
英語で受付を済ませて中に入ります。Devcon内の公用語は英語「だけ」で、日本語が通じるのは会場の警備員さんだけです。(日本人スタッフもいるようですが、区別ができません😇 )
ちなみに、受付時にNFT(Non-Fungible Token)がもらえます。ワッペンの裏にQRコードが印刷されており、読み込むと自分のアドレスにトークンを送ることができます。いかにもEthereumのカンファレンスらしいですね。
さて、年々規模が大きくなっているDevconですが、今回のDevcon 5は大きなATCホールを3フロアも使って開催されました。
それにも関わらずどこにいても人混みがひどく移動するにも一苦労です。柱の前では参加者たちが立って議論しているかと思えば、そのすぐ近くの床に座り込んでコードを書いている参加者もいます。全員がいたるところで盛り上がっているものですから、発表を聞いているわけでもないのに受け取る情報量が膨大になります。私は4日間フルで参加しましたが、自分は発表したわけでもないのに、1日が終わるとくたくたになっていました。 ちなみに、さすがに疲れてしまう人がいるのか、Devconには瞑想ルームが伝統的に設置されています。もっとも、瞑想ルームで瞑想をしている人は誰一人としておらず、某「人をダメにするソファ」にもたれて寝ているか、スマホをいじっているかのどちらかでしたが(エンジニアですからね)
地下2階のメインホールの横は交流スペースとなっており、軽食が用意されていました。カステラの屋台が朝早くから営業していた他、おにぎりやパン、たこ焼き、いなり寿司、和菓子や駄菓子など「日本っぽい」ものが配られていました。たこ焼きが特に人気だったようで、新しいのが来てもすぐなくなっていましたね。今回のDevconでは大阪南港ATCホール内の飲食店で使えるクーポンがひとりあたり6000円(だったはず)配られていたのですが、昼間はどの参加者も発表を聞いたり議論をしたりするのに集中していて、昼食を配布された軽食で済ます人が多かったように見えました。
地下2階の奥にはスポンサーブースがあり、答えるとヘッドホンが当たるアンケートなどバラエティに富んだ方法に宣伝しているようでした。 スポンサー企業には発表している企業も多いので、その内容について参加者が議論している姿も見られました。
中央には参加者が首から提げる名札を作るスペースがあり、実際使っている参加者も多く見えました。我々開発者はついTwitterやGitHubのアカウントで人を識別しがちなのでこのような配慮はありがたいです。
ノベルティを配っているコーナーもここです。タオル(洋)かてぬぐい(和)かを選ぶとき、スタッフがてぬぐいをやたら推していたのが印象的でした。
Opening
2日目の午前中がDevcon 5のオープニングセレモニーです。 Ethereumの考案者であるVitalik Buterin氏によるkeynoteが予定されているため、この時間帯は他の会場はお休みになっていました。 Devconの参加者がほぼ全員ひとつのホールに集まってくるので大騒ぎでした! ライブハウスのようにステージは青い光で照らされ、ハイテンションな音楽が流れていました。 セレモニーは身体に響く和太鼓の演奏から始まり、会場が興奮に包まれました。 Vitalikも戸惑いながらも和太鼓を叩いていましたね。
その後はVitalikによるkeynoteです。 実際の動画はEthereum FoundationによってYouTubeに上がっています。 (Devconでは過去の発表がYouTubeにアップロードされます。Devcon 5の動画もちょうど今アップロードされつつあるようです。)
keynoteの内容は今まさに進みつつあるEthererumのPoS移行に関するものでした。 BitcoinはPoWによってビザンチン将軍問題を解決しただけだけではなく、トランザクションの承認で得られる経済的なインセンティブによって保証を作り出せる「暗号経済 (Cryptoeconomics)」を生んだこと、しかしシステムの破壊だけを目的とする攻撃者に対しては脆弱であること、EthereumはPoSに移行することで不正報告にもインセンティブを与え、より強固な暗号経済を作り出せることを語りました。 ややもすれば既存のRDBや単なる電子署名だけで解決できる問題にブロックチェーンを使ってしまうことがあるこの業界ですが、World ComputerとしてのEthereumの存在意義を語る納得感のある発表でした。
かぼすちゃん
Devconには専用アプリがあり、タイムテーブルを見やすく表示してくれるとともに、見たい発表を登録することができます。登録した発表は直前になると通知が飛んでくるので便利でした。 他のカンファレンスでもぜひ導入してほしいアプリです。
1日目にはdoge coinのモデルになった柴犬のかぼすちゃんも会場にやってきました。redditや4chan等で有名になり、気づいたら仮想通貨のモチーフになっていた犬です。 サービス精神旺盛なかぼすちゃんと参加者が競って写真を撮っていたのが印象的でした。 ある意味インターネットの悪乗りから生まれたとはいえ、こうして仮想通貨の開発者とモチーフが交流する機会が実際にできてしまうのはEthereumの"ゆるい"コミュニティ特有の面白さがあります。
印象に残った発表
4日間のDevconを通して30ほどの発表を聞きましたが、いくつか印象に残ったものを紹介します。
Universal Login Progress: Results on How to Make Ethereum on Boarding Much Simpler
DAppsの最重要課題としてオンボーディングがしばしば挙げられます。 ユーザーのウォレット情報がどうしてもDAppsには必要ですが、それはユーザーにウォレットの作成と登録を要求することになるからです。 UniversalLoginは従来のOpenID Connectのようなログイン機構を実現しておりUXをさせています。 まだ最初にETHを入れる必要があるなど課題もあるものの、今回のDevcon 5でオープンβ版となったUniversalLoginはかなり実用的になったように見えました。
Optimization techniques for EVM implementations
EVMの中では圧倒的な速さのevmoneの作者による発表でした。 最適化を行う上でネックになるのはやはり除算なので、256bit整数演算のC++ライブラリを作ったことを話していました。 仮想マシンでの最適化ではありませんが、学生の頃に除算の遅さには泣かされていたので共感できる話でした。 ガスコストの計測については時間が足りず駆け足でしたが、これも面白そうです。
Building dApps and IoT using the Incubed Ultra Light Client
slock.itによるIoT向けのクライアントIncubedについての発表でした。 下の動画はslock.itによるモノを現実世界で特定の人と共有するサービスの紹介ですが、この種のサービスでは普通中央サーバにユーザーとモノの情報を記録する必要があります。 そうしたシステムに存在する、何らかの理由でサーバにつながらなくなったり、ハッキングされてすべてのモノが取り出せるようになるリスクを回避するためにブロックチェーンを使うアイデアがあります。 しかし、IoT機器の貧弱なスペックではライトクライアントすら実行できません。 そこで他のフルノードに依存する形ですが、ステートレスなクライアントのIncubedを採用することですべてのデータを検証できるようにした話でした。 既存の中央に依存するシステムを分散システムにする方法として興味深い事例でした。
Grid: your new personal Ethereum infrastructure
Gridはgethやparityなどのクライアントや分散ストレージのipfsのバージョン管理ツールです。 またRemixやブロックエクスプローラーも内蔵しており、開発者にとって必要なものを一通り揃えています。 Ethereum 2.0への対応も発表しており、DAppsやライブラリ開発者に広く使われていきそうに思えました。
Ending
最終日はあいにく台風19号が近づいていたためか、会場の人はかなり減ってしまいました。 しかし、エンディングセレモニーは大盛り上がり! モバファクと業務提携しているBlockBaseさんによるイケイケなデジタル盆踊りを参加者が競って写真に収めていました。 運営の方々は最初から最後まで楽しいお祭りとしてDevconを演出していたように思えました。
Ethereumコミュニティの熱気とモバファクができること
こうして、4日間にわたるDevcon 5は盛況のまま幕を閉じました。 参加中に肌で感じたのは、Ethereumはまだまだ発展途上だということです。 これは決してネガティブな意味ではなく、ブロックチェーンを使って実現したいことがどんどん出てきているのに開発者の数が全然足りておらず、カオスな状況がまだまだ続いていきそうだという期待です。 Devconの参加者が常に議論を続けている熱い会場や、Devcon 5が閉幕してからも公開され続ける多くの新情報を見るに、この熱気があれば世界のEthereumコミュニティは健全に発展していくだろうと確信しました。 日本においてもCryptoKittiesから一歩進んだDAppsが登場したり、既存の産業や大学での応用事例が出てきたりと面白い情報が出てきています。 その中でモバファクもユーザーと開発者両方に向けたアプリ開発をさらに推し進め、ブロックチェーンのコミュニティに貢献していかなければならないと改めて考えました。 そして、次回のDevconこそは登壇したいです!
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最後になりますが、今回のDevcon 5へのスポンサー費用や大阪までの交通費、宿泊費はモバイルファクトリーの支援によるものでした。 モバイルファクトリーはブロックチェーンのみならず様々なカンファレンスのスポンサーやエンジニアの参加支援を行っております。 Ethereumを使った開発に興味を持たれた方、ブロックチェーンで新しい世界を作っていきたい方、ぜひ一緒にモバイルファクトリーで働きましょう!