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【ABEJAアジャイル活動記録】チームの潜在力を解放!アジャイルチームのためのSECIモデル活用術

はじめに

こんにちは!ABEJA でスクラムマスター/アジャイルコーチをしている小川です!

アジャイルのコラボレーションは、効果的な意思決定と迅速な問題解決を可能にします。

また、その中で行われるチームメンバー間の継続的な意見交換やアイデア共有は、イノベーションの源泉とも言える創造性をもたらすことでしょう。

さらに、チーム全体の協力と信頼関係の構築にも貢献します。より良いプロセスやナレッジの創出によって、成果物の品質向上につながります。

本記事では、アジャイルのコラボレーションの重要性とその具体的なメリットについてSECI モデルを使って探求していきます。

アジャイルのコラボレーション

「アジャイルのコラボレーション」とは、共通の目標や課題に向けて、多様な専門性や視点を取り入れて価値の探索と実現などを集団で行います。*1

今必要なことに焦点を当てて成果を上げていく、まさにFocus on Impact をチームで体現する状況が想起されます。

膝を突き合わせて共通の目的達成に向けて協力し合う、素晴らしいです! そこに一歩踏み込んだ対話の意識として、個人の主観的な考えや感性などを相互に交換/理解し合い発展させながら協力ができると、さらに良くなります!

そんな組織/チームの連携/協力について、図式化&言語化したものがSECI モデルとして提唱されています。

SECI モデルとは

セキモデル と読みます。

1990年代に経営学者の野中郁次郎先生*2が提唱した「組織的知識創造プロセス」。

個人の暗黙知を形式知に変換し、組織全体で知識を創造し続ける(新たな知識を生み出す)ためのスパイラル上のプロセス。

暗黙知(言語化しづらい情念や感覚、感性、価値観のような自分の主観)を言葉にして人の感情を刺激して共感・共振・共鳴することから始めて、対話を通して形式知にして新たな知識の進化を目指すモデルです。

人間の持つ潜在能力は暗黙知にあるという説明もされています。

💡 暗黙知と形式知
  • 暗黙知
    • 暗黙知とは、個人の経験則や勘に基づくノウハウ、仕事を重ねる中で身につけたスキルといった、社員それぞれの中にある言語化されていない主観的なナレッジ
  • 形式知
    • もともと各個人が持っていた知識やスキル、ノウハウなどが、文章・数式・図表によって目に見える形になっているナレッジ

暗黙知と形式知については、こちらも参考になります!

SECI モデルは、人間の文化継承と文明の進化にも通じる

これは私の個人的な見解ですが、SECIモデルは、古来から綿々と続けられてきた人間の文化の継承と発展/進化の営みにも通ずるものとがあると理解しています。

何が言いたいかというと、人間が昔から営んできたやり方と共通している点に着目すると、このプロセスは決して特別なことをさせようとしているのではなく、少しの意識と工夫で誰でも実践ができるものだというのが私の見解です。*3

例えば伝統工芸の分野では、技術の継承には熟練の職人が持つ「感性やセンス」といった暗黙知(言語化が難しい=マニュアル化や簡単な口頭継承は難しい)が受け継がれてきたことでしょう。ときに弟子は住み込みで師匠のもとで仕事と寝食をともにし、密度の濃いコミュニケーションによって暗黙知を共有し、次世代への技術継承がなされる。そんな世界だと思います。

弟子は師匠の暗黙知に影響を受けながら自分の感性やセンスを磨きつつ技術力を上げいきます。そんな技術継承は弟子から弟子へと受け継がれ、(守るべきものは守られつつも)進化がなされてきたことでしょう。

つまり、長い年月をかけて継承の中で進化し、新規性のある表現や実現方法などが考案される。つまりイノベーションが起きているという見方ができます。

言い換えると熟練の職人が持つ「感性やセンス」といった暗黙知こそがイノベーションの源泉になるとも言えそうです。

SECIモデルは上記の例のような、もともと人間が営んできたイノベーション創出の仕組みを短期間/高頻度に回せるようにしたプロセスであると私は理解しました。 なので、「何か特別な準備や心構えを持たければ!」と身構えたり肩肘張ったりせずに、また、「余計な感情を抜きにして要点だけ伝えないと!」という考えもときには捨てて、自分と周りの人たちとで感覚や感情も共有してオープネスに対話ができればSECI モデルの実践はできると思います!

SECI モデルを活用するためにはエンパシーが重要!

上記の例でも挙げたように暗黙知を共有する/共有し合うには、寝食も共にするような密度の濃いコミュニケーションが必要と考えられています。

提唱者の野中郁次郎先生は「SECIモデルでは、エンパシーを伴った徹底的な対話によって初めて個人の暗黙知の共有がなされる」と語ります。

💡 エンパシー
  • 相手と同じ場所に立ってみたり感じたりする能力(相互主観)
  • 英語の定型表現:自分で誰かの靴を履いてみる。
  • 似た言葉に「シンパシー」もあります。日本語ではエンパシーもシンパシーも「共感」ですが、その意味合いは異なります。シンパシーは同感、同情、相手を分析するなど、自分の立場のまま共感している状態を指しています。

エンパシーを伴った徹底的な対話とは個人の暗黙知を共有しあって、無意識のうちに他者にシンクロナイズできている状態とも説明されています。

(これも言語化は難しいですが…)特定の集団やコミュニティ内で形成されていく人間関係を前提としたハイコンテクストなコミュニケーション(阿吽の呼吸?)がなされているような状態といったところでしょうか。

この状態にまで至ることで初めて「お互いの暗黙知を共有し合える土壌ができた」と言えるのでしょう。

エンパシーを伴った徹底的な対話とアジャイルのコラボレーション

野中郁次郎先生のコメントにヒントがあります。 これは2011年のスクラムのイベントの中での参加者からの「異なる立場、ステークホルダーを持つ部門間で開発優先度が競合してしまう」というお悩みに対する回答です。

「合宿をしなさい」「形式的な会議で決めることはできない。いろんな背景を持った人の集合において、形式知で語れること、理解し合えることはごく一部だ。合宿をし、一緒に飯を食い、泊まって徹底的に話をする。そうすると、形式知は脱ぎ捨てられ、自分の主観で話をするようになる。そこで、なぜこのプロジェクトに自分が参加しているのか、という根源的な問いにまで辿り着けるだろう。そこからはじめて、一つの共通理解が生み出される。この過程をみんなで踏みなさい」*4

このコメントから、アジャイルの現場をうまく活性化させるための重要な示唆が得られると思います。

アジャイルの開発現場ではペアプロ/モブプロをよく活用します。また、責務や役割による過度な線引きをせず、みんなで目標の到達や課題の克服に努めます。

変化する状況に立ち向かうために「問題vs私たち」の意識でチーム(チーム外も含む)で活動をしていく、そんなアジャイルのコラボレーションを工夫と改善を繰り返しながら実施していると、自ずと集団の共通理解が形成されていくのです。

例えばスクラムでは各種イベントでアジャイルのコラボレーションをしています。特にスプリントレトロスペクティブ(振り返り)ではメンバーの感情にも焦点を当てるようにとされています。

このように徹底的な対話を行う機会/きっかけづくりを行える組織運営こそがアジャイルな活動を支える基本的な土壌であると思います。*5

SECI モデルのプロセス

繰り返しになりますが、SECI モデルの重要な要素は、エンパシーを伴った徹底的な対話で暗黙知を共有することです。これは共同化のプロセスを指しています。

SECIモデル(再掲)

💡 SECI モデルの4つのプロセス
  • 1. 共同化:(ここが大事!)
    • 個人の暗黙知(自己主観、情念、磨き抜かれた感性、潜在能力、イノベーションの源泉)をエンパシーを伴った徹底的な対話で共有する
    • 自己を超えた相互主観(我々の主観)を形成しながら集団内での暗黙知を生成していくプロセス
  • 2. 表出化:
    • 集団の暗黙知を共通言語化して形式知を作り出すプロセス
  • 3. 連結化:
    • 形式知として言語化したもの同士を組み合わせて新たなナレッジを生み出すプロセス
    • 新規性のあるプロセスやアイデアも具現化されそうです。まさにイノベーションの卵がここにあるのではと思います。
  • 4. 内面化:
    • 新しいナレッジを活用して業務を行っていると、ナレッジを体得しつつより良いやり方を模索/実践することになりますね。そうしているうちに、また個人の暗黙知が増えていくことでしょう。
    • ここで蓄積された暗黙知が最初のステップの共同化で共有されます。

個人的には、上記の4つのプロセスは複数人で業務をしていると、明確な区切りなく小さなスパンで繰り返し行われるイメージを持ってます。 また、スクラムマスターとして、このスパイラルが常に回るようにチームに働きかける必要があると考えてます。

例えば、うまく実践されているペアプロ/モブプロは、そこで行われているやりとりの中でこのスパイラルが小さく高頻度に回っている、というのが私の理解です。*6

結び

アジャイルではペアプロ/モブプロやスクラムにおける各種イベントなど、集団のコラボレーションの機会が多くなるはずです。

アジャイルを導入しているにもかかわらず、個人商店的な活動がメインになってしまっているようなら非常にもったいない状態であると私は思います。

もし、アジャイルのコラボレーション with SECI モデルを実践しようとお考えでしたら、まずは手始めに、この記事の中で例として挙げたレトロスペクティブで試してみるといいかと思います!

KPT も以前ご紹介した記事のような感じで取り組めるとエンパシーを伴った対話を起点にしたチームのプロセス改善をチームで経験できるはずです!

オープネスに!実践あるのみです!

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*1:アジャイルのコラボレーションについては、この辺りも大変参考にさせていただいております

*2:野中郁次郎先生のWikipedia 実は、アジャイルのフレームワークであるScrum も、野中郁次郎先生の論文で紹介されていた「スクラム」をジェフ・サザーランドさんが参考にして考案したとのことです。

*3:これを理解してチームで実践されるように促せることも、スクラムマスターの腕の見せ所になると思います!

*4:こちらの書籍からの引用です。

*5:と、いうこともあるので、エンパシーを伴った徹底的な対話をミニマムに実践することができるスプリントレトロスペクティブは、安易にスキップはしないようにしましょう!

*6:ペアプロ/モブプロはうまく活用しましょう。実際の活用方法はチームとメンバーによって最適解が違くなって当然なので、ここでも振り返りと改善が重要です!