自動運転の時代が個人所有の乗用車から始まっている。テスラやファーウェイが自動運転システムを販売し、利用者数が増え続けている。一方、物流のロボトラックは技術は成熟をしているのに普及が始まらない。ロボトラックを拒む人たちがいるからだと遠川汽車評論が報じた。
自動運転の時代が始まっている
自動運転の時代が始まろうとしている。米テスラは、L2自動運転に相当する自動運転システム「FSD」(Full Self Driving)を、2021年末の段階で6万台以上販売した。中国ファーウェイのADS(Advanced intelligent Driving System)もセレスAITOの問界シリーズへの提供を始め、すでに個人がL2+と呼ばれる自動運転を利用し始めている。
L2+自動運転と呼ばれるのは、あくまでも人間が運転主体となり、自動車側から介入を求められたらすぐに対応できる状態でなければならないというものだが、FSDもADSも、ユーザーのレビュー映像や自動車メディアの路上レビューを見る限り、都市部の環境では90%以上の時間を運転を自動車に任せられるようになっている。
さらにL4自動運転では、百度が北京市などで無人運転ロボタクシーの営業運転を始め、深圳市などではAutoXが試験営業を始めている。
一方、進まない物流トラックの自動運転
乗用車の自動運転は、いよいよ社会実装される段階に入ってきたが、当初、自動運転は乗用車よりも物流トラックにいち早く導入できるのでないかと言われていた。それは乗用車に比べて技術的難易度が低いからだ。
物流トラックは、ほぼ固定されたルートを走行する。しかも、その多くが高速道路という、整備され、人や自転車は入ってこない環境が確保されている。難しいのは、制動距離が長いために、LiDARなどで遠方の状況を把握し、早めに走行戦略を立てる必要があるが、それもLiDARの技術革新などで乗り越えることが可能になっている。
2人体制のトラックを自動運転+1人に
一般道や高速の料金所などの走行は難易度が高い一方で、長距離トラックは運転手が2人体制が標準になっている。1人の運転手が20時間、30時間の運転を連続して行うことは法的に許されていないため、交代で運転をすることになる。これを人間2人ではなく、自動運転と人間の組み合わせにし、難易度の高い部分は人間が運転をするようにすることもできる。
さらに、高速道路部分はロボトラックによる無人運転、高速以外の部分を人間という分担をすれば、出荷側で人間が高速道路まで運転し、高速は人が乗務しない無人自動運転、納入側では別の人間が倉庫まで運転をするという効率的な分担も可能になる。
しかし、なぜかロボトラックの実用化は遅れている。何が問題になっているのだろうか。
米国の安全保障と反感から図森未来が上場廃止へ
ロボトラック失速の象徴的な出来事が、2024年1月に、米カリフォルニア州の中国系企業「図森未来」(TuSimple)がナスダックからの上場廃止をする方針を表明したことだ。TuSimpleは2021年4月にナスダック上場を果たしたが、一時は投資資金が集まり株価を上げる局面もあったものの、2022年に入ってから株価は下落を続け、ここにきて上場廃止を考えるところまで追い込まれた。
TuSimpleの経営が苦しくなった背景には、米国の厳しい調査があった。TuSimpleに最も投資をしているのは、中国のポータルサイト「新浪」(シンラン)であり、共同創業者2人も中国人。それがカリフォルニア州で創業することに、米政府は警戒感を抱いた。自動運転関連の米企業を買収などして、そのデータや技術を中国に移転する可能性があるのではないかという疑いだ。上場の前から、対米外国投資委員会(CFIUS)は、TuSimpleに対する調査を開始している。
その結果、TuSimpleと米政府は安全保障協定を締結した。TuSimpleの米国人チームと中国人チームは分離をされ、また取締役会から中国人が追い出され、すべて米国人かカナダ人となった。また、CFIUSに対して定期的な内情報告をすることも義務付けられた。
しかし、その後も、CFIUSの調査が入ることがあり、多くの投資家がリスクを感じるようになった。これによりTuSimpleの株価は低迷をすることになる。
また、米国人の中には自動運転に対して反感を持つ人たちがいて、これもTuSimpleには逆風となった。2023年5月、カリフォルニア州議会は、自動運転トラックには安全監視員の乗務を義務付ける法案を可決した。つまり、無人運転が技術的に可能になっても、運転技術を持った人間を乗せなければならないのだ。これでTuSimpleだけでなく、多くのロボトラック企業が行き詰まってしまった。
中国は7割が個人所有の物流トラック
2021年にTuSimpleがナスダック上場を果たすと、中国でもロボトラック開発企業が次々と生まれ、ロボトラックブームが訪れた。技術面では目覚ましい成果があったものの、ビジネス面ではまったくと言っていいほど進展がない。
中国では、約850万台の物流トラックが走っているが、その7割に当たる590万台は個人所有だ。個人で借金をするなどしてトラックを購入し、物流企業から仕事を請け負う。夫婦や兄弟であることが多く、長距離であっても、交代で運転をして荷物を運ぶ。企業がトラックを購入し、運転手を雇用するという組織化された物流トラックはわずか3割でしかない。
このような個人の自営業者がロボトラックを購入するだろうか。自分の仕事をなくしてしまうようなロボトラックに、通常のトラックの数倍もの資金を借金してまで注ぎ込む人はいない。ロボトラック企業が顧客にできるのは3割の大手物流企業であり、そこも自社トラックでは物流の増減に対応ができないため、自営業者を活用している。つまり、中国ではロボトラックの市場が非常に小さいのだ。
「運転手の仕事を奪う」反感に阻まれているロボトラック
このような市場状況は、米国でも似たところがあり、米国で起きている自動運転への反感の根っこにあるのは「運転手の仕事を奪う」という事実だ。数年前まで、自動運転は未来の夢物語にすぎなかったが、今ではテスラやAITOが街中を走るようになっている。ロボトラックも試験走行ではじゅうぶんすぎる成果を出しており、自動運転が現実のものとして捉えられるようになっている。それだけに、リアルな反発も起き始めている。
技術的に成熟をしたロボトラックは、この社会実装の段階での課題に直面をしている。現在のところ、鮮やかな解決策は誰にも思いつけていない。