ナスダックに上場を果たしたものの、黒字化の道筋が見えず、株価が下がり続けるている生鮮EC「毎日優鮮」が、菜市場の運営に乗り出している。菜市場は、中高年が利用する伝統的な食品マーケット。この古い業態をDXし、生鮮ECとのシナジー効果をねらっていると魂獣伝媒が報じた。
上場後株価が下がり続ける毎日優鮮。黒字化の鍵は?
2021年6月に米ナスダック市場に上場を果たした生鮮EC「毎日優鮮」(メイリー、ミスフレッシュ)。しかし、その株価は下がり続けている。9.66ドルで始まった株価は、現在5ドルを下回り、半分程度になってしまっている。
その理由は、黒字化の道筋が見えないことだ。生鮮ECは、スマートフォンで野菜、肉、魚などの生鮮食料品の注文を受け、1時間程度で自宅に配達をするというもの。市内に大量の分散型倉庫=前置倉を配置し、そこから配達スタッフが各家庭に配達をする。
倉庫を分散させることにより、商品ロスが生まれやすくなり、同時に末端配送の人件費などのコストがかかる。そのため、規模を拡大することで売上は増加するが、利益率は高くならない。現状は赤字運営であるため、これ以上、規模を拡大しても黒字化の道筋は見えない。では、どうやって黒字化への出口戦略を描くのか。そこが投資家から判断をされている。
▲毎日優鮮のナスダック市場での株価の推移。黒字化への道筋が見えないため、公開以来、株価は下がり続けている。
拡大から効率に転換をしている毎日優鮮
毎日優鮮は、拡大戦略を変化させている。2019年には16都市に1500の前置倉を配置していたが、現在の前置倉の数は631にまで減っている。
これは縮小ではなく効率化だ。配送データを分析し、配送効率を落とさないように、小型倉庫を中型倉庫に集約をし置き換えている。倉庫を大きくすることで、扱える商品種類数を増やすことができ、商品ロスが減る。しかし、2019年の運営コストは54.8億元だったものが、2020年には49.4億元と、減少はしているもののその幅は小さく、これだけでは黒字化が見えない。別の収入源を模索する必要がある。
菜市場の運営に進出する毎日優鮮
毎日優鮮が取り組んでいるのが、菜市場の運営だ。すでに10都市33ヶ所の菜市場の運営を始めていて、契約済みなのは14都市54ヶ所にのぼる。
菜市場は、日本の商店街にあたる。野菜、魚、肉などの生鮮食料品を扱う個人商店が入居をしたもので、いわゆるマーケットだ。菜市場の菜は、野菜だけを指す言葉ではなく、おかず、主食以外の食べ物を意味する言葉。
菜市場の数は減少傾向にあるとはいうものの、2019年の統計では全国に3万9397ヶ所があり、生鮮食料品の売上の56%を占めている。特に地方都市では、菜市場への依存率が高く、生鮮食料品の売上の69.1%が菜市場からのものなっている。
中高年にとっては、店主と顔なじみになり、コミュニケーションも取れる楽しい場所だが、若い世代は利用しなくなっている。菜市場は、駅から自宅への帰り道にあるとは限らず、無数の個人商店が入居しているため、必要な食材を探して歩かなければならない。品質は高くないけど安いもの、品質は高く値段も高いものが混在しており、さらには品質は高くないのに値段は高いものもあるため、品質を確かめながら購入しなければならない。若い世代は、品質と価格が明快になっているスーパーを利用するようになり、さらにデジタルリテラシーの高い人は新小売スーパーや生鮮ECを利用するようになる。
▲典型的な菜市場。広場などにアーケードを設置し、その中に個人商店が軒をつらねる。商店主との値段交渉などがあり、コミュニケーションの場にもなっている。しかし、忙しい現役世代はスーパーやECを利用するようになっている。
シナジー効果が得られる菜市場と生鮮EC
菜市場も生鮮ECも、同じ生鮮食料品の小売ビジネスで、ライバルではあるが、対象となる市場が被っていない。菜市場はデジタルリテラシー低めの中高年、生鮮ECはデジタルリテラシーの高い若い世代。そのため、一見ライバルであっても、提携することでシナジー効果が得られる可能性がある。
毎日優鮮は、菜市場の運営権を獲得することで、テクノロジーを使って菜市場を改造しようとしている。
▲毎日優鮮が運営を始めた山東省青島市の「優鮮菜場」。外観もレイアウトも大きく変更された。
菜市場のDXを促していく
毎日優鮮が運営している山東省青島市の鞍山二路78号にある「優鮮菜場」は、営業スペースが5500平米あり、約200の商店が入居している。全体でのSKU(Stock Keeping Unit=商品種類数)は1万を超え、大型スーパーと同規模になっている。
毎日優鮮は、まず商店配置を大きく変え、同種類の商品を扱う商店を近くに配置し、消費者が買い物をしやすい空間に変えた。これは当然のことだ。
重要なのは、各商店に、毎日優鮮が開発をしたSaaS基幹システムを提供したことだ。これにより、何がいくつ売れているのか、リアルタイムで把握ができることになった。各商店で、売上分析を行い商売の参考にしてもらうだけでなく、毎日優鮮でもビッグデータ解析を行い、各商店にアドバイスをしていく。
▲レイアウトが大きく変更された優鮮菜場。商品ごとのゾーンが定められ、スーパーと同じような感覚で買い物ができるようになった。
隠れた優良商品を生鮮ECで販売
その好例が、入居している精肉店「万福肉舗」で生まれた。この店舗では、自家製のソーセージを販売していて、毎日優鮮のスタッフの間で美味しいと評判になっていた。しかし、販売データを見ると、さほど売れていないのだ。万福肉舗では、さほど重要な商品ではないと考えていて、前面に出して売っているわけではなく、知っているお得意さんが求めると出してくるという売り方だった。つまり、多くの消費者がその存在自体を知らないのだ。
そこで、毎日優鮮では、生鮮ECの方でも販売を始めた。すぐに賞賛するレビューがつき、人気商品となった。店舗の方にも、わざわざ遠くから買いにくるお客がくるようになり、メインの商品である豚肉の売上も上がっている。
▲売上データを可視化したことで、美味しいのになぜか売れていない商品が見つかる。万福肉舗では、自家製ソーセージがそうだった。生鮮ECで販売したところ、すぐに人気商品となった。
生鮮ECでも販売することで販売量を拡大
また、「三福肉舗」でもシナジー効果が生まれた。この店は、店主が一人で運営をしていて、半日しか働かない早仕舞いの店だった。朝、一頭の豚をさばき、その肉が売り切れてしまったら店じまいをしてしてしまう。
店主によると、豚肉の新鮮さを保つには、加工をして3時間以内に店舗に並べ、5時間以内に売り切らないといけないと考えている。これにより、三福肉舗の豚肉はおいしいと評判になっていた。
店主の能力には余裕があり、2頭、3頭の豚肉を販売することもできる。しかし、その場合は5時間以内に売り切ることはできず、店主の考え方では売れ残った豚肉は廃棄をする以外にない。結局、毎日1頭分の豚肉を販売するのが、最も労力がかからず、利益を最大化できていたのだ。
しかし、店主が売上を増やしたくないわけではない。そこで、より多くの豚肉を扱うようにしてもらい、毎日優鮮の生鮮ECでの販売を始めた。さらに、店主に中国版TikTok「抖音」(ドウイン)でのライブ配信を始めてもらい、宅配企業「順豊」(シュンフォン、SF Express)と提携して、全国にクール便で配送する体制を整えた。これにより、扱う豚肉の量は数倍になったが、店主の希望通り、5時間以内に売り切ることができるようになった。もちろん、店舗の売上も数倍になった。
▲三福肉舗の店主。豚肉は鮮度が命で、5時間以内に売り切らなければならないということをポリシーにしている。そのため、毎日1頭分の豚肉しかあえて売らなかった。生鮮ECでも販売することで、2頭分、3頭分を5時間で売り切ることができ、鮮度を保つことができている。
店舗がない生鮮ECとデジタルがない菜市場のシナジー効果をねらう
毎日優鮮では、このような菜市場の運営を拡大していき、シナジー効果を生み出すことで、菜市場と生鮮ECの両方の売上をあげていく戦略だ。
生鮮ECを新小売スーパーと比べた場合の弱点は、店舗がないということだ。消費者との身体的な接点がないために、デジタルリテラシーの高い若い世代にしか使ってもらえない。そこで、菜市場の運営に乗り出している。これだけで毎日優鮮の黒字化が達成できるわけではないが、今後もこのような「リアル」との提携を深めていくというのが毎日優鮮の戦略のようだ。