電気自動車市場が再び成長に転じる。立役者は超小型の「代歩車」 - 中華IT最新事情

中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

電気自動車市場が再び成長に転じる。立役者は超小型の「代歩車」

伸び悩んでいた電気自動車(EV)市場が、わずかでとは言え、再び成長に転じた。その立役者になったのは、五菱宏光MINIEVに代表される超小型の代歩車だ。「歩く代わりに使う車」という意味で、50万円前後という価格の安さもあって、生産が追いつかないヒット商品になっていると阿貴看車が報じた。

 

消費者の反応が鈍い電気自動車EV

中国の電気自動車(EV)市場が、政府の思惑通りに成長しない。最新のEVでは満充電の走行距離がカタログ値で500kmを超えるようになり、消費者のひとつの大きな不満が解消された。また、充電ステーションも都市部、高速道路を中心に整備され、以前のような「充電ステーションが見つからない、見つかっても空いていない」という問題は解決され始めている。

しかし、やはり面倒なのは、EVを使うには事前計画を要求されることだ。たとえば、1泊2日で遊びに行く場合、ホテルの駐車場に充電設備はあるか、途中のどこに充電設備があるかを事前に調べておく必要がある。計画をして遠出をするのであればEVでも問題ないが、「今日は天気がいいからどこかに行こう」と無計画で出かけると、バッテリー切れのトラブルに見舞われたり、出先で充電ステーションを探すことになる。

自動車というのは、自由気ままに遠出ができるところが最も優れた点であるのに、そこが打ち消されてしまっているのだ。

f:id:tamakino:20210209095340p:plain

▲新エネルギー車(EV+ハイブリッド)の販売台数は、補助金政策などもあり2018年までは順調に伸びてきたが、成長が止まってしまった。2020年は、代歩車のヒットがあり、再び伸び始めた。

 

成長し始めたEV市場。人気は小型EV

しかし、2020年の自動車市場では新エネルギー車(EV+ハイブリッド)が存在感を示すことになった。2020年の自動車販売台数は2531.1万台となり、前年比1.9%の減少となった。一方で、新エネルギー車の販売台数は124.7万台となり、前年比3.4%の増加となった。ただし、2018年は125.62万台だったので、記録更新には至っていない。

伸び悩むEV市場で、わずかとはいえ成長することができたのは、小型EVが次々と登場して売れているためだ。特に2020年7月に販売が始まった通用五菱の宏光MINIEVは年内で12.8万台が売れ、ヒット商品になっている。

1位のテスラモデル3は13.7万台で、この2車種で新エネルギー車全体の2割以上を占める。

 

中国版軽自動車EV=代歩車

この宏光MINIEVは、非常に小型の自動車で、日本の軽自動車よりも一回り小さいほどだ。そのため、最近ではジャンル名として「代歩車」という言い方が定着をしようとしている。歩く代わりに乗る車という意味だ。電動スクーターなども代歩車と呼ばれる。

遠出をするには向かないが、日常の買い物や通勤にはじゅうぶん。そういう使い方であれば、長時間使わないので、乗らない時間を充電に充てることができる。また、通勤、買い物などのほぼ固定したルートを走るのであれば、周辺の充電ステーションの位置などもわかってくる。

そして、何より価格が安いことだ。最安値では3万元(約49万円)を切ることもある。バイクとそう変わらない価格帯になってきているのだ。雨の日や寒い日にも乗れるということを考えると、「自動車はいらないけど、移動手段がほしい」という人たちが代歩車を買い求め始めている。

このような人気になっている代歩車は次の5つの車種だ。

 

通用五菱宏光MINIEV

MINIEVは、価格は2.88万元から3.88万元。最大走行距離は120-170km。外観デザインが可愛らしいのが特長で、今まで自動車を買おうと考えなかった若い女性たちが買い始めている。また、地方都市では日常使いのセカンドカーとして購入する例も多い。

f:id:tamakino:20210209095414j:plain

f:id:tamakino:20210209095344j:plain

 

長安奔奔E-Star

2.98万元から3.98万元。最大走行距離は150km。インテリアデザインに気を使い、室内空間を広くとったデザインになっている。

f:id:tamakino:20210216104500j:plain

f:id:tamakino:20210209095351j:plain

 

CLEVER

上海汽車のブランド。4.6万元とやや高め。最大走行距離は302kmと性能は1ランク上になっている。エアバッグ装備など安全装備も充実している。ただし、外観、インテリアとも質素。

f:id:tamakino:20210209095354j:plain

f:id:tamakino:20210209095357j:plain

 

長城汽車Ora黒猫

6.98万元から8.48万元と代歩車の中では、上位車種となる。最大走行距離は301kmから405km。外観が猫をイメージしたものになっている。代歩車として使うのであれば、数日に1回の充電で済むことが利点となっている。

f:id:tamakino:20210209095401j:plain

f:id:tamakino:20210209095404j:plain

 

BYD e1

BYDで最も低価格のEVで6.98万元。最大走行距離は305km。すでにEVの分野ではBYDは信頼されるブランドとなっているため、代歩車を買うときにもBYDを選ぶ人も増えている。代歩車として使うのであれば、数日に1回の充電で済む。

f:id:tamakino:20210209095408j:plain

f:id:tamakino:20210209095410j:plain

 

地下鉄の少ない地方都市で人気になる代歩車

代歩車は、大都市ではなく、地方都市で売れる傾向がある。地下鉄が発達をしていないため、移動手段を必要としているためだ。代歩車を所有し、遠出をするときは航続距離の長い高性能のEVをレンタルするという人も増えている。

この代歩車の普及により、中国のEV市場が再び成長軌道に乗る可能性が見えてきている。ガソリン乗用車の代替と考えると、どうしてもEVの欠点がついてまわる。しかし、用途を限定し、価格を安くすることで再びEV市場が動き始めている。