中国ではどの産業でもITテクノロジーを積極的に導入しているが、警察官関係も例外ではない。犯罪捜査に、顔識別、人工知能、ビッグデータ、IoTなどを活用するのが当たり前になっていると尚法新聞が報じた。
コンサートにやってきた指名手配犯を一網打尽
中国の犯罪捜査をする警察機関「公安」は、積極的にITテクノロジーを取り入れている。その中でも、大きな話題になったのが、2018年4月から人気歌手、張学友のコンサートに、顔識別システムを導入して、約60名の指名手配犯を逮捕したことだろう。公安に協力をした張学友は明星(ミンシン=スター)を文字って、「逃犯克星」(逃亡犯の宿命の天敵)と呼ばれるようになった。
このプロジェクトに参加をした浙江省嘉興市南湖区公安分局の技術データ服務センターの沈月光主任によると、この顔識別システムは、コンサートの安全検査ゲートに設置され、撮影した顔映像を公安のデータベースと照合。指名手配犯であった場合は、アラートが通知されるもので、現場の警官が事情を聴取の上、逮捕するというものだったという。
▲張学友のコンサートでは、入場ゲートに顔識別システムが導入され、歌を聴きにきた指名手配犯を一網打尽にすることに成功した。
空港、ターミナル駅でも顔識別で逃亡犯を逮捕
このような顔識別システムは、イベント会場などに臨時に設置されるだけではなく、空港やターミナル駅などの安全検査場にすでに設置されている。
2019年2月、母親を殺害して逃亡していた北京大学の経済学部学生、呉謝宇は、4月になってこの顔識別システムにより逮捕された。4月20日午前4時すぎ、呉謝宇は重慶市の江北空港第2ターミナルに現れた。第3ゲートの安全検査に並んでいる間に、顔が撮影され、指名手配犯との類似が疑われた。
このシステムは、合計4枚の顔写真を撮影し、最終的に類似度が98%以上になったため、アラートを発した。システムは、撮影した写真とともに、身分証データベースなどに登録されている写真なども表示し、現場の警察官はこれをみて、呉謝宇を逮捕した。
このような公安のデータベースと連動した顔識別システムは、すでに北京首都空港、深圳宝安空港、成都双流空港、重慶江北空港などに配備されていることが公表されている。
▲母親を殺害した大学生、呉謝宇は、重慶市の空港の安全検査場の顔識別システムにより逮捕された。
街中でも顔識別するスカイネット
このような識別システムは、街中にも広がっている。「天網」(スカイネット)と呼ばれるシステムで、街頭の監視カメラをネットワーク化して、クラウド上で識別をするという仕組みだ。
2017年に中央電視台が製作したドキュメンタリー番組「輝煌中国」第5集でも、この天網が紹介されていて、「中国はすでに世界最大の監視カメラ網を構築している。(天網に接続された)監視カメラ数は2000万台を超えている。人工知能やビッグデータを使ってさまざまな予測をするという水準でも世界トップクラスになっている」と紹介されている。
監視カメラの位置によって、顔識別までは難しいケースも多いが、それでも歩行者の服装、性別、おおよその年齢などは解析できるという。また、特定の人物を追跡して、異なる監視カメラの映像を連続表示することも可能になっている。
今後、カメラの精細度、クラウドの処理能力を上げて、顔認識、自動車のナンバー認識が可能な地域を拡大していく予定だ。
AIが行動を識別し、暴動を事前察知
街頭の監視カメラでは、設置位置などの問題から、顔識別までするのは難しい。そこで人工知能の応用が研究されている。中国電子化学院イノベーションセンターでは、街頭監視カメラの映像を人工知能で解析することで、人が異常な密集をしていることを検出してアラートを出すシステムを開発した。単に人が密集しているのではなく、暴力事件などで人が集まっていることを区別する。
また、進入禁止地域を事前に設置しておき、そこに人が入るとアラートを出す、人の行動を解析して、暴力を振るっていることを察知するとアラートを出すなどの機能もある。
▲中国電子化学院イノベーションセンターでは、街頭カメラの映像で人の密集度を、人工知能によって、それが暴力に発展する可能性があるものかどうかを判別するシステムを公開している。
▲街頭カメラ内にバーチャルな進入禁止区域を設定し、そこに誰かが進入するとアラートを発する機能もある。
貴陽市公安のデータ指揮センター。各地の公安でも
2019年5月に、貴州省貴陽市公安では、全国初となるデータ指揮センターをスタートさせた。貴陽市に設置されている監視カメラ映像が一覧できるセンターで、顔識別、天網、人工知能を駆使して、指名手配犯を捕捉、暴力事件の発生などを察知して、各部署に指示を出す役割を持っている。
このようなデータ指揮センターが各地の公安にも、今後設立をされていくことになる。このような防犯市場の市場規模も2018年には452億元に達し、2020年には1兆元を突破すると予測されている。市民の安全を守るだけでなく、成長産業としても期待されている。
▲貴陽市公安が公開したデータ指揮センター。壁面の大きなディスプレイには、街頭の防犯カメラ映像が常時表示されている。人工知能技術が応用され、異常を検知するとアラートが発せられる。他の都市の公安でも、データ指揮センターの設置が始まっている。